新株発行差止めの論点を初心者にもわかりやすく!【会社法その12】

新株発行差止め商法

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法上向
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会社法で一番難しい論点はなーんだ?

新株発行に決まってるじゃないですか!

法上向
法上向

そうだね,新株発行は条文も考え方も若干ややこしいよね。今回は新株発行の論点の中で最初の論点「差止め」について解説していこうか。

会社法で一番難しいとされている論点は新株発行です。この論点は条文のわかりにくさに加えて,公開会社と非公開会社とで方針が異なったりと覚えることも多い印象です。

しかし,その元となる考え方は単純ですので,その考え方を意識することで理解がしやすくなると思います。今回は最初の論点である「差止め」についてみていきましょう。

 

新株発行差止めのポイント

新株発行差止めは条文があるのでその条文を理解すればある程度はクリアできます。しかし,その条文に対応するのはどのような事象かを意識する必要がある点には注意が必要です。

また,新株発行の仕組みを理解することが,この論点の理解につながると思います。よって以下のポイントを中心に解説しようと思います。

①新株発行の仕組みを理解する。
②新株発行差止めの条文を理解する。
③有利発行,不公正発行について理解する。
それではさっそく見ていきましょう!

新株発行の仕組みを理解!

目的は資金調達

まず新株発行(新しく株を発行する行為)をなぜ行うと思いますか?多くは会社の資金調達のためです。たとえば株式会社は株を買ってもらうことで資金を得て会社の利益を伸ばそうとします。会社の利益が増え,手続をとれば資本金を増やすことも可能です。しかし,新しく事業を行おうとする際は先にそのための資金を得ておく必要があります。この資金調達方法にはいろいろなものがありますが,代表的な手段が,この新株発行です。

新しく株を発行し,買ってもらうことで資金を得るのですね。しかし,新株発行には弊害があります。たとえばもともとの株主が損をする(持株比率が低下する)おそれがあるといったものです。そのため,会社法では新株発行に手続規定を設けています。

新株発行の形式は2種類

会社法では新株発行の方法は株主割当てそれ以外に分かれています。

株主割当てとは簡単に言うと持株比率に応じて株を与える方法です。持株比率に応じて割り当てるので先ほど説明した,もともとの株主が損をする事態はほぼ生じないことになります。そのため手続も緩和されています。

問題はそれ以外の方法です。それ以外の方法は公募第三者割当てに大きく分けられます。

公募は文字通り,新株発行しますー,欲しい人この指とーまれ,のような感じで株を発行する方法です。上場会社では基本的に公募が利用されています。誰でも証券会社を通じて購入できる点からお分かりいただけると思います。

一方,第三者割当てとは,特定の第三者にだけ新株を発行する方法です。なんだか怪しい感じがしますね(笑)。裏取引のにおいがします(実際は必ずしもそうではないですよ!)。

インサイダー取引

このような怪しい発行方法に対して会社法は厳格な手続規定を置いてます。具体的な方法は次の項で説明します。とりあえずはいろいろな発行方法がある点を押さえましょう!

公開会社と非公開会社の違い

新株発行って資金調達手段だったんですねー。けど,たしか非公開会社は株の譲渡とかを厳格に扱ってましたよね。ということは非公開会社は新株発行をしたくないと思うんですけど…

法上向
法上向

よくぞ,いい点に気がついたな。非公開会社と公開会社では新株発行に対する考え方が異なるんだ。詳しくみていこう。

新株発行について,非公開会社と公開会社では考え方が大きく異なります。まずは非公開会社,公開会社の復習をしてみます。

非公開会社はすべての株式に譲渡制限がついている会社をいい,株式譲渡の際には会社の承認をもらう必要があります。いわゆる狭く深い交友関係を好むタイプです。株を信用できる人しか渡しません。そのため新株発行もしにくい傾向にあります。

つまり,会社が第三者に新株を発行してしまうと,なんであいつに株発行したの!あいつのこと知らないんだけど!とクレームが来るわけです。

非公開会社

非公開会社

一方で,公開会社は譲渡制限のない株式がある会社になります。自由に株式を譲渡できるということです。いわゆる,浅く広い交友関係を好むタイプです。そのため誰に発行するとかをあまり気にせず,新株発行しやすい傾向があります。つまり,第三者に株を発行しても,会社は持株比率が下がるのが嫌なら買い足せば?自由に売買できるんだし。とそっけない対応をされるというわけです。ドライな関係ですね。

公開会社

公開会社

このような非公開会社公開会社の違いを意識して次の項で条文を見てみましょう!

まとめ

新株発行についての仕組み,前提知識をざっくりまとめてみます。

①新株発行の目的は主に資金調達である。
②会社法では株主割当てとそれ以外で分けて規定されており,それ以外に含まれる第三者割当てが一番問題となる。
③新株発行では,非公開会社(狭く深い交友関係を好むタイプ)と公開会社(浅く広い交友関係を好むタイプ)の性格の違いを意識することが有効である。

新株発行の条文は会社法199条,210条を完璧に!

