債権譲渡の要件事実もよく試験に出題されますよねー。あれって、対抗要件とかありますけど、どう考えればいいんですかねー。
債権譲渡はいわば、これまでの要件事実のアレンジだな。
ただし、債権譲渡特有の抗弁もあるからしっかり理解しておく必要がある。
債権譲渡は、これまで学習してきた要件事実のアレンジ(応用)です。
すなわち、これまでみてきたのは、
「どう主張すれば債権が発生するか」
でした。
債権譲渡はさらにそれの+αとして、その債権が譲渡された場合です。そのため、これまでの学習が基礎になります。
頑張っていきましょう!
債権譲渡の要件事実のポイント
債権譲渡の要件事実のポイントは、訴訟物の考え方と要件事実の考え方を押さえるという点です。
これらは「考え方」です。
というのも債権譲渡自体は請求権ではないので、「債権譲渡による返還請求」とか「債権譲渡に基づく明渡請求」とか「債権譲渡」が全面に押し出される訴訟物や請求の趣旨はなく、
基本としては、発生のもとになった請求権を考えていくことになります。
となると、今回の回で押さえるべきは、債権譲渡がされたとしても「まどわされない」考え方を身に着けていくことを主眼に置いていくことになるのです。
その次に、債権譲渡特有の抗弁について理解していきましょう。債権譲渡がなされると、物権ではない債権についても「対抗要件」という概念が生じるからです。
①債権譲渡の訴訟物の考え方を押さえる。
②債権譲渡の要件事実の考え方を押さえる。
③債権譲渡の抗弁・再抗弁を理解する。
それでは見ていきましょう!
債権譲渡の訴訟物の考え方
債権譲渡の訴訟物を理解するうえで、まずは債権譲渡自体についての理解を深める必要があります。
債権譲渡とは?
債権譲渡をまずは民法の視点から学習していきましょう。詳しくは以下の記事で解説しています。
債権譲渡は文字通り、債権を譲渡することをいいます。
ここでよく勘違いされがちなのは、債務者が譲渡するのではなく債権者が譲渡するという点です。
債権者が譲渡人となって、譲渡人に債権を譲渡することで債権譲渡が完成します。このとき、譲渡人は債権者となり、債務者は変わらないことになります。
条文では、民法466条1項に規定があります。
(債権の譲渡性)
第四百六十六条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
ようは、債権者と債務者との間で生じた債権を、債権者が別の第三者に譲渡する行為というわけです。
債権譲渡の訴訟物は元の債権を考える
となると、債権譲渡の訴訟物はどうなるのでしょうか。
たとえば、譲渡人(債権者)と債務者との間の貸金返還請求権が譲渡された場合を想定してみましょう。
さて、譲受人が債務者に貸金返還請求をしたぞ。訴訟物は何かな?
そんなの簡単じゃないですか!
「債権譲渡による貸金返還請求権」ですよ。
おいおい、それが多い間違いなんだ。別に債権譲渡が訴訟物(訴訟対象)を発生させるわけじゃないんだぞ。ただ譲渡されただけさ。
つまり、「訴訟物」を聞かれたときは「元の請求権」のまま答えればいいのさ!
なるほど、
ということは
「消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」
と答えればいいわけですね。
そういうこと!
もし誰と誰との間の訴訟物かを聞かれた場合には
「譲渡人(元債権者)・債務者間の消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」
と答えることになるぞ!
債権譲渡の訴訟物は、間違う人が多いので注意しましょう。
債権譲渡はあくまで「行為」でしかありません。訴訟物(訴訟対象)になる請求権ではないのです。
となると、訴訟物を答える問題では、「譲渡された請求権=元の請求権」自体を答えることになります。
上記の例でいえば、
「消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」
とだけ答えればよいわけです。
くれぐれも「債権譲渡に基づく」であったり「債権譲渡による」であったりといった言葉は使わないようにしてくださいね。
債権譲渡の請求の趣旨
以上の訴訟物の考え方が理解できていれば請求の趣旨は完璧です。
これまでの要件通りの考え方でよいのです。
請求の趣旨でも間違っても「債権譲渡に基づく」といったワードは出さないようにしましょう。
そもそも請求の趣旨は、登記請求権以外はシンプルに書かなければいけないので、
「債権譲渡に基づく」といったワードを出そうという発想にもなりませんが……。
「被告は、原告に対し、〇〇円を支払え。」
といった元の訴訟物に応じた請求の趣旨になるでしょう。
債権譲渡の要件事実
債権譲渡の考え方が理解できていれば要件事実もおのずと理解できるはずです。
〈債権譲渡の要件事実〉
①もとの債権の発生原因事実
②移転原因
→①「Aは、被告に対し、〇年〇月〇日、〇円を〇年〇月〇日を弁済期として、〇円を貸し付けた。」
→①「〇年〇月〇日は到来した。」
→②「Aは、原告に対し、〇年〇月〇日、上記貸金返還請求権を、〇円で売った。」
※ポイント
①の事実はそれぞれの事案に応じて異なる。貸金返還請求権の場合には、消費貸借契約の締結・金銭の交付・履行期の合意・履行期の到来を盛り込む。
②譲渡した、とは書かない!「売った」とか「贈与した」とか具体的に書く!
最初に書くべき、「元の債権発生原因事実」というのは、これまでの要件事実の総復習となります。
事案に応じて、
どのような請求権を譲渡しているのか
考えるようにしましょう。
多いのは貸金返還請求権や賃料請求権といったお金に関するものです。
債権譲渡の要件事実の抗弁・再抗弁
さて、債権譲渡を特別に扱う理由は抗弁が独特である点にあります。通常、債権には物権のような「対抗要件」という概念はありません。
しかし債権譲渡が行われると、物権法で学習した「対抗要件」に関する抗弁・再抗弁が登場してくるのです。
>>>対抗要件関連の抗弁・再抗弁が登場する物権の要件事実の考え方【はじめての民事実務基礎その7】
まずは民法の復習として、債権譲渡の対抗要件の考え方を見ていきます!
民法の復習
債権譲渡を理解するためには民法の視点でみた債権譲渡をしっかり押さえておく必要があります。
以下では民法の視点から債権譲渡をまとめていますので、理解があやふやであったり、債権総論をしっかり学習したことがない方はまずはこちらを参考にしてください。
>>>債権譲渡では対抗要件が必要?詳しい解説【はじめての債権総論その12】
>>>債権譲渡では債務者の抗弁が可能!わかりやすい解説【はじめての債権総論その12】
>>>債権譲渡禁止特約とは?民法の視点で考えるとわかりやすい!【はじめての債権総論その12】
対抗要件の抗弁
以下の場面を想定してみましょう。譲受人が債務者へ債権を請求してきたとします。
この際、考えられる抗弁として「対抗要件の抗弁」があります。
債権譲渡の際には、債務者は本当に譲渡されたかどうかわかりません。もしかしたら譲受人が嘘をついている可能性があるからです。
そのため、債務者から「本当にあなたが債権者(譲受人)なの?対抗要件を具備するまで債権者と認めません」という主張をすることができます。
これを対抗要件の抗弁と言います。物権的請求権で学習した点と同様です。
対抗要件は上記民法の知識で学習した通り、
第三者(譲渡人・譲受人・債務者以外の者)が登場していなければ債務者対抗要件で足るので
〈債権譲渡の対債務者対抗要件〉
①譲渡人の債務者への通知
②債務者の承諾
をすることになります。
ちなみに抗弁の内容としては「対抗要件を具備するまで認めないよ」という権利主張をするだけでよいです。
〈対抗要件の抗弁〉
①権利主張
→「被告(債務者)は、A・原告(譲受人)間の債権譲渡につき、Aが被告に通知しまたは被告が承諾するまで、Aを債権者と認めない。」
※ポイント:権利主張なのでそれなりのことが書かれていればよい。名前はしっかり明記する。
この再抗弁としては、「対抗要件具備」が出てくることはわかりますね。
〈対抗要件具備の再抗弁〉
「Aは、被告に対し、〇年〇月〇日、A・原告間の債権譲渡の通知をした。」など
債務者の抗弁
また、債権譲渡では、債務者側が独自に抗弁を出すことも可能です(民法468条)。
このような場面ですね。
より正確にいうと、対抗要件具備時までに生じていた事由であれば、譲渡人に対しても反論できるというわけです。ここでの対抗要件具備とは「対債務者対抗要件」です。第三者が登場していないので当たり前ですね。
反論として具体的な例としては、同時履行の抗弁権や取消権、解除、消滅時効などがあげられます。あらゆる反論が、対抗要件具備までに生じていれば、譲受人に対しても主張できます。
つまり、わかりやすくいえば
「債権譲渡がされていても債務者は抗弁を出せるよ!」
というだけです!
債権譲渡禁止特約の抗弁
時折、債務者と債権者との間で譲渡禁止特約が締結されることがあります。この場合の要件事実について考えてみましょう。
債権譲渡禁止特約とは、債務者と債権者間で「債権譲渡を禁ずる」といった内容を付けているものです。
まずは大原則を押さえておきます。
債権譲渡禁止特約が付いた債権を譲渡しても、その債権譲渡は原則有効(民法466条2項)です。
しかし、譲渡禁止特約があると、譲受人に悪意や重過失がある場合には、債務者は債務の履行を拒んだり、譲受人に弁済することができることになります。
注意してほしいのは、債権譲渡自体が無効になるわけではないということです。一応、債権者は譲受人です。ただ債務者が譲受人を債権者として「取り扱わないでもよい」というだけです。
では抗弁としては何を主張すればよいのでしょうか。なんとなくはイメージできると思います。
〈債権譲渡禁止特約の抗弁〉
①債権譲渡禁止特約の締結
②譲受人の悪意または重過失を基礎づける評価根拠事実
③履行拒絶の権利主張
③権利主張ってなんで必要なんですか?
いい点に気が付いたね。譲渡禁止特約について規定している民法466条3項をみてみよう。
(債権の譲渡性)
第四百六十六条
3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
「債務の履行を拒むことができ」となっているよね。
つまり、履行を拒絶するかしないかは、主張する側(債務者)が決めるもの、という前提があるんだ。
そうか!だから、私はこの権利を使います!ということを示すために
「履行拒絶の権利主張」
が必要というわけだね。
まとめ
以上、債権譲渡についてみてきました。いかがだったでしょうか。
債権譲渡で押さえてほしい点は、債権自体は、譲渡人と債務者との間のもの、という点です。
すると訴訟物は「債権譲渡」といワードが出てこないということがわかります。
その次に、抗弁を3種類押さえましょう。「対抗要件の抗弁」「債務者自身の抗弁」「譲渡禁止特約の抗弁」です。
すると、債権譲渡の要件事実の筋が「みえる」ようになってくるはずです。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
民事実務の基礎の教科書、参考書として有用なのは1つしかありません。
これを買わずして勉強できないといわれるほどの良書、大島先生の「民事裁判実務の基礎」です。
予備試験、ロースクール授業対策であれば「入門編」で十分でしょう。司法修習生になると「上級編」や「続編」が必要になるらしいです。
まだ何も参考書がないという方はぜひ読んでみてください!