もう解決!公判前整理手続を理解する!【刑事実務基礎その6】

法律実務基礎科目

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法上向
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刑事訴訟実務の手続で一番わかりにくいとされているのが「公判前整理手続」なんだ。

たしかに「公判前整理手続」って何となく聞いたことがあるけど、具体的に何をするのかよくわかりませんねー。

法上向
法上向

公判前整理手続は、何を目的としているのか、を意識するとわかりやすくなるぞ!詳しくみていこう。

公判前整理手続は刑事実務の手続の中で一番難しい部分といえます。というのも条文が長く複雑だからです。

公判前整理手続はそれぞれの目的を意識し、要件を確認し、今何をしているのかをしっかり押さえる必要があります。すると、割とわかりやすい分野と気づくはずです。

わかりやすさ」を第一に公判前整理手続を勉強していきましょう!

公判前整理手続のポイント

公判前整理手続としてはまず、流れを押さえる必要があります。何を目的としてどういう手続が用意されているのかを考えるのです。

その次に、公判前整理手続の一つ一つ確認していきましょう。特に要件を押さえることを意識します(予備試験口述試験では出題されたことがあるので)。

最後に、公判前整理手続と通常の手続の違いを押さえましょう。

①公判前整理手続の流れを理解する。
②公判前整理手続を条文とともに確認する。
③公判前整理手続と通常の手続の違いを押さえる。

それでは見ていきましょう!

公判前整理手続の流れ

公判前整理手続の趣旨

公判前整理手続の趣旨は、①争点整理②証拠整理③審理計画の策定の3つです。

つまりは、公判整理を計画的に早くするという目的をもって、公判前整理手続は行われるわけですね。

このことは条文にも表れています。刑事訴訟法316条の2刑事訴訟法316条の3にあります。

第三百十六条の二 裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日前に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を公判前整理手続に付することができる。
② 前項の決定又は同項の請求を却下する決定をするには、裁判所の規則の定めるところにより、あらかじめ、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
③ 公判前整理手続は、この款に定めるところにより、訴訟関係人を出頭させて陳述させ、又は訴訟関係人に書面を提出させる方法により、行うものとする。
第三百十六条の三 裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことができるよう、公判前整理手続において、十分な準備が行われるようにするとともに、できる限り早期にこれを終結させるように努めなければならない。
② 訴訟関係人は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことができるよう、公判前整理手続において、相互に協力するとともに、その実施に関し、裁判所に進んで協力しなければならない。

充実した公判審理を継続的、計画的かつ迅速に行う」ということが条文にも表れていますね。

ここから

①争点整理②証拠整理③審理計画の策定という3つの趣旨が出てくるわけです。

公判前整理手続は2つのストーリを組み立てる

公判前整理手続ができた理由のひとつに、

刑事裁判では圧倒的に検察官に証拠が集まっている

ということでした。

つまり検察側の方が圧倒的に有利だったわけです。検察側のストーリーに従って裁判が進んでしまうわけですね。

それを解消しつつ、争点を明らかにするための制度づくりをするためにはどうすればいいか…

そこで考えた偉い人がいたわけです。

そうだ!検察側のストーリーと弁護士側のストーリーの2つを想定して、それぞれで証拠を提出させよう

なかなか斬新な発想です。弁護士と検察官で言い争うのはわかっているから、ストーリーを1つに絞るのではなく、それぞれのストーリーで証拠を提出させるというは発想です。

検察側のストーリー

まずは検察側のストーリーから始まります。検察官がまず「こういう感じのストーリー考えています」というのを明かしてそれに従って証拠を提出させていくのです。

それに合わせて弁護士は、「こういう感じの証拠はないの?」という証拠開示請求をすることができます。

弁護士側のストーリー

続いて弁護士側のストーリー・それについての証拠調べ請求を検察官に対して提出します。そして検察官側の出方に合わせて関連する証拠を開示してもらうわけです。

これが第2のストーリーになります。

まとめ

ようは公判前整理手続は、検察側のストーリーと弁護士側のストーリーそれぞれに従って、証拠開示請求をして、続いてそれに関連する・類似する証拠を請求している(2度の証拠調べ請求)があるというだけなのです。

この図を確認することである程度はイメージしやすくなったのではないでしょうか?

