競業取引っていろいろパターンがあって覚えられません!
パターン⁉そんなの条文を上手に読めば一発さ!
会社法上の論点としてよく出てくるものに,競業取引と利益相反取引があります。今回はそのうちの,競業取引について説明していきます!
競業取引のポイント
競業取引は意外と間違えやすい論点だと思います。どうしても利益相反とごっちゃに考えてしまうんですよね。今回はどのような点に着目すればいいかを中心に書いていきます。
②競業取引の場合について条文からわかるようになる。
③競業避止義務違反の処理について理解する。
競業取引の手続はひっかけ問題
競業取引とはどのような場合か?
ここで勘違いをしてしまうと,これ以降の問題点もずっと間違って理解してしまうことになってしまいます。意外とイメージがつきにくいのでしっかり押さえましょう。
競業取引とは,自身の会社と競業する行為を行うことであり,基本的に取締役は競業避止義務があります。会社の経営を行う取締役が自身の会社の損失になるような競業取引をするな!というものですね。よくある間違いとして,自身の会社と競業会社との取引を想定してしまう場合があります。これはどちらかといえば利益相反取引であって本来の競業取引とはことなるのです。以下の図を参考にしてください。
緑の会社に所属する取締役(オレンジ)が青の会社の(代表)取締役でもあり,青の会社の取引と緑の会社の形態や市場に重なりがあれば,競業しているといえ,オレンジ取締役は競業避止義務に違反することになります。この赤の取引(つまり青の会社が行う取引)を競業取引というのです。緑の会社は競業取引の当事者ではない点に注意してください!
手続は条文に載っているが罠にかかるな
取締役が「どうしても競業取引を行いたい!」と言う場合,会社法では一定の取引をとれば許されることになります。では条文を見てみましょう。
(競業及び利益相反取引の制限)第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
楽勝だね!上の図でいうと青の会社の株主総会決議で承認してもらうわけだね。
本当にそうかな?会社法の罠に引っかかっていないかい?
(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)第三百六十五条 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。2 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
問題としてよく出てくるのは,取締役会設置会社ですが,よく356条だけを見て手続を確認してしまいます。しかし,取締役会設置会社であれば365条も見なければならないわけです。
取締役会設置会社で競業取引を行いたい場合は①事前に重要な事項開示②取締役会決議③事後に重要な事項開示の3段階の手続が必要ということになります。
競業取引をしたい場合の手続は356条1項1号を見る。しかし,取締役会設置会社の場合は356条の十の位と一の位をひっくり返して365条も見る。会社法の罠にひっかからない。
競業取引の承認が必要な場合は条文から考える
競業取引の大まかな説明が終わりましたが,どういう場合に競業取引手続(356条1項1号,取締役会設置会社なら365条)が必要かどうかをしっかり理解しておく必要があります。
条文を読むときのコツ
ここでもう一度356条1項1号を見てみましょう。
(競業及び利益相反取引の制限)第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
①の「取締役」とは,自己の株式会社の取締役と読んでください。
②の「自己又は第三者のために」は文字通りです。
③の「株式会社の」とは,自己の株式会社と読んでください。
④の「事業の部類に属する取引」とは,対象商品と対象地域が重なる取引と読んでください。
つまり,自己の株式会社の取締役が自己又は第三者のために自己の株式会社の対象商品と対象地域が重なる取引が競業取引なのです。あくまでの条文の書き方の視点は自己の株式会社に置かれています。これで完璧に,競業取引についてマスターしたことになります。
このような競業取引を別の会社でする場合に競業取引の問題が発生するのです。
当該取締役が敵の会社の代表取締役パターン
取締役が競業取引を行う場合,その取締役はどうでなければならないかを考えてみましょう。別の会社の平取締役の場合,競業取引を行うことができるでしょうか?できませんよね。平取締役は会社の経営の決定権はあるものの実行者ではないのです。よって,競業取引は,その取締役が代表取締役である必要があるのです。
上図でいえば,P社取締役が自己もしくはQ社のために,P社の対象商品や対象地域が重なる取引=競業取引が問題になっています。オレンジの取締役はQ社の代表取締役ですから競業取引の実効性もあるので,手続が必要なわけです。もしオレンジ取締役がP社の平取締役だけであり,別の人が代表取締役であれば,オレンジ取締役がやっているわけではないのでQ社の取引は競業取引ではありません。
さらに,オレンジ取締役は自社(P社)では代表取締役ではなくてもよい,という点にも注意が必要です。なぜなら条文には取締役としか書かれていないからですね。すこし複雑なように見えますが,条文を詳細に補いながら読めば,見えてくると思います。
当該取締役が敵の会社の大株主のパターン
基本的に敵の会社の代表取締役であれば競業取引を行える立場にあるので,競業取引の問題になるということは説明しました。もう一つだけ競業取引に当たるとされているパターンがあります。それが,取締役が敵会社(競業会社)の大株主(50%以上の株であればよいとする有力説)である場合です。
この場合でも,過半数の議決権があるので株主総会で取締役も選べますし,実質的に会社を支配しているといえそうです。そのため,競業取引を敵会社に行わせることができるわけです!
P社取締役が自己もしくはQ社のために,P社の対象商品や対象地域が重なる取引=競業取引が問題になっています。オレンジの取締役はQ社の大株主ですから競業取引を行わせることもできるので,手続が必要なわけです。
覚えるというよりも,条文から競業取引を理解し,それを行うことができるのはどのようなときかを考えるようにしていくと楽だと思