抽象的事実の錯誤を図解!わかりやすいサイト【刑法総論その4】

刑法総論④ 刑法

これまで結果→行為→因果関係→故意をやって,故意の問題にかかわる錯誤について検討しています。

今回は前回の続きで抽象的事実の錯誤というものについて説明していけたらいいなーと思います。

前回の記事を踏まえることになるので,まだ第3回目の記事を読んでいない人はこちらから読んでいただけるとありがたいです!

前回の具体的事実の錯誤は,認識事実と実現事実が同一犯罪内(同一構成要件内)で不一致の場合でしたね。今回は同一犯罪内(同一構成要件内)ではない場合の錯誤=抽象的事実の錯誤についての問題です。

抽象的事実の錯誤のポイント

抽象的事実の錯誤は,基本書等には難しく書かれていることも多いですが,考え方としては非常に論理的だと思います。なので,考え方さえ覚えれば,あとはそれに当てはめていくだけです。

①抽象的事実の錯誤の原則がわかる。
②軽い罪の故意で重い罪を実現した場合の処理の仕方がわかる。
③重い罪の故意で軽い罪を実現した場合の処理の仕方がわかる。
④同一法定刑の罪の場合の処理の仕方がわかる。
以上のポイントに沿って説明していきます!

抽象的事実の錯誤の原則は未遂と過失

抽象的事実の錯誤という言葉を聞いて難しく感じられる方もいるかもしれませんが,抽象的事実の錯誤というのは具体的事実の錯誤じゃないパターン=認識事実と実現事実が異なる犯罪で不一致であるときの錯誤だと簡単に考えてみてください。

たとえば,「殺人の故意(認識・認容)」で「器物損壊の結果」を発生させた場合,それぞれは殺人罪(刑法199条)と器物損壊罪(刑法261条)とで別の犯罪(異なる構成要件)にまたがる錯誤なので抽象的事実の錯誤となります。

このとき,前回の記事によれば,錯誤は同一犯罪内であれば故意を否定しませんでした。しかし,今回は同一犯罪内ではないので故意は否定されそうです。

よって,原則として,認識事実には未遂犯が,実現事実には故意が否定されて過失犯が成立することになります

図を作ってみました。まず真ん中を考えますと,殺人罪の故意で器物損壊罪の実現をしているので基本的に当初の故意を認めることはできないわけです。

よって殺人罪については故意があり結果が実現していないとして未遂犯に,器物損壊罪は故意はなかったが結果があるので過失の器物損壊罪を検討することになります。器物損壊罪は過失犯の規定はないので不可罰ということになります。

まとめて,殺人未遂罪だけが成立するのです。

つまり,抽象的事実の錯誤の場合は,原則として,認識事実の犯罪は未遂犯となり,実現事実の犯罪は過失犯を検討することになります

認識事実と実現事実が異なる犯罪であった場合は,異なる構成要件にまたがる錯誤として抽象的事実の錯誤になる。
抽象的事実の錯誤の場合は,認識事実は未遂を,実現事実は過失を検討することになる。

例外を認めるからややこしい⁉抽象的事実の錯誤の考え方

ところが!例外を認めてしまうから抽象的事実の錯誤はちょっと面倒なのです。先ほどの図の真ん中がどうも納得いかない,と考える人がいました。

ここで法定的符号説を振り返ってみましょう。法定的符号説は同一構成要件内の錯誤は故意を否定しないと考える(同一構成要件内で符合する限りで故意を認める)という見解でしたね。

すると,異なる犯罪間であっても同一構成要件的に重なる場合があるのではないか,もっと簡単にいうと,

犯罪って似たようなものもありますよねー,似たような犯罪については同じような犯罪として故意を認めていいんじゃないんですかー

と考えたということです。

よって,刑法は同じような犯罪間の錯誤についても故意を認める見解に立っています。

同じような犯罪かどうかは行為態様と保護法益を見よ

では,同じような犯罪かどうかはどう判断するのか?

