
前回は強盗罪を勉強したね。今回はその応用の事後強盗罪をみていこう。

事後強盗罪って、「窃盗の機会」がポイントになるものですよね。

そうだね、意外と論点は少ない分野だから簡単にチェックできると思うよ。
事後強盗罪は、刑法各論としてよく出題される分野ですが、それほど論点が多くありません。保護法益と要件をしっかり理解していけば大丈夫でしょう。
さっそくみていきます。
事後強盗罪のポイント
保護法益も考え方の違いはあるものの、占有と生命・身体・自由という財産犯的側面と人身犯的側面があることは争いはないでしょう。
事後強盗罪の要件についての論点はあまり多くありません。「窃盗の機会」くらいでしょう。
問題となるとすれば、共犯関係についてです。ここはやや学説が錯綜していますが、今回は最低限押さえてほしい考え方のみを説明していこうと思います。
②事後強盗罪の要件を押さえる。
③事後強盗罪の共犯関係を理解する。
事後強盗罪の保護法益
事後強盗罪の保護法益は、強盗罪と同じです。つまり占有と生命・身体・自由が保護法益ということになります。
では、なぜ強盗罪と保護法益が同じなのでしょうか?この点を説明するためには、事後強盗罪がなぜ処罰されるのかを考える必要があります。
事後強盗罪とは、窃盗→反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫をする犯罪です。ちなみに強盗罪は反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫→窃取の流れでした。
事後強盗罪でも「強盗罪として論ずる」とされています。
このことでよくある説明としては、「窃盗」と「暴行・脅迫」は入れ替わっても同じだから、というものです。暴行・脅迫による窃取行為と窃取行為の後にする暴行・脅迫はどちらも窃取行為について暴行・脅迫を用いているのであるから重大な違法性があると説明するわけですね。これは財産犯(窃盗)を主眼においた説明といえるでしょう。
最近では人身犯的説明も登場しています。強盗罪が重い理由を窃盗の側面ではなく暴行・脅迫の側面で考えるというものです。この立場からは事後強盗罪は暴行・脅迫が窃盗行為に際して行われている=通常、「窃盗」の際には「暴行・脅迫」は生じやすいから特別な暴行・脅迫と考えるという説明をします。繰り返しになりますが、これは人身犯を主眼においた説明といえるでしょう。
簡単にまとめると事後強盗罪は、窃盗のギア2として考えるか、暴行・脅迫のギア2として考えるかの2通りの考え方があるというわけです。
どちらで説明してもよいと思いますし、この保護法益の議論は事後強盗罪では共犯関係くらいでしか問題になりません。事後強盗罪が強盗罪として論じられる説明として、財産犯的説明と人身犯的説明があること、これらの説明は共犯関係の問題にかかわることを意識しておけば大丈夫です。
事後強盗罪(刑法238条)の要件
まずは刑法238条の確認です。
(事後強盗)第二百三十八条 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
窃取→暴行・脅迫の流れをとるのが事後強盗罪です。
事後強盗罪は強盗罪として論じることになるので、③暴行・脅迫は反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫が必要になります。
①②はあまり問題ないでしょう。文字通りの意味にとれば大丈夫です。窃盗について詳しい要件や論点は以下の記事をご覧ください。
⑤不法領得の意思についても通常同様に、権利者排除意思と不法領得意思を考えます。詳しい説明は以下のリンクに貼っておきます!
問題になるのは、窃盗の機会でしょう。
窃盗の機会は時間的・場所的近接性
再度、なぜ事後強盗罪が強盗罪と論じられるかを思い出してみましょう。
①「窃盗」と「暴行・脅迫」は入れ替わっても同じだから、という財産犯的説明
②窃盗行為の際に暴行・脅迫は生じやすいから、という人身犯的説明
があるのでした。となるとどちらも窃取と暴行脅迫に強いつながりがあることを要求していることになります。よって強いつながりがあること=窃盗の機会に暴行・脅迫が行われたこと、が隠れざる要件として表れるわけです。
窃盗の機会の考え方はズバリ
です。窃盗と暴行・脅迫の間の時間が短いほど、窃盗と暴行・脅迫の場所が近いほど窃盗の機会は認められやすくなります。
一方で窃盗と暴行・脅迫の間に時間的隔たりがある場合や、窃盗と暴行・脅迫の場所が遠い場合には認められにくくなります。たとえば、1回窃盗した後に自分の家に帰って、もう一度同じ家に様子を見に行ったところで家の者に見つかってしまったので暴行を加えてしまった場合には、一回自分の家に帰っている時点で時間的場所的近接性はないといえ、窃盗の機会は認められないでしょう。
学説上は様々な考え方がありますが、変にいろいろ考えるよりも時間と場所だけを考える方法が楽でシンプルなのでおススメです。
事後強盗罪の共犯の考え方
事後強盗罪の未だ未解決な難問が共犯です。最高裁判例が存在していないうえに、下級審裁判例では判断方法が分かれています。
まず前提となる問題を知っておきましょう。
Bにはいかなる犯罪が成立するか。
主要な考え方は3つありますので、それを簡単に説明していこうと思います。
その前にこれら3つの考え方の前提知識となる身分犯と共同正犯、承継的共同正犯について軽ーく押さえます。
身分犯と共同正犯
共同正犯についての詳しい議論は以下の記事を参考にしてください。
要件は、①故意+正犯意思による共謀と②実行行為(共謀共同正犯の場合には重要な役割)と言われています。
さて身分犯(一定の身分があることで犯罪が成立するもの)の場合の共犯関係はどうなるのでしょうか?つまり身分のある者と身分のない者とで身分に基づく犯罪をした場合どうなるのか?という論点です。
これは刑法65条に規定があります。
(身分犯の共犯)第六十五条 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。2 身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
上記条文は初心者にはかなり分かりにくい条文です。1項と2項で矛盾しているように思えるかもしれません。
1項は構成要件的身分犯について2項は加減的身分犯について規定したものだといわれています。
構成要件的身分犯は、その身分があることによって犯罪が「成立する」ものです。身分がなければ犯罪は成立しません。賄賂罪(公務員)のようなものですね。
加減的身分犯は、その身分があることによって犯罪が「加重される」ものです。身分がなくても基本的な犯罪は成立します。いつぞやにやった保護責任者遺棄罪は加減的身分犯です。保護責任者が身分ですね。保護責任者でなくても一般的な遺棄罪は成立します。身分は加減性を決める要素というわけです。
刑法65条を踏まえると
行った犯罪が構成要件的身分犯の場合は、身分のある人×身分のない人では、両者ともに構成要件的身分犯の共同正犯が成立することになります(刑法65条1項)。
行った犯罪が加減的身分犯の場合は、身分のある人×身分のない人では、身分のある人には加減的身分犯が成立しますが、身分のない人には通常の刑なので加減されていない犯罪が成立するにとどまります(刑法65条2項)。
このように身分犯が構成要件的か加減的かによって共犯関係がどの程度成立するかが変わってくるというわけです。

