賃貸借契約でもっとも厄介なのが、期間満了とか解除とかの場合なんですけど、わかりやすい考え方を教えてください!
それなら、まず一般的な賃貸借契約の終了による請求の要件をマスターすることだな!
しっかりポイントを押さえていこう!
賃貸借契約の要件事実の山場は、賃貸借契約の終了に基づく請求です。
期間満了や契約解除によって賃借物(建物や土地)の明渡しを請求するというものです。
しかしながら、結局は賃貸借契約の終了による請求というくくりで1つです。そのため要件の考え方も基本的には同じになります。
そのため、意外とシンプルに考えることができるのです。あとは必要なのは、民法自体の知識です。特に期間満了については借地借家法が絡んできますので、実体法との関係もしっかり頭に入れていきましょう!
賃貸借契約の終了による請求のポイント
まずは、①期間満了②解除の2つの方法がある点を理解します。民法や借地借家法の規定から理解を深めていきましょう。
後は要件事実論での基本的な流れに沿っていけば大丈夫です。訴訟物、請求の趣旨、請求原因→抗弁→再抗弁の流れですね。
「わかりやすさ」を基礎に解説していきたいと思います!
①賃貸借契約の終了の類型を民法・借地借家法から理解する。
②期間満了の際の請求の訴訟物・請求の趣旨・請求原因→抗弁→再抗弁等を理解する。
③賃料不払の際の請求の訴訟物・請求の趣旨・請求原因→抗弁→再抗弁等を理解する。
④転貸借の際の請求の訴訟物・請求の趣旨・請求原因→抗弁→再抗弁等を理解する。
それでは見ていきましょう!
賃貸借契約の終了の類型は①期間満了②解除
建物明渡請求には物権的請求と債権的請求がある
まず押さえておいてほしいのは建物明渡請求には物権的請求と債権的請求があるということです。
物権的請求はすでに学習済みですよね。
>>>物権的な不動産明渡請求についてわかりやすい解説【民事実務基礎その8】
物権的請求の場合には、①もと所有②現占有が要件となります。賃貸借契約なんて言及する必要はありません。
そして今回学習するのは物権的請求権ではなく、債権的請求です。
どういうことかというと、契約が終わるから貸してた物返してね!という請求です。これは賃貸借契約にはもともと返すことが想定されていることが関係しています。
そのため、賃貸借契約の場合には、物権的請求のほか、債権的請求が可能というわけです。
訴訟物
訴訟物は、ずっと述べているものです。
賃貸借契約の終了に基づく不動産(建物・土地)明渡請求権
です。
ちゃんと「賃貸借契約の終了に基づく」という部分を入れるようにしましょう。そうではないと物権的請求権と区別できないからです。
ちなみに物権的請求権の場合は
所有権に基づく返還請求権としての不動産明渡請求権
でしたよね。
請求の趣旨
請求の趣旨はシンプルイズベストでしたよね。
そのため
「被告は、原告に対し、〇を明け渡せ。」
ということになります。
ちなみに、「引き渡せ」と「明け渡せ」の違いはほぼありません。不動産の場合は通常は「明け渡せ」を使います。
賃貸借契約の終了に基づく不動産明渡請求の要件
では、賃貸借契約が終了したから、賃借物返して!というわけには何を主張すればいのでしょうか?
>>>賃貸借契約を要件の視点から理解する【はじめての民事実務基礎その10】
上の記事をすでに学習している方はなんとなくイメージできると思います。
①賃貸借契約の締結
②基づく引渡し
③契約終了原因事実
この3つが必要ということがイメージできるでしょう。
なんで②基づく引渡しが必要なんでしたっけ?
おいおい、賃料請求でもやったところだぞ!もう1回復習するか。
一般的な場面を想像してみよう。
賃借物を貸していないのに「返して!」なんていえるか?いえないだろう?
賃貸借契約はその契約に基づいて賃借物を引き渡すことがそもそも必要なんだ!