常に2つのストーリーがあることを意識してくださいね。では各手続を見ていきましょう。

公判前整理手続の各条文と要件

①検察側から証明予定事実提示・証拠調べ請求

公判前整理手続のスタートは「検察官側のストーリー」です。

検察官側が「私たちはこういうストーリーで被告人を罰します」ということを示します。それが証明予定事実というわけです。そしてそれに関する証拠を提出して、裁判で使ってください=証拠調べをしていください、という請求をします。

刑事訴訟法316条の13を見てみましょう。

第三百十六条の十三 検察官は、事件が公判前整理手続に付されたときは、その証明予定事実(公判期日において証拠により証明しようとする事実をいう。以下同じ。)を記載した書面を、裁判所に提出し、及び被告人又は弁護人に送付しなければならない。この場合においては、当該書面には、証拠とすることができず、又は証拠としてその取調べを請求する意思のない資料に基づいて、裁判所に事件について偏見又は予断を生じさせるおそれのある事項を記載することができない。
② 検察官は、前項の証明予定事実を証明するために用いる証拠の取調べを請求しなければならない
③ 前項の規定により証拠の取調べを請求するについては、第二百九十九条第一項の規定は適用しない。
④ 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で、第一項の書面の提出及び送付並びに第二項の請求の期限を定めるものとする。

なお、検察側のストーリーで用いたい証拠は証拠調べ請求されますが、弁護人側にも開示されます。

刑事訴訟法316条の14第1項を見てみましょう。

第三百十六条の十四 検察官は、前条第二項の規定により取調べを請求した証拠(以下「検察官請求証拠」という。)については、速やかに、被告人又は弁護人に対し、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、当該各号に定める方法による開示をしなければならない
一 証拠書類又は証拠物 当該証拠書類又は証拠物を閲覧する機会(弁護人に対しては、閲覧し、かつ、謄写する機会)を与えること。
二 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人 その氏名及び住居を知る機会を与え、かつ、その者の供述録取書等のうち、その者が公判期日において供述すると思料する内容が明らかになるもの(当該供述録取書等が存在しないとき、又はこれを閲覧させることが相当でないと認めるときにあつては、その者が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面)を閲覧する機会(弁護人に対しては、閲覧し、かつ、謄写する機会)を与えること。

このように検察側がまず「こういう証拠に基づいてこういうストーリーを主張したいです」ということを裁判所・弁護人側に示すわけです。

②証拠一覧表交付請求

弁護人側はこれを聞いてどう思うでしょうか。

え?あなたそのストーリーを立てているけれど、本当に持っている証拠からそのストーリーが一番適切なの?

と思うはずです。というのも刑事事件は圧倒的に検察側が証拠を多く持っているので、弁護人側は「なぜ検察官がそのようなストーリーを立てるのかよくわからない」からですね。

そこで弁護士からは「証拠一覧表請求」をする権利が認められています。刑事訴訟法316条の14第2項です。

第三百十六条の十四
② 検察官は、前項の規定による証拠の開示をした後、被告人又は弁護人から請求があつたときは、速やかに、被告人又は弁護人に対し、検察官が保管する証拠の一覧表の交付をしなければならない
③ 前項の一覧表には、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、証拠ごとに、当該各号に定める事項を記載しなければならない。
一 証拠物 品名及び数量
二 供述を録取した書面で供述者の署名又は押印のあるもの 当該書面の標目、作成の年月日及び供述者の氏名
三 証拠書類(前号に掲げるものを除く。) 当該証拠書類の標目、作成の年月日及び作成者の氏名
④ 前項の規定にかかわらず、検察官は、同項の規定により第二項の一覧表に記載すべき事項であつて、これを記載することにより次に掲げるおそれがあると認めるものは、同項の一覧表に記載しないことができる。
一 人の身体若しくは財産に害を加え又は人を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれ
二 人の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ
三 犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ
⑤ 検察官は、第二項の規定により一覧表の交付をした後、証拠を新たに保管するに至つたときは、速やかに、被告人又は弁護人に対し、当該新たに保管するに至つた証拠の一覧表の交付をしなければならない。この場合においては、前二項の規定を準用する。

この請求によってようやく弁護士は「検察官がどういう証拠を持っているか」を理解できるわけです。

③類型証拠開示請求

さて検察側のストーリーと検察側が持っている証拠が一通りわかりました。その次に弁護士の応対としてどのようなものが考えられるでしょうか?

なるほど、検察官が持っている証拠と主張したいことはわかりました。けど、この証拠の内容によっては検察官のストーリーが本当に正しいか変わってきますよね?

