窃盗罪は、基本書等では分量が多いけど、結局論点がわからないんだよね
なるほど、それは窃盗罪の要件や保護法益から論点を導き出していないからだな。保護法益と要件を確認するだけで自然と論点がわかってくるぞ。
窃盗罪は、刑法各論の代名詞ともいえる分野です。論点が複数ありますが、すべて保護法益と要件によるものですので、保護法益と要件をしっかり押さえさえすれば大丈夫とされています。
今回も保護法益と要件を意識して、刑法各論としての論点を理解していくよう説明していきたいと思います。
窃盗罪のポイント
窃盗罪の保護法益は争いがありますが、はじめて刑法各論を勉強される方は占有と覚えておくとよいでしょう。これは占有権説の立場です。
また、要件としては他人の占有物、窃取、不法領得の意思が特に重要です。これらを深めると沼にはまってしまうので、ここでは判例通説をもとに解説していきます!
②窃盗罪の要件を押さえる。
①②しかなくて少ないと感じられるかもしれませんが、論点はいくつもあります。要件の理解の段階でその論点について解説していくので、要件を理解する=論点を理解することになるのです。
詳しく見ていきましょう。
窃盗罪の保護法益
本権説と占有権説の違い
窃盗罪の保護法益はかなり学説で争いがあります。大きな対立としては本権説と占有権説です。
本権説は、所有権をはじめとする正当な権原を保護しているというものです。ここで重要なのは所有権だけではなくて賃借権や使用貸借権といった「何かしらの正当な権原」に基づくものをすべて保護しているという点です。所有権だけではないことを理解しておきましょう。
占有権説は、占有していれば保護するというものです。本権説との大きな違いは「正当な権原でなくても」保護するという点ですね。この見解であれば窃盗犯人の占有すらも保護することになります。つまり窃盗犯が占有しているものを別の人が盗んだ場合には窃盗犯の占有に対する窃盗罪も成立するというわけです。
つまり本権説と占有権説の違いは「正当な権原ではない占有も保護してあげるのか」という点にあるというわけですね。
判例は一般に占有権説に立っているといわれています(ただし厳密には学説上の占有権説と異なります。この違いを知りたい方は基本書等で確認してみてください!)。
一番問題になるのは自救行為
本権説と占有権説の違いは正当な権原にない占有も保護するのか、という点でした。
そしてこの点が一番問題になるのが自救行為です。つまり、窃盗された人が窃盗された人から奪い返すような場面ですね。
この際に重要になってくる条文が刑法243条です。
(他人の占有等に係る自己の財物)第二百四十二条 自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。
この条文は自分の物も他人が占有しているときには他人の物とみなす、となっています。みなす規定なので反証ができないわけです(簡単にいうと絶対的な規定ということです)。
となると、自救行為の場面でも他者が占有していれば他人の財物となるので窃盗罪が成立することになります。
え、ということは本権説でも自救行為で窃盗罪が成立するってことですか?
そういうことさ。
なら、本権説と占有権説の対立は一体……
本権説は刑法243条があるから窃盗罪が成立するとし、占有権説は刑法243条は確認規定であってなくても窃盗罪が成立するということだね。
つまり、本権説と占有権説は刑法243条を使うか使わなくてもいいかの違いであって、結論としてはあまり変わらないということさ。
本権説は刑法243条があるがゆえに窃盗者からの窃取も窃盗罪が成立するとしています。一方、占有権説は刑法243条は確認規定でありなくても窃盗者からの窃取は窃盗罪が成立すると考えます。
結論としては変わりません。刑法243条を使うか使わないかの違いに過ぎないわけです。
ちなみに、判例は自救行為で元の所有者であるという点は違法性阻却事由で考える、としていますよね。
そうだね。穏便な自救行為や緊急性のある場合などは違法性阻却がされやすいが、違法手段での取返しなどでは違法性も阻却されないといってよいだろう。
自救行為の場合には違法性阻却を考えるという点を忘れないようにしましょう。
②判例、通説は占有権説であるから、保護法益は占有と考えておけばよい。
窃盗罪の要件
窃盗罪の要件をまずは条文をみて導き出そうとしてみます。
(窃盗)第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
ここで書かれざる要件として不法領得の意思があるといわれています。なおこの不法領得の意思は財産犯であればすべて成立するので注意が必要です。さらに、保護法益が占有であったことを踏まえると「他人の財物」は他人の占有する財物といえます。
他人の占有
