
今回は放火罪についてみていこう。

放火罪は種類がいろいろあってややこしいんですよね。

たしかにそうだね。けれど、論点はどの条文罪名でも共通しているんだ。さっそくみてみようか。
放火罪は、様々な条文があります。しかし主要な条文は少ないです。そのため、今回は主要な条文の保護法益と要件をさらっと確認したうえで、論点を中心に解説していきたいと思います。
放火罪のポイント
放火罪はまず保護法益が公共の安全であるという点を確認しましょう。社会的法益に対する罪として分類されます。
次に要件をさらっと確認します。出題される主要な条文についてのみです。
そして論点を整理しましょう。どの条文でも、要件から論点は導き出せます。さらに条文を通して論点は共通しているので、論点が何であるかをしっかり理解しておく必要があります。しかも、それらの論点は条文から導き出せます!
①放火罪の保護法益を押さえる。
②現住建造物放火罪の要件を押さえる。
それでは見ていきましょう。
放火罪の保護法益
放火罪の保護法益は公共の安全です。これは後で確認する公共の危険ともかかわります。不特定または多数人の生命・身体・財産であると考えておけば大丈夫でしょう。
放火罪はこれまで見てきた犯罪とは異なり、社会一般の法益に対する犯罪ということがわかります。この点は実は罪数関係で影響があるのです。
殺人の場合にはAさんとBさんが殺害された場合、Aさんに対する殺人罪とBさんに対する殺人罪は併合罪関係にあります。これは殺人罪の保護法益が「個人の生命」であったからです。
ところが、放火罪の場合には1つの放火でA家とB家が燃えた場合、現住建造物放火罪の併合罪になるわけではありません。放火罪の保護法益は「社会に対する公共の安全」なので、現住建造物放火罪1つしか成立しないのです。
社会に対する罪は分けられない=併合関係にならない、と考えておけばいいでしょう。
放火罪の要件
放火罪には多くの種類があります。一つ一つざっくり要件を押さえていきましょう。
現住建造物等放火罪(刑法108条)の要件
(現住建造物等放火)第百八条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
ほとんど出題されるのは建造物についてのものなので、今回も建造物に限定します。
現住(現在)建造物放火罪の要件は以下のとおりです。
①放火②建造物③現住性・現在性④焼損⑤故意
①放火
我々が思い浮かぶ通りの放火行為です。これが放火罪の実行の着手に当たります。具体例も少し押さえておくとよいでしょう。
ガソリンは可燃性が高いので、ガソリンをまいた時点で放火行為(実行の着手)が認められます。一方で灯油は可燃性が低いので、灯油をまいた時点では実行の着手は認められず、実際に火をつけてはじめて放火行為(実行の着手)が認められます。
この違いは実際に試験でよく出る部分なので覚えておくようにしましょう。
②建造物
論点になりやすい部分です。まず、放火場所が建造物の一部とはっきりわかる場合ならよいのですが、放火場所と建造物が廊下でつながっていたり、アパートの一室で放火されたり、エレベーターで放火されたりと、その放火場所からどの範囲までを建造物としてみてよいかがわからない場合がよくあります。
いわゆる建造物の一体性(物理的一体性)という論点です。
結論を先出ししちゃいましょう。
建造物の一体性は、㋐構造的一体性+㋑延焼可能性or機能的一体性より判断する。
㋐構造的一体性
㋐構造的一体性は、放火場所からつながっているということです。廊下とかで接着していれば構造的に一体であるといえます。
たとえばエレベーターに放火した場合を考えてみましょう。この場合、エレベーターとマンションは構造的に一体といえます。つながっているからです。
もう一つ例を考えてみましょう。宿直員就寝場所と本殿がつながっている神社で、本殿に火をつけました。この場合、本殿と宿直就寝場所は構造的に一体といえます。つながっているからです。