という一覧表にある証拠の内容をもっと知りたいというモチベーションが働くわけです。

そのための手続として用意されたのが「類型証拠開示請求」です。刑事訴訟法316条の15を見てみましょう。

第三百十六条の十五 検察官は、前条第一項の規定による開示をした証拠以外の証拠であつて、次の各号に掲げる証拠の類型のいずれかに該当し、かつ、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められるものについて、被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において、その重要性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、同項第一号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。
一 証拠物
二 第三百二十一条第二項に規定する裁判所又は裁判官の検証の結果を記載した書面
三 第三百二十一条第三項に規定する書面又はこれに準ずる書面
四 第三百二十一条第四項に規定する書面又はこれに準ずる書面
五 次に掲げる者の供述録取書等
イ 検察官が証人として尋問を請求した者
ロ 検察官が取調べを請求した供述録取書等の供述者であつて、当該供述録取書等が第三百二十六条の同意がされない場合には、検察官が証人として尋問を請求することを予定しているもの
六 前号に掲げるもののほか、被告人以外の者の供述録取書等であつて、検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの
七 被告人の供述録取書等
八 取調べ状況の記録に関する準則に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察職員が職務上作成することを義務付けられている書面であつて、身体の拘束を受けている者の取調べに関し、その年月日、時間、場所その他の取調べの状況を記録したもの(被告人又はその共犯として身体を拘束され若しくは公訴を提起された者であつて第五号イ若しくはロに掲げるものに係るものに限る。)
九 検察官請求証拠である証拠物の押収手続記録書面(押収手続の記録に関する準則に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察職員が職務上作成することを義務付けられている書面であつて、証拠物の押収に関し、その押収者、押収の年月日、押収場所その他の押収の状況を記録したものをいう。次項及び第三項第二号イにおいて同じ。)
② 前項の規定による開示をすべき証拠物の押収手続記録書面(前条第一項又は前項の規定による開示をしたものを除く。)について、被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において、当該証拠物により特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときも、同項と同様とする。
③ 被告人又は弁護人は、前二項の開示の請求をするときは、次の各号に掲げる開示の請求の区分に応じ、当該各号に定める事項を明らかにしなければならない
一 第一項の開示の請求 次に掲げる事項
イ 第一項各号に掲げる証拠の類型及び開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項
ロ 事案の内容、特定の検察官請求証拠に対応する証明予定事実、開示の請求に係る証拠と当該検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし、当該開示の請求に係る証拠が当該検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であることその他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由
二 前項の開示の請求 次に掲げる事項
イ 開示の請求に係る押収手続記録書面を識別するに足りる事項
ロ 第一項の規定による開示をすべき証拠物と特定の検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし、当該証拠物により当該検察官請求証拠の証明力を判断するために当該開示が必要である理由

なかなか読みにくい条文ですよね。

読み解くポイントの1点目は、類型証拠(刑事訴訟法316条1項)と押収手続記録書面(刑事訴訟法316条2項)の2つのものについて規定しているという点です。しかしながら押収手続記録書面として問題が出題されることはほぼありませんので、類型証拠の規定のみを今回は見ていくことにします。

読み解くポイントの2点目は、弁護人側の方法と検察官側の判断基準の両方が規定されているという点です。刑事訴訟では基本的にすべての要件を検察官側が立証する必要があります。そのため、類型証拠開示も検察官側が要件充足性を判断することになります。すなわち、弁護人側は請求するだけでよいわけです。

すると、弁護人側の請求の要件と検察官側の判断の要件が別に考える必要があります。これが類型証拠開示請求をややこしくしているポイントです。

類型証拠開示請求の要件(弁護人側の要件)

類型証拠開示請求をするために弁護士が何を主張しなければならないかを確認していきましょう。刑事訴訟法316条の15第3項を振り返ってみます。

③ 被告人又は弁護人は、前二項の開示の請求をするときは、次の各号に掲げる開示の請求の区分に応じ、当該各号に定める事項を明らかにしなければならない。
一 第一項の開示の請求 次に掲げる事項

イ 第一項各号に掲げる証拠の類型及び開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項
ロ 事案の内容、特定の検察官請求証拠に対応する証明予定事実、開示の請求に係る証拠と当該検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし、当該開示の請求に係る証拠が当該検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であることその他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由