保護法益より占有していることが必要です(本権説であっても占有していることは前提なのでどちみち占有は要件となります)。
まずは意外と、占有しているかどうかの判断は重要という点を注意してください。占有していなければ一般的に占有離脱物横領罪(刑法254条)が成立します。罪名がまったく変わってくるのです。
占有しているかどうかの判断は、総合考慮ですが、ここでは基準を挙げておきます。
物の大きさ
物が小さいと占有はすぐ失われがちです。小さい物の方がなくしてしまいますよね。それを法的には占有が失われやすい=占有が認めにくい、ということになります。
時間的場所的近接性
たとえば物を置き忘れた場合に、その物と人がどれくらいの距離離れたか、どれくらいの時間離れたかを考える必要があるというわけです。
置かれた場所の状況
物が置かれた場所が人の多い場所であった場合は占有は失われやすいです。渋谷のスクランブル交差点にアクセサリーを置いた場合、見失う可能性が高いことから理解できますね。また、解放されている場所(屋外)であれば占有は失われやすいことになります。
見通し
占有している物の見通しや被害者からの認識も考慮要素の一つになります。たとえば被害者が物の占有の認識を欠いてた場合などには占有は認められにくいです(忘れたことにの気づくのが遅れたなど)。
しかし、殺人の後に行われ時間的場所的近接性もある場合には占有が継続している(もっと言うと死を利用して窃取を行っている)として窃盗罪が成立すると考えられます。
たしかに、殺人をしてしまえば占有がなくなるから窃盗罪じゃなくなる、というのは殺人行為者が状況を作り出したうえに有利になるという結果になり、一般的にみてもおかしいですもんね。
財物
財物について、禁制品(鉄砲や覚せい剤など)も財物に含まれるとされています。またキャッシュカード、クレジットカード通帳も財物です。
窃取とは
窃取とは、占有者の意思に反する占有の移転です。ここでも占有がかかわってくるので、①他人の占有の要件をしっかり検討する必要があるわけです。
不法領得の意思
財産犯には明文の規定がないのに故意の他に不法領得の意思が必要だとされています。不法領得の意思とは㋐権利者排除意思㋑利用処分意思に分けられ、両方の要素が必要です。
権利者排除意思
権利者排除意思は、不可罰の使用窃盗との区別のためにあるとされています。使用窃盗といっても自転車を短時間で元の位置に戻すような場合には不可罰とされています(罰するほど違法な行為ではない)。
ただし使用窃盗が認められるのは限定されています。たとえば自動車などの場合には燃料の消費があるので基本的には使用窃盗ではなく窃盗罪が成立します。また元の位置に戻してなかったり使っている時間が長かったり、昼間の時間帯に使ったりした場合もほぼ使用窃盗は認められないでしょう=窃盗罪が成立するということになります。
使用窃盗が認められるのは限定的とはいえ、自転車を盗んで元の位置に戻せば罪に問われないってびっくりだね。
そうだね、使用窃盗は法律の抜け道としても紹介されるものだよ。
けど、ほぼ認められないと考えておいた方がよいだろう。
よい子はくれぐれもやらないようにね!
利用処分意思
利用処分意思は経済利用目的で盗むということです。毀棄罪(器物損壊罪などただ壊したことに対する罪)と区別するために必要とされています。窃盗罪には私欲が必要というわけです。
ただし判例では広く解されており、効用が経済的なものでなくても、当該財物を利用することによって利益が得られればよいと考えられています。
逆に利益が間接的な場合には利用処分意思は認められません。たとえば、刑務所に入る目的で盗むような場合にはその盗んだ財物から利益を得ようとしていないので利用処分意思がなく窃盗罪は成立しません。
まとめ
窃盗罪の保護法益は占有権説が通説です。特に自救行為の場合に問題になりますが、窃盗罪は成立し、自救行為であるという点は違法性阻却事由で考慮するというのが判例の立場でした。
他人の占有の要件は総合考慮です。問題文の記載に応じて臨機応変に対応できるように、演習を積みましょう。
その次に、財物性を検討します。キャッシュカードや手帳、禁制品も財物である点を押さえてください。
そして、占有が移転したかどうか(窃取)を考えます。
そのうえで故意と不法領得の意思を考えるわけです。不法領得の意思は㋐権利者排除意思と㋑利用処分意思を検討します。
このような論点を踏まえて保護法益と要件を再度見てみましょう。
窃盗罪の要件は①他人の占有②財物②窃取③故意④不法領得の意思
なんとなく保護法益と要件がわかってれば以上のような論点が出せると思いませんか?保護法益と要件を覚えて論点が導き出せるようにするのがおすすめの考え方です!
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。