売買代金支払請求の要件事実をかんたんに【民事実務基礎その2】

法律実務基礎科目

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要件事実の最初に習うことが多いのは、売買代金の請求ですよね。

法上向
法上向

そうだね、一番の基礎になる箇所だからしっかり押さえていこう。

今回から要件事実の分野に入っていきます。

要件事実で押さえるべきは、①訴訟物②請求の趣旨③請求原因④抗弁・再抗弁などです。

テーマごとでこの4つを押さえることができれば要件事実は完璧といえます。

そして今回のテーマが売買代金請求です。

しっかり確認していきましょう。

売買代金支払請求のポイント

売買代金請求の訴訟物請求の趣旨をまず確認しましょう。超簡単です。

さらに請求原因も確認します。これも簡単です。

難しいのは抗弁再抗弁です。様々な種類のものが考えられますが、今回は基本となる抗弁や再抗弁をあげていきたいと思います。

この回も、要件事実の基礎になる回だと考えてください。特に抗弁・再抗弁はほかのテーマでも利用できるものが多いのでしっかり理解していきましょう。

①売買代金請求の訴訟物を押さえる。
②売買代金請求の請求の趣旨を押さえる。
③売買代金請求の請求原因を押さえる。
④売買代金請求の抗弁や再抗弁等を理解する。

それではみていきましょう!

想定される場面

まずは売買代金請求が想定される場面を考えます。

今回は簡単に想定できるはずです。売買をしたのに相手方が売買代金を支払わない、というような場合ですね。

売買契約

この場合、売主が「代金を支払え!」と訴訟したとしましょう。

その場合の訴訟物請求の趣旨請求原因、さらには抗弁・再抗弁はどうなっていくのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

売買代金支払請求の訴訟物

売買代金請求の訴訟物=訴訟対象は「売買契約に基づく代金支払請求権」です。

これは覚えましょう!

売買契約に基づく」という用語は必須ですし、「代金支払請求権」と「権」まで含めるのが一般的です。

売買契約に基づく代金支払請求権」を訴訟対象としてこれから争っていくわけです!

売買代金支払請求の請求の趣旨

請求の趣旨を考える際には、訴訟物から入るとわかりやすいでしょう。

売買契約に基づく代金支払請求権」について原告は何を主張したいのかを考えるのです。

たとえば売買契約が甲という車を1000万円で売るという契約であったとすれば、

原告(売主)は被告(買主)に対して

被告は、原告に対し、1000万円支払え。

と主張することになります。これが請求の趣旨です。

ここで

「被告は、原告に対し、売買契約に基づく代金支払請求権として、1000万円支払え。」

と考えた方はいませんか?

これは誤りです。

はじめての民事実務基礎シリーズでも説明した通り、請求の趣旨は、法律をよく知らない執行官も見ることになります。

そのため、法律チックな書き方をしてしまうと「なにそれ、おいしいの?」となってしまうのです。

そこで請求の趣旨では、結論だけをわかりやすく簡単に述べるのです。

原告は結局、1000万円払ってほしいだけなので、請求の趣旨は、

被告は、原告に対し、1000万円支払え。

という文言だけになります。シンプルに考えるのが、請求の趣旨なのです。

売買代金支払請求の請求原因

売買代金支払請求の請求原因を考えてみましょう。請求原因といった要件事実は暗記がすべてだと思っていませんか?

それは違います。

請求原因をはじめ、抗弁や再抗弁を形成する要件事実はすべて「条文」から入るのです。

売買契約の条文は民法505条にあります。

(売買)
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

売買契約の効力は、代金を支払わせること及び目的物を引き渡すことの2つです。

>>>売買契約から生じる義務【はじめての契約法その6】

つまり、売買契約を主張すれば、代金支払請求権の発生を基礎づけることができる=売買代金支払請求権の発生原因は売買契約であるということがわかります。

もう一度、民法505条を見てみましょう。

何を主張しないといけないか、見えてきませんか?

「ある財産権」と「代金」が必要そうだな。と感じた人はセンスがいいでしょう。

売買契約を主張するには、「移転する財産権」=「目的物」と売買代金が必要というわけです。

これをよく教科書等では

〈売買代金支払請求の請求原因〉
①目的物の特定
②代金額(またはその額の決定方法の合意)

→「Aは、Bとの間で、〇年〇月〇日、△を代金〇〇円で売った。」など。
※ポイント:㋐誰と誰との間の売買契約か明確にすること㋑日時を入れること㋒対象物を入れること。㋓代金を明示すること。

とされています。

①②がそろってはじめて「売買契約」の主張ができるのであり、売買契約の主張ができてはじめて「売買代金支払請求権」の主張ができるという流れです。

具体的に書くとすると

Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、△を、代金〇〇円で売った。

というような形です。△が「目的物の特定」の要件を満たし、代金〇〇円が「代金額」を差します。〇年〇月〇日は、本来必要ありませんが、形式上書くことが多いです。忘れないようにしましょう。

Aさん、Bさんといった名前も書くようにしましょう。

要件事実を具体的に記載する際のポイントは「必要な情報だけあれば順番はどうだっていい」ということです。

〇月〇日、Aは、Bに対し、△を〇〇円で売った。

でもよいですし、

AとBとの間で、〇月〇日、△を〇〇円で売るという合意が締結された。

という書き方でも問題になりません。

要件事実を具体的に書く場合には、「こう書かないといけない」という1通りの答えがあるとおもってましたけど、そういうわけではないんですね。

法上向
法上向

そういうことさ。要件事実は、必要な要件+対象者+日時さえあれば、あとは、なぁなぁに伝わるように書けばいいんだ。1通りしか答えがないわけではないから安心するように!