二 前項の開示の請求 次に掲げる事項
イ 開示の請求に係る押収手続記録書面を識別するに足りる事項
ロ 第一項の規定による開示をすべき証拠物と特定の検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし、当該証拠物により当該検察官請求証拠の証明力を判断するために当該開示が必要である理由
←押収手続記録書面についてなので今回は見なくても大丈夫です。

上を確認すれば刑事訴訟法316条の15第3項1号のイとロの要件が必要ということがわかります。

イは識別するに足る事項です。具体的には刑事訴訟法316条の15第1項の何号に該当するのか、そして何が欲しいのかを明らかにする必要があります。

「被害者が本件被害に遭った時に着用していた衣服」(1号)、「本件事故現場の検証調書及び実況見分調書」(3号)、「本件犯行状況に関する供述を内容とする被告人以外の者の供述録取書」(6号)、「被告人のすべての供述録取書等」(7号)など

〇号該当性+具体的明記をする必要がある点に注意しましょう。

一方で「信用性に関する証拠物」(1号)といったものでは「信用性に関するもの」という判断を誰がするんじゃい!となるので特定されていないわけです。

ロは開示の重要性を指します。

①「検察官請求甲〇号証の~は、本件犯行の〇〇を内容としている」(検察官請求証拠の特定)
②「その証明力を判断するためには、〇〇の開示を受けて、相互に矛盾齟齬がないか確認することが重要」(なぜ重要なのか説明)
③「~という点は、~にもなりうるから、被告人の防御の準備のために開示の必要性は高い。」(被告人の防御の観点から開示の必要性の説明)
④「開示による弊害はない」(必要性に関連して、弊害がないこと)

の4点を意識すると答案が書きやすいでしょう。とくに検察官のどの証拠に関連して類型証拠開示をしたいのか(①の部分)は忘れやすいので注意です!

〈弁護士側からの類型証拠開示請求の要件〉
①識別するに足る事項(特定)
②重要性・理由

検察側の判断の要件

弁護士側の類型証拠開示請求を受けて、検察官は要件満たすか=開示しなければならないかを判断します。その判断基準・要件について定めたのが、刑事訴訟法316条の15第1項です。

第三百十六条の十五 検察官は、前条第一項の規定による開示をした証拠以外の証拠であつて、次の各号に掲げる証拠の類型のいずれかに該当し、かつ、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められるものについて、被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において、その重要性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、同項第一号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。
一 証拠物
二 第三百二十一条第二項に規定する裁判所又は裁判官の検証の結果を記載した書面
三 第三百二十一条第三項に規定する書面又はこれに準ずる書面
四 第三百二十一条第四項に規定する書面又はこれに準ずる書面
五 次に掲げる者の供述録取書等
イ 検察官が証人として尋問を請求した者
ロ 検察官が取調べを請求した供述録取書等の供述者であつて、当該供述録取書等が第三百二十六条の同意がされない場合には、検察官が証人として尋問を請求することを予定しているもの
六 前号に掲げるもののほか、被告人以外の者の供述録取書等であつて、検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの
七 被告人の供述録取書等
八 取調べ状況の記録に関する準則に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察職員が職務上作成することを義務付けられている書面であつて、身体の拘束を受けている者の取調べに関し、その年月日、時間、場所その他の取調べの状況を記録したもの(被告人又はその共犯として身体を拘束され若しくは公訴を提起された者であつて第五号イ若しくはロに掲げるものに係るものに限る。)
九 検察官請求証拠である証拠物の押収手続記録書面(押収手続の記録に関する準則に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察職員が職務上作成することを義務付けられている書面であつて、証拠物の押収に関し、その押収者、押収の年月日、押収場所その他の押収の状況を記録したものをいう。次項及び第三項第二号イにおいて同じ。)

太字のところを確認すれば自然と要件は確認できるでしょう。

①類型該当性
②重要性
③相当性
(④被告人又は弁護人からの開示請求←当然認められる)

を判断するわけですね。

この要件を判断してはじめて検察官は類型証拠を開示するわけです。逆にいえば検察官は①~③の要件を満たさないと考えれば開示しないわけです。

検察官が要件不充足であると考えて、開示しなかった場合、弁護士はどうすることもできないの?