法律を知らない友だちとかに刑法65条を見せると混乱するだろうな。法学部ってどういうことを勉強してるの?条文読めば法律ってわかるじゃん!って聞かれたときには刑法65条を見せてあげよう(笑)。
承継的共同正犯
承継的共同正犯とは、後から加入してきた者に対して成立する共同正犯です。かつての有力説だった積極的利用の場合には承継的共同正犯が成立するという考え方は判例で否定されましたので、現在は因果性があるかどうかを基準として考えた方がよいでしょう。
つまり、後から加入した者も、その行為によって全体の犯罪結果に因果性を持ち得る場合には承継的共同正犯として全体の共犯となるという考え方です。
詳しくは以下のリンクをご覧ください。
考え方1:窃盗を身分と考える
事後強盗罪について窃盗を身分とする考え方です。これは保護法益を財産犯的に捉える見解によっています。事後強盗罪は窃盗罪のギア2と捉えるわけですね。
この場合に上記事例では、Bは暴行しかしていませんが、刑法65条1項より身分のない者にも身分犯が成立するので窃盗身分の共犯が成立します。となるとBは窃盗の身分で暴行をしたことになるので事後強盗罪が成立することになるのです(正確には事後強盗罪の共同正犯)。
考え方2:暴行・脅迫を身分と考える
事後強盗罪について暴行・脅迫を身分とする考え方です。これは保護法益を人身犯的に捉える見解によっています。事後強盗罪は暴行・脅迫罪のギア2と捉えるわけですね。窃盗は加減的身分となります。
この場合上記の事例ではBは暴行をしていますが、窃盗は行っていません。窃盗は構成要件的身分ではなく加減的身分となるので(暴行・脅迫が基本形であり窃盗罪は附属と考えるため)、窃盗行為を行っていないBには加減されない通常の刑=暴行罪のみが成立することになります。
考え方3:結合犯と考える
事後強盗罪を身分犯ではなく結合犯=窃盗と暴行・脅迫は両方そろって事後強盗罪を構成するのであり切り離せない犯罪と捉える見解です。
この場合は承継的共同正犯を考えることになります。
承継的共同正犯にも肯定説否定説がありますが、肯定説をとっておいた方がよいでしょう。しかし傷害罪の承継的共同正犯は否定するのが判例の立場です。
もしこの判例の考え方が事後強盗罪にも及ぶと考えればBは傷害罪の共同正犯を考えることになるので、全体の結果に対する因果性を認めることはできず、傷害罪の共同正犯のみが成立することになります。

事後強盗罪について承継的共同正犯が認められるかというのは難しい問題だな。詐欺や恐喝では承継的共同正犯が認められていることからすれば構成要件的に一体となっているケースでは承継的共同正犯を認めてよいかもしれないね。
考え方3は承継的共同正犯という刑法総論の考え方も持ち出すことになるから、学部生の方や刑法各論のテストの場合は考え方1や考え方2で済ませる方が楽だし時間もとらないだろう。
まとめ
以上、事後強盗罪をみてきました。共犯についてはやや難しいですが、判例が定まっていないため事後強盗罪と共犯という論点を出す問題はあまり出ないと考えてもらって構わないでしょう。
事後強盗罪が出題されたときにとにかく意識してほしいのは窃盗の機会という要件を忘れないということです!
要件を再掲しておきます。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。