いよいよ契約各論に入っていくぞ。特に今回やる売買は他の契約でも準用されることが多いからしっかり学習しよう!
はーい。けど売買契約って代金とか目的物引渡義務とかくらいですよね。
おいおい、試験において重要なのは、契約不適合責任だぞ。ややこしい箇所だからしっかり理解していこう。
売買契約にはいろいろな特則が設けられています。手付であったり売買の予約であったりです。とはいえ試験では、これらはあまり出題されることはありません。
出題されるとしたら、㋐契約不適合責任による①追完請求②代金減額請求③損害賠償請求④解除の使い方、㋑危険の移転のどちらかでしょう。
今回は混乱しがちな契約法における契約の考え方について、改正民法完全対応で、わかりやすく解説していこうと思います。
売買のポイント
契約各論では、まずその契約自体から生じる債権・債務を確認しておく必要があります。これがわかっていなければ債権総論で学習した一般的な債権の使い方を用いることができませんからね。
よって売買契約から生じる債権・債務についてまずは確認します。
そして、売買契約における特則を試験に出やすい論点・ポイントを中心に学習していきましょう。
売買は何といっても契約不適合責任です。契約不適合責任に基づく考え方は他の契約各論にも適用されているので、ここでしっかり押さえる必要があります。
しっかり学習していきましょう。
①売買の債権・債務について知る。
②契約不適合の場合の対処法を知る。
③売買における危険負担の考え方を復習する。
それでは見ていきましょう!
売買契約から生じる義務(債権・債務)
売買契約とは民法555条
まずは売買契約とはどういった契約なのかを確認してみます。
(売買)
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
この民法555条を読み取ると、売買契約の成立には、別に目的物を引き渡したり代金を支払ったりする必要はありません。
当事者間で約束さえすればいいのです。その約束の内容としては、目的物の特定・代金は最低でも定める必要があります。
このように売買契約は当事者の約束(合意)だけで売買契約が成立することは意識しておきましょう。そしてこの売買契約からどのような債権・債務が発生するのか見ていきましょう。
売買契約から発生する売主の義務
目的物引渡義務
売買契約の際の売主の義務としてまず押さえておきたいのは、「目的物引渡義務」です。
契約の内容として「目的物」を引き渡すことが入っていたので、当たり前ですね。ポイントはこの「目的物」は契約内容に合致したものでなければならないということです。
契約で決められた種類・品質・数量に適合していない「目的物」を引き渡した場合には「目的物引渡義務」を果たしたとはいえず、契約不適合責任の問題になっていきます。
対抗要件を備えさせる義務
(権利移転の対抗要件に係る売主の義務)
第五百六十条 売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。
民法560条を見てみましょう。売買契約の目的物が不動産の場合は想像しやすいと思います。不動産を引き渡したとしても、物権法で学習するように、登記がなければ第三者に対抗できません。そのため、完全は所有権を与えるという意味で、売買契約の売主には「対抗要件を備えさせる義務」まであると規定されているわけです。
その他の付随義務
そのほか、売主には財産権を移転させる義務に加えて、契約の目的達成のために必要な行為をする義務もあるといわれています。たとえば、家具の組み立てでは組立説明書を同封するといった義務のことです。ただし、試験問題としてはあまり問題になりませんので、そこまで気にする必要はないでしょう。
意識しておいてほしいのは、売買契約の売主の義務の主眼には「目的物引渡義務」があるということです。
売買契約から発生する買主の義務
代金支払義務
契約内容からもわかるように、買主には代金支払義務があります。当たり前ですね。
受領義務
売買契約では一般的に受領義務があります。目的物を受け取るという義務です。これが発生するかどうかは契約内容にもよりますが一般的にはあるとしてよいでしょう。受領しなければ受領遅滞→危険負担といった問題が生じます。
契約不適合責任とは?わかりやすく解説
どのような解決方法があるか?
さて売買契約での一番の山場、契約不適合責任に入っていきます。改正民法で大きく変わった部分です。
売買契約では契約の内容に沿った目的物を引き渡さなければなりませんでした。しかし、売主がちゃんとした目的物を引き渡さなかったとしましょう。
この場合、改正民法では、売主側の債務不履行になります。そもそも売買契約から買主に目的物引渡請求権が発生しますが、この目的物引渡請求権は単純に目的物を引き渡せばいいのではなく、
契約の内容に沿った目的物を引き渡さなければいけなかったから
です。改正民法では、この種類債権であれ特定物債権であれ、「契約に沿った目的物」を引き渡す義務があるということは変わりません。
この解決補法として、追完請求権、代金減額請求権、損害賠償請求権、解除権の4種類があることを覚えてしまいましょう!
