文書偽造罪の複雑さを解消!わかりやすい解説【刑法各論その18】

文書偽造罪刑法

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偽造罪って種類が多いし、結局問題をみても、何から考えていいか、わからないんですよね。

法上向
法上向

なるほど、それは偽造の意味をよく理解していないからかもしれないね。

え、偽造って、何かを偽って書くことですよね?

法上向
法上向

そんな風に漠然と考えてしまうと失敗してしまう可能性が高いな。今回は偽造罪について詳しくみていこうか。

偽造罪は種類が多く、学説の対立もあるため、初学者にとっては、結局どうやって解けばいいの?となってしまう可能性が高い分野です。

今回も、学説の対立には踏み込まず、判例・通説の立場から、わかりやすさ第一に解説していきたいと思います。

文書偽造罪のポイント

偽造の保護法益を押さえましょう。刑法各論の基礎は保護法益と要件を押さえることにあるからです。偽造の保護法益は文書に対する信用です。

そのうえで、要件、特に偽造の定義を確認します。偽造は、名義人と作成者の同一性が異なることです。

んなことわかっとんじゃい!けど問題みるとよくわかんないんじゃい!という方こそ、以下の解説を参考にしてみてください!

①偽造罪の保護法益を押さえる。
②偽造罪の要件を理解する。
③論点である、文書の性質上同意が許されない場合について理解する。
④論点である、肩書資格の偽造について理解する。
⑤行使罪の検討を忘れないようにする。

それでは見ていきましょう。

文書偽造罪の保護法益

偽造罪の保護法益は文書に対する信用です!公文書は公共のために信用が大事ですし、私文書も少なくとも当事者間では信用される必要があります。また、文書というのはいろいろな場面で作られ、証拠として使われることもありますよね。

このように文書は意外と信用性が必要とされる場面が多い=信用性を守らなければならないものというわけです。

よって、文書を偽造するような行為は違法とされるのですね。

文書偽造罪の要件

偽造には有形偽造と無形偽造がある

文書偽造罪には複数の種類があります。まず偽造には有形偽造無形偽造があることを押さえましょう。

有形偽造は今から見ていく通常の偽造です。無形偽造は虚偽作成と言います。わかりにくいため、偽造には典型的な有形偽造と虚偽作成の2種類があると思っておくとよいです。

虚偽作成罪が出題されることは稀です。今回は省略させていただきます。

また、条文をみると、変造も偽造の箇所で合わせて規制されていることがわかると思います。変造とは、文書の本質ではない部分を変えることです。問題としてはほぼ出題されないので特に気にしなくてよいでしょう。

文書偽造罪で重要なのは、公文書偽造罪と私文書偽造罪です。これらはTHE基本罪名としてわりと出題されます。

しかし、文書偽造罪はとっかかり(何から論じればよいのか)がわかりづらい分野です。要件からしっかり論じるべきポイントを確認していきましょう。

私文書偽造等罪(刑法159条)の要件

なぜ私文書偽造罪の方から検討するのかと疑問に思った方もいると思います。

答えは簡単です。圧倒的に私文書偽造罪が出題されることが多いからです。公文書偽造罪ってそもそも公文書じゃないといけないので事例が作りにくいんですよね。それに対して私文書偽造罪は文書でありさえすれば出題できるので、いろいろな事例で出すことができるからだと考えられます。

よって私文書偽造罪を通して、要件→論点を最初に確認した方が効率がいいと思います!

刑法159条をみてみましょう。

(私文書偽造等)
第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

まずは1項2項3項の違いを理解しましょう。

1項は有印私文書偽造罪、2項は有印私文書変造罪、3項は(無印)私文書偽造罪・(無印)私文書変造罪です。

出題されるとすれば、有印私文書偽造罪(刑法159条1項)と(無印)私文書偽造罪(刑法159条3項)のいずれかです。要件は署名・印章があるかどうか以外変わりません。

①文書性②偽造③有印④故意

それぞれの要件についてみていきましょう!

①文書性

文書性はいろいろな考慮要素がありますが、ほとんど文書として認められるため特段論じる必要はないと思います。よっぽど変な物でない限り簡単に認めれば大丈夫でしょう。

文書性を「ちゃんと」論じなければならないのはコピー文書の場合です。

判例・通説はコピーした物にも、原本と同様の社会的機能と信用性があるため、文書性が肯定されるとされています。

さらに現代ではコピーの技術も上がっているので、コピーでもほぼ確実に文書性の要件は満たされるでしょう。

しかし判例もあるので、コピーの文書の場合には文書性の要件もしっかり検討してあげましょうね。

②偽造

偽造の定義をまず覚えましょう。

名義人と作成者の同一性の人格の同一性を偽ることです。名義人と作成者の間で人格的同一性がない場合は偽造ということになります。

その定義はすごくよくわかるんですけど、結局問題みたときに、名義人って何?作成者って何?ってなるんですよね。

法上向
法上向

そうだね、偽造は定義を覚えること+名義人・作成者の定義を覚えることも必要なんだ!

