刑事訴訟法の訴訟法の最初の難関が訴因の特定ですよね。
そうだね,けれど訴因の特定は比較的わかりやすいぞ。理論がしっかりしているからね。詳しく見ていこうか。
訴因の特定の問題は,識別説や防御権説といった学説の対立が多少はありますが,比較的理解がしやすい分野だと思います。そのため,ここでは基本的なことに加えて,訴因の特定と釈明の関係についても解説できればいいなー,と思います。
ではさっそく見ていきましょう。
訴因の特定のポイント
訴因の特定で大事なのは,訴因の趣旨と訴因特定の要件です。これさえ押さえれば最低限はクリアしたといってよいでしょう。それに関連して概説的記載が許されるかどうかの問題があります。また特定されていないときにどう対応すべきか,といった釈明の問題もあるので合わせてみていきましょう。
②概説的記載の論点を理解する。
③釈明について押さえる。
訴因の特定の要件
まずは刑事訴訟法256条3項を確認
訴因について書いてある刑事訴訟法256条を見てみましょう。
第二百五十六条 公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。2 起訴状には、左の事項を記載しなければならない。一 被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項二 公訴事実三 罪名3 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
ここで訴因はどのようなものであれば適切に書かれたとされるのか=何を書けば訴因は特定されたといえるのかが問題となります。これが俗にいう訴因の特定の問題です。
訴因の特定の趣旨
訴因を特定する趣旨・理由は次のように言われています。
②防御範囲の明示
②は被告人に対する考えです。被告人・弁護人にとって検察官がどの事項について問題としているのかが大事になります。そのため,訴因はあらかじめどの範囲の範囲のどのようなことを裁判で争うのか,逆にいえば被告人はどの事項について防御(守る準備)をすればいいのかが明らかになるわけです。
学説では,この①②は表裏一体の関係にあるとされています。つまり①=②ということです。審判対象の確定がされていれば防御範囲の明示は行われているし,防御範囲の明示がされているということは審判対象の確定もされているというわけですね。
以上を踏まえて,訴因特定の要件を見てみましょう。
訴因特定の要件は2つ
訴因特定の趣旨を踏まえて,訴因特定の要件を導き出すと以下のようになると言われています。
①他の犯罪事実との区別
②犯罪の構成要件に該当する具体的記載
理論的に考えても,そもそも犯罪事実について起訴するわけですから,②は当たり前に訴因に書くべきであることはわかりますし,①は審判対象の確定(防御範囲の明示)のためには必要ですよね。
なるほど,じゃあ上記①②が最低限書かれていれば,他の部分はテキトーに書いても問題ないんですね。
それがそうでもないんだよ。訴訟だから細かい部分も具体的に書かれている方が裁判所もありがたいだろ。だから刑事訴訟法256条3項但書があるんだぞ。
概説的な記載は許されるか
刑事訴訟法256条3項但書に注意
訴因の特定の要件である①他の犯罪事実との区別②犯罪の構成要件に該当する具体的記載が書かれていたとしても実はそれで訴因の問題は終わりではありません。
ここでまた刑事訴訟法256条3項を見てみましょう。
第二百五十六条3 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
なんと,刑事訴訟法256条3項但書で訴因は「できる限り」具体的に書け!と言われていますね。
つまり,上記①②の要件を満たしていたとしても,日時場所等を具体的に書かれていなければ刑事訴訟法256条3項違反となるわけです(これも訴因特定の要件として訴因特定違反とする学説もあります)。
くそ,①②だけ満たして訴因を書けば他はざっと書いてサボれるとおもったのに……(検察官志望)
人生そんなにあまくないってことだぞ(笑)。
概説的な記載が許される場合
刑事訴訟法256条3項但書によれば具体的記載が求められますが,実は判例では概説的記載も認められたものがあります。
覚せい剤事件の他,殺人事件のようなTHE刑訴の事件でも認められいます。なぜでしょうか?
それは特殊事情があったからとされています。たしかに刑事訴訟法256条3項但書も「できる限り」とされていただけで絶対的要件とは読めません。つまり,犯罪の種類や性質により犯行の方法等を具体的に記載することができないような特殊事情があれば概説的記載でも許されるというわけです。
またこの特殊事情に加えて,被告人の防御の範囲を害さないことも考慮するとの学説もあります。
ということは特殊事情があれば訴因全体概説的に書いていいってことですね。
よくある勘違いだね。特殊事情がある場合でも①他の犯罪事実との区別②犯罪の構成要件に該当する具体的記載は絶対的に必要なんだ。これがないと訴因は特定されないからな。だからこの①②は必須要件だといったんだよ。
訴因特定についての釈明
では,検察官が起訴状に記載した訴因が特定されていない不十分なものだと考えられる場合,裁判所はどうすればいいのでしょうか。
裁判所からの釈明権
裁判所は,訴因特定されてねーじゃん,ダメ~と言って,公訴棄却すると考えるかもしれませんが,さすがにすぐにそんな判断はしません。とりあえずは,訴因ちょっと特定されてないんじゃない?もうちょっと訴因具体的にしてよ。といった具体に検察側に釈明を求めます。
刑事訴訟規則
(釈明等)
第二百八条 裁判長は、必要と認めるときは、訴訟関係人に対し、釈明を求め、又は立証を促すことができる。
釈明を求めても検察官が応じないときに,ようやく公訴棄却判決をすることができるのです。
釈明に応じた場合は訴因が変わることになるので,訴因変更手続がとられることになります。
訴因は特定されているが求釈明したい場合
では,訴因特定の要件①他の犯罪事実との区別②犯罪の構成要件に該当する具体的記載は満たしているんだけど,裁判所がより訴因を具体化したいと思って求釈明した場合はどうなるでしょうか?
この場合も検察官には釈明義務が発生するのは上記の場合と同様です。
しかし,たとえ,検察官が釈明しなくても裁判所は公訴棄却判決をすることはできないと考えられます。訴因自体は特定されているためですね。学説におよっては特殊事情を訴因特定の要件として控訴棄却すべきとする考えもあるかもしれません。
また,検察官が釈明した場合も訴因変更手続は必要ないことになります(訴因の特定の必須要件ではないため)。ただし,争点顕在化措置がとられることはあります。
まとめ
以上,訴因の特定の問題を見てきました。要件は2つだけなので比較的わかりやすいと思います。再度以下にまとめてみましょう。
これが満たされていたとしても,刑事訴訟法256条3項但書より「できる限り」具体的記載が必要となるが,特殊事情があれば概説的記載でもよい。
訴因特定の①②が欠ける場合は裁判所は釈明を求め,検察官はそれに応じなければならない。仮に応じなかった場合は公訴棄却となる。
参考文献
刑事訴訟法の参考文献として「事例演習刑事訴訟法」をお勧めします。はじめての方にとっては解説が大変難しい問題集ですが,非常に勉強になるものです。また,冒頭にあります答案作成の方法について書かれた部分については,すべての法律について共通するものなのでぜひ読んでほしいです。自分も勉強したての頃にこれを読んでいれば……と公開しております。
最初は学説の部分はすっとばして問題の解答解説の部分だけを読めばわかりやすいと思います。冒頭の答案の書き方の部分だけでも読む価値はあるのでぜひ参考にしてみてください。