これらの選択肢は買主側が基本的には自由に選択できることになります。
ではそれぞれの請求権について確認していきましょう。
選択肢①:追完請求権
追完請求権とは、簡単にいうと、契約不適合部分を補完するように請求することです。
たとえば、目的物が壊れていた場合、修理をしろ!というのは追完請求ですし、別の物に替えろ!というのも追完請求です。
契約した内容と数量が不足していた場合、不足分を引き渡せ!というのも追完請求になります。
契約不適合部分を解消する請求というわけです。
条文を見てみましょう。民法562条1項になります。
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
大変詳しく規定されているので、条文を読めばわかっていただけると思います。
ただし、民法562条2項からもわかるとおり、契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものである場合にはこの請求は認められません。
ただこれは一般常識より明らかでしょう。自分で契約不適合にしておきながら追完請求ができるというのはおかしな話です。
勘違いしてほしいのは、これはあくまで「買主の責めに帰すべき事由によるものである」場合です。買主は別に自身に帰責事由があろうとなかろうと追完請求を負うことになります。もちろん、売主に帰責事由がない場合には、売主側は損害賠償や契約解除で対応することができます。
選択肢②:代金減額請求権
代金減額請求権とは、契約不適合分、代金を減額するというものです。
つまり、契約不適合物が引き渡された場合、買主は
「わかった、もう修理とか代替物の引渡しとかはいいから、このままの履行でいいから、その代わり、契約不適合分だけ売買支払代金を減らしてくれ」
と言って代金減額をすることができるというわけです。
民法563条を見てみましょう。
(買主の代金減額請求権)
第五百六十三条 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
この条文をみて、「あれ?何かの条文と似ているな……」と思われた方は鋭いです。
解除の条文と非常によく似ています。解除についての解説は以下の記事を参考にしてください。
実は、代金減額請求権は「一部解除」として機能しているのです。契約不適合部分を解除するからその分の減額というわけですね。
そのため、要件は解除の場合と同様になります。+αとして「代金の額」が要件として入るくらいです。
また、民法563条1項による代金減額請求の場合には、追完請求を先に行っていなければならないとされています。
とはいえ、はじめのうちは、
契約不適合責任の場合には一部解除みたいに代金減額請求ができる
とだけ覚えておけば大丈夫でしょう。
また、追完請求の場合と同様に、買主に帰責事由がある場合には代金減額請求はできません。これも常識的に考えれば当たり前ですね。
選択肢③:損害賠償請求
損害賠償請求は債権総論で学習した内容がそのまま妥当します。詳しくは以下の記事をご覧ください。
契約不適合責任とは「目的物引渡請求権」の債務不履行になります。繰り返しになりますが、売買契約の目的物引渡請求権というのは「契約の内容に沿ったもの」を引き渡すことで履行したことになるので契約不適合のまま引き渡したとしても、売主は債務を履行したことになりません。
では「追完に代わる損害賠償」を請求したい場合はどうすればいいのでしょうか。
契約不適合物が引き渡された場合に、
買主が「もう俺が修理するから、その修理代金額を損害賠償として支払って」
というような場合ですね。
買主が修理するのが追完請求ですから、買主が修理してしまったら損害賠償(契約不適合物によって生じた損害)を請求するにとどまります。
これを追完に代わる損害賠償といいます。
この時の適用条文には争いがありますが、民法415条1項と考えておけばよいでしょう。
もし民法415条2項としてしまうと民法415条2項3号(解除ができる場合)の要件が必要になることが想定され、契約不適合物が引き渡された場合で、買主自身が修理をしようとする場面でも、買主はいったん売主に「催告」することになってしまいます。これはちょっと考えにくいですよね。
よって民法415条1項と考えるのが一般的です。
注意してほしいのは、この場合には民法415条1項ただし書によって「債務者の責めに帰することができない事由」としての反論が可能というわけです。
つまり売主が「俺に帰責事由はなかったんだ!」という反論が可能というわけです。
選択肢④:解除権
契約不適合は何度もいうように、売主の目的物引渡義務の不履行です。
そのため、債務不履行による解除も当然可能となります。
これも別の回で学習した解除の内容がそのまま妥当します。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
催告解除(民法541条)か無催告解除(民法542条)かの使い分けも条文通りです。催告解除の場合には追完請求の履行を先に催告することになるというわけです。これは一部解除であった代金減額請求権が追完請求を先に催告することを要求していることにつながりますね。
また買主(債権者)側に帰責事由がある場合には解除できないのも条文どおりです(民法543条)。
さらに、売主(債務者)側は軽微性の反論を出すこともできます(民法541条ただし書)。
期間制限(民法566条)
以上述べてきた、契約不適合の場合に買主がとれる選択肢(追完請求、代金減額請求、損害賠償、解除)について、実は期間制限が設けられています。
民法566条を見てみましょう。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
買主が「その不適合を知った時から一年以内」に売主に通知しなければ、追完請求、代金減額請求、訴願賠償請求、解除いずれもできないことになります。
この理由としては、物の種類・品質面での不適合は目的物の使用や時間経過による劣化によって、当初から契約不適合物であったのか、買主の使用によって劣化したのかわからなくなるからというのが1つ挙げられると思います。
たとえ買主が契約不適合から知って2年後とかに売主に知らせたとしても、売主からは「それって本当に売買当時から不適合だった?お前が使ってる間に劣化させたんじゃないの?」と言えてしまい、判断が難しくなってしまうというわけです。
また、注意点として、数量に関する不適合の場合には上記期間制限は適用されません。
数量についての契約不適合は経年劣化していくものではないため、先ほどのように売主から「お前が劣化させたんじゃないの?」とは言えないからですね。
このように期間制限は理由・趣旨を理解して、根本から考えるとわかりやすいと思います。
目的物の滅失等に関する危険の移転(民法567条)
危険の移転について民法567条1項
目的物が買主に引き渡された後で買主のもとで滅失・損傷してしまった場合を考えてみましょう。
この場合に買主は契約不適合になったことを理由として、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除をすることができるでしょうか?また、売主は買主に代金支払請求をできるでしょうか?