法上向
法上向

実は、刑事訴訟法316条の26に基づいて裁判所に裁定請求することができるよ。この請求がなされれば検察官に代わって裁判所が要件充足性を判断してもし充足するなら開示命令を出せるわけ。

開示しないなんて検察官、裁定(最低)!ってわけですね(笑)。

〈検察官側の類型証拠開示するかどうか判断要件〉
①類型該当性
②重要性
③相当性
(④被告人または弁護人からの開示請求)

最後に証拠については弁護人側の意見を聞かなければなりませんのでこちらも確認しておきましょう。刑事訴訟法316条の16になります。

第三百十六条の十六 被告人又は弁護人は、第三百十六条の十三第一項の書面の送付を受け、かつ、第三百十六条の十四第一項並びに前条第一項及び第二項の規定による開示をすべき証拠の開示を受けたときは、検察官請求証拠について、第三百二十六条の同意をするかどうか又はその取調べの請求に関し異議がないかどうかの意見を明らかにしなければならない
② 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で、前項の意見を明らかにすべき期限を定めることができる。

証拠調べの際には必ず「相手方の意見を確認する」という前提はどの手続にも条文があるので逐一確認していきましょう!検察側のストーリーに関する証拠調べ請求の場合には刑事訴訟法316条の16を見るわけです。

④弁護人側の予定主張の明示・証拠調べ請求

さて検察官側のストーリーとそれに関連する証拠開示請求等は終わりました。

いよいよ弁護人側のストーリーが始まります。

まず弁護士サイドが行うべきは予定主張の明示と証拠開示請求です。刑事訴訟法316条の17・刑事訴訟法316条の18を見てみましょう。

第三百十六条の十七 被告人又は弁護人は、第三百十六条の十三第一項の書面の送付を受け、かつ、第三百十六条の十四第一項並びに第三百十六条の十五第一項及び第二項の規定による開示をすべき証拠の開示を受けた場合において、その証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対し、これを明らかにしなければならない。この場合においては、第三百十六条の十三第一項後段の規定を準用する。
② 被告人又は弁護人は、前項の証明予定事実があるときは、これを証明するために用いる証拠の取調べを請求しなければならない。この場合においては、第三百十六条の十三第三項の規定を準用する。
③ 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で、第一項の主張を明らかにすべき期限及び前項の請求の期限を定めることができる。

第三百十六条の十八 被告人又は弁護人は、前条第二項の規定により取調べを請求した証拠については、速やかに、検察官に対し、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、当該各号に定める方法による開示をしなければならない
一 証拠書類又は証拠物 当該証拠書類又は証拠物を閲覧し、かつ、謄写する機会を与えること。
二 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人 その氏名及び住居を知る機会を与え、かつ、その者の供述録取書等のうち、その者が公判期日において供述すると思料する内容が明らかになるもの(当該供述録取書等が存在しないとき、又はこれを閲覧させることが相当でないと認めるときにあつては、その者が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面)を閲覧し、かつ、謄写する機会を与えること。

刑事訴訟法316条の17で弁護人側のストーリーと証拠調べ請求を行い、同時に、刑事訴訟法316条の18第1項で検察官に対して証拠開示する必要があります。

これに対し検察側は証拠について同意をするかどうか判断します。刑事訴訟法316条の19を見てみましょう。

第三百十六条の十九 検察官は、前条の規定による開示をすべき証拠の開示を受けたときは、第三百十六条の十七第二項の規定により被告人又は弁護人が取調べを請求した証拠について、第三百二十六条の同意をするかどうか又はその取調べの請求に関し異議がないかどうかの意見を明らかにしなければならない
② 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で、前項の意見を明らかにすべき期限を定めることができる。

証拠調べ請求では必ず相手方の意向を確認する必要があります。弁護士側のストーリーの場合の証拠調べ請求に対しては、刑事訴訟法316条の19に規定があるわけです。なお、検察官側のストーリーの場合には刑事訴訟法316条の16でしたね。

⑤主張関連証拠開示請求

さて弁護人側のストーリーと証拠調べ請求をすることができました。しかし、刑事事件では証拠は圧倒的に検察官が持っているという点を思い出してください。

弁護士としては「検察官の持っている証拠からより自分の主張を補強したい!」と考えるわけです。

そのために弁護士には「主張関連証拠開示請求」をすることが認められています。刑事訴訟法316条の20です。

第三百十六条の二十 検察官は、第三百十六条の十四第一項並びに第三百十六条の十五第一項及び第二項の規定による開示をした証拠以外の証拠であつて、第三百十六条の十七第一項の主張に関連すると認められるものについて、被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において、その関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、第三百十六条の十四第一項第一号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。
② 被告人又は弁護人は、前項の開示の請求をするときは、次に掲げる事項を明らかにしなければならない。
一 開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項
二 第三百十六条の十七第一項の主張と開示の請求に係る証拠との関連性その他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由

