経済法の不公正な取引方法でよく使われる条文は何だと思う?
えー、取引拒絶、排他条件付取引は強すぎますよね…。不当廉売もそんなに聞かないし。再販売価格の拘束や差別対価もあまりなさそう…。なんか今まで学習してきたのって結構強い態様のものですよね。
そうだね!強い態様が多かったね。
なんか緩い態様のものはないかな?拘束類型で再販売価格拘束、排他条件付取引以外の他すべて規制します、みたいな。
あ!拘束条件付取引はたしか、広い範囲に適用できたと思います。拘束類型の包括規定的な。
そう!拘束条件付取引なんだ!
拘束条件付取引は不公正な取引方法の問題でよく出てくるし判例等も多い類型だぞ。しっかり学習していこう。
拘束条件付取引は、これまで学習してきた不当拘束類型で再販売価格の拘束、排他条件付取引以外のすべてを規制しているものです。つまりは包括的な規定ということになります。
今回は、不公正な取引方法でよく出題されやすい、「拘束条件付取引」を見ていきましょう!
拘束条件付取引のポイント
要件自体はそれほど難しくありませんが、判例等が多く、問題を見た時に拘束条件付取引かどうか判断するためにはざっくりでいいので、知っている必要があります。
そのため、要件事実はしっかり確認する必要がありますが、今回は、拘束条件付取引の類型をしっかり押さえていく必要があると思います。
①拘束条件付取引の類型を押さえる。
②要件①:「拘束」を理解する。
③要件②:「不当に」を理解する。
それでは見ていきましょう。
拘束条件付取引の類型
拘束条件付取引は不公正な取引方法の拘束類型
まずはおさらいをしてみましょう。
拘束条件付取引は不公正な取引方法の不当拘束類型です(独占禁止法2条9項6号二)。拘束類型には、再販売価格拘束と排他条件付取引と拘束条件付取引がありましたよね。
そして、拘束条件付取引は再販売価格の拘束、排他条件付取引ではつかみきれなかった、不当拘束を規制するものということを押さえましょう。
条文は一般指定12項
条文は一般指定12項です。
(拘束条件付取引)
12 法第二条第九項第四号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること。
①事業者が③「不当に」と②「拘束」が要件です(便宜上順番を変えています)。
事業者は毎度おなじみの条文ですね。定義ももちろん変わりません。
「拘束」は不当拘束類型(再販売価格の拘束、排他条件付取引、拘束条件付取引)のすべてで共通します。
「不当に」は自由競争減殺の観点からの公正競争阻害性を検討することになります。これはいつものパターンで総合衡量することになります。
要件は後でしっかり確認するとして、まずは判例等で形成されている拘束条件付取引の類型を押さえましょう!
㋐自己の供給する商品以外の価格の拘束
事業者が自己の供給する商品の価格の拘束、すなわち再販売価格の拘束をする場合には独占禁止法2条9項4号でした。
では自己の供給する商品以外で価格を拘束したらどうなるのか、気になりますよね。これは一般指定12項で対応しています。
たとえば役務取引であったり、加工されて同一の商品ではなくなっているものの価格の拘束をする場面などが典型的です。
また「自己の供給する」ものではない商品について価格を拘束することも一般指定12項で対応します。
たとえば加盟店が本部以外から仕入れた商品の販売価格を本部が拘束するような場面です。これはセブンイレブンがやらかしています。
㋑販売先の拘束
続いて再販売価格の拘束ではなく、販売先の拘束についてです。これは相手方に対して一切の取引を禁ずる重い人パターンであれば排他条件付取引にあたります。「俺だけを見ろ!」パータンなので…。
>>>排他条件付取引についてわかりやすい解説【はじめての経済法その11】
しかし全員と取引をしないまでも、取引先を制限する場面(むしろこっちの方が多い)があります。
仲間外れパターン
たとえば、「あいつウザイから仲間外れにするぞ!お前は今後あいつとは取引をするな!いいな!」というパターンです。仲間外れパターンと呼ぶことにしましょう。
取引先固定パターン
そのほか、トリッキーなパターンですが「お前はこいつと取引しろ!いいな!」という取引先制限パターンもあります。これを取引先固定パターンと呼ぶことにしましょう。価格の拘束ではないので再販売価格の拘束ではないですし、取引先は100%俺とだけでもない、逆に俺以外のこいつとだけ取引なので排他条件付取引にも該当しません。
横流し禁止パターン
最後に仲間取引(横流し)禁止のパターンもあります。流通業者は仲間どおしで取引をすることもあります。その取引を禁止するのです。上から下(メーカー→卸売業者→小売業者→消費者)のようなタテの取引ではなく、ヨコの取引を規制するという類型です。
