民事実務基礎科目は予備試験やロースクール科目特有の科目だな。
司法試験科目でないがゆえに、なかなか手が回らない人も多い。
そこで「はじめての民事実務基礎シリーズ」を始めていこうと思う!
うわー、めちゃくちゃありがたいです。頑張ります!
民事実務基礎科目、刑事実務基礎科目は予備試験やロースクールの授業科目として必要になるものですが、司法試験科目である七法に比べてなかなか手が回っていない人も多いと思います。
加えて、実務基礎科目は「よい参考書」が少ないです。そのため、どう勉強すればよいのか、迷ってしまう人も多いでしょう。
そこで、「わかりやすく」を第一に、民事実務基礎科目を一通り解説していくシリーズを始めていこうと思います。
今回は第1回目ということで、民事実務基礎科目とはどのようなことを学ぶのか、そして最低限必要な基礎知識を一通り解説していこうと思います。よろしくお願いします。
民事実務基礎を学ぶポイント
民事実務基礎とは、要件事実、事実認定、民執行保全の3種類からなります。これに加えて法曹倫理が予備試験で問われることもありますが、これは別の回に譲ろうと思います。
そしてなんといっても大事なのが、要件事実です。
要件事実を制するものは民事実務基礎を制するといっても過言ではありません。さらに要件事実を押さえることは、民法を深く理解することにもつながるので、司法試験にもつながる勉強といえるでしょう。
一方、事実認定は慣れが大きい面があります。暗記よりは慣れです。しかし一定のルール、ポイントはあるように私は思うのです。
事実認定の方法は他の参考書等を見てもほとんど書かれていません。しかし予備試験では一定の点数割合を占めます。そこで「はじめての民事実務基礎」シリーズでは、事実認定もしっかり解説していくつもりです。
民事執行・保全は予備試験でもロースクールでも簡単にしか触れないと思いますので、このシリーズでも簡単に解説するにとどめます。
今回は、これら3点を学習する基礎となる、民事実務基礎で必ず知っておくべき用語・ポイントを解説していきます。
①民事実務基礎には、要件事実と事実認定と民事執行保全の3つを主に学習することを押さえる。
②民事実務基礎で最低限押さえておくべきポイントを理解する。
できるだけわかりやすく解説したいと思います。それでは見ていきましょう。
民事実務基礎では何を学ぶのか?
最初の方でも解説しましたが、民事実務基礎では、要件事実、事実認定、民事執行保全を学びます。それぞれどのようなことを学ぶのか、より詳しく見てみましょう。
要件事実とは何か?
訴訟になった場合、原告と被告に分かれそれぞれ主張していきますよね。たとえば売買の詐欺取消しの事例を考えてみましょう。
AさんはBさんから騙されて物を買ってしまった。Aさんは売買の詐欺取消しを主張して物を返してほしい。といった事例ですね。
このときAさんが訴えたとすると、主張として何を言えばいいのでしょうか。
AB間での売買の事実は主張しますか?
Bが欺罔行為を行った事実は主張しますか?
Bが故意を持っていたことまでAは主張しないといけないのでしょうか?
Aが善意であることは必要ですか?
といった「何をどこまで主張するか」を考えるのか要件事実の始まりです。
仮にAさんが要件事実にそって売買の詐欺取消しを主張したとしましょう。ではBさんはどういった反論ができるでしょうか。
Bが欺罔行為を行っていなかったことは反論になりますか?
Bの故意がなかったことは反論になりますか?
すでに第三者に物を売ってしまったことは反論になりますか?
その反論は抗弁ですか?否認ですか?
こういったことを考えていくのです。
つまり、要件事実とは「何を主張し」「何を否認し」「何を抗弁として主張するか」を考える分野といえるでしょう。なんとなくパズルゲームのイメージをもってもらえるとわかりやすいです。
ところで「否認」とか「抗弁」とかって何?聞いたないけど。。
よく気が付いたね。「否認」や「抗弁」の用語についてはあとで解説するよ。最後まで読み進めてね。
事実認定とは何か?
次に事実認定について考えてみましょう。
事実認定とはわかりやすくいえば、証拠や問題の事情から、何の「事実」が認められるか、
逆にいえば「ある事実」を認定するためにはどのような証拠や問題の事情が必要になるか、を考える分野です。
一番わかりやすいのは売買契約書でしょう。
売買契約書が証拠として提出されました。
このことをもってAB間の売買があったことを認定してもよいのでしょうか。
売買契約書にAやBの名前がなく白紙であった場合はどうですか?
売買契約書にAやBの署名はないがAやBの印鑑があったらどうですか?
売買契約書にAやBの印鑑はあるが、Aは以前より印鑑を紛失していた事実を主張している場合はどうですか?
このように証拠や供述から「どうやって事実を認定するのか」を考える分野なのです。いわば推理小説で犯人を当てる感じに近い気がします。
民事執行保全とは何か?
最後に民事執行保全についてです。
訴訟前に行うのが民事保全
訴訟後に行うのが民事執行
と考えてもらえればわかりやすいと思います。
民事保全で有名なのは仮差押えとかですね。他にもいろいろな種類がありますが、とりあえずは訴訟前に行う手段と考えておけば大丈夫でしょう。
民事執行で有名なのは強制執行です。抵当権ともかかわる部分なのでしっかり理解たいところです。
とはいえ、予備試験やロースクールの授業をみてもわかる通り、民事執行保全は簡単に済ませることが多いと思います。
それほど重要分野とはいえません。
民事実務基礎を理解するために何としても押さえたいのは、やはり「要件事実」です!!
頑張りましょう。
民事実務基礎で押さえるべき基本事項
それでは民事実務基礎で最初に押さえるべき基本事項をさらっと解説していきます。主に、事実認定の分野での基本事項です。これを押さえないと要件事実の用語が理解できないと思うので、頑張りましょう。
訴訟物
要件事実を考える際にはまず訴訟物を検討します。
特に予備試験では「訴訟物」を答えさせる問題が出題させることが多いです。
訴訟物とは簡単にいえば「訴訟対象」です。objectの意味で「対象」と訳すべきところを間違えて「物」と訳してしまったことから訴訟物という名前になったともいわれています。
訴訟物と見たら「訴訟対象」のことだ!と理解しましょう。
訴訟物についての詳しい説明は、「はじめての民事訴訟シリーズ」での解説を参考にしてください。
民事実務基礎を学習するだけであれば「訴訟物」=「訴訟対象」とだけ理解しておけば大丈夫だと思います。
具体的にどのような場合にどのような訴訟物になるかは次回以降詳しく見ていくことになります。
請求の趣旨
請求の趣旨は、訴訟の際に原告が求める主張の結論です。
「結局、原告は何を求めているの?」ということが知りたい場合は請求の趣旨を見ることになります。
被告は、原告に対し、100万円を支払え。
というような感じですね。
ここでのポイントは、請求の趣旨は執行官が見ることがあるという点です。執行官は法律の知識がほとんどありません。そのため、請求の趣旨では「法律チック」な言葉は省かれます。執行官が混乱してしまい面倒だからです。
被告は、原告に対し、売買契約に基づき、100万円を支払え。
というように「売買契約に基づき」といった法律チックな言葉を書くと間違いということになります。執行官が「売買契約?何それおいしいの?」となってしまうからです。
簡潔に原告の主張の結論を書いているのが請求の趣旨というわけです。
請求原因
請求原因とは、原告が被告に対して主張するはじめの一歩です。
1、〇という事実がある。
2、△という事実がある。
3、▢という事実がある。
4、よって、……という主張ができる。
という流れをよくとります。請求を基礎づける事実の列挙のことです。
これが要件事実の一部ということはおわかりいただけるでしょうか。
つまり「ある主張」をしたいときに「どういう事実」を主張すればいいのか。を最初に考えるのが請求原因の段階というわけです。
要件事実が最初に出てくる箇所というイメージでいるとわかりやすいと思います。
抗弁
抗弁というのは、請求原因の事実に対する反論の主張のことです。
抗弁には、権利障害要件、権利消滅要件、権利阻止要件という3つの種類があります。
権利障害要件というのは、権利が発生している事実があっても、権利障害要件によって「もとから」発生していないことになる、という要件のことです。
権利消滅要件というのは、権利がもともと発生していたが、途中で消滅したという要件のことです。
権利阻止要件というのは、権利が発生しているが、権利を行使できないとする要件のことです。
このようにいつ、権利が不完全になる事由が生じるかで違いがあります。
加えて抗弁の特徴として、請求原因の事実と両立するという点があげられます。このポイントは後述する否認との違いになりますので注意しましょう。
あくまで、抗弁とは、反論としての「権利主張」であるというわけです。
否認
抗弁と非常に似たものとして「否認」があげられます。
否認は抗弁と異なり、請求原因事実とは両立しません。ただ単に請求原因の存在を否定しているだけです。
「え、それは違うよ!」
というのが否認で
「あなたの言っていることはわかる。けど私はこう主張する」
というのが抗弁というわけです。
抗弁と否認の違いは分かりにくいですが、とりあえずは「両立するかしないか」と考えておくとよいでしょう。
まとめ
以上、民事実務基礎科目で必要な基本事項について押さえていきました。
とりあえずさっと復習してみましょう。
①民事実務基礎は、主に、要件事実・事実認定・民事執行保全を学ぶものである。
②要件事実として押さえておくべきは、訴訟物、請求の趣旨、請求原因、抗弁、否認である。
③訴訟は、請求原因→抗弁→再抗弁→……という順で主張立証がされていく。
これから一緒に民事実務基礎の勉強を頑張っていきましょう。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
民事実務の基礎の教科書、参考書として有用なのは1つしかありません。
これを買わずして勉強できないといわれるほどの良書、大島先生の「民事裁判実務の基礎」です。
予備試験、ロースクール授業対策であれば「入門編」で十分でしょう。司法修習生になると「上級編」や「続編」が必要になるらしいです。
まだ何も参考書がないという方はぜひ読んでみてください!