令状を取ってからの捜査差押えって論点多くないですか?結局考え方の手順がいまいちよくわかりません。
たしかに,刑事訴訟法の捜査法の一番の山場は令状捜索差押えの場面だね。実は令状の要件と整理してみるとわかりやすいんだ。
令状の要件……?なんだそれ?
令状による捜索差押えは刑事訴訟法の捜査法の中で一番大きな山場だと思います。論点も多く,整理しづらいです。
しかし,令状発付の要件をつかみ,全体にかかわることと捜索令状にかかわる問題,差押令状にかかわる問題を整理していけば意外と単純なことに気が付くでしょう。
今回はこれらの問題について一気に復習してみようと思います。
令状による捜索・差押令状のポイント
一番重要でかつ勘違いされやすいのが,捜索令状と差押令状は基本的に一緒にまとめて審査され,捜索差押令状として発付されるということです。たしかに捜査機関としては,捜索令状だけでは捜索で見つかったものを差押えできないので捜索がうまく機能しませんもんね。
つまり,基本的に令状が発布されている場合は捜索についての問題と差押えについての問題の両方がかかわっているわけですね。
②捜索差押令状全体の問題について押さえる。
③捜索令状の論点について押さえる。
④差押令状の論点について押さえる。
捜索・差押え令状の要件
令状発付の要件は理由と必要
一般的に,令状発付は①理由②必要が要件であるといわれています。
これをより具体化すると,①理由とは,大きくは犯罪の嫌疑のことを意味しますが,これを令状の性質によって分けると,捜索の場合は証拠物がある蓋然性,差押えの場合は証拠物と被疑事実の関連性と言われています。
次に,②必要とは,被疑者の被侵害利益と捜査の公益上の利益を比較衡量するものであり,相当性を意味します。
これを捜索差押令状の一連の内容に当てはめると以下のような図になります。
条文を確認
要件ですので,条文に書かれていることになります。しかし,刑事訴訟法は非常に規定がわかりにくく探すのも一苦労です。
令状全体の要件
令状全体の要件として機能するといわれているのが令状主義について定めた憲法35条です。
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
ちなみに,刑事訴訟規則156条1項によれば,令状請求の際に「罪を犯したと思料されるべき資料を提供しなければならない」とされているので,この理由は,犯罪の嫌疑を意味すると解されます。
捜索令状の要件
捜索について書かれている条文を探すと刑事訴訟法102条がヒットします。しかしこの部分は裁判所の捜索についての規定です。よく使われるのは捜査機関による捜索なので222条1項より準用されることを示す必要があります。
第百二条 裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。2 被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。
第二百二十二条 第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、……までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が……する押収又は捜索について、……これを準用する。
差押令状の要件
差押えについて調べると,刑事訴訟法99条1項がヒットします。これも捜索と同様に刑事訴訟法222条1項により準用されます。
第九十九条 裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。
第二百二十二条 第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、……までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が……する押収又は捜索について、……これを準用する。
これでなぜ要件の①理由が全体としては犯罪の嫌疑,これを種類別に分けて,捜索の場合は証拠物のある蓋然性,差押えの場合は証拠物と犯罪の関連性を意味するかわかったのではないでしょうか。
②必要というのは解釈により導き出されるものです。逮捕勾留の場面でも出てきましたよね。
まとめ
最後にもう一度まとめてみましょう。
①理由(証拠物のある蓋然性)②必要(利益衡量)
〈差押えの要件〉
①理由(証拠物と犯罪の関連性)②必要(利益衡量)
捜索・差押え全体にかかわる論点
事前呈示
まず全体にかかわる論点からです。令状は事前呈示が基本とされています。これは手続の公正性の担保と人権配慮のためだとよく言われます。
ただし,事前呈示は令状実施の要件というわけではなく,意外と緩く解されており,事前呈示すると実施できなくなるような状況(薬物犯などで事前呈示すると証拠物を隠されてしまうなど)は事後的に提示すればよいとされています。
必要な処分
まず,必要な処分を規定した刑事訴訟法111条についてみていましょう。
第百十一条 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押え、記録命令付差押え又は捜索をする場合も、同様である。2 前項の処分は、押収物についても、これをすることができる。
捜索差押えに必要な行為は行えるということです。これは結構広く解されており,たとえば扉を閉めて捜索を拒む被疑者に対してはカギをこじ開けることも許されるとされています。また,宅急便と騙して入ることも許されるとした判例があります。
それくらい令状は出たときの捜査機関は強いということです!