あくまでも基本は会社法199条

会社法では株主割当てそれ以外で規定されているといいましたが,問題になるのはほとんどがそれ以外のものです。よってそれ以外の発行手続に限って解説します。

会社法の新株発行で基本となる規定は会社法199条です。さっそく見てみましょう。

(募集事項の決定)
第百九十九条 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない
一 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)
二 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法
三 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
四 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
五 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
2 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
3 第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
この条文によれば,基本的に株主総会決議をしなければならないことになります(会社法199条1項2項)。

さらに有利な価格で発行する場合(有利発行)の場合は理由を説明することになるとこの規定されていますね(会社法199条3項)。

ひっかけの会社法201条

ところが公開会社は別の規定があります。公開会社はパリピなのでいちいち交友関係を広げるのに株主総会をとるということはしないのです。

会社法201条を見てみましょう。

(公開会社における募集事項の決定の特則)
第二百一条 第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。
2 前項の規定により読み替えて適用する第百九十九条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定める場合において、市場価格のある株式を引き受ける者の募集をするときは、同条第一項第二号に掲げる事項に代えて、公正な価額による払込みを実現するために適当な払込金額の決定の方法を定めることができる。
3 公開会社は、第一項の規定により読み替えて適用する第百九十九条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めたときは、同条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項(前項の規定により払込金額の決定の方法を定めた場合にあっては、その方法を含む。以下この節において同じ。)を通知しなければならない
4 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる
5 第三項の規定は、株式会社が募集事項について同項に規定する期日の二週間前までに金融商品取引法第四条第一項から第三項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、適用しない。
長いですが,簡単に言うと,有利発行を除き取締役会決議でオッケーということです。有利発行はさすがにワイワイ系でも許さないということですね(既存株主の権利を大きく害するためです)。

さらに通知・公告をする必要がある点も注意が必要です。

199条を見つけて安心するのではなく,公開会社であれば201条も見なければならない点を意識しましょうね。

まとめ

新株発行の手続のコツは以下になります。

①非公開会社は株主総会が必要である。
②公開会社は基本的に取締役会で足る。ただし通知・公告はしなければならない。
③有利発行は非公開会社も公開会社も株主総会決議かつ理由の説明が必要である。

新株発行差止め(会社法210条)のポイントは有利発行・不公正発行

以上が仕組み,手続について説明してきました。いよいよ会社法の論点です。

新株発行される前であれば株主は新株発行の差止めを求めることができます。まずは条文を見てみましょう。

差止めの条文は会社法210条

第五款 募集株式の発行等をやめることの請求
第二百十条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。
一 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
二 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合
条文では1号で法令定款違反,2号で著しく不公正な方法による発行を規定しています。
しかし,定款に違反することは稀です。さらに公開会社では取締役会決議手続違反,非公開会社では株主総会決議手続違反ということもあり得ますが,意外と問題として出にくいと思います。
法上向
法上向

差止めの問題でよく出る瑕疵は有利発行に関するものと不公正発行(2号)だ。

有利発行?あぁ,公開会社で有利発行なのに株主総会を決議していない場合ってことですか?

法上向
法上向

そういうこと!もう一つの不公正発行とは会社が支配維持のために発行することだな。

会社法の差止めの問題になるのは大きく2つ。有利発行なのに株主総会をしていない場合と不公正発行です。それぞれみていきましょう。

有利発行

有利発行は,非公開会社でも公開会社でも株主総会決議が必要です。となると,どの程度安く売った場合が有利発行となるかが問題となります。

たとえば資本提携のうわさがたって株価が上昇した場合はどうなるでしょうか?上昇前の株価で売ったら有利発行となるでしょうか?

このように難しい問題がはらみますが,とりあえずは株式の価値をきちんと反映された価格で売っていれば有利発行にはあたらないと考えておけば大丈夫だと思います。細かい議論はここでは省略します。

不公正発行

不公正発行は,会社が支配維持のために株式を発行する場合と考えれもらえれば大丈夫です。このような不行正発行は,さすがに許すまじという配慮が働いていると思います。

しかし,判例では不公正発行はなかなか認められにくい傾向にあります。株主が「この発行は不公正発行だろ!会社支配維持のために発行したんだろ!」と主張しても「いやー,資本提携のために発行したんですぜい。なにを言ってるんだか。」といって,資本提携の主張が通りやすいからです。逆に言うと,支配維持目的でした!という立証は難しいということになります。

とはいえ,条文上差止めの要件とはなるので,問題になりそうであれば検討するとよいでしょう。

まとめ

長く見てみましたが,結局は以下の通りになります。

新株発行の差止めは会社法201条を用いる。
有利発行で株主総会をしていない場合と不行正発行が主に問題になりやすい。

まとめ

以上いろいろな問題をみてきました。仕組みは頭の中にざっくり入れておけば足り,手続は条文に書いてあります(ただし会社法201条に注意)。

よって覚えるべきは差止めの要件であり,有利発行と不行正発行を意識していれば基本的に大丈夫といえしょうです。

このように体系的にみれば覚えることは少ないと思うので頑張りましょう!私も頑張ります!

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

会社法の基本書はどれも難解だと思います。問題で論点をつかみながら理解するとよいです。そのため解説の詳しい問題集を載せておきます。参考にしてみてください!

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