行政法の原告適格の問題っていまいちよくわかんないんですよね。判例ごとで考え方が異なるような…。結局どう考えればいいのってなってます。
何を言っている!原告適格は判例ではなく条文だぞ!
はじめての行政法シリーズでは判例ではなく理論押しで進めていく方針ですが,行政法の訴訟要件のうち最も理論的に押し切れるのが原告適格だと思います。しかもその理論を覚える必要はなく,条文に記載されている点でも勉強する側としてはありがたいですね!
判例ではいろいろな考え方が説明されていますが,今回も理論を中心に,そしてできるだけわかりやすく覚えることが少なくなるように解説していこうと思います!
原告適格のポイント
原告適格とは,誰が訴えることができるのかです。行政法では一般的に,処分性の次に原告適格を検討していくことにまります。ポイントは以下の通りです。
②実際に判例をみて確認する。
原告適格(行訴法9条2項)の条文は素晴らしい!
二当事者間は問題なし
原告適格が問題になるのは,第三者が訴訟をする場合だと思っといて大丈夫でしょう。二者面間(つまり行政VS私人)の場合は当然に原告適格は認められます。その当事者間とは関係ない第三者が「異議あり!」として訴訟してくる場合に,第三者に原告適格があるのかが問題になるのです。
また,二当事者間の場合は,条文は行政事件訴訟法9条1項が適用されます。
(原告適格)第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
第三者が訴訟をしてきた場合
さてここからが本題です。第三者が訴訟をしたいと思っている場合はその第三者に原告適格があるのかを検討しなければなりません。
第三者が「この行政処分わりぃなー。いっちょ訴訟してやっつけてみっか」的な悟空の発想で訴訟することはできないのです。
このことは,上記条文(行政事件訴訟法9条1項)からもわかりますね。法律上の利益がないとダメなわけです。これを学説を踏まえて原告適格には法律上保護された利益が必要と考えたりします。
とはいえ,法律上保護された利益の考え方って難しいですよね?
そこでなんと,行政事件訴訟法は改正により2項が追加されました。2項は第三者が訴訟する場合の法律上保護された利益とはどのように考えればよいかを規定してくれています。
行政事件訴訟法9条2項は神の条文である
さっそく行政事件訴訟法9条2項を見てみましょう。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
長いの一言に尽きますね(笑)。しかし,めずらしく(←怒られるかも)考え方を書いてくれている条文なのです!行政事件訴訟法9条2項は素晴らしい条文であり,この条文に沿って検討していけば原告適格の問題はカンタンにわかる,というわけですね。
作ってくださった人に感謝感謝です!
とはいえ,条文をわかりやすく読み解いていきましょう。
「処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては」この部分は第三者からの訴訟の場合に2項を使うんですよーと言っているだけです。わざわざ条文が適用場面を教えてくれていますね。優しいですね。確認になりますが,二当事者間の場合は9条1項を使うことになります。
「当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的……を考慮するものとする」この部分は法律上保護された利益の基本的な考え方を言っています。つまり,①当該処分の法令の趣旨目的から法律上保護された利益を検討するんですね。
「並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする」この部分は,②法律上の保護された利益として被侵害利益の内容や性質を考えなさい,ということです。
つまり,以上をまとめると,原告適格に当たる法律上保護された利益とは,法令の趣旨目的や処分の際に考えるべき利益の内容性質を考えるということですね!
でも,考えるといってもどう考えればいいか結局わからないんですよねー。
その点も大丈夫だ。9条2項の後段に書かれているぞ!アフターフォローもばっちりなのさ。
続きを見てみます。
この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとすると書かれていますね。
つまり,①法令の趣旨目的を考えるときは,関連法令にまで目を向けること,②利益の内容性質について考えるときは,被侵害利益についても考えることを規定しているというわけです。
さらにここから学説判例にのっとり,法律上保護された利益とは一般的な保護だけでは足りず,個別的な保護まで必要と考えてみます。すると以下のようにまとめられます。
第三者原告適格の際は,まず一般的な保護の範囲内かどうかを検討し,次に個別的保護の範囲内かを検討していきましょう。この2つをクリアすれば第三者適格は認められるということです。逆にどこかでクリアできない場合は,その第三者には法律上保護された利益はないことになり原告適格はないことになります。
考慮要素は条文に書いてあるので覚える必要はないですね。本当に行政事件訴訟法9条2項は神の条文です!
理論的には一般的保護の範囲か→個別的保護の範囲かを順に検討していく。
実際に判例を見てみると,ほら条文通りだろ?
では判例を見てみましょう。9条2項が創設された後の一番重要な判例である小田急訴訟を見ていこうと思います。(最判平成17年12月7日参照)
ここで軽いジャブをいれるとよいです。第三者が問題にしている不利益を考えてみましょう。これがわからなければ先に進めませんね。今回は騒音振動を根拠に提訴されました。
ではまず一般的保護があるかどうかを法令を中心に考えてみましょう。
処分の根拠法令は都市計画法です。その認可の基準の一つに公害防止計画に適合したものであることが定められています。目的が共通する公害対策基本法が出てくるわけです。そこでは騒音振動等による健康・生活環境の著しい被害の発生を防止することを趣旨目的としています。このほか,判例は東京都の環境影響評価条例も関連法令としてあげています。
このように,根拠法令や関連法令から騒音振動は一般的保護に含まれることがわかりましたね!
次に,個別的保護があるかどうかを利益を中心に考えてみましょう。ここで特に使われるのが被侵害利益ですので,被侵害利益を中心に考えていくことにします。もし都市計画事業認可によって鉄道がとおると騒音振動が激しくなりますが,それは反復継続的に発生します。さらに,その設備に近い人ほどおおきな侵害を被るわけです。よって,騒音振動がその事業地近くの周辺住民によっては一般的なものではなく個別的に保護されるべきものであるといえます!
最後にどの範囲まで個別的保護を認めるかも問題になりますが,これは法令等を利用して区切ったりします。ここでは深入りしません。
このように行政事件訴訟法9条2項が理解できれいればあとは楽に原告適格を考えることができます。難しいのは個別法規の読み取り方ですが,ここは私も苦労している部分なので一緒に頑張っていきましょう!
まとめ
原告適格は,何回もいいますが,条文が素晴らしいです。条文を理解すればとりあえずは大丈夫でしょう。さらなるステップは判例の理解ですが,これはまた別の機会に書けたらいいなーと思います(まだ自分もあいまいなので笑)。
まとめとして行政事件訴訟法の条文構造を再掲しておきますねー!
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。