別件逮捕勾留と余罪取調べの論点を解決する【刑事訴訟法その6】

別件逮捕勾留・余罪取調べ刑事訴訟法
法上向
法上向

逮捕・勾留で一番難解な論点が別件逮捕・勾留だな。学説がさまざまでありわかりにくい分野だね。

そうなんですよね。学説がほんと多くてよくわかりません。あと,その次の余罪取調べも学説が多くてよくわからないです。

法上向
法上向

今回は有力説に絞りつつ,余罪取調べとの関係もわかりやすいように説明していこうか。

別件逮捕・勾留余罪取調べの議論は学説上の対立も激しく,判例も明確に定まっていない節があります。そのため,結局どう考えればいいのか,よくわからないまま終わってしまう場合も多いです。

ここでは有力説を中心に簡単な理解と考え方を押さえ,問題として出た場合にどう考えるといいのかを説明していきます。

別件逮捕勾留・余罪取調べのポイント

別件逮捕勾留余罪取調べも学説が分かれている部分です。特に別件逮捕勾留については判例通説が確立していないと思いますので,大きな学説の対立(本件基準説別件基準説)を説明し,どう考えていけばよいのかを説明していきます。

①別件逮捕勾留について別件基準説,本件基準説の対立を押さえる。
②余罪取調べの考え方を理解する。
それではいきましょう。

別件逮捕勾留の考え方

別件基準説

まず,逮捕,勾留の要件ついて考えてみましょう。

〈逮捕の要件〉
①逮捕の理由(被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由)
②逮捕の必要(罪証隠滅・逃亡のおそれ)
〈勾留の要件〉
①勾留の理由(被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由+刑訴60条各号事由)
②勾留の必要(勾留により得られる公益上の利益VS被侵害利益)

詳しくは以下の記事をご覧ください。

別件基準説は,逮捕や勾留の要件を欠いた場合が別件逮捕勾留に該当し違法だとしています要件が欠けるから,別件逮捕勾留は違法だとしているのです。

よって,要件だけを考えるので,「別件逮捕勾留」という論点自体があまり明確に存在しないことになります。逮捕勾留自体は要件さえあればよく本件(逮捕とは別の真の目的の事件)についての取調べ時間が多いといった事情は余罪取調べで考慮すればよいとしているのです。

本件基準説

本件基準説は別件基準説とは異なり,逮捕した事件(本来の目的の事件ではないので別件)の要件が充足していたとしても,捜査機関が専ら本件捜査の目的として逮捕勾留していた場合は違法であるという見解です。これは,令状主義の潜脱となるから違法だとしています。

しかし,本件基準説からも,別件逮捕勾留が違法とならないのであれば,余罪取調べの検討は必要です。

たしかに,本来の目的の事件の捜査をしたい場合は本来の目的=本件についての逮捕勾留をすべきなのに,それが取れないために別件を利用することは令状主義の潜脱といえるでしょう。

どちらの説をとればいいのか?

現在,別件基準説本件基準説は修正され近づいてきています。

本件基準説は形式的な要件充足性ではなく,取調べ等の捜査態様を加味して実質的に要件充足性を考える学説・判例もありますし,本件基準説からは当初の捜査機関の意図だけではなく,取調べ等の態様もみても目的がどちらにあるのかを考える学説も出てきました

これを実体的喪失説と言ったりします。本件が主になったかどうかを考えるのが本件基準説であり,別件が主でなくなったかどうかを考えるのが別件基準説なので,修正された場合は,本件基準説,別件基準説は表裏一体の関係にあるといってよいでしょう。

結論として,好きな方の学説をとればいいと思います。判例は本当に分かれているので。ただし,実体的に考える場合は両説にほぼ違いはないでしょう。なのでそこまで深刻にどちらの説に立つのかについて悩む必要はないと思います。

①当初の別件基準説は要件充足性があるかどうかだけを考えるものだった。
②当初の本件基準説は捜査機関の意図が本件にあるのかを考えるものだった。
③両説が修正され,実体的喪失説になると,捜査態様について,別件が主ではなくなったら別件基準説から違法,本件が主になったら本件基準説から違法という形になる。

余罪取調べの考え方

余罪取調べは取調べ受忍義務との関係で本当に複雑化しています。ここでは通説だけを取り上げたいと思います。

余罪取調べはできる!

議論の最初は,取調べの最中に余罪取調べができるかどうかです。学説ではいろいろ議論されていますが,余罪取調べはできるとするのが楽でしょう。

そうでなければ,捜査の円滑性を欠いてしまいますよね。

あれ,こいつ,この事件もやってるんじゃないか?と捜査機関が取調べで思ったらその事件についての取調べも任意取調べという形で可能であるはずです(逮捕等はまだできないはずなのであくまで任意という形になります)。

取調べ受忍義務は逮捕勾留事件にだけある!

次に,取調べについて取調べ受忍義務があるかどうかです。取調べ受忍義務というのは,被疑者が退去を申し出ることのできない強制的な取調べのことです。

第百九十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

これに対して,刑事訴訟法198条1項但書の反対解釈により,逮捕勾留されている場合の当該事件については取調べ受忍義務は認められるべきでしょう。

しかし,余罪については逮捕勾留されていませんので,取調べ受忍義務はないと考えるのが普通だと思います。

逮捕勾留事件と余罪について取調べ受忍義務があるかどうか分けて考えるということですね。

法上向
法上向

このような取扱いは,どこかで見覚えがないかい?

あー,もしかして事件単位の原則ですか?

法上向
法上向

そうだね,取調べ受忍義務は身体拘束を利用する考えだろ?だから事件単位原則が妥当し,事件ごとで取扱いを分けることができるわけだね。
詳しくは以下の記事が参考になるぞ!
>>>事件単位の原則についてわかりやすく解説【刑事訴訟法その5】

まとめ

余罪取調べについて図にまとめてみましょう。事件単位原則により取調べ受忍義務は逮捕勾留事件には及ぶが,余罪には及ばないと考えます。

まとめ

以上,多くの学説がある別件逮捕・勾留余罪取調べをわかりやすさ重視で,学説の議論をはしょりながら解説してきました。

一番のポイントは別件逮捕勾留はあくまで逮捕勾留の違法性を検討しているのであり,余罪取調べはあくまで取調べの違法性を検討しているのであるから,両者は全く別の議論という点です。

逮捕勾留(身体拘束)の適法性を論じる際に,余罪取調べまで話を広げるのはちぐはぐな感じがするのでよっぽど説得的な考えがないと難しいでしょう。

逮捕勾留と取調べの問題として,別件逮捕勾留と余罪取調べは論点が分かれていると考えましょうね。

解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

刑事訴訟法の参考文献として「事例演習刑事訴訟法」をお勧めします。はじめての方にとっては解説が大変難しい問題集ですが,非常に勉強になるものです。また,冒頭にあります答案作成の方法について書かれた部分については,すべての法律について共通するものなのでぜひ読んでほしいです。自分も勉強したての頃にこれを読んでいれば……と公開しております。

最初は学説の部分はすっとばして問題の解答解説の部分だけを読めばわかりやすいと思います。冒頭の答案の書き方の部分だけでも読む価値はあるのでぜひ参考にしてみてください。

タイトルとURLをコピーしました