仲間外れパターン、取引先固定パターン、横流し禁止パターンの3種類が排他条件付取引以外の取引先拘束には想定されているというわけです。
㋒販売地域の制限
相手方に対して一定の地域を割当て、地域外での販売を制限することは拘束条件付取引にあたります。相手方が取引をしにくくなることがなんとなくわかりますもんね。
㋓販売方法の制限
最後に販売方法の制限をみていきます。商品の安全性やブランドイメージの維持などを理由と被て、事業者は行為両者に対して販売方法についての指示(こういう説明をしなさい、こういう感じで陳列しなさい、こういう商品表示をしなさい)を出し、販売方法を制限することです。
この類型では正当化事由も認められやすいため、公正競争阻害性をしっかり判断する必要があります。
要件①:事業者
事業者については毎回確認しているので大丈夫だと思います。
事業者とは、なんらかの経済的利益の供給に対応して反対給付を反復継続して受ける経済活動を行う者をさす(主体の法的性格及び営利性の有無は問わない)。
㋐経済的利益の供給
㋑反対給付を反復継続
この2つの視点はいつでも言えるようにしましょうね!
要件②:拘束
不当拘束の「拘束」要件は、再販売価格の拘束、排他条件付取引、拘束条件付取引すべて共通です。
「拘束」は、何らかの人為的手段によって、取引相手方の事業活動の制限について実効性が確保されているかどうかによって判断される。
すなわち「人為性」が必要でした。合わせて経済上の不利益をちらつかせることも「拘束」に該当するという点も押さえておくとわかりやすくなります。
拘束条件付取引の場合には、後者の「経済上の不利益」によって実効性を確保するという基準の方が使いやすいとも思います。なので、「拘束」と聞いたときには
「人為性」・「経済上の不利益」+実効性確保
という図式を覚えておきたいところです。
要件②:「不当に」(公正競争阻害性)
類型ごとで考えるとわかりやすい
まずは不公正な取引方法に共通する考え方です。「不当に」とは公正競争阻害性を指します。
そして不当拘束類型は自由競争減殺の観点から公正競争阻害性を考えるのでした。
>>>不公正な取引方法の「不当に」の意味について【はじめての経済法5】
自由競争減殺の基本の考え方は市場画定+その中での自由競争減殺効果の検討(実質的競争制限効果よりも緩い検討)です。
しかし、拘束条件付取引は、不当拘束の包括規定でした。そのため、各類型ごとに判例等やガイドラインを踏まえて細分化していくと、より経済法の神の一手に近づきます。
公正競争阻害性については今までの不当拘束類型の復習としてしっかり理解していきましょう。
まずは拘束条件付取引の類型を思い出してみます。
㋐自己の供給する商品以外の価格拘束
㋑販売先の拘束(仲間外れ・取引先固定・横流し禁止)
㋒販売地域の制限
㋓販売方法の制限
でしたね。
㋐自己の供給する商品以外の価格拘束の類型
自己の供給する商品以外の価格拘束は、再販売価格の拘束と同じようにブランドのイメージが大事になってきます。とはいえ価格の拘束なので原則違法です。
基本的には総合衡量なのですがブランドイメージを守るという正当化事由が主張されることがあるのでもう一度確認してみましょう。
ガイドラインでは
①再販行為によって実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され、それによって対象商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られ、
かつ、
②当該競争促進効果が、再販行為以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合
には、必要な範囲および期間に限って再販売価格の拘束が認められると述べています。
「ブランドを守るために再販売価格の拘束をやるんです!」
「なるほど、ならその再販売価格の拘束によって、
競争が促進される(需要が増大する)こと+他の手段ではないほどの競争促進効果であること
を示せ!そしたら見逃してやろう!」
ということですね。
㋑販売先拘束(仲間外れ)
②販売先の拘束の3つの類型、 仲間外れ・取引先固定・横流し禁止 について分けて考えるとわかりやすいです。
仲間外れについてはなぜそのような行為を行うのか考えてみると理解しやすいです。仲間外れの典型は「安く売っていることに対するもの」です。すなわち商品の価格を一定に保ちたいから仲間外れにするというわけですね。すると再販売価格の拘束の理解とそれほど違わないことになります。
よって再販売価格の拘束と同様の考え方→ブランドの理由が成り立つかを意識しながら検討すればいいわけです。