また,妨害するような行為に対しては必要な行為として原状回復措置をとることができます。
たとえば,捜索中に証拠物を隠した疑いがある場合は身体捜索令状やがなくともその者の身体を捜索できます。これはあくまで令状によるものではなく妨害行為から原状を回復するための行為=必要な処分とされるからです。
令状が出たら捜査機関は強いということですね。
もちろん,この必要な行為は社会通念上相当なものでなければなりません。必要な行為としてマスタキーで開けられるのに,わざわざカギをこじ開けようとするのは不適当というわけです。必要な行為としてとれる様々な手段がある場合にはより被侵害利益の程度の低いものを選択しなければならないというわけですね。
捜索令状に関する論点
捜索する場所の特定
ここで憲法35条に何が書かれていたかもう一度思い出してみましょう。
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
どれくらいかを考える際には特定の趣旨・理由を考えるのが有効です。
特定の趣旨は捜査機関,裁判官,被疑者の3つの視点から考えることができます。
捜査機関に対しては,恣意的な選別を防ぐことが目的です。もし特定がなければその場で捜査機関が好き放題に捜索場所を広げることができてしまいます。
裁判官に対しては,審査実施をすることが目的です。特定されていなければ令状裁判官もどこを捜索差押するのかよくわからないため,令状を許可できません。もし特定されていない状態で許可してしまうと令状主義,裁判官による令状審査の趣旨が失われてしまいます。
被疑者に対しては,不服申立て手段を担保することが目的です。もし特定されていれば,特定外の部分に捜索が及びそうになったとき,待った‼ と言うことができます。また,受忍範囲があらかじめわかることは被疑者によって有益です。
このような3つの視点があるために,特定にはかなり具体的なものが要求されます。
よく言われるのが場所的同一性と管理支配の個別性により特定されるというものです。
場所的同一性とは,住所等で特定するものです(もちろん番地などまで要求されます)。管理支配の個別性とは,たとえ住所で特定されたとしても,その建物の中でさらに犯罪関連性のある者の管理支配が及んでいる箇所(階や部屋番号,区分など)まで示す必要があるということです。
建物一体とそこにいる人を捜索差押対象とすることはほとんどできません。このような捜索差押令状が許されるのは建物全体が当該犯罪事実に利用されており,かつそこにいる人々も犯罪に関連しているおそれが高い場合のみです。
捜索場所はかなり厳格に特定されていることがわかると思います。
身体の捜索
次に,特定の場所の捜索令状で,身体の捜索が可能かどうかを考えてみましょう。上記のとおり,特定の場所の捜索令状は場所を具体的厳格に特定しますが,逆に,特定されるとそこにあるものはほぼすべて捜索差押対象となります。
たとえば,捜索場所にバッグがある場合も,そのバッグの中身まで捜索対象となるのです。この理由を物のプライバシーは場所のプライバシーに包含されているから,と言ったりします。
しかし,一般的に身体の捜索はできないとされています。この理由は物のプライバシーの程度と人身体のプライバシーの程度は異なるからです。つまり,身体を捜索したいなら別に身体捜索令状が必要というわけです。
ただし,先ほど確認したように,妨害行為で身体に隠した場合などは,例外的に必要な処分としての原状回復措置として身体を捜索して隠したものを出させることは可能です。ただしこれはあくまで令状によるものではなく必要な処分としての例外的な行為ということは意識しておいてください。
差押令状に関する論点
関連性
差押えをする場合には関連性が必要となります。これは発付の要件の理由からも明らかですね。被疑事実との関連性のある物しか差押えできないというわけです。
しかし,この関連性は意外と広く解されており,一応関連するかもしれないなーという程度で差し押さえることができます。
記載
しかし,関連性があっても,令状に記載されていないと差押えできないというのが差押令状の面白いところです。
これは憲法35条からもわかりますね。
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
差押令状では「覚せい剤,吸入器,名刺,メモ」といった具体に捜索で出てきそうな物を列挙しています。この明示に書かれているものでなければ基本的には差押えできないというわけです。ただし概説的記載「一切の文書」といったものも許された判例があるため,記載の厳格性はないように思われます。とりあえず当該差押物が何らかのかたちで記載されていればよいというわけです。
まとめ
以上をまとめてみましょう。
②捜索についての論点は特定,身体に及ぶかどうかである。
③差押えについての論点は関連性と記載である。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑事訴訟法の参考文献として「事例演習刑事訴訟法」をお勧めします。はじめての方にとっては解説が大変難しい問題集ですが,非常に勉強になるものです。また,冒頭にあります答案作成の方法について書かれた部分については,すべての法律について共通するものなのでぜひ読んでほしいです。自分も勉強したての頃にこれを読んでいれば……と公開しております。
最初は学説の部分はすっとばして問題の解答解説の部分だけを読めばわかりやすいと思います。冒頭の答案の書き方の部分だけでも読む価値はあるのでぜひ参考にしてみてください。