名義人とは、文書から看取される作成者のことです。これも覚えましょう。

となると名義人はすごく簡単に定まります。文書から見て取れる者の名前を考えればいいだけですから。深いことを考えずに単純に調べればよいのです。

作成者とは、文書作成の意思主体のことを言います。意思説からの見解です。作成者は非常に慎重に考えなければなりません。具体的事案に応じて、「この文書の意思は誰に帰属する・由来するんだ?」ということをじっくり考えるのです。単純に文書を作った人ではない点に注意しましょう。

たとえば、以下の事案を考えてみましょう。

会社でコピー権限が与えられている課長が会社名義の文書をコピーした場合はコピー文書は偽造になるか?

コピーされた文書も文書性が認められるんでした。次に偽造を考えますよね。偽造は名義人と作成者の人格的同一性を欠くことでした。

となると名義人作成者が誰かを調べる必要があります。

名義人は文書から看取される作成者でした。今回の文書は会社名義ですので、会社だとわかります。

次に作成者です。作成者はコピーをした課長……って思いませんでしたか?

作成者は具体的事案に応じて慎重に検討する必要があるのです。たしかにコピーを作成したのは課長ですが、課長はコピーする権限を与えられていました。すると文書の意思主体は会社になるのです。会社が課長にコピーすることを許している場合には意思の享有主体(文書による効果を受ける者)は会社になるというわけですね。

このように名義人は深く考えずに特定する、作成者は逆に慎重に特定する、ということを意識しましょう!

③有印

有印があれば1項の有印私文書偽造罪、なければ3項の(無印)私文書偽造罪になります

有印要件って簡単ですよね。署名か押印があるかどうかみればいいんですもんね。

法上向
法上向

その考えは危ういな。有印は「名義人」の有印が必要ということを忘れるな!

有印は名義人の署名・押印を必要とします。でなければ文書の信用性を保護法益とする文書偽造罪において文書の信用性・価値は高まらないからです。

有印があれば文書の信用性が高まる、その文書を偽造したのであるから、有印私文書偽造罪は無印の私文書偽造罪より刑が重くなるんです。

偽造の箇所で、名義人については特定していると思います。その者の有印があれば有印私文書偽造罪(刑法159条1項)というわけです。

上の事例

会社でコピー権限が与えられている課長が会社名義の文書をコピーした場合はコピー文書は偽造になるか?

でいうと、有印とは課長の署名・押印ではなく、会社の署名・押印があるかどうかを検討することになります。※しかし上記でみたとおり、この事案ではそもそも偽造が認められないので有印の要件を検討する必要はありません。

公文書等偽造罪(刑法155条)の要件

条文は刑法155条になります。

(公文書偽造等)
第百五十五条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

1項と2項と3項の違いに注意してください。

1項は有印公文書偽造罪、2項は有印公文書変造罪、3項は無印公文書偽造・変造罪といいます。

基本は1項でしょう。公文書は有印=公文書の名義人からの署名や押印がることが通常だからです。また、公文書の場合の有印は公務員の印章である必要があります。

1項2項3項の違いを理解したうえで、1項についてのみ要件を考えてみます。

①公文書②偽造③有印④故意

要件の検討は私文書偽造罪でやったこととほぼ被るので大丈夫でしょう。

偽造は名義人と作成者の人格的同一性を偽ることであり、名義人は文書の看取を考えるから簡単だが、作成者は意思主体を慎重に考える必要がある(同意があるかなど)点には注意してください。

論点:同意が許されない文書

偽造の名義人の箇所でもやりましたが、本人の同意があれば実際に手を動かして文書を作った人ではなく本人が作成者となります。文書の意思主体が作成者となるからです。

しかし、本人の同意があっても、文書の性質によってはその同意は許されないものとされ、作成者は実際に手を動かした者となることがあります

交通事件原票供述書

Bさんが交通違反をした際に、もしものときには使っていいよとAさんが自己の名義の使用を許可していたので、Bは、交通事件原票供述書(=交通違反事実を認めますという供述)を書いてAの署名をした場合を考えてみましょう。

まずは交通事件原票供述書というのが私文書である点を確認します。供述書部分は私文書扱いとされているのです。他の部分は公文書です。

この場合、名義人は看取できる人なのでAとなります。作成者もAの同意があるため、Aとなりなりそうですが、交通事件原票供述書は文書の性質上、名義人以外の者が作成することが許されない文書であるため、名義人の同意があったとしても、作成者はBとなります。よってAとBで人格的同一性が異なるため、偽造とされるわけです。

このような文書の性質上、名義人以外の者が作成することが許されていない文書として、運転免許証申請書や入試答案、クレジットカード申請書、預金口座作成申請書などが挙げられると思います。

