職務質問は一般人が日常での遭遇することのあるものだね。法律上の問題について知っておくことは有益かもしれないよ。
なるほど,たしかに法律を知らないと何でも警察のいうままにしちゃいそうですよね。そしたらすべて任意で適法になりますもんね。
そうだね。ここでは刑事訴訟法上の論点になりやすい点にしぼって解説をしていくけれど,職務質問のさまざまな論点かこれから生きていくうえで知っていて損はないね。
職務質問は,普通の人でも遭遇することのある,刑事訴訟法上の身近な論点の一つです。その論点を知っておけば今後の人生にも役立つかもしれません。
職務質問・所持品検査の論点
職務質問では,ただ単の質問で終了することもありますが,よく問題になるのは,その際に付随して行われる所持品検査についてです。任意的に同意として所持品検査が行われるのはいいのですが,もし拒んだ場合はどういう扱いになるのでしょうか。
たとえば実際に考えてみても,突然職質されてカバンの中に人に見せたくないもの(違法とはいう関係ではなくプライバシー侵害的な意味で)が入っていることはありうると思います(笑)。その場合に我々は何かしらの対処ができるのでしょうか……
以上,今回の記事では,職務質問の一般的な問題に加えて,それに付随的に行われる所持品検査についての問題を考えてみます。
②所持品検査の問題
それではみていきましょう。
職務質問の一般的な問題
まず大事なのは要件の充足性
適法性を見る際に大事なのは,まず要件充足性です。要件を満たしてなければその時点で解釈とか関係なしに違法となります。これは刑事訴訟法でも同じです。
なお,職務質問は刑事訴訟法ではなく,警察官職務執行法(警職法と短縮したりします)により規定されています。これは刑事訴訟法が犯罪の嫌疑があるの事件を問題にするのに対し,警職法はまだ犯罪が起こっていない段階の犯罪の予防に対して規定した行政警察規定であるためです。
以上より,警職法の要件充足性が問題となります。職務質問については警職法2条をみてみましょう。
(質問)第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
警職法2条1項の太字部分を確認してみてください。これが職務質問の要件です。
つまり,なんかこいつ怪しいなー,という不審事由のある者でなければ職務質問の要件は満たさないというわけですね。
しかし,問題になると,以下に述べる論点に集中しすぎて要件充足性の検討を忘れてしまうことがよくあります。しっかり注意しましょう。
職務質問のための停止
次に,大きな論点としては職務質問のための停止の程度です。たとえば職務質問のために不審事由のある者の腕をつかんでもいいのか,もっと程度を強くして,手錠をかけるのはいいのか,タックルをするのはいいのか,といった問題が生じます。
以上をみてわかるとおり,無制限に許されるということはなさそうですよね。この点も法律の規定をうまく生かしながら解釈していくことにしましょう。
強制はダメ
(質問)第二条3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
ここでのポイントは刑事訴訟法に関する法律の規定によらない限りという点です。ここではじめて刑事訴訟法と警察官職務執行法がつながったことになります。
そして,この規定によれば警職法2条3項は強制処分を禁じているといえるでしょう。なぜなら強制処分であれば刑事訴訟法に関する法律の規定が必要→令状等が必要となるからです。つまり,まず職務質問の停止が強制手段(強制処分に該当するような手段)に当たるのかを検討することになります。
さて,強制処分の定義を覚えているでしょうか。警職法はあくまで行政警察規定ですから,本来であれば刑事訴訟法とは無関係ですが,警職法2条3項より刑事訴訟法上の考えがそのまま妥当するとします。
強制処分の定義について詳しくは以下の記事をご覧ください。
簡単に言うと以下のようになります。
個人の意思を制圧し,重要な権利利益の制約になるような手段で職務質問のための停止をさせることは刑事訴訟法上の規定から令状が必要というわけです。通常,職務質問の際の最初は令状は持っていないので基本的に違法となるでしょう(警職法2条3項参照)。
ただしここでのポイントは任意捜査・強制捜査の議論と同様に有形力の行使を使っただけでは違法とはならない点です。有形力の行使を使っても個人の意思の制圧+重要な権利利益の制約にならないような程度の軽いものであれば,停止させる行為として許されるというわけです。
強制に当たらないとしても比例原則
しかし,強制手段に当たらない場合であっても,次に警察比例原則が妥当するので被侵害利益(移動の自由など)に対して,捜査手段の必要性・相当性を考えなければなりません。具体的状況下で相当限度内の手段かどうかを考えるのです。
(この法律の目的)第一条2 この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。
警職法1条2項にも比例原則を思わせる条文があるので参考になりますね。
まとめ
以上,質問の際の停止の適法性についての議論を図にしてまとめてみます。
職務質問に付随する所持検査の問題
所持品検査は許されるのか
次に所持品検査の問題についてみていきましょう。警察官によって怪しい人物であれば質問するだけではなく,持っているものも確認したいはずです。その所持品に薬物等違法なものがあれば現行犯逮捕できるからです。
そのため,一般的に所持品検査を行うことも認められています。これをかっこいい言い方をすれば以下のようになります。
職務質問は犯罪の予防鎮圧等を目的とするものであるが,流動する警察事象に対応して迅速適正に処理すべきであるから,承諾なき所持品検査は一切許されないわけではない。(最判昭和46年7月23日米子銀行事件参照,一部簡略化)
職務質問に付随するものとして所持品検査は許されるというわけですね。
所持品検査の考え方
ただし,どのような態様の所持品検査も許されるわけではもちろんありません。上記と同じような議論があります。
強制はダメ
判例によれば,強制にわたるものはダメとされています。
ここでも,警職法2条3項より,強制にわたる=強制手段=刑事訴訟法の考えが妥当するため個人の意思の制圧+重要な権利利益の制約に該当する手段がこれに当たるといえそうです。
ということは,職質の所持品検査が嫌な場合は荷物を抱えて開けられるのを拒むしぐさをしとけばいいわけですか?
まぁ,理論上はそういうことになるな。その状態でいるのに無理やり強制的に警察が捜索しようとしたら違法になるからね。
令状を取られたら終わりだがな。
強制に当たらないとしても比例原則
さらに,ここでも警察比例原則は妥当するので,強制に該当しない場合であっても,所持品検査の必要性,緊急性,被侵害利益と公共の利益と権衡を考えなければなりません。
ここでのポイントは緊急性を考える場合が多いということです。任意捜査・強制捜査の写真撮影などでは緊急性はそれほど重視されていませんでした。しかし,所持品検査はあくまで行政警察規定とは関係ない例外的な行為なので緊急性まで要求しています。
まとめ
所持品検査についても図にしてまとめてみます。
まとめ
以上,職務質問,所持品検査について考えてきました。論点の考え方は比較的単純ですが,若干考慮する点が異なったりするので注意が必要です。
また不審事由の検討も忘れないようにしましょう。最後に全体をまとめた図を作ります。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑事訴訟法の参考文献として「事例演習刑事訴訟法」をお勧めします。はじめての方にとっては解説が大変難しい問題集ですが,非常に勉強になるものです。また,冒頭にあります答案作成の方法について書かれた部分については,すべての法律について共通するものなのでぜひ読んでほしいです。自分も勉強したての頃にこれを読んでいれば……と公開しております。
最初は学説の部分はすっとばして問題の解答解説の部分だけを読めばわかりやすいと思います。冒頭の答案の書き方の部分だけでも読む価値はあるのでぜひ参考にしてみてください。