教唆犯と幇助犯って、共犯の一種だよね。
そうだね。前回みた共同正犯との違いはわかるかい?
えっと、共同正犯は一緒に犯罪をしているけど、教唆犯・幇助犯は自分自身は犯罪にかかわっていません。
その考えだと共謀共同正犯と教唆犯・幇助犯の区別があいまいになりそうだね。
共同正犯と教唆犯・幇助犯の一番の違いは正犯意思がないことだよ。
共同正犯の要件について思い出してみましょう。
①共謀②実行行為(重要な役割)でしたね。①共謀の中身は、故意+正犯意思に基づく相互の意思連絡でした。詳しくは以下の記事をご覧ください。
つまり、共同正犯には共犯者全員に「正犯意思(自分で犯罪を実現する意思)」があったわけです。一方、教唆犯・幇助犯には正犯意思がありません。つまり自分で犯罪を行う意思はなく他人に犯罪をさせようという意思があるというわけです。
この考えは次回の間接正犯でも使いますので、覚えておきましょう!
このような違いを押さえたうえで、教唆犯・幇助犯について詳しく見ていきたいと思います。
教唆犯・幇助犯のポイント
教唆犯・幇助犯は実はあまり出題されにくい論点です。やっぱり共同正犯が主流ですね。
とはいえ、変化球として出題される場合はあります。その際に、論点を忘れることなく引き出すために有効なのは検討ポイントを押さえておくことです。
あまり出題されない分野であるからこそ、出題された場合にも現場で対応できるように検討ポイントだけは最低限でも押さえておく、というのが効率的なやり方だと思います。また共同正犯と教唆犯の区別や幇助犯と教唆犯の区別の方法も適宜書いていこうと思います。
よって、今回は検討箇所、検討ポイントを整理してまとめるかたちで書いていきたいと思います。
①教唆犯の検討ポイントを押さえる。
②幇助犯の検討ポイントを押さえる。
それではみていきましょう。
教唆犯の検討ポイント
教唆犯は刑法61条1項
検討ポイントを導くためには刑法をみるのが有効です。試験でも六法は見れることがほとんどだと思います。見れるなら覚える必要はない、という考えですね。
(教唆)
第六十一条 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。
2項は気にしなくて大丈夫でしょう。刑法61条1項をみると以下のような要件が導き出せます。
①教唆②(被教唆者)実行行為③故意
教唆犯は正犯(正犯意思がある=自己で犯罪を実現する意思がある)ではなく、共犯ですので、②の実行行為は被教唆者(他人)が実行行為をするということです。共同正犯の実行行為(自己の実行行為)とはニュアンスが異なるので注意しましょう。
問題は①教唆ですね。以下で詳しく見てみます。
教唆とは他人に犯罪を実行する決意を生じさせること
教唆とは他人に犯罪を実行する決意を生じさせることをいいます。
「あいつを殺してくれよー!」と頼むような場合ですね。
ポイントは、もともとは犯罪をする意思がなかった者に対して行うものであるという点です。
もとから犯罪を実行する意思があったとなれば、犯罪実行をする決意が生じることはないので教唆にはあたりません。注意しましょう。
教唆の故意には未遂の場合もありうる
教唆の故意の内容は、相手に特定の犯罪を行うよう決意させる、という認識・認容です。この特定の犯罪は未遂犯である場合もあります。
たとえば、逮捕させる目的で警察を張り込ませたうえで、他人に「窃盗してこい!」というような場合です。当人は「他人は逮捕され窃盗未遂となる」と想定したうえで「窃盗を教唆」しているので、この場合は窃盗未遂罪の教唆犯が成立します。
未遂犯と不能犯の違いも若干問題になることがあります。気になる方は以下のリンクをチェックです。
共謀共同正犯との違い
最後に共謀共同正犯との違いを理解しておきましょう。
共謀共同正犯については以下の記事に詳しく解説しています。
最初にも述べたように、共同正犯は当人にも正犯意思があります(自分で犯罪を実現させようとする意思)です。一方で教唆犯・幇助犯には正犯意思はありません。
つまり、正犯意思があるかどうかが共謀共同正犯と教唆犯の最大の違いというわけです。
しかし事案からこの違いを導き出すのは実際問題難しいことがあります。よっておすすめの考え方は、まずは共謀共同正犯から検討してみる、というものです。
共謀共同正犯は①共謀②実行行為に匹敵する重要な役割が要件でした。特に問題になるのが②でしょう。犯罪実現に②重要な役割をした人なのかな?という視点をもつことが大事です。
もし②重要な役割が否定されるなら教唆犯を検討しましょう。その際には①教唆の要件をしっかり検討してあげてください。もともとは犯罪意思がなかったかどうか、当人の教唆によって犯罪を決意したかどうかを検討します。
