刑法総論シリーズに引き続き,刑法各論シリーズを見ていこう!
刑法各論って,刑法の罪のそれぞれのポイントを押さえてくってことですか?
そういうことさ。ただし刑法総論の知識が前提となって,論述のときには刑法総論で学んだ書き方,
結果→行為→因果関係→故意・過失→違法性阻却事由→責任阻却事由
の流れで書く必要があるから,気を付けてね。
これから刑法各論シリーズに入っていきます。刑法各論ははっきり言って簡単です。各罪の保護法益,要件,論点を2~3つ確実に押さえていけば,誰でも解ける分野といえるでしょう。
テクニック等もあまりありませんし,他の法律に比べてイメージもしやすいと思います。
ただし,注意が必要なのは,刑法総論分野の知識が前提となっているということです。特に論述試験の際には刑法総論の書き方で答案を作成する必要があります。
もし刑法総論について不安がある方は以下の流れを参考にしてくださいね。
結果→実行行為→因果関係→故意・過失→違法性阻却事由→責任阻却事由
今回は,まずオーソドックスな殺人罪(刑法199条)についてみていきます。
殺人罪(刑法199条)のポイント
保護法益,要件ともにそれほど大きな問題はありません。そのため刑法総論でも説明の際には殺人罪がよく使われるのです。論点としては殺人罪と自殺幇助罪の見分け方についてくらいでしょう。よってそこを重点的に解説します。
②殺人罪の要件がわかる。
③殺人罪と自殺幇助罪の違いを理解する。
殺人罪の保護法益
殺人罪の保護法益は,人の生命です。これはすぐに理解できると思います。
人の身体も保護法益では?と思われるかもしれませんが,殺人罪自体は「人を,殺した者」を罰する規定なので人の生命しか保護法益にならないということですね。
もちろん,死に至ってなくても,殺人未遂は可能ですが,この場合も「人の生命侵害を負わす者の未遂」を意味するので保護法益は生命のみということがわかります。
殺人罪の要件
要件は必ず条文から導きます。
(殺人)第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
殺人罪の場合は簡単で,「人を殺すこと」が実行行為,要件となります。
殺人罪と自殺幇助罪とは抽象的事実の錯誤
論点は殺人罪と自殺幇助罪の使い分けです。ここで自殺幇助罪について軽く確認しておきましょう。
自殺幇助罪
(自殺関与及び同意殺人)第二百二条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。
刑法では自殺した人自身は罪に問われませんが,それをサポートした人に対しては自殺関与罪や同意殺人罪に問われるとしています(これをまとめて自殺幇助罪とここでは呼んでいます)。
問題となる場面
殺人罪と自殺幇助罪は以下の場面で問題になります。
基本書等ではいろいろ書かれていますが,これは刑法総論の分野です。行為者の認識と結果が構成要件の異なる罪になっているので,抽象的事実の錯誤ですね。
抽象的事実の錯誤について詳しくは以下の記事をご覧ください。
さて①の場合は,Xは殺人の故意で同意殺人の結果を引き起こしています。殺人罪と同意殺人罪は保護法益が生命と同じなので,重なりが認められますね。よって,Xには重なりが認められる限度ということで同意殺人罪が成立するというわけです。また,抽象的事実の錯誤では認識した罪の未遂も検討することになるので殺人未遂罪も成立する可能性があります。
次に②の場合は,Xは同意殺人の故意で殺人の結果を引き起こしています。これも重なりが認めらます。よって,Xには軽い同意殺人罪が成立します(刑法38条2項)。
このように,殺人罪の論点は抽象的事実の錯誤の問題なので,実質的には刑法総論がわかっていれば解ける問題になります。
まとめ
殺人罪は,一番のデフォルトです。非常に簡単ですが,各論の基本の流れは分かっていただけたのではないかと思います。
保護法益と要件そしてそれに付随する論点をきちんと押さえることで刑法各論をマスターすることになるのです。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。