いよいよ裁判に入っていきますね。その前に保釈について教えてほしいです!
被疑者が起訴されると、被告人という言い方になるよね。
勾留中の被告人の身柄を解放する手段について今回はみていこうか。この中に保釈が含まれるぞ!
これまでは被疑者段階での刑事実務基礎をみてきました。今回からは、被疑者が起訴された場面、すなわち裁判がはじまった場面を考えていきます。
まずは被告人の身柄解放手段を考えてみましょう。すなわち弁護士視点のものです。
被告人は勾留中であることが多いです。被告人の勾留は2カ月延長1カ月単位とかなり長く、苦しい生活であることが想定されます。
そこで弁護人は勾留中の被告人をどうにかして解放する方法を検討するわけです。詳しく見ていきましょう。
被告人の身柄解放のポイント
被告人の身柄解放のポイントは「保釈」を押さえることです。そのほかの手段は被疑者と同様なのですでに学習済みですね。
>>>勾留中の「被疑者」の解放手段について【はじめての刑事実務基礎その3】
①勾留理由開示②準抗告③勾留取消し④勾留執行停止の4つがありました。
勾留の要件不充足なら準抗告(刑事訴訟法429条1項2号)
勾留の要件消滅なら勾留取消し(刑事訴訟法207条1項、87条)
緊急事態による勾留の一時停止なら勾留執行停止(刑事訴訟法207条1項、95条)
でしたよね。
これに加えて、「保釈」が被告人の場合には新しく入ってくるわけです。保釈は意外と刑事実務基礎で問われます。そのため、しっかり勉強していきましょうね。
①被告人の勾留について理解する。
②勾留中の被告人の身柄解放手段について「保釈」以外を理解する。
③保釈の考え方を理解する。
以上、見ていきましょう!
被告人の勾留
被告人の勾留は被疑者勾留とほぼ一緒
これまで逮捕→勾留としてイメージしてみた勾留は被疑者についてでした。
検察官は、被疑者の容疑が固まると起訴します。すると被疑者→被告人となり、基本的には「勾留」されることになります。
被告人の勾留の考え方は基本的に被疑者の勾留と同様です。
なぜって?
それは被疑者の勾留がすべて被告人の勾留を準用していたからです。
毎度、条文を考えていた際に、刑事訴訟法207条1項を準用していたのを覚えていますか?
第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
これは被告人についての勾留の規定を被疑者についても準用しますよ!という規定だったわけです。
逆にいえば、刑事訴訟法は基本的に、「裁判」について=「被告人」について規定したものといえます。
よって被告人の勾留は覚えている勾留の知識が基本的にはそのまま使えることになります。
①勾留の要件は、㋐理由(犯人性・各号該当性)㋑必要
②勾留質問は行わなければならない。
といった点は共通です。
異なるのは処分主体
ただし、注意が必要なのは、被告人勾留の場合には、運用している人(勾留をつかさどっている人)がちょっと複雑です。
被疑者勾留の処分主体は、裁判官でした。
一方で、
被告人勾留の処分主体は、第1回公判期日前は「受訴裁判所以外の裁判官」、第1回公判期日後は「受訴裁判所」と変わるのです。
これは起訴状一本主義との兼ね合いがあります。裁判所は起訴状だけで判断しなければなりませんから、裁判が始まる前にいろいろ面倒を見てくれていた裁判官を、裁判が始まった後(第1回口頭弁論後)では使うことができないというわけです。
このことを押さえると、たとえば勾留の要件がそもそも不充足の場合の方法として
第1回公判期日前は「準抗告」(裁判官についてなので)
第1回公判期日後は「抗告」(裁判所についてなので)
という使い分けが必要になってくるわけですね。
勾留期間
勾留期間にも大きな違いがみられます。
被疑者勾留の場合には、10日最大25日の期間制限がありました。
一方で、
被告人勾留の場合には、2カ月(刑事訴訟法60条2項)、1カ月ごと更新
という期間制限になります。かなり伸びることがわかると思います。その分、裁判が長いからです。
第六十条
② 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
被告人勾留は長い!の一言につきます。
そのため、弁護人としてはなんとしても身柄を解放させてあげたいと考えるわけです。
保釈以外の身柄解放手段
勾留中の被告人を助ける手段として、①理由開示②準抗告(抗告)③勾留取消し④勾留執行停止がまず考えられます。これらは被疑者勾留でやったものと同様です。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
究極的には以下の程度のことを押さえておけば大丈夫です。
①理由が知りたい→勾留理由開示(刑事訴訟法82条1項)
②勾留要件不充足→準抗告(刑事訴訟法429条1項2号)
③勾留要件消滅→勾留取消し(刑事訴訟法87条1項)
④緊急事態による一時的解放→勾留執行停止(刑事訴訟法95条)
そして覚えておいてほしいのは、
刑事訴訟法207条1項は準用しない!