この点について規定しているのが民法567条です。
(目的物の滅失等についての危険の移転)
第五百六十七条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
引渡後に双方の責めに帰すことができない事由によって目的物が滅失したり損傷した場合には、買主は滅失・損傷を理由として追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除はできないというわけです。また、売主は代金支払請求をすることができます。
特に「引渡後」であること、「特定されていること」が必要である点には注意しましょう。
これは、目的物の引渡しによって、目的物の滅失・損傷に関する危険が移転されるからだといわれています。
あれ?なんか危険負担(民法536条1項)っていう同じような規定がありましたよね?あの場合にはたしか債権者(買主)は代金の支払を拒めたような……。
危険負担の場面との違いを理解しておこう。
危険負担(民法536条1項)は目的物引渡請求権が当事者双方の責めに帰すことができない事情によって「履行不能」になった場面を想定していた。つまり基本的には「引渡前」が想定されているわけだな。
しかし危険の移転(民法567条1項)は、目的物を「引き渡した後」の場面であり、その場合は買主に危険が移転しているから、代金支払請求をすることができるというわけさ。
危険負担(民法536条1項)との違いをしっかり理解しましょう。危険の移転は危険負担の特則として機能します。売買においては「引渡後」の滅失・損傷は、買主側がリスクを負うというわけです。
条見出しの「危険の移転」の意味を理解すると危険負担との違いが分かりやすいと思います。
受領遅滞による危険の移転(民法567条2項)
次に売買契約において、売主は目的物を引き渡そうとしたが、買主が受領せず、それ以降に目的物が滅失・損傷した場合を考えてみましょう。
この場合でも先ほどと同様に買主は、追完請求、代金減額請求、損害賠償、解除はできないことになります。また、売主は代金を請求することができます。
(目的物の滅失等についての危険の移転)
第五百六十七条
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
実はこれは受領遅滞(民法432条の2第2項)と危険負担(民法536条2項)の組み合わせを売買に置き換えただけです。民法423条の2第2項→民法536条2項という受領遅滞による危険負担の流れを確認してみます。
(履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
第四百十三条の二
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
受領遅滞の場合で当事者の責めに帰すことができない事由によって履行不能になった場合には債権者の帰責事由となりました(民法423条の2第2項)。そして、債権者の帰責事由によって履行不能になった場合には反対給付(売買でいう代金支払請求)を拒めません。
つまり、受領遅滞後、当事者の責めに帰すことができない事由によって履行不能になった場合には、反対給付(売買における代金支払請求)を拒めないというわけです。
この一般的な前提を受けて、売買契約は民法567条2項の特則を置き、
受領遅滞後、当事者の責めに帰すことができない事由によって、目的物が滅失・損傷した場合には、買主は、追完請求、代金減額請求、損害賠償、解除はできず、売主は代金を請求することができる
と規定しています。
んー、どうしても危険負担とごちゃごちゃしちゃうな。
わかりにくければ、まずは根本から考えてみよう。
危険負担は双務契約においての反対給付のあり方を決めるものだったよね。この場合基本的には債務者(売主)が危険を負うんだ。その例外が「受領遅滞」の場合だね。
一方で、売買では「特定物」を「引渡す」or「受領遅滞で履行の提供をする」と危険の移転が怒る。つまり債権者(買主)が危険を負うというわけだよ。
債権者(買主)と債務者(売主)のどちらが滅失・損傷(履行不能)のリスクを負うかを定めたのが危険負担であり、危険の移転なのです。
まとめ
売買契約で基本的に押さえておきたいポイントをざっと確認してみました。
特に重要なのは売買契約の目的物契約不適合の場合でしたね。買主の救済方法として4つあったのを覚えていますでしょうか?
〈契約不適合の際の買主の救済方法〉
①追完請求
②代金減額請求
③損害賠償
④解除
以上の方法があることはしっかり押さえるようにしましょう。
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
契約法について、初学者が学習しやすい本としては潮見佳男先生の『債権各論Ⅰ』をおすすめします。薄いため、最低限の知識がコンパクトにまとめられており、語り口調も丁寧語であるため、しっかり読めば理解できる流れになっています。青・黒・白と三色刷りなのでポイントも青の部分を読めばわかります。
もちろん、改正民法対応です。ぜひ読んでみてください!