①再販行為によって実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され、それによって対象商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られ、
かつ、
②当該競争促進効果が、再販行為以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合
という2つの視点を忘れないようにしましょう。
㋑販売先拘束(取引先固定・価格維持効果)
取引先固定を別名「帳合取引」といいます。帳合取引の義務付けによって公正競争阻害性が生じるのは「価格維持効果」が生じる場合です。
また横流し禁止も価格維持効果が生じる場合に違法になるとされています。
価格維持効果とは、「非価格制限行為により、当該行為の相手方とのその競争者間の競争が妨げられ、当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し、当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれ」のことを言います(流通・取引慣行ガイドライン参照)。
そして「価格維持効果が生じる場合」とは、
①ブランド間競争の状況②ブランド内競争の状況③行為者の市場における地位④当該行為の相手方の事業活動に及ぼす影響⑤当該行為の相手方の数および市場における地位を総合的に考慮して判断される。また、価格維持効果の有無の判断に加え、対象行為によって生じうる競争促進効果も考慮される。
さらに、他の事業者の行動によって、一事業者のみが行う場合と比べて市場全体として価格維持効果が生じる可能性もあるとされています。
排他条件付取引でやった「市場閉鎖効果」とほぼ同じですね。
㋒販売地域の制限
通常は販売地域の制限はそれほど大きな意味を持ちません。ここを主力地域として頑張ってくださいということはよくあるからです。
「〇〇支店」というのが多いことからもよくわかりますね。
しかし販売地域の制限として許されないのは「ここしか販売できないよ」という強い規制です。
よってこのような規制がとれるのは「市場における有力な事業者」にかぎられます。有力な事業者とは排他条件付取引でも登場したものです。
「市場における有力な事業者」が行って「価格維持効果が生じる場合」に違法になるとされています。
「市場における有力な事業者」はシェア20%超が一応の目安です。
「価格維持効果が生じる」はさきほどと同様です。
①ブランド間競争の状況②ブランド内競争の状況③行為者の市場における地位④当該行為の相手方の事業活動に及ぼす影響⑤当該行為の相手方の数および市場における地位を総合的に考慮して判断される。また、価格維持効果の有無の判断に加え、対象行為によって生じうる競争促進効果も考慮される。
結局は毎度おなじみ総合衡量です。
㋓販売方法の制限
販売方法は決まった考慮方法はないですが、正当化事由の検討が主軸となっていきます。正当化される場合が多いからです。
最も悩ましいのが、安全性のために販売方法を制限することでしょう。
代表的な資生堂事件では、販売方法にそれなりの合理性があるため、カウンセリングの義務付け販売は違法ではないとしました。
しかし単純に安全性のための販売方法は許されるわけではありません。しっかりと競争が制限されるかどうか検討する必要があります!
まとめ(論証)
公正競争阻害性について詳しく書きましたが、これは暗記というよりも「理解」する方が大事です。
なぜ販売地域の制限では「有力な事業者」でなければならないのか?なぜ仲間外れは価格拘束ではないのに再販行為と同様に考えるのか?
理解が重要です。
拘束条件付取引で覚えるべきは「拘束」ということになります。不当拘束では毎回出てきていたのでしっかり押さえていきましょう!
「拘束」は、何らかの人為的手段によって、取引相手方の事業活動の制限について実効性が確保されているかどうかによって判断される。
なお、契約上の義務までは必要なく、経済上の不利益を伴うことで実効性が確保されていれば足りる。
拘束条件付取引では特に「経済上の不利益」から拘束性を認定することが多いです。後者まで含めて覚えるようにしましょう!
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
経済法を本格的に学習する人の中で入門的に使ってほしい参考書を上げてみます。というか論証の暗記として使えるものを用意してみました。
とりあえず経済法のスタートは「要件の暗記」です。そのため、要件自体のガイドラインや判例通説をもとに逐条的に解説してある『条文から学ぶ独占禁止法(第2版)』をお勧めします。