という点です。被告人が対象ですので、わざわざ被疑者の規定に準用させる必要がありません。流れで刑事訴訟法207条1項まで書いてしまわないように注意しましょうね。
保釈
保釈は権利保釈・裁量保釈・義務的保釈がある
以上4つの手段よりも、被告人勾留でより重要なのは
保釈
です。保釈は非常に問題でも出題されます。まずは3種類の保釈があることを押さえましょう。
①権利保釈(刑事訴訟法89条)
②裁量保釈(刑事訴訟法90条)
③義務的保釈(刑事訴訟法91条)
違いとしては
権利保釈→該当しなければ必ず保釈
裁量保釈→裁判官の裁量で保釈
義務的保釈→やらかした場合に保釈
という感じで覚えておけば大丈夫でしょう。
そして、この中で最もよく使わるもの(問題として出題された場合に必ず検討しなければならないこと)は権利保釈です!
権利保釈(刑事訴訟法89条)を理解する
刑事訴訟法89条を見てみましょう。
第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
権利保釈(刑事訴訟法89条)は該当しなければ必ず保釈するというものです。しかしながら、基本的には該当してしまいます。
つまり考え方としては「今回の事件が各号のどれに該当するかを判断する」ことが大事です。
1号~3号は簡単に判断できますが(刑法等で量刑を確認することになります)、問題は4号、5号、6号です。詳しく見ていきましょう。
4号:罪証隠滅のおそれ
4号を言い換えると「罪証隠滅のおそれ」となります。この言葉を聞いた時点で、「あれ?勾留の要件のところでも出てきたような……」と感じた方はセンスありです。
そうなんです!勾留の要件でも実は罪証隠滅のおそれの判断基準について説明しています!勾留の理由のところですね。
>>>勾留の要件での「罪証隠滅のおそれ」について説明【刑事実務基礎その2】
2号は「罪証隠滅のおそれ」と略されることが多いです。
罪証隠滅のおそれの判断基準は4つあります。
㋐対象㋑態様㋒客観的可能性㋓主観的可能性
この4つは必ず覚えてください。勾留の要件で頻出です!!
㋐対象
罪証隠滅のおそれのある「事実」をあげます。このでのポイントは「犯罪」をあげるのではないということです。あくまで、「罪証隠滅の対象になる事実」をあげるのです。
基本的には被疑事実を詳しく説明すれば大丈夫でしょう。そのほか、正当防衛や責任能力といったものも対象になります。事案によって、本件では「何が争点か。何が問題になるのか。」を考えればよいのです。
㋑態様
態様としては2つを覚えておけば大丈夫でしょう。
証人の威圧と証拠の毀棄・隠匿
です。
たとえば、勾留がなされないと、野放しになるので
証人を「お前ふざけてんのか!証言をするな!」という態様であったり、
隠しておいた証拠を隠滅したり、
といった態様をとることが考えられます。
このように、事案に応じて、被疑者がとりうる「罪証隠滅」の「態様」を具体的に考えるのです。
㋒客観的可能性
客観的可能性とは、被疑者が実際に㋑の態様を行うことができるかどうか、行う可能性があるかどうかです。
証人の居場所を知っている場合(知り合いであったり、居場所の根拠がある場合)は証人威圧の客観的可能性があるといえるでしょう。逆に居場所を知らなければ(無関係者であり、居場所の根拠もない場合)は客観的可能性は小さいことになります。
証拠の毀棄・隠匿についても、証拠自体がすべて押収されている場合には客観的可能性は小さいといえますし、重要な証拠が残されている場合には客観的可能性が高いといえます。
㋓主観的可能性
主観的可能性は、被疑者が「罪証隠滅」を行えそうかどうかです。
たとえば
前科があったり、否認していたり
といった事情が関係していきます。
逆に、反省しているといった事情があると、主観的可能性は低くなるでしょう。
以上のように㋐対象㋑態様㋒客観的可能性㋓主観的可能性の4つから判断していけばいいわけです。
5号:加害畏怖の疑い
これは文字通りのことがないか判断すればよいだけです。罪証隠滅のおそれの態様(証人への威圧等)にも若干関連しますが、保釈については独自に要件を設けているというわけですね。
とはいえ、4号で判断したことを繰り返してもいいので、4号該当性の判断はしっかり書くようにしましょう。
6号:氏名または住所が不明