㋑延焼可能性or機能的一体性
㋐構造的一体性が肯定されただけでは、建造物一体として見ることはできません。構造的一体性の次の観点として、延焼可能性、機能的一体性を検討します。
延焼可能性とは、燃え移る可能性のことです。ここで注意すべきは燃え移る可能性が少しでもあったら延焼可能性ありと判断されるという点です。完全に延焼可能性がない、と判断された初めて延焼可能性は認められないことになります。
また、延焼可能性はあくまで「可能性」なので、実際にその部分まで燃え移っている必要はありません。
機能的一体性とは使用上の一体性と言われるものです。言葉的に機械によるものかなー、っと思うかもしれませんが、これは違います。簡単にいうと人の方から火の方へ来る可能性のことです。放火場所にわざわざ人が来る可能性がある場合には人がいる場所と放火場所は機能的に一体といえます。
例を考えてみましょう。
エレベーターに放火した場合です。エレベーターがスプリンクラー装備を備えた延焼可能性の全くないものであったとします。しかし、エレベーターはマンションにとって人が部屋へ向かうときに使用するものであり、人の方がから燃えているエレベーターに来る可能性があります。よって機能的一体性が認められることになるのです。
宿直員就寝場所と本殿についても同様です。本殿がスプリンクラー装置等を備えて延焼可能性が全くないものであったとします。しかし、宿直員は1時間に1回見回りをすることが業務とされていた場合、宿直員側から放火場所(本殿)に向かってくる可能性があります。よって機能的一体性が認められることになるのです。
建造物がどの範囲かは、㋐構造的一体性㋑延焼可能性or機能的一体性という㋐㋑両方が満たされるか検討することでわかる。
③現住性・現在性
現在性は簡単です。現に人がいるかです。この人がいる場所と放火場所が簡単に建造物として一体であると認められる場合はいいのですが、よくわからない場合には、上記の㋐構造的一体性㋑延焼可能性or機能的一体性で判断します。
なので、検討手順としては②建造物要件を先に検討した方がいいと思い、この順番にしました。②で判断した建造物としての範囲に人がいる場合は現在性の要件を満たすといえるわけです。
一方、現住性は慎重に判断しましょう。現住性とは人が住居として使用している建造物ということです。住居の定義は住居侵入罪でやりましたが、覚えていますでしょうか?
上記によると、起臥寝食をする場所ということがわかります。よって出かけている場合であっても、基本的には現住性は認められると考えてよいでしょう。
④燃焼
放火罪の燃焼は結果であり、燃焼が認められた場合は放火罪の既遂が成立します。どの程度で燃焼を認めるかについてはさまざまな学説がありますが、ここでは判例・通説の独立燃焼説に立って説明します。
独立燃焼説は、その名の通り、火が媒介物を離れて独立して燃焼している状態になったことを指します。
マッチで燃やした場合には、火がマッチから離れてマッチがなくても火が継続して燃える状態になったということです。
意外と早く既遂が成立するという点に注意してください。
⑤故意
通常は故意は当たり前として取り上げてきませんでしたが、今回は特別です。意外と重要になるのでしっかり取り上げてみます。
現住建造物放火罪の故意は、現住・現在性の認識が必要であるという点が意外と見落としやすいので注意してください。「建物を燃やすぞ~!」という故意ではなく「人がいる(住んでいる)建物を燃やすぞ~!」という故意が必要というわけです。
すると、「人がいない建造物を燃やすぞ~!」という故意で実際には人がいる建造物を燃やした場合にはどうなるでしょうか。

非現住建造物放火罪の故意で現住建造物放火罪の結果を引き起こしたのだから……

構成要件にまたがる錯誤=抽象的事実の錯誤の問題になるんだ!