以上をまとめると以下のような手順になると思います。
- 手順1共謀共同正犯を検討する
①共謀(故意・正犯意思に基づく相互の意思連絡)②実行行為に匹敵する重要な役割の特に②が認めらえるかが重要である。
- 手順2共謀共同正犯が認められなかったらはじめて教唆犯を検討する
教唆犯の要件は①教唆②(被教唆者の)実行行為③故意である。丁寧に要件認定をしていく。
本当であれば、共謀共同正犯と教唆犯の最大の違いは正犯意思があるかどうかなので①共謀の正犯意思のところで区別したいところですが、刑法の事案でその区別方法は難しく(書かれていないことが多い)、②の重要な役割で区別した方が楽という考えです。
幇助犯の検討ポイント
幇助犯は刑法62条1項
(幇ほう助)
第六十二条 正犯を幇助した者は、従犯とする。
2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。
2項は気にしなくて大丈夫でしょう。刑法62条1項の要件をまとめると以下のようになります。
①幇助②被幇助者の実行行為③故意
教唆犯と似ていますね。教唆犯と同様に②の実行行為は自己の実行行為ではなく、被幇助者(他人)の実行行為である点に注意してください。
ここでは①幇助の意味を確認しておけば大丈夫でしょう。
また、基本的考え方の因果関係は幇助犯では考え方が変わってくるので詳しく見ていきます。
幇助は他人の実行行為を容易にすること
幇助とは文字通り「助けること」をいいます。助ける、とは他人が行う犯罪の実行行為を助けるということです。
意外に思われるかもしれませんが、刑法の幇助犯は物理的に助ける場合だけではなく、精神的に助ける場合も含まれるとされています。
つまり、応援でもそれが心理的に犯罪の助けとなれば幇助犯が成立するというわけです。がや(野次馬)でもそれが心理的助けになれば幇助犯が成立するので皆さんも注意してくださいね。うちのガヤがすみません、って感じです(笑)。
幇助行為と既遂結果は促進的因果関係でよい
幇助犯の因果関係は促進的因果関係でよいとされています。促進的因果関係とは、実行行為を強化して結果の実現を促進する関係のことです。
つまり、これまで因果関係でみてきた事実的因果関係=条件関係は必要ないということです。
具体例を見てみましょう。
たとえば犯罪のために拳銃を渡したとします。しかし実際は拳銃を使わず刃物で殺害した場合を考えてみましょう。この場合、幇助行為は拳銃を渡したことです。そして被幇助者は殺人の実行行為を行っています。
あくまで構成要件は実行行為を規定したものなので、因果関係の検討を忘れてはいけません。その際には幇助行為と他人の実行行為との間の因果関係を考えます。
この際、通常であれば事実的因果関係(条件関係)と法的因果関係(危険の現実化)を考えますが、幇助犯では促進的因果関係であればよいので、これらの検討は必要ないことになります。
拳銃を渡した行為によって被幇助者の実行行為がしやすくなったか、より犯罪を行う方向に向かったかを考えればよいのです(通常は認められるでしょう)。
幇助犯と教唆犯の区別は決意
最後に意外と悩む、幇助犯と教唆犯の区別について考えてみましょう。どちらも正犯意思がないという点では同じです。
しかし、教唆犯は「犯罪を決意」させることが必要でした。一方で幇助犯は「犯罪を容易に」させることで足ります。
つまりもともと犯罪意思のない者に対して犯罪を決意させるのが教唆犯であり、もとから犯罪意思がある者に対して犯罪の協力・助けをするのが幇助犯というわけです。
この点で教唆犯のところで何度も言った「教唆犯はもともとは犯罪意思がない者に対して行うものですよ~」という説明が生きてきますね!
まとめ
教唆犯・幇助犯をみてきました。実務上はほとんど(道具を貸す場合などくらいしか)使われていないらしいですね。しかし論述では教唆っぽい、幇助っぽいものが出てきたら最終的に成立しなくても検討するようにした方がいいと思います。
以下ポイントをまとめてみます。
〈教唆犯のポイント〉
㋐教唆犯の要件は①教唆②被教唆者の実行行為③故意である。
㋑教唆とはもともと犯罪の意思がない者に対して、犯罪の決意をさせる行為である。
㋒共謀共同正犯との区別の際には、最初に共謀共同正犯を検討し、重要な役割が認められない場合には教唆犯を検討するという流れをとればよい。
〈幇助犯のポイント〉
㋐幇助犯の要件は①幇助②被幇助者の実行行為③故意である。
㋑幇助犯の場合の因果関係は条件関係までは必要なく、促進的因果関係で足る。
㋒教唆犯との区別は「決意させたかどうか」「もともと犯罪を行う意思があったかどうか」が基準となる。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。