危険負担って何のことがよくわからないんですけど。
たしかに危険負担はどう使えばいいのかよくわからないものだな。今回は「わかりやすさ」を第一に危険負担について学んでいこう。
これまで契約の効力について、同時履行の抗弁、第三者のためにする契約をみてきました。今回はラスボスの危険負担についてみていこうと思います。
危険負担は正直よくわからない問題に感じると思います。
条文をみれば何を言っているかわかるけれど、どういう場面で問題となるのかよくわからない。
という捉えどころのないやつです。
このラスボスを攻略するためには、使われる場面をしっかり頭に入れる必要があります。このことを意識して、危険負担で押さえるべきポイントを解説していこうと思います。
危険負担(民法536条)のポイント
危険負担は民法改正で大きく変わったポイントです。旧法下の教科書は使い物にならなくなっています。
危険負担は双務契約で問題となるものです。契約の効力の箇所に書かれていることからもわかります。
そのうえで、履行不能がある場合に、債権者(物の引渡しをする方債権者)に反対債務の履行拒絶権を与えるか否かを考える制度だという点も押さえておきましょう。また詳しくは下で解説します。
①危険負担が使われる場面を理解する。
②民法536条1項について理解する。
③民法536条2項について理解する。
それでは見ていきましょう。
民法改正最大ポイント!危険負担
危険負担は双務契約が前提
まず、危険負担は双務契約下で問題になるものです。
契約の効力の箇所にありますし、「反対給付」をどう扱うかが想定されていることからも双務契約であることがわかります。
そして、物の引渡しをする債権を中心にものごとを考えているという点も注意しましょう。物の引渡しをする債権に対して、代金債権を「反対給付」としています。
履行不能になる債権を考える
次に危険負担は双務契約で履行不能が発生した場面を想定しています。
そのため履行不能であることが必要なのですが、気をつけてほしいのは
履行不能になった方の債権を考える
ということです。
履行不能になった方の債権の債権者・債務者が条文の文言上の「債権者」と「債務者」ということになります。
売買の場合には、売主は物の引渡しをする「債務者」であり、買主は物の引渡しを請求する「債務者」です。よくある勘違いですが、売買の場合に売主を債権者としないようにしましょう。
あくまで目的物引渡請求権が「履行不能」になるので、その「履行不能」になった目的物引渡請求権の債権者は「買主」というわけです。
また、代金支払請求権は金銭債権で履行不能にはなりませんから、売買の場合で危険負担が問題となる場面は、買主が債権者、売主が債務者ということでよいでしょう。
債権者は反対給付拒絶権をもつ
以上、双務契約で履行不能が発生した場面でした。その場面で反対給付がどうなるのか?を危険負担は問題にしているのです。
民法改正で、このような場合には債権者は反対給付を拒めると定めました。これを履行拒絶権と言います。
なんかちょっと違和感があるよ。履行不能になれば債権者が反対給付を逃れられるなんて……。
もしかして、債権者の責任で履行不能になった場合を考えていないかい?危険負担の原則は「当事者双方の責めに帰すことができない事由によって」履行不能になった場合を想定しているんだ。
この場合、改正民法は債権者を有利に扱っているというわけだね。
もちろん債権者のせいで履行不能になった場合はまた処理がかわってくるよ(民法536条2項)。
この危険負担(反対債権を拒めるかどうか)は「当事者双方の責めに帰すことができない事由」によって履行不能になった場合を原則としています。
もし債権者側に履行不能の原因があった場合にはまた処理が変わってきますので注意が必要です(536条1項ではなく2項の適用になります)。
解除では対処できないのか?
ここである疑問が生じた方は素晴らしいです。
別に危険負担の制度を設けなくても、債権者は解除をすれば、反対給付から逃れられるのではないか。
という疑問です。
しかし債権者によっては「解除」したくない場面や「解除」できない場面もあります。
債権者が解除したくないor解除できない場合であっても、反対給付から逃れる制度というのが「危険負担」なのです。
たしかに学説上は、危険負担ではなく解除を用いるべきという議論がありますが、条文ができてしまった以上、危険負担も解除もしっかり理解しておく必要があります。
まとめ
危険負担が使われる場面の考え方を順にみてきました。以下のまとめてもう一度復習してみましょう。
①双務契約である。
②履行不能になっている。
③履行不能になった債権の債権者と債務者を考える。
④債権者は反対給付を拒むことができる(履行拒絶権をもつ)。
⑤解除でも反対給付から逃れることができるが、危険負担では解除をしなくても反対給付を拒める。
それでは条文を確認してみましょう。
危険負担を条文から考える
原則:危険負担は民法536条1項
双務契約で履行不能になった場合に、相手方から反対給付の請求があったとしましょう。
その場合に、「自分の債権は履行不能になったのだから、どうにかして反対給付を拒みたい」と思うはずです。
このような場面で危険負担を思いつきます。そこで見るべき条文は民法536条1項です。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
この条文を使うことで、債権者(履行不能になった債権の債権者)は反対給付を拒むことができるのです。
なお、この条文には「当事者双方の責めに帰することができない事由」という文言がありますが、そうでない場合=債権者側に履行不能の責任がある場合は次の民法536条2項で対応されますので、主張立証の要件事実上は「当事者の責めに帰することができない事由」というのは必要ないことになります。
とはいえ、この危険負担の原則、民法536条1項は「当事者双方の責めに帰することができない事由」の場合=不可抗力(天災)の場合を想定している点は理解しておきましょう。
例外:債権者に帰責事由がある場合
債権者に履行不能の帰責事由がある場合にも、債権者が反対給付を拒めるというのはおかしな話です。
そこで民法は債権者に帰責事由がある場合は反対給付の処理について別の規定を設けました。民法536条2項になります。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
民法536条2項の想定としては、民法536条1項を債権者が主張した場合の相手方の反論「いや、あんたのせいで履行不能になったんでしょ!」という主張です。
民法536条1項の反論として機能するという点をまずは押さえましょう。
図でいうと下のような形です。債権者に帰責事由がある履行不能の場合には民法536条1項は機能しないというわけですね。
また、債権者に帰責事由がある場合には解除もできませんので、その点についても債権者は反対給付を逃れることができません。
例外:受領遅滞中の履行不能は債権者の帰責事由となる
さらに、少し応用系ですが、受領遅滞の場合は「債権者の責めに帰すべき事由」として民法536条2項で反対給付を請求することもできます。
(履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
第四百十三条の二
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
民法413条の2が、受領遅滞中の履行不能は、「債権者の責めに帰すべき事由によるもの」とみなすとしているためですね。
つまり、民法536条1項で履行拒絶権を主張された場合には、反論としては「債権者に帰責事由があること」を主張すればいいのですが、受領遅滞の場合には債権者自身に帰責事由がなくとも民法413条の2を介して「債権者に帰責事由があること」を基礎づけられるというわけです。
まとめ
以上、危険負担についてみてきました。
これを少し応用として主張立証責任に分けて記載してみます。この主張立証を分けて考えると、より危険負担がどういう場面を想定しているのか「見えてくる」と思います!
さらに、図にするとこんな感じです。
危険負担は、それ独自の問題を一度解いてみると理解がしやすくなると思います。
ポイントは双務契約での履行不能の際に反対給付をどう扱うかという制度という点です。この大前提を忘れないようにしましょう。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
契約法について、初学者が学習しやすい本としては潮見佳男先生の『債権各論Ⅰ』をおすすめします。薄いため、最低限の知識がコンパクトにまとめられており、語り口調も丁寧語であるため、しっかり読めば理解できる流れになっています。青・黒・白と三色刷りなのでポイントも青の部分を読めばわかります。
もちろん、改正民法対応です。ぜひ読んでみてください!