論点:肩書・資格の冒用

肩書の冒用も偽造になるとされています。

つまり名義人「〇〇の資格があるA」と作成者「〇〇の資格がないA」である場合、名義人と作成者の人格的同一性が異なるので偽造になるということです。同じAでも肩書・資格が異なればアウト!というわけですね。

ジュネーブ国際旅行連盟事件

超有名なジュネーブ国際旅行連盟事件(最決平成15年10月6日)を参考に考えてみましょう。

発給権限がないのにもかかわらず「国際旅行連盟」と書かれた国際運転免許証のような文書を発給しました。この場合、有印私文書偽造時が成立するでしょうか。

①文書性は問題ありません。問題になるとすれば②偽造です。

名義人文書から看取される者でした。なので「国際旅行連盟団体」です。ここでは、国際運転免許証はジュネーブ条約に基づく発給権限がないとだめなので「ジュネーブ条約に基づく発給権限のある国際旅行連盟団体」が名義人と考えられます。

一方、作成者は意思主体でした。意思主体を同意がないとして作った人(団体)とすることもできますが、判例は意思主体を「ジュネーブ条約に基づく発給権限のない国際旅行連盟団体」としました。あくまで意思主体は国際連盟団体にしたようですね。

すると、名義人は「発給権限がある」国際旅行連盟団体、作成者は「発給権限のない」国際旅行連盟団体となり、人格的同一性を欠くため偽造というわけです。

この判例が出たため、偽造は肩書や資格を含めて広く名義人と作成者を考える傾向が出てくるようになりました。名義人A、作成者Aだから偽造ではない、と早々に結論づけるのではなく、名義人〇〇の資格のあるAと作成者〇〇の資格のないAというような形で偽造になる場合ではないか?という視点を持つことも大事というわけです。

偽造文書行使罪

偽造公文書行使罪(刑法158条)・偽造私文書行使罪(刑法161条)

最後に、非常に忘れがちな偽造文書行使罪について確認してきましょう。文書偽造罪は偽造すればその時点で犯罪が成立します。そして、さらにその偽造文書を使った場合は、別に行使罪が成立するのです。

偽造公文書行使罪は刑法158条にあります。

(偽造公文書行使等)
第百五十八条 第百五十四条から前条までの文書若しくは図画を行使し、又は前条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。

偽造私文書行使罪は刑法160条にあります。

(偽造私文書等行使)
第百六十一条 前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。

どちらも行使の定義を考えることが大事です。

行使とは、真正なものとして使用すること

偽造文書の行使とは、不真正又は内容虚偽の文書を真正なもの又は内容真実のものとして使用することです。

偽造公文書であれ偽造私文書であれ、真正なものとして使用すればいいわけですね。人に見せた場合にはほぼ確実に行使といえます。また、その文書の性質上「真正なものとして使用されている」とされる場合にも行使は認められます。戸籍謄本を所定場所に保管する場合などは「行使」を満たすわけです。

一方、偽造運転免許証は携帯しているだけでは行使ではなく、警察官等に見せた場合にはじめて「行使」となるとした裁判例もあるので注意しましょう。

文書偽造罪と偽造文書行使罪は牽連犯

罪数関係としては、偽造罪と行使罪は牽連犯(刑法54条1項後段)です。併合罪や観念的競合ではない点に注意してください!

なお、牽連犯としてよく出てくるのは偽造→行使か住居侵入の2つだけなのでこの場合だけ牽連犯と覚えておくと楽だと思います。

まとめ

以上、文書偽造罪についてみてきました。

要件と論点がさまざまありますが、結局は偽造=名義人と作成者の人格的同一性を考える上での論点ということがわかっていただけたでしょうか。

つまり、文書偽造罪の論述としては以下のようになるでしょう。

文書偽造罪の検討手順
  • 検討1
    条文を確定させる

    公文書か私文書か、変造か偽造か、有印かどうかおおよその検討をつける。

  • 検討2
    要件立てをする

    私文書偽造罪であれば①文書性②偽造(③有印)④故意である。

  • 検討3
    文書性の検討

    コピーでない場合は軽めでよい。

  • 検討4
    偽造の検討→名義人

    文書から看取される作成者を単純に考えればよい。

  • 検討5
    偽造の検討→作成者

    文書の意思主体を考える。特に同意がある場合に注意!

  • チェック1
    作成者について同意が許されない文書ではないか?

    文書の性質上、同意が許されない場合は作成者は作った人になる。

  • チェック2
    名義人と作成者が同一でも肩書・資格が異なっていないか?

    判例を踏まえると、肩書・資格の有無も偽造になるため。

  • 検討6
    故意の検討

    簡単でよい。

  • 検討7
    偽造罪が成立する場合、行使罪を忘れずに。

    非常に忘れやすいが得点が高いので、忘れずに検討する。牽連犯(刑法54条1項後段)になる点も注意。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。

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