賃貸借契約では常に、賃借物を引き渡すことが想定されています。賃借物を引き渡してはじめていろいろな請求ができるというわけです。
一般的にみても、賃貸借契約の際には賃借物を引き渡さないとはじまらないことがわかると思います!
「賃借物はちゃんと渡そうね、大家さん!」
というわけです。
終了原因事実は3種類を押さえよ!
終了原因事実は大きく分けて2つです。
①期間満了
②解除
の2つが大事です。
②の解除の中には、賃料不払と無断転貸が主でしょう。
つまりは期間満了・賃料不払解除・無断転貸解除の3種類を押さえればほぼ完ぺきといえます。
期間満了の場合
借地借家法上の考え方
期間満了は正直影が薄い要件事実です。そのため、ほとんどの方はしっかり覚えていないでしょう。
では、いきなり期間満了の問題がでたらどうすればいいのか……
答えは簡単です。
われわれには条文があるじゃないですか!!
条文から要件を導き出せれば、要件事実を細かく覚えている必要はないのです。
では条文からどのような場合に期間満了による賃貸借契約の終了が認められるのかを見てみましょう。
ここでほぼ出題される問題は借地借家法に基づくものだと思いますので、借地借家法(建物所有目的での賃貸借)に限って説明していきます。
>>>詳しくは借地借家法を詳しく解説した記事【はじめての契約法11】
借地について借地借家法の適用場面(借地借家法2条1号)
借地借家法はすべての賃貸借に適用されるわけではありません。借地借家法2条1号の定義を見てみましょう。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。
借地借家法が適用されるのは建物の所有を目的とする土地の賃借権について適用されます。
つまり「建物の所有目的」が必要なわけです。建物所有目的の場合に賃貸借についての民法の規定と合わせて着地借家法を参照しないといけないことになります。
借地借家法は期間制限と対抗要件、賃料増減額の場面で主に使われます。土地についての借地借家法の条文についてみていきましょう。
借地権の存続期間(借地借家法3条・4条・5条)
建物の所有目的である借地権の期間制限は借地借家法3条・4条・5条を確認しましょう。
(借地権の存続期間)
第三条 借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。(借地権の更新後の期間)
第四条 当事者が借地契約を更新する場合においては、その期間は、更新の日から十年(借地権の設定後の最初の更新にあっては、二十年)とする。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。(借地契約の更新請求等)
第五条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
2 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。
3 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする土地の使用の継続を借地権者がする土地の使用の継続とみなして、借地権者と借地権設定者との間について前項の規定を適用する。
つまり更新していく限り、建物を所有目的とする借地権は続いていくというわけです。
30年→20年→10年→10年→…
といった具体に更新されていきます。
更新拒絶事由(借地借家法6条)
では借地権者(貸主)はどうやってその更新の連鎖を止めることができるのか?
それは借地借家法6条を見ればわかります。
(借地契約の更新拒絶の要件)
第六条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。
正当な事由が必要というわけです。逆に言えば正当な事由があれば借地契約の更新の連鎖を止めることができるというわけですね。
この正当事由の考慮要素としては、貸主と借主の土地の使用を必要とする事情が中心になってきます。
建物について借地借家法の適用場面
建物の賃貸借であればすべて借地借家法が適用されます!