氏名はおいておいて(ほとんど氏名がわからない人はいないので)、住所不明について考えてみましょう。
これも勾留の箇所でやりましたよね。
住所不明は文字通り住所不明です。しかしまあホームレスのような方ではない限り、基本的には住所はあるのでそこまで気にしなくてよいでしょう。
裁量保釈(刑事訴訟法90条)についても必ず述べる
保釈の問題で、権利保釈(刑事訴訟法89条)の検討だけで終わる人は多いです。しかしながら、裁量保釈についての検討もしっかりする必要があります。
むしろ、実務で認められているのはほぼ裁量保釈です。
裁量保釈の考え方はすべて条文に書いています。
第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
あれ?これまたどこかで見た判断基準と似ているなー
と思った方、そのような方も刑事実務のセンスがあるといえるでしょう。
そう、勾留の②必要の要件の判断基準と同じですね。
公益の必要VS被侵害利益
を詳しく説明しているだけです。つまりは保釈の必要性の検討=裁量保釈というわけです。
保釈は保釈金が必要
最後に保釈の手続について軽く確認しておきます。
まずは権利保釈・裁量保釈・義務的保釈のいずれかが満たされる必要があります。基本的には権利保釈は認められず(どれかに該当してしまう)、保釈されるとすれば裁量保釈でしょう。
すると、被告人は保釈金を収める必要があります。
そして保釈金を収めてはじめて釈放されるのです。保釈金はピンキリです。とはいえ、ちゃんと逃げたりしなければ帰ってきます。逃亡したら没収されるわけです。
かの有名なカルロス・ゴーンの保釈金は15億円でした。カルロス・ゴーンは逃亡したので15億は没収されたというわけです。
金さえあれば釈放される
とはこのことを言ったことになります。
もちろん、裁量保釈や権利保釈の要件を満たす必要がありますので、だれでも金があれば自由になれるというわけではありませんよ!
保釈金以外の詳しい手続は条文から把握していきましょう!
第九十二条 裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。
② 検察官の請求による場合を除いて、勾留を取り消す決定をするときも、前項と同様である。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
第九十三条 保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
② 保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
③ 保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。
第九十四条 保釈を許す決定は、保証金の納付があつた後でなければ、これを執行することができない。
② 裁判所は、保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができる。
③ 裁判所は、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができる。
まとめ
以上、保釈をはじめとする被告人の勾留についてみていきました。弁護人の立場になってどうすれば解放してあげられるか、を考えると頭に入ってきやすいのではないでしょうか?
①理由が知りたい→勾留理由開示(刑事訴訟法82条1項)
②勾留要件不充足→準抗告(刑事訴訟法429条1項2号)
③勾留要件消滅→勾留取消し(刑事訴訟法87条1項)
④緊急事態による一時的解放→勾留執行停止(刑事訴訟法95条)
⑤権利保釈・裁量保釈・義務的保釈
以上の表(特に保釈については必ず)押さえておくようにしましょうね!私も頑張りたいと思います!
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑事実務の基礎は、よりよい参考書がほとんどありません。
予備校本で勉強するのがよいでしょう。辰巳のハンドブックは予備試験口述の過去問まで載っているので、口述試験対策という意味でもお勧めします。
正直これ以外で改正された刑事訴訟法に対応した良い参考書は今のところないと思います。