横領罪の要件から論点を楽に考えてみた【刑法各論その15】

横領罪 刑法

横領がよくわからないぞ!

法上向
法上向

横領はよくわからない犯罪だからイメージがつきにくいのかもしれないね。ポイントは要件を考えることだよ!

横領の要件…?ぱっと出てこないですね…。

横領罪はイメージのつきにくい犯罪だと思います。ここでのポイントは要件を考えることです。しっかり要件を押されば論点も自然と引き出せるようになります。無理に論点を覚えていく必要はないのです。

一緒に考えてみましょう。

横領罪のポイント

横領罪の保護要件は所有権と委託関係です。要件は特に「自己の占有する他人の物」に着目することが大事でしょう。

また、横領罪には業務上横領罪単純横領罪占有離脱物横領罪があります。占有離脱物横領罪は今回扱う考え方とは全く異なりますので、ここでは取り上げません。

THE横領罪は業務上横領罪と単純横領罪です。2つで若干要件が異なりますので、気を付けて要件を覚えていくようにしましょう。

①横領罪の保護法益を理解する。
②単純横領罪の要件を押さえる。
③業務上横領罪の要件を押さえる。

横領罪の保護法益

横領罪これまでの財産犯の保護法益の考え方とはまったく異なると思ってください。

今までの財産犯は相手方の財物を奪う(交付させる)という行為でした。その行為自体に違法性が強いため、占有や財産自体が保護法益になっていたわけです。

一方で、横領罪は相手が委託してきた財物を奪う行為です。そのため、行為自体の違法性はこれまでの財産犯に比べると弱いことになります(法定刑からもそれがわかると思います)。となると、横領罪の保護法益は所有権となるのです。これは占有権説、本権説にかかわりなく、所有権です。

さらに、横領罪は「委託してきた」財物を奪うものなので、委託信任関係も保護法益だといわれています。なお、この委託信任関係は要件にもなると考える方がよいでしょう。

単純横領罪(刑法252条1項)の要件

刑法252条1項

横領罪には単純横領罪業務上横領罪があります。占有離脱物横領罪は全く考え方が異なり、論点もあまりなく、要件もあまり問題にならないので気にしなくてよいでしょう。

単純横領罪の条文は刑法252条です。

(横領)
第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。

要件をまとめるとこのような形になります。

①他人の所有する物②自己の占有③委託関係④横領行為⑤故意(⑥不法領得の意思)

③委託関係は条文からは導き出せず、保護法益から要件化されたものなので注意してください。

それぞれの要件について詳しく見ていきましょう。

①他人の所有する物

他人の所有する物という要件にはいくつか論点があります。さらにその論点は学説上対立があり、初学者にとっては難しい面もあると思います。

ここではわかりやすさ重視としたいので、できるだけ判例・通説に沿って解説していきます。ただし明確な判例がないものもあるため、最終的には個人の問題です。もし以下の説が気に入らなかったら基本書等で確認して異なる説をとっていただいても支障はないでしょう。

不法原因給付物は所有権なし

不法原因給付物とは違法な目的のために給付(委託)された物のことです。よくあるのが賄賂目的の金銭などですね。

あくまで不法「原因」給付物なので禁制品(銃器、覚せい剤など)とは異なる点は注意してください。

また、窃盗品もすでに違法な行為は行われた後の問題なのでここでの不法原因給付物にはあたりません。この点は委託関係の要件で検討することになります。

さて、不法原因給付物は「他人の所有する物」といえるでしょうか。ここで民法の規定を出してみます。民法708条です。

(不法原因給付)
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

不法原因給付物に対しては返還請求権はできないという規定です。判例の変遷もありますが、最近ではこれを所有権が反射的に受託者に委託する、とされています。

つまり、不法原因給付物の場合には、返還請求ができない。→所有権はすでに委託者にはない→所有権は受託者に帰属する、というわけです。

こうなってくると、不法原因給付物は「他人の所有する物」ではなく「自己が所有する物」となるわけです。

不法原因給付物の横領

不法原因給付物であれば、委託関係でも所有権が移転するから「他人の所有する物」という要件を満たさなくなるということがわかってもらえたと思います。

金銭は他人の所有といえるか

次に金銭の委託について考えてみましょう。民法的にいえば金銭は占有者=所有者と考えられています。しかしここでは刑法は別の見解をとっているのです。

一般的な金銭の委託は民法どおり占有者が所有者となるため、受託者が委託金銭の所有者となり「他人の所有する物」という要件は満たされません。

しかし、目的・用途を定めて寄託された金銭の所有者は寄託者にあると考えれられいます。つまり、受託者の視点になって、金銭が何かの目的に基づいて今手元にあるなら、それは「他人の所有する物」と考えられるわけです。

一般的に金銭で横領が問題になるのは用途を定めて委託している場合(そうでなければ委託関係があるかもあやしい)ですので、金銭は「他人の所有する物」といえることがほとんどでしょう。

②自己の占有

ほぼ問題になりません。窃盗罪では一番問題になる占有ですが、これは物の大きさや状況、見通し等から総合衡量した事実上の占有を考えていました。

一方で横領罪が問題とする占有は、「事実上の占有だけでなく、法律上の占有を含む」と言われています。

しかし、この文言だけ覚えていても、事実上の占有って何?法律上の占有って何?となってしまいますよね。

事実上の占有とは、我々が一般的に想像する占有と考えておけば大丈夫です。現に物を持っている状態のことですね。これが②自己の占有の要件を満たすのは納得できると思います。

