契約法を学習してるんですけど、最初の方の「契約の成立」ってややこしくないですか?
期間の定めがあったり、なかったり、撤回したり、よくわからないよね。
たしかに、契約法の最初では、契約の成立について、申込みと撤回の観点から考えるな。
改正民法では詳しく規定された部分だから、六法を見れる試験であればそれほど気にする必要はないぞ。
ただ、実生活でも結構重要になるから、今回は法学を学んだ者として「最低限知っておくべき契約の成立」の知識を解説していこう。
民法の契約法は総則と各論からなっています。通常、契約法を学習する際には総則から、そして総則でも一番最初の「契約の成立」から学習することが多いでしょう。
契約の成立はごちゃごちゃしていてわかりにくいです。さらにその「ごちゃごちゃさ」は例外的な場面で使われるものなので、実際詳しく知っていないといけないものでもありません。試験でもほとんど出ないでしょう。
ただし、契約は日常の至るところで目にします。非常に実生活に身近というわけです。この契約については、「法を学ぶ者」はしっかり頭に入れておく必要があるでしょう。
そのため、今回は実生活で友達から
「この場合って契約成立してる?」
と聞かれて、瞬時に答えられることを目標として話を進めていくことにします。
契約の成立のポイント
契約は申込みと承諾によって成立するのが基本だという点を押さえましょう。この点が押さえられればあとは条文をみて応用力を身に着けるだけです。
あとは契約の成立時期が到達主義であること、申込者が死亡した場合、承諾期間の定めのある申込みと承諾期間の定めのない申込みの場合の契約の成立について考えていけば大丈夫です。
①契約は申込みと承諾のによって成立することを理解する。
②契約の成立時期は到達主義であることを知る。
③申込者が死亡した場合などの処理を知る。
④承諾期間のある申込みと承諾期間のない申込みについて条文を確認する。
まずは契約の成立について、どのような点がポイントになるかを理解して話を読んでもらえると体系が意識できてわかりやすいと思います。
それでは見ていきましょう。
契約は申込みと承諾の意思表示の合致
契約は申込みと承諾の意思表示の合致です。
申込みとは、「契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示」のことを言います。
承諾は、「その申込みに対して、内容通りの契約を成立させるという意思表示」です。
わかりやすくいうと、申込者が「この内容の契約で締結しない?」と言って、承諾者が「いいよ~」と言えば契約が成立することになります。
もちろん、承諾者が契約を提示している場合もありますし、申込者と承諾者で順次契約を作っていく場合もありますが、その場合でも変わりません。
申込者が承諾者に対して「この契約でいいね。申込みする!」と申込みの意思表示をして、承諾者が申込者に対して「本当にこの契約でいいんだな。了解した。」と承諾の意思表示をすれば、契約は成立することになります。
このように、契約には、基本的に「申込み」と「承諾」両方の意思表示が必要だという点を押さえてください。
なお、条文は民法522条にあります。
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
契約成立の時期は到達主義
改正民法は到達主義(民法97条1項)
まず大前提として、意思表示は到達主義です。民法97条1項を見てみましょう。
(意思表示の効力発生時期等)
第九十七条 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
到達主義とは、意思表示が相手方に到達した時点で効果が発生するというものです。
そのため、改正民法は、契約の成立時期も到達主義であることを前提として規定が作られています。
つまり、承諾者からの「承諾」の意思表示は申込者に到達した時にはじめて「承諾」として成立するというわけですね。
ところが申込みについては例外規定が設けられています。
申込者が死亡等になった場合の申込み・承諾の効力(民法526条)
民法526条をみてみましょう。これが到達主義の例外です。
(申込者の死亡等)
第五百二十六条 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。
条文を丁寧に読めば、
まず民法526条の前提が、申込者が「申込みの通知を発した後」の場面が前提になっていることがわかります。
そのうえで、申込者が死亡等になった場合には、「申込者がその事実が生じたとすればその申込は効力を有しない旨を意思表示していた場合」「相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知った場合」には申込みの効力は生じないとされています。