こちらも類型証拠開示と同様に、弁護人側の請求要件と検察官側の判断要件が混在している点に注意してください。

弁護人側の請求要件については刑事訴訟法316条の20第2項に規定されており、検察官側の判断要件については刑事訴訟法316条の20第1項に規定されています。

ほとんど類型証拠開示とは変わりません。

①識別するに足りる事項
②必要性・理由

をあげることになります。

「開示請求する証拠の具体的内容」
「弁護人は~を主張することを予定している。上記証拠は~の判断に資するものであるから、同主張と関連し」(関連性)
「被告人の防御の準備のために必要性が高い」(必要性)
「開示による弊害はない」

のようなことを書けば大丈夫でしょう。

〈弁護士側からの主張関連証拠開示請求の要件〉
①識別するに足る事項(特定)
②関連性・理由←(類型証拠開示の場合には「重要性」であったが主張関連証拠の場合には関連性が適当である)

検察側がどう判断するかについては刑事訴訟法316条の20第1項を見ることになります。

①主張の関連性
②相当性
③開示請求

ですね。

類型証拠開示請求とは異なり、「類型該当性」は必要なく、主張と関連しているかどうかが主になってきます。そのほかの点では同じです。

〈検察官側の主張関連証拠開示するかどうか判断要件〉
①関連性
②相当性←類型証拠開示請求のような「重要性」は必要なくなった!
(③被告人または弁護人からの開示請求)

主張関連証拠においては一貫して「重要性」という言葉が使われなくなっています。というのも弁護士側のストーリーにおいての証拠開示なので、検察側の主張のストーリーにとって重要かどうか=検察側にとっても重要かどうかという点は考慮されないからです。

弁護士のストーリーにそって証拠を見せて上げるだけなので、「関連性」と「相当性」を主張すればよいのですね。

公判前整理手続と通常の手続との違い

公判前整理手続と通常の手続の違いは条文に表れています。公判前整理手続の規定の終盤の条文を総確認してみます。

第三款 公判手続の特例
第三百十六条の二十九 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件を審理する場合には、第二百八十九条第一項に規定する事件に該当しないときであつても、弁護人がなければ開廷することはできない。
第三百十六条の三十 公判前整理手続に付された事件については、被告人又は弁護人は、証拠により証明すべき事実その他の事実上及び法律上の主張があるときは、第二百九十六条の手続に引き続き、これを明らかにしなければならない。この場合においては、同条ただし書の規定を準用する。
第三百十六条の三十一 公判前整理手続に付された事件については、裁判所は、裁判所の規則の定めるところにより、前条の手続が終わつた後、公判期日において、当該公判前整理手続の結果を明らかにしなければならない。
② 期日間整理手続に付された事件については、裁判所は、裁判所の規則の定めるところにより、その手続が終わつた後、公判期日において、当該期日間整理手続の結果を明らかにしなければならない。
第三百十六条の三十二 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件については、検察官及び被告人又は弁護人は、第二百九十八条第一項の規定にかかわらず、やむを得ない事由によつて公判前整理手続又は期日間整理手続において請求することができなかつたものを除き、当該公判前整理手続又は期日間整理手続が終わつた後には、証拠調べを請求することができない。
② 前項の規定は、裁判所が、必要と認めるときに、職権で証拠調べをすることを妨げるものではない。

条文をみればざっくりと違いがわかりますね。

①弁護人がいる必要がある
②弁護士側のその他の主張は296条に引き続き明らかにする必要がある
③結果を明らかにする必要がある
④やむを得ない事由を除き、公判前整理手続が終わった後は証拠調べ請求をすることができない

という3点です。条文を押さえれば通常の公判との違いはばっちりでしょう!

まとめ

以上が公判前整理手続の流れになります。

大体の流れを想像できたでしょうか。以下の表を見ながら、条文を何度も確認すれば大体どのような手続かが見えてくるはずです。

地道に頑張りましょう。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

刑事実務の基礎は、よりよい参考書がほとんどありません。

予備校本で勉強するのがよいでしょう。辰巳のハンドブックは予備試験口述の過去問まで載っているので、口述試験対策という意味でもお勧めします。

正直これ以外で改正された刑事訴訟法に対応した良い参考書は今のところないと思います。

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