土地の場合は「建物所有目的」である必要がありましたが、建物賃貸借の場合は限定がありません。
借地借家法は期間制限と対抗要件、賃料増減額の場面で主に使われます。建物についての借地借家法の条文についてみていきましょう。
建物の存続期間(借地借家法29条・26条)
まず建物賃貸借の期間において1年未満の場合は期間の定めのないものとなります。借地借家法29条1項を見てみましょう。
(建物賃貸借の期間)
第二十九条 期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百四条の規定は、建物の賃貸借については、適用しない。
そんため、アパートの賃貸借は2年契約・更新の場合が多いというわけです。下宿生の方は実際にそうなっていると思います。
更新については借地借家法26条を見てみましょう。
(建物賃貸借契約の更新等)
第二十六条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3 建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。
借地借家法26条1項は慎重に見る必要があります。
1年前~6か月前に更新しない旨の通知をしなかったときは、更新したものとみなされるわけです。自動更新していくわけですね。
下宿生の方は、おそらく1年6か月あたり(2年契約で6か月前)で更新のはがきが届くはずです。それをしないと貸主は自動更新で一生貸し続けることになってしまうので……。
では貸主はどうすれば賃貸借契約をやめることができるのか?次に見ていきましょう。
更新拒絶通知(借地借家法26条)
更新をしない旨の通知(更新拒絶通知)をすれば貸主は賃貸借契約をやめる方向性になります。賃貸借契約期間満了により賃貸借契約が終了することになるからです。
また借地借家法27条によれば貸主は解約の申入れをすることも可能とされていますが、ほぼ出題されないのでここでは省略します。
>>>解約の申入れでの終了パターン【はじめての契約法その11】
ということは簡単に建物の賃貸借は貸主側からやめることができるというわけですね。
実はそうでもないんだ。借地借家法28条をみてみようか。
とはいっても、貸主は簡単に建物賃貸借をやめることができるわけではありません。借地借家法28条をみてみましょう。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
条文通りですね。更新拒絶通知や解約の申入れは正当な事由があると認められなければすることはできません。
その際の考慮要素としては、建物の貸主と借主の建物を必要とする事情が中心となるというわけです。
やっぱり土地の場合と同様で、建物賃貸借は早々に解約できないというわけですね。
建物の場合の期間満了の要件
さて、以上の議論を踏まえると期間満了の要件はどのようになるのでしょうか。わかりやすく建物を例に考えてみましょう。
建物の場合は借地借家法が当然に適用されるため、土地より楽です。
㋐存続期間の満了
㋑期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新拒絶の通知をしたこと(借借26条)
㋒更新拒絶の通知から期間満了までの間に、更新を拒絶するについて正当な事由が存在したことを基礎づける評価根拠事実(借借28条)
が要件となります。
これを賃貸借契約の終了に基づく請求の一般的な要件に当てはめていきましょう。
すると以下のようになります。
〈賃貸借契約の終了に基づく建物明渡請求〉
①賃貸借契約の締結
②基づく引渡し
③終了原因事実
→ ㋐存続期間の満了
→㋑期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新拒絶の通知をしたこと(借借26条)
→㋒更新拒絶の通知から期間満了までの間に、更新を拒絶するについて正当な事由が存在したことを基礎づける評価根拠事実(借借28条)
①「原告は、被告に対し、〇年〇月〇日、〇建物を賃料月額〇円、期間同日から〇年の約定で賃貸した。」
②「原告は、被告に対し、〇年〇月〇日、〇建物を引き渡した。」
③㋐「〇年〇月〇日は経過した。」(期間満了)
③㋑「原告は、被告に対し、〇年〇月〇日、賃貸借契約の期間が満了したら、更新することなく契約を終了させる旨の通知をした。」
③㋒自由作文
※正当な事由の評価根拠事実は自由作文です。ほぼ決まりはありません。ただしちゃんと日時、当事者、具体化はしましょう。
賃料不払の場合
債務不履行による解除
まず一般的な債務不履行解除の要件を思い出してみましょう。
㋐債務発生原因
㋑不履行
㋒催告
㋓催告後相当期間の経過
㋔解除の意思表示
でしたよね。
>>>一般的な債務不履行による解除の要件【民事実務基礎その3】
賃料不払の債務不履行による解除にアレンジ
債務不履行=賃料不払として解除の要件をアレンジしていきます。
その前に賃料請求権の要件を確認しておきましょう。
①賃貸借契約の締結
②基づく引渡し
③履行期の到来
(④一定期間の経過)
これが㋐債務発生原因に当たります。そして履行期が「経過」することによって、賃料の支払が遅れている、ということが基礎づけられるため㋑不履行が基礎づけられることになります。
よって
〈賃貸借契約の終了に基づく建物明渡請求〉
㋐賃貸借契約の締結
㋑基づく引渡し
㋒履行期の経過(履行期の合意は民法614条より法定されており、履行期を過ぎることで不履行となる)
㋓催告
㋔催告後相当期間の経過
㋕解除の意思表示
→㋐「原告は、被告に対し、〇年〇月〇日、〇建物を賃料月額〇万円との約定で賃貸した(以下、「本件賃貸借契約」という)。」
→㋑「原告は、被告に対し、〇年〇月〇日、本件賃貸借契約に基づき、〇建物を引き渡した。」
→㋒「〇年〇月から〇年〇月までの各末日は経過した。」(「到来」ではない!)