抽象的事実の錯誤については以下の記事にわかりやすく説明しています。人気記事なのでぜひご覧ください。
抽象的事実の錯誤で刑法38条2項より非現住建造物放火罪が成立するという点は大丈夫だと思います。
さらに忘れてはならないのが、故意の方の犯罪の未遂を検討するということです。未遂犯と不能犯の論点もかかわりますが、不能犯を一般人の具体的危険として考えるならば、基本的に不能犯とはなりえないので、現住建造物放火罪の未遂が成立することになります。
不能犯と未遂犯については以下の記事が参考になります。
結果としては重い方の現住建造物放火罪の未遂に包括されるでしょう。
非現住建造物等放火罪(刑法109条)の要件
条文は刑法109条です。
(非現住建造物等放火)
第百九条 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、二年以上の有期懲役に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。
2項が出題されることはあまりありません。1項は現住性・現在性がなくなった建造物の場合であり、他の要件は現住建造物等放火罪(刑法108条)と変わりませんので、大丈夫でしょう。
①放火②建造物③非現在性・非現住性④焼損⑤故意(人がいない建造物を放火するという認識・認容)
故意にはくれぐれも注意してください。人がいる認識がある場合には上記の錯誤論の話になります。
建造物等以外放火罪(刑法110条)の要件
条文は以下の通りです。
(建造物等以外放火)
第百十条 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
これは建造物等以外=建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑以外のものに対して放火した場合の罪です。よくあるのは自動車ですね。
この場合の要件は以下のようになります。
①放火②建造物等以外の物③燃焼④公共の危険を生じさせたこと⑤故意
①③は前述のとおりです。②は普通にわかると思います。
問題は④公共の危険ですね。詳しく見ていきましょう。
公共の危険
公共の危険が何かについては学説上対立がありますが、不特定または多数人の生命・身体・財産に対する危険と考えておけば大丈夫でしょう。延焼の危険に限られません。
また判断基準としては事後的に客観的に判断されます。もちろん考慮要素として行為時の危険感も含まれます。
さらに、「よって」と言いう文言からわかるように、建造物等以外放火罪は一種の結果的加重犯です。そのため、公共の危険に対する認識は必要ありません。学説の対立がありますが、認識不要説でよいでしょう。
以上をまとめると、公共の危険に対する考え方は以下のようになります。
公共の危険は、不特定または多数人の生命・身体・財産に対する危険をいい、客観的に判断される。「よって」という文言からわかるとおり、公共の危険についての認識は不要である。
まとめ
以上長く見てきましたが、いかがだったでしょうか。放火罪は要件一つ一つに一つの論点があることがわかってもらえたと思います。
最後にまとめてみますね。
〈現住建造物放火罪(刑法108条)の要件〉
①放火…ガソリンばらまきでは実行の着手あり、灯油ばらまきでは実行の着手なし。
②建造物…どの範囲が建造物になるかどうかは㋐構造的一体性㋑延焼可能性or機能的一体性から判断する。
③現住性・現在性…②で定まった範囲について人がいるか、住居かどうかを検討する。
④燃焼…独立燃焼説より既遂時期は早い。
⑤故意…現住性・現在性のある建造物に対する放火という認識認容が必要であり、現住性・現在性がないと考えていた場合には、非現住建造物等放火罪の故意で現住建造物放火罪の結果を引き起こしたとして、抽象的事実の錯誤の問題となる。軽い罪の故意で重い罪を実現した場合であるから、非現住建造物等放火罪の成立にとどまる(刑法38条2項)。
〈建造物等以外放火罪(刑法110条)の要件〉
①放火…ガソリンばらまきでは実行の着手あり、灯油ばらまきでは実行の着手
②建造物等以外の物…自動車が多い。
③燃焼…独立燃焼説より既遂時期は早い。
④公共の危険…生命・身体・財産に対する客観的な危険で、公共の危険に対する認識は必要なし。
⑤故意…公共の危険以外の認識認容=建造物等以外の物への放火の認識認容が必要。
非現住建造物等放火罪はほとんど現住建造物等放火罪の要件と変わらないので省略させていただきました。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。