売買代金支払請求の抗弁・再抗弁

では抗弁再抗弁をいろいろと考えてみましょう。

売買代金支払請求をされた買主はどういう主張をすることができるでしょうか。

履行期の抗弁

まず考えられるのは履行期の抗弁です。

8月29日に売買契約を締結し、代金の支払を9月1日にしていたとしましょう。この場合、売主が、8月30日に「代金を支払え!」と言ってきたとします。

しかし、買主は

いや、ちょっと待って、ちょっと待ってお兄さん。代金の支払期日は9月1日だったじゃないですか!」という主張ができるわけです。

これを履行期の抗弁といいます。

代金支払の権利の「障害」となり、請求原因と両立するので「抗弁」です。否認ではありません。

具体的には

〈履行期の抗弁〉
履行期の合意

→「Aは、Bとの間で、上記売買契約の際、履行期を〇年〇月〇日にすると合意した。」など。
※ポイント:㋐誰と誰との間か明確にすること。㋑どの売買契約か特定すること。㋒履行期の日時を入れること。

を主張することになります。

なお、これに対し、相手方は再抗弁として履行期の到来を主張することもできます

弁済の抗弁

代金支払請求の抗弁として「もうすでに支払ってるよ!」という主張も考えられます。

代金支払の権利を「消滅」させるものであり、請求原因と両立するので「抗弁」です。否認ではありません。

弁済は民法473条に基づくものですね。

(弁済)
第四百七十三条 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。

弁済の要件を考えてみましょう。

これは覚えないとしょうがないかもしれません。

〈弁済の抗弁〉
①給付
②給付と債権の関連性

→「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、本件売買代金債務の履行として、〇〇円支払った。」など。
※ポイント:㋐誰が誰に対して弁済したのか明示すること㋑日時㋒何の債務についてか明確にすること㋓何円払ったのか明確にすること

が要件とされています。

同時履行の抗弁

さて双務契約特有の同時履行の抗弁についても押さえましょう。

>>>同時履行の抗弁について詳しい説明はこちら【はじめての契約法その2】

同時履行の抗弁は、売買代金支払請求の権利を「阻止」するものであり、権利と「両立」するので、抗弁です。否認ではありません。

同時履行の抗弁は民法533条になります。

(同時履行の抗弁)
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

物を引き渡すまで、売買代金は払わないぞ!」という買主側からの主張ということがわかります。

この要件事実を考える際にポイントなのは、①双務契約や②弁済期(履行期)にあることの主張は必要ないということです。双務契約であることは請求原因の「売買契約」ですでに表れていますし「弁済期にある」という主張はさらに再抗弁に位置します。

要件事実を考えると以下のようになります。

〈同時履行の抗弁〉
権利主張

→「Aは、Bが△を引き渡すまで、その代金の支払を拒絶する。」など。
※ポイント:㋐誰が拒絶するのか明示すること㋑誰が何をするまで拒絶するのか明示すること㋒何を拒絶するのか示すこと。

さらに、同時履行の抗弁の再抗弁としては

先履行の合意反対給付の履行

が考えられます。

先に代金引き渡すって合意してたじゃないですか?」といった再抗弁や
もう代金支払いましたよ!」という再抗弁は可能ということです。

錯誤・詐欺の抗弁

最後に錯誤や詐欺の抗弁についても確認しましょう。

錯誤や詐欺は、売買代金支払請求の権利の「障害」となり、請求原因と「両立」するので抗弁となります。

要件については「はじめての民法総則シリーズ」で確認した通りです。

>>>錯誤の要件について【はじめての民法総則その3】

>>>詐欺の要件について【はじめての民法総則その4】

〈錯誤の抗弁〉
①意思表示が錯誤に基づくものであること
②錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであること
③(行為基礎事情の錯誤の場合には)表示
④取消しの意思表示

→「①Aは、本件売買契約当時、〇〇にもかかわらず、〇〇と信じていた。」
→「②△は、本件売買契約当時、時価〇円を超えるものであった(客観的重要性)」
→「③本件売買契約の際、△が〇〇という事情が表示されていた。」
→「④Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、本件売買契約を取り消すとの意思表示をした。」
ポイント:①~④の要素を入れる。②については主観的因果性は自然と表れるため、基本的には客観的重要性のみでよい。誰が誰に対して、どういった時に、何をしたのか、正確に明記すること。

再抗弁として「重過失を基礎づける評価根拠事実」が出てくるのは民法の条文どおりです。

〈詐欺の要件〉
①詐欺(欺罔行為→錯誤→意思表示)
②取消の意思表示

→「Aは、Bに対し、本件売買契約の締結の際、〇〇の事情はなかったにもかかわらず、〇〇と告げて〇を欺き、丸まると信じさせ、本件売買契約を締結させた。」
→「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、本件売買契約を取り消すとの意思表示をした。」
ポイント:㋐誰が誰に対し、どのように詐欺を行ったのか、具体的に明記すること㋑誰が誰に対し、いつ、取消しの意思表示をしたのか明記すること。

まとめ

以上、売買代金支払請求についてみてきました。

下の図から請求原因抗弁再抗弁が確認できます。

売買代金請求・要件事実

以上、よんでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

民事実務の基礎の教科書、参考書として有用なのは1つしかありません。

これを買わずして勉強できないといわれるほどの良書、大島先生の「民事裁判実務の基礎」です。

予備試験、ロースクール授業対策であれば「入門編」で十分でしょう。司法修習生になると「上級編」や「続編」が必要になるらしいです。

まだ何も参考書がないという方はぜひ読んでみてください!

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