請負が地味によくわかりません。引渡しであったり報酬であったりいろいろまざっちゃいます。
なるほど、それは論点が混ざっているな。請負は基本的には売買契約と同様に考えられるが、請負特有の論点をしっかり意識して理解しなければならないよ。
今回は条文から請負を確認していこう。
請負は有償契約ですので、売買の規定が基本的に適用されます。契約不適合責任などがよい例です。ただし請負特有の論点ももちろんあります。その論点と売買の準用される規定が混ざってしまうと、請負契約がよくわからない、ということになるのです。
今回は請負についての論点を「条文」から確認していくことで請負について最低限理解しておきたい知識をまとめてみました。皆さんの整理につながれば幸いです。
請負のポイント
契約法ではまず契約成立を確認することが大事です。そこから、請負で生じる権利・義務についてみていきましょう。
その後、請負の所有権帰属という請負独自の論点を押さえましょう。
最後に民法の規定が準用される論点を確認していきます。契約不適合責任と危険負担です。この論点は民法の論点が前提となるので気になる方は以下の記事で復習してみてください!
①請負契約の成立と権利義務について理解する。
②請負の所有権帰属の論点を確認する。
③請負の場合の契約不適合責任について知る。
④請負の場合の危険負担について知る。
それではみていきましょう。
請負契約の成立
請負の条文は民法632条
どうすれば請負契約が成立するのか?
民法632条をみてみましょう。
(請負)
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
契約で成立するということは簡単に理解できると思います。
問題は請負契約から生じる権利・義務です。細かく見ていきましょう。
請負人の義務:仕事完成義務
請負人は請負契約により仕事完成義務を負います。民法632条をみればわかりますね。
請負は結果債務です。それまでの経過(請負人の仕事の経過)に関わりなく、仕事が完成してたかしていないかで債務不履行が決まるというものです。
請負人はもちろん仕事を完成させなければいけません。仕事の多くは建物の建築でしょう。つまり家を完成させなければいけないというわけですね。
注文者の義務:報酬支払義務
一方で、注文者は請負契約により報酬支払義務を負います。これも民法632条から当然に導き出せます。
報酬の支払時期については民法633条に規定されています。
(報酬の支払時期)
第六百三十三条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。
特約がなければ引渡しと同時に報酬支払が必要というわけです。とはいえ実際は特約は結ばれ、前払の報酬があることがほとんどです。
より注意してほしいのは民法634条です。
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第六百三十四条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
請負は債務不履行や履行不能により解除することができます。これは債権総論から当たり前ですよね。
解除された場合であっても、請負人は仕事の完成度(注文者の利益割合)に応じて報酬を請求できるというわけです。逆にいえば注文者は自身が利益を受ける割合に応じて報酬支払義務を負うというわけです。
請負人は報酬を支払うために何も100%の完成が必要というわけではないのですね。人生も完璧主義は疲れますから、これくらいの規定があってくれるのはうれしいですね(笑)。
請負の権利義務の図
最後に以上をまとめて、請負の権利義務の図を簡単に書いてみます。
請負契約の問題では上記のような図式を書いてみるとわかりやすいでしょう。
請負の所有権帰属
請負人帰属説
さて、請負特有の論点に入っていきます。請負の所有権帰属という論点です。
請負人が作った目的物(建物等)がいつの時点で注文者に帰属するのか、という論点です。ここで民法の加工の法理もかかわってきます。
まずは原則を押さえましょう。目的物の所有権は請負人に帰属するが、引渡しによって注文者に移転すると考えるのが通常です。最初から注文者に帰属されているわけではありません。
ただし注文者が材料等のほとんどを提供している場合には目的物の所有権は注文者に最初からあることになります。
このような考えは民法の加工の規定(246条)に沿っていると考えてよいでしょう。
(加工)
第二百四十六条 他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
2 前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。
この規定を踏まえると、材料の提供がどちらにあったかで注文者か請負人かが決まります。さらにどちらからも材料の提供があった場合は価額が多い方になるというわけです。
ただし基本的には請負人自身が材料等を調達することになると思うので、請負人に所有権があるというわけですね。請負人が目的物を引き渡すことで注文者に所有権が移ります。
下請負人がいる場合
請負は下請けされることがよくあります。請負人がさらに別の請負業者に委託するということです。この場合の「さらに請け負った者」を下請負人と呼ぶことにします。
下請負人は請負人の履行補助者です。そのため、下請負人が請負人の業務の一環を代わりに行うということになります。
とはいえ、請負契約は加工の法理が妥当しますから、下請負人が材料等を提供していれば下請負人が目的物の所有権を持つことになります。
ただし判例によれば下請負人は請負人の履行補助者なので、請負人と異なる権利義務関係の主張をすることはできません。下請負人は注文者と請負人間の請負契約に拘束されるというわけです。
よって、下請負人と注文者間で「完成物の所有権は注文者に帰属する」という特約が結ばれている場合には、下請負人に所有権はなく、最初から注文者に、目的物の所有権が帰属することになります。
請負の契約不適合責任
売買の契約不適合責任が準用
請負人は仕事完成義務を負いますが、この仕事完成とは「契約の内容に沿ったもの」である必要があります。もし契約の内容に沿った仕事をせず、実は不完全な状態で注文者に引き渡したとしたら、請負人は仕事完成義務を負いません。
この場合、注文者から契約不適合責任で責任追及することが可能です。特に請負の場合には建物の欠陥が後になって判明することが多いので契約不適合責任に対処することが売買よりも重要になります!
売買の場合、契約不適合責任の対処方法で何があった覚えていますか?
①追完請求②代金減額請求③損害賠償④解除
でしたね。
請負の場合も同様に考えることができます。つまり、請負人は契約不適合責任に際して
①追完請求②報酬減額請求③損害賠償④解除
を自由に選んで使うことができるというわけです。
なお追完請求にしろ、報酬減額請求は請負には特則がありません。どこに条文があるかというと売買契約の箇所です。追完請求は民法562条、報酬減額請求は民法563条を準用することになります。
なお、なぜ準用できるのかは民法559条があるからです。
(有償契約への準用)
第五百五十九条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
つまり、請負の契約不適合責任で追完請求を使いたい場合には民法559条準用の民法562条を、報酬減額請求をしたい場合には民法559条準用の民法563条を使うわけです(報酬減額請求は追完請求をした後えなければ基本的には使えないのも売買契約と同様条文からそうなっています)。
また、損害賠償や解除には上記のような準用は必要ありません。損害賠償と解除は、一般的な規定から当然に債務不履行がある場合の対処法として認められているからですね。
損害賠償は民法415条、解除は民法541条・542条を用います。
請負の場合の特則(民法636条・637条)
2点だけ売買の契約不適合の場合と考え方が異なる部分があります。これは請負の条文の箇所に書かれているので間違わないでしょう。
民法636条を見てみましょう。
(請負人の担保責任の制限)
第六百三十六条 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。
注文者自体が指図したことによって生じた不適合については契約不適合にはならないというわけです。
たとえば注文者が「ここはどうしても木材を使ってくれ」と指図して建物を建て、その木材を使用したことによって契約不適合が生じた場合には、請負人は契約不適合責任を負わないというわけです。
ただし、請負がその材料や指図は不適当であることを知りながら告げていない場合には依然として請負人は契約不適合責任を負うことになります(民法636条ただし書)。
先ほどの例ですと請負人が「いやさすがにここに木材を使ったらやばいだろ。けどもめるのはめんどくさいし注文者には伝えないでおこう。」といったことを思っていたのであれば、請負人は依然として契約不適合責任を負うことになります。
また、契約不適合責任の期間制限については売買の場合とは条文が別で用意されているので確認しておきましょう。民法637条になります。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第六百三十七条 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。
請負の危険負担
仕事の完成が不能になった場合に請負人が報酬請求をできるかという論点があります。
この場合に民法の危険負担の規定が適用されるという発想がぱっと思いついた方は危険負担マスターです。
発想が浮かばなかった方も多いことでしょう。その場合はまず請負契約の図を思い浮かべてみましょう。
これでしたね。この仕事完成請求権が履行不能になった場合が今想定している場合です。そして報酬支払請求権がどうなるかを知りたいのでしたね。
請負契約で履行不能の場合に仕事完成請求権の反対給付がどうなるかが知りたい……双務契約での履行不能で反対給付がどうなるかが知りたい……
ここまでくれば危険負担の場面ということに納得いただけるのではないでしょうか?
あとは危険負担の条文通りに処理していくだけです。民法536条でした。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
条文の「債権者」「債務者」は履行不能になった債権関係を中心に考えますので、請負の場合には注文者が債権者、請負人が債務者となります。
請負人・注文者どちらも帰責事由のない場合には、注文者は報酬支払を拒むことができます(民法536条1項)。一方、注文者に帰責事由がある場合には報酬支払を拒むことはできません(民法536条2項)。
危険負担の発想が思いつけば後は楽勝です!
まとめ
請負についてみてきました。いかがだったでしょうか。
請負の権利・義務関係を押さえれば、あとは売買契約の準用や債権の一般的規定で基本的には対処できます。
その分、売買契約の知識や債権の一般的知識が必要になってくるわけですが、これらは試験によく出題されるものなので問題演習を積んでいけば自然と理解していけるでしょう。
請負も試験に出やすい領域です。一緒にしっかり勉強していきましょうね。
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
契約法について、初学者が学習しやすい本としては潮見佳男先生の『債権各論Ⅰ』をおすすめします。薄いため、最低限の知識がコンパクトにまとめられており、語り口調も丁寧語であるため、しっかり読めば理解できる流れになっています。青・黒・白と三色刷りなのでポイントも青の部分を読めばわかります。
もちろん、改正民法対応です。ぜひ読んでみてください!