それは客観的構成要件が同じであれば,同じような犯罪といってよいとされています。つまり,行為と結果が同じであれば,同じような犯罪といえるわけです。

犯罪の行為と,犯罪が罰しようとしている結果(とそれにより守ろうとしているもの)を考えるわけですね。これをかっこよく言うと行為態様保護法益といいます。

保護法益とは,上記とおり,犯罪が守ろうとしている法益のことです。これを目的として結果が発生しないように刑罰を科しているわけなので,結果とつながります。

上記例で考えてきます。

殺人の行為と保護法益(生命)と器物損壊の行為と保護法益(財物の効用)とは一致してませんよね。なので,殺人罪と器物損壊罪は同じような犯罪ではないから故意は完全に否定されることになります。

抽象的事実の錯誤の例外が認められるときは,認識事実と実現事実が「同じような犯罪」であるとき。この「同じような犯罪」であるかは行為態様と保護法益をみる。
では,同じような犯罪であればどう処理するのか?次から見ていきましょう。

軽い罪の認識で重い罪を実現した場合は38条2項で!

この場合は刑法38条2項を考えます。

第三十八条 
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。

つまり,刑法自体は重い罪の行為を実現しても,認識事実が軽い罪であれば,その重い罪によって処罰はできない=軽い罪の限度で処罰するしかないということを規定していることになります。

よって,同じような犯罪の場合は,38条2項を手がかりに,軽い罪の限度で故意を認められると考えられるわけです。

重い罪の認識で軽い罪を実現した場合は重なる限度で!

この場合は,38条2項のような条文はないので,頑張って法定的符号説で力押しします。認識事実の犯罪も軽い罪の犯罪も同じような犯罪なので,犯罪が重なる限度(構成要件が重なる限度)において故意が認められると考えられます。よって,重い罪には軽い罪の故意の認識が含まれていると考えて軽い罪の限度で犯罪が成立するのです。

さて,ここで大事なのは,原則は維持されるということです。重い罪については未遂犯になる可能性があります(不能犯の議論になります)。もし重い罪について未遂罪が成立するのであれば,重い罪についての未遂罪と軽い罪についての既遂罪が成立し,両者は観念的競合となる点は注意してください(観念的競合とは罪数処理手段です)。

同じ罪の重さなら客観重視で!

この場合,同一法定刑(同じ罪の大きさ)なので難しい面があります。A罪の故意犯としてもB罪の故意犯としても理論的には成り立ちうるからです。しかし,A罪は行為者の主観であり,行為や結果を客観的にみれば行われたのはB罪です。なので,B罪の故意としてB罪の成立を認めるべきでしょう。

以上をまとめると,こんな感じになります。

異なる罪にまたがる錯誤でも,同じような罪であれば,重なる限度において故意を認める。
①軽い罪の認識から重い罪が実現した場合,38条2項を手がかりとして,軽い罪の故意を認める。
②重い罪の認識から軽い罪が実現した場合,(法定的)符号説より,重い罪の認識に軽い罪の認識も包含されていると考えて,軽い罪の故意を認める。この場合,重い罪の未遂が成立する可能性もあるので注意!
③同一法定刑の罪同士の場合は,客観的事実を優先すべきであるから,実現事実についての故意を認める。

まとめ

うまくまとめられているでしょうか?抽象的事実の錯誤は,ちょっとややこしい気もしますが,理論としてはしっかりしていると思います。上記考え方を頭に入れて問題演習をこなせば大丈夫なはずです。

毎々まとめの囲みを作っていましたが,今回はほぼ上のTIPSと重なるので,今回は問題を出したいと思います。

Vが死んだと思い込んだ甲は,死体遺棄の故意でVを埋めたが,実はVは生きており,土の中で亡くなった(殺人の実現)。この場合,甲は何罪が成立するか?

まず,認識事実を考えてみましょう。死体遺棄罪(191条)の故意ですね。
次に実現事実を考えます。殺人(199条)ですね。異なる犯罪間の錯誤なので抽象的事実の錯誤の問題となります。実現事実の方が罪が大きいから……

と考えましたか?ちょっと待ってください!

抽象的事実の錯誤の際には,まず同じような犯罪かどうかを考えなければいけませんよね。

殺人罪と死体遺棄罪は行為態様は似ている点があります。では保護法益はどうでしょうか?詳しくは各論で学習しますが,殺人罪の保護法益は生命・身体なのに対して,死体遺棄罪の保護法益は死者を埋葬するという宗教的なものです。つまり保護法益が異なるのです。

このようにざっと考えるのではなく,きちんと体系的に検討するようにしなければならないのです。少々ひっかけ問題じみていましたが,上記事例はよく出てくるので意識しておきましょう!

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。事例も豊富で初学者でも大変わかりやすいのでおすすめです。

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