経済法の規制はいろいろわかりました!けどそれを公正取引委員会とかはどうやって対応しているんですか?
規制方法の話だね。これを「エンフォースメント」というよ。今回は独禁法のエンフォースメントをざっとみていこうか。
独占禁止法の規制条文、規制条文をみてきました。
ここで公正取引委員会が違反事業者に対してどう対応しているのか、どういう処分ができるのか、何を請求できるのか、気になると思います。
今回は、独占禁止法の規制違反に対してどういう処分が可能かという視点を考えていこうと思います。
エンフォースメントのポイント
エンフォースメントは、行政法(公正取引委員会による)、刑法、民法の3つの視点があることをまず押さえましょう。
そしてどのような手段があるのかを一通り押さえることにします。
あとは、不当な取引制限・私的独占と不公正な取引方法それぞれでどの条文を使えばよいのか、確認していけば大丈夫です。
①エンフォースメントの種類を理解する。
②不当な取引制限・私的独占のエンフォースメントの条文を知る。
③不公正な取引方法のエンフォースメントの条文を知る。
それではみていきましょう。
エンフォースメントの種類
エンフォースメント(独占禁止法違反に対する処分)について3つの視点を押さえます。
①行政②刑事③民事です。行政は公正取引委員会が行う処分のことです。
行政(公正取引委員会)
行政の観点からは大きく分けて2つの手段をとることができます。
排除措置命令と課徴金納付命令です。
独占禁止法19条や独占禁止法3条に違反する行為(不当な取引制限・私的独占・不公正な取引方法)を排除するために命令を出すことが排除措置命令です。
また、お金を払え!という課徴金納付命令を出すこともできます。
刑事
刑事上、罰金が課されることがあります。
通常、刑罰を課されるのは自然人ですが、独占禁止法には「事業者」に対して刑罰を課せるという規定があるので、刑事的制裁によるエンフォースメントも考えられるわけです。
注意してほしいのは、不行正は取引方法に刑事のエンフォースメントはないという点です。独占禁止法3条違反と独占禁止法19条違反を比べたときに独占禁止法3条違反の方が悪質だからですね。独占禁止法19条違反ではさすがに刑事上までは無理というわけです。
民事
民事で押さえるべきは損害賠償と差止請求です。
損害賠償は民法709条の不法行為もとることができますが、独占禁止法25条には特別に無過失責任の損害賠償の規定があります。どちらも使えるというわけです。
差止請求は不公正な取引方法のみしか使えません。だからこそ不公正な取引方法は結構重要なのです。
この点についてもしっかり押さえていくことにします。
不当な取引制限・私的独占(独占禁止法3条違反のエンフォースメント
排除措置命令(独占禁止法7条)
まず排除措置命令を押さえましょう。独占禁止法7条になります。
第七条 第三条又は前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。
② 公正取引委員会は、第三条又は前条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、第八章第二節に規定する手続に従い、次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなつた日から七年を経過したときは、この限りでない。
一 当該行為をした事業者
二 当該行為をした事業者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
三 当該行為をした事業者が法人である場合において、当該法人から分割により当該行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
四 当該行為をした事業者から当該行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた事業者
少々長いですが、簡単にまとめると
独占禁止法7条1項は現時点で違反行為がある場合
独占禁止法7条2項は過去に違反行為があった場合
に対応しています。
課徴金納付命令(独占禁止法7条の2・7条の9)
課徴金納付命令も大事なエンフォースメントです。改正で少々修正されているので、改正前のものを使う場合には注意しましょう。
独占禁止法7条の2等が不当な取引制限の課徴金納付命令になります。
第七条の二 事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約であつて、商品若しくは役務の対価に係るもの又は商品若しくは役務の供給量若しくは購入量、市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、第一号から第三号までに掲げる額の合計額に百分の十を乗じて得た額及び第四号に掲げる額の合算額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
…
独占禁止法7条の9が私的独占の課徴金納付命令になります。
第七条の九 事業者が、私的独占(他の事業者の事業活動を支配することによるものに限る。)であつて、当該他の事業者(以下この項において「被支配事業者」という。)が供給する商品若しくは役務の対価に係るもの又は被支配事業者が供給する商品若しくは役務の供給量、市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、第一号及び第二号に掲げる額の合計額に百分の十を乗じて得た額並びに第三号に掲げる額の合算額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
…
私的独占については独占禁止法7条の9第1項が支配型、2項が排除型の課徴金納付命令となります。
条文さえ覚えておけば大丈夫でしょう!