→㋓「原告は、被告に対し、〇年〇月〇日、〇年〇月分から〇年〇月分の賃料を支払うように催告した。」
→㋔「〇年〇月〇日は経過した。」
→㋕「原告は、被告に対し、〇年〇月〇日、本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をした。」
→よって書き「原告は、被告に対し、本件賃貸借契約の終了に基づき、〇建物の明渡しを求める。」
のようになるというわけです。
結局は、一般的な債務不履行解除の要件を賃貸借契約にアレンジしていけばいいわけです!
無断転貸の場合
無断転貸は民法上原則禁止
無断転貸は債務不履行のさらに応用系です。
まずは無断転貸は原則として民法上禁止されているという点を押さえます。
最初に押さえてほしいのは、無断賃借権譲渡・無断転貸は禁止されているという点です。これに違反した場合、賃貸人は解除することができます。
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
「無断転貸は許しまへんで~!」というわけです。
無断転貸の場合の要件
そのため、解除したい原告(賃貸人)としては、転貸を主張すれば、債務不履行は主張できることになります。なお、承諾がある場合は賃借人側からの抗弁になります。
〈賃貸借契約の終了に基づく建物引渡請求〉
①賃貸借契約の締結
②基づく引渡し
③転貸借契約の締結
④基づく引渡し・使用収益
⑤解除の意思表示
以上の要件を主張することで転貸による解除を主張することができます。
無断転貸解除の抗弁
ここで民法上の議論を思い出してほしいのです。
無断転貸はたしかに原則禁止ですが、賃借人をそう簡単に解除できないのが民法・借地借家法・判例です。
そこで、信頼関係破壊の法理が登場します。無断転貸による解除の場合も同様に背信性不存在の抗弁(信頼関係破壊の法理)を使うことができるとされているのです。
すなわち、無断転貸による解除であっても、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されるものでなければ解除できないということになります。
よって、相手方(賃借人)は「信頼関係なんて破壊されていないよ!背信性なんてないよ!」ということを主張していくわけです。
賃貸借は簡単には解除できない、ということですね。
背信性は法的評価(裁判所が判断するもの)なので、相手方の抗弁としては、
非背信性を基礎づける評価根拠事実
を主張することになります。背信性はない転貸ですよ!という事情をできるだけあげるのです。
なお、再抗弁として
非背信性を基礎づける評価障害事実
を主張することになります。
まとめ
以上、賃貸借契約の終了に基づく請求についてみてきました。
終了原因としては
期間満了・賃料不払・無断転貸
の3種がある点を押さえましょう。
あとはそれぞれの要件をしっかり押さえていけば大丈夫です!
参考文献
民事実務の基礎の教科書、参考書として有用なのは1つしかありません。
これを買わずして勉強できないといわれるほどの良書、大島先生の「民事裁判実務の基礎」です。
予備試験、ロースクール授業対策であれば「入門編」で十分でしょう。司法修習生になると「上級編」や「続編」が必要になるらしいです。
まだ何も参考書がないという方はぜひ読んでみてください!