つまり、逆にいえば、申込みの通知を発した後、到達前に申込者が死亡していた場合であっても、申込みに条件が付いていなかったり、相手方が知らなかった場合には申込みの効力は有効というわけです。
到達主義は到達時に効力が発生するというものだったので、通常は到達時にも意思能力・行為能力は必要です。ところが申込みは到達時に死亡等の状況にあったとしても、申込みをなお有効とする例外的場面を認めているというわけですね。
これは契約の成立を期待する承諾者の保護のためであると考えられています。
そして、承諾者が有効な意思表示を受けて、承諾した場合には契約が成立するのです。
なお、承諾の意思表示については原則どおり到達主義が妥当します。あくまで申込みの申込者死亡等の場合にだけ到達主義の例外が規定されているというわけです。
承諾期間の定めのある申込み・承諾期間の定めのない申込み
承諾期間の定めのある申込み(民法523条)
条文を見ればほぼ解決します。民法523条を見てみましょう。
(承諾の期間の定めのある申込み)
第五百二十三条 承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
2 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
承諾の期間を定めた申込みは撤回することができないのが原則です。そして期間内に承諾の通知を受けなければ申込みは効力を失います。
イメージとして「24」(海外ドラマ)を想像してみましょう。
テンっテンっテンっテンっというようにカウントダウンが行われている様子です。
あれが承諾期間の定めのある申込みなのです(?)。承諾期間が過ぎれば効力を失うというわけですね。
なお、カウントダウンが0になっても終わりではありません。つまり承諾期間後に承諾が到達しても申込みが無効になるので契約の話は終わりというわけではないということです。
民法524条をみてください。
(遅延した承諾の効力)
第五百二十四条 申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。
承諾期間に後れた承諾は新しい申込みとみなされます。つまりその後、申込者が承諾の意思表示をして相手方(もともと承諾者)に到達すれば契約は成立するというわけです。
承諾期間の定めのない申込み(民法525条)
これまた条文がありますのでみてみましょう。民法525条です。
(承諾の期間の定めのない申込み)
第五百二十五条 承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
2 対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。
3 対話者に対してした第一項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない。
対話の場合(民法525条2項3項)は例外的ですので、1項を確認しましょう。
承諾期間の定めがない申込みの場合は「相当な期間」を撤回ができない期間としています。承諾期間の定めのある申込みとは異なり、撤回をすることは可能というわけです。
相当な期間が経過すれば、申込者は撤回の通知(意思表示)をした場合、相手方に到達した時に申込みの効力が失われます。
なお、申込者が撤回の通知をしたとしても、相手方に到達する前(撤回の効力が生じる前)に、相手方が承諾の通知をして、申込の撤回通知より先に承諾の通知が申込者に到達すれば契約は成立します。
到達主義が基本にあるという点は注意しましょう。
まとめ
契約の成立についてみてきました。
契約は申込みと承諾が基本です。両方の意思表示があってはじめて契約が成立します。
そのうえで、申込みについては条文上様々な規定が設けられていました。到達主義の例外であったり、撤回制限であったりです。このような契約独自の規定も理解しておく必要があります。
さて、最初の目標としていた、友達からの「これって契約成立してる?」という質問が来た場合に、瞬時に答えられそうでしょうか。
条文をみてわかったと思いますが、まずは友達にどういった場面での契約なのかを聞くことも非常に重要になります。特に、どういう申込みの契約なのかは重要です。
そのうえで基本的には「申込み」があり「承諾」が到達した場面で契約が成立するというわけですね。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
契約法について、初学者が学習しやすい本としては潮見佳男先生の『債権各論Ⅰ』をおすすめします。薄いため、最低限の知識がコンパクトにまとめられており、語り口調も丁寧語であるため、しっかり読めば理解できる流れになっています。青・黒・白と三色刷りなのでポイントも青の部分を読めばわかります。
もちろん、改正民法対応です。ぜひ読んでみてください!