刑事(独占禁止法95条、89条)
刑事の視点のエンフォースメントも考えてみましょう。独占禁止法95条、独占禁止法89条が条文になります。
第九十五条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
…
第八十九条 次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者
二 第八条第一号の規定に違反して一定の取引分野における競争を実質的に制限したもの
② 前項の未遂罪は、罰する。
通常独占禁止法での「事業者」は法人です。しかし刑事で想定されているのは自然人ですので、法人にも適用するためには特別な規定が必要なことになります。
それが独占禁止法95条なのです。
つまり、適用条文は独占禁止法95条、独占禁止法89条が1セットということになります!
また用意されているサンクションは「罰金」だけです。
損害賠償(独占禁止法25条、26条及び民法709条)
まずは独占禁止法上の損害賠償を考えてみましょう。独占禁止法25条、独占金法26条をみてください。
第二十五条 第三条、第六条又は第十九条の規定に違反する行為をした事業者(第六条の規定に違反する行為をした事業者にあつては、当該国際的協定又は国際的契約において、不当な取引制限をし、又は不公正な取引方法を自ら用いた事業者に限る。)及び第八条の規定に違反する行為をした事業者団体は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずる。
② 事業者及び事業者団体は、故意又は過失がなかつたことを証明して、前項に規定する責任を免れることができない。
第二十六条 前条の規定による損害賠償の請求権は、第四十九条に規定する排除措置命令(排除措置命令がされなかつた場合にあつては、第六十二条第一項に規定する納付命令(第八条第一号又は第二号の規定に違反する行為をした事業者団体の構成事業者に対するものを除く。))が確定した後でなければ、裁判上主張することができない。
② 前項の請求権は、同項の排除措置命令又は納付命令が確定した日から三年を経過したときは、時効によつて消滅する。
独占禁止法25条2項をみればわかると思いますが、独占禁止法上の損害賠償は「無過失責任」です。過失がなかったことを証明したからといって責任を免れることはできません。
さらに独占禁止法25条の損害賠償を使うためには先に排除措置命令が確定していることが必要になります(独占禁止法26条)。
独占禁止法26条の存在を忘れないようにしましょうね!
不公正な取引方法のエンフォースメント
排除措置命令(独占禁止法20条)
第二十条 前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。
② 第七条第二項の規定は、前条の規定に違反する行為に準用する。
前条というのは独占禁止法19条のことですので、「不公正な取引方法」全般について排除措置命令が可能ということになります。
独占禁止法7条と同様に、独占禁止法20条1項は現在の、独占禁止法20条2項は過去の違反行為を対象としているということがわかりますね。
課徴金納付命令(独占禁止法20条の2~6以下)
課徴金納付命令は不公正な取引方法でも可能ですが、少々条文がわかりにくくなっています。ここでは条文の掲載は省略しますが、各自見ておきたいところです。
長すぎて読めないよ!という方でも押さえておいてほしいのは
課徴金納付命令は一般指定の類型には適用されないということです。
すなわち独占禁止法2条9項1号~5号の類型しか課徴金納付命令は出せないということですね。
これはしっかり覚えておきましょう!!
損害賠償(独占禁止法25条、26条)
先ほどの議論と同様です。必ず独占禁止法26条より排除措置命令が確定していることを意識するようにしましょう。無過失責任でいけるのが独占禁止法25条です。
また民法709条ももちろん使えます。こちらは「過失責任」になりますので、過失の有無も問題になります。
差止請求(独占禁止法24条)
不公正な取引方法特有の条文です。すなわち、独占禁止法3条違反(不当な取引制限・私的独占)では使うことができません。
第二十四条 第八条第五号又は第十九条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
著しい損害という要件には要注意です。著しい損害とは市場から排除される恐れや新規参入の妨害、身体健康生命に対する危険など取返しがつかないものを指すともいわれています。
とにかく侵害行為が悪質で被侵害利益が大きいのであれば「著しい損害」に該当するというわけです。
まとめ
エンフォースメントをみてきました。
とりあえず、行政、刑事、民事のエンフォースメントがあり、
それぞれ細かく分けると、
排除措置命令、課徴金納付命令、罰金、損害賠償、差止請求
があるというわけです。
差止請求については不公正な取引方法しか使うことができません。
また、不公正な取引方法の中でも、一般指定によるものでは、課徴金納付命令をとることはできません。
この点を意識しながらあとは条文をしっかり見て考えていけば大丈夫です。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
経済法を本格的に学習する人の中で入門的に使ってほしい参考書を上げてみます。というか論証の暗記として使えるものを用意してみました。
とりあえず経済法のスタートは「要件の暗記」です。そのため、要件自体のガイドラインや判例通説をもとに逐条的に解説してある『条文から学ぶ独占禁止法(第2版)』をお勧めします。
ただし課徴金等の箇所は改正に対応していませんので、別途サイトの方から補遺をダウンロードすることをお勧めします。とはいえ、要件の部分は変更がありませんので試験対策としてはほぼ問題はないでしょう。