法律上の占有とは、預金登記のことだと考えておけば大丈夫でしょう。

預金は現にお金を持っているわけではなく、銀行が管理しているお金です。しかし法律上、自由に引き出せる権利が預金者にはあるので、自身の口座に委託されたお金があれば、それは②自己の占有にあるとされます。

ATM

登記も同様です。民法上では契約、引渡しにより占有が移転すると考えられていますが、刑法横領罪では、引渡しで事実上の占有がある場合でも、②自己の占有の要件は満たされません。登記によってはじめて=法律上の占有があってはじめて②自己の占有が満たされるとされています。

登記

このように横領罪の②自己の占有の「占有」は事実上の占有だけでなく預金や登記の場合には「法律上の占有」も含むと考えておけば大丈夫でしょう。

③委託関係

委託関係は法律上のものだけか、事実上のものも含むのかという論点があります。もっとわかりやすくいうと、違法な委託関係も横領罪の要件を満たすのか、という論点です。

ここでは判例の立場に従って説明します。

含みます!

違法な委託関係でも横領罪が成立するというわけです。多いのが窃盗品の委託や窃盗の処分代金の着服でしょう。これらには盗品等関与罪が成立するため、違法な委託関係です。

しかし判例はこれらの委託についても横領罪で保護すべき委託関係として横領罪の要件充足性を認めています。違法な委託によるものであっても、「委託」という事実関係さえあれば③の要件は満たすというわけですね。

④横領行為

横領行為も学説の対立が激しい部分です。越権行為説領得行為説という説が対立しています。

ここでは通説の領得行為説に立って解説します。

横領行為とは、不法領得意思の発現です。不法領得意思とは㋐権利者排除意思㋑利用処分意思でした。詳しくは以下のリンクで確認してみてください。

この意思によって行為をしている場合に「横領行為」があったといえるわけです。

ということは横領行為検討時点で不法領得の意思についても検討することになります。よって横領罪の要件では不法領得意思を別個要件立てて検討する必要はないとされているのです(なので先ほどの要件立てではかっこ書にしました!)。

また、横領罪には未遂犯がないので、侵害結果まで必要となります横領結果とは何か?それは保護法益を考えてみてください。

横領罪の保護法益は所有権と委託信任関係でしたよね。よって横領結果とは(他人の)所有権侵害を指します

まとめると、横領行為とは不法領得の意思の発現によって所有権を侵害すること、といえるでしょう。※「所有権を侵害すること」は横領行為による結果を指す

論述の際にも、所有権が侵害されているか、という視点を持つことが大事です。

なお、判例では横領行為は若干異なる見解(領得行為説に立ちつつ越権行為説的)であるのでここでは取り上げません。論述の際には領得行為説に立って、その本来の見解のまま攻めた方が安全だからです。

念のために判例の文言を載せておきますが、あくまでも参考程度にするとよいでしょう。

他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意志

権利者排除意思はあるものの、利用処分意思について述べられていない上、越権行為説を思わせる書き方になっています。

業務上横領罪(刑法252条2項)の要件

(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

要件は以下のようになります。

①他人の所有の物②自己の占有③業務性④横領行為⑤故意(⑥不法領得の意思)

単純横領罪業務上横領罪で要件の何が異なるのかお気づきでしょうか?

単純横領罪の要件③委託関係が業務上横領罪では③業務性になっているよ!

法上向
法上向

よく気が付いたね。業務性があれば委託関係があるのは当たり前だからこのような規定になっているのさ。

業務性があれば委託関係が認められるのは当たり前と考えられています。そのため、要件の中に委託関係がないんですね。

では業務性とは何をいうのでしょうか?これは以下の文言を覚えちゃいましょう。

社会生活上の地位に基づき,反復継続して行われる事務で,委託を受けて他人の物を占有することを内容とするものをいう。

ポイントは㋐社会生活上の地位に基づき反復継続して行わるものであること㋑他人の物を占有することを内容とするものであること2点です。

㋐は刑法以外でもよく登場する文言です。そのうえで、刑法の横領罪は委託信頼関係を保護対象とするので㋑その業務は占有(管理)を目的としないといけないというわけですね。

一般的な定義と刑法の横領罪特有の定義の両方の側面が必要ということを押さえましょう。

他の要件は単純横領罪と同様に考えることができます。

まとめ

さて横領罪についてざっとみてきました。いかがだったでしょうか。

まとめとしてまずは保護法益を復習してみましょう。覚えていますか?

横領罪の保護法益は、所有権及び委託信任関係である。

次に、要件についてそれぞれの論点も踏まえて復習してみましょう。

〈単純横領罪(刑法252条)の要件〉
①他人の所有の物…不法原因給付物は所有権が受託者にあるからこれにあたらない。金銭は用途が定められていればこれに該当する。
②自己の占有…占有は事実上の占有だけでなく、預金や登記の場合には法律上の占有も含む。
③委託関係…違法なものであっても含まれる。
④横領行為…不法領得の意思の発現である。また未遂規定はないので、横領結果として所有権侵害も検討する必要がある。
⑤故意
(⑥不法領得の意思…④横領行為の時点で確認済み)
〈業務上横領罪(刑法253条)の要件〉
①他人の所有の物…不法原因給付物は所有権が受託者にあるからこれにあたらない。金銭は用途が定められていればこれに該当する。
②自己の占有…占有は事実上の占有だけでなく、預金や登記の場合には法律上の占有も含む。
③業務性…㋐社会生活上の地位に基づき,反復継続して行われる事務で,㋑委託を受けて他人の物を占有することを内容とするもの。
④横領行為…不法領得の意思の発現である。また未遂規定はないので、横領結果として所有権侵害も検討する必要がある。
⑤故意
(⑥不法領得の意思…④横領行為の時点で確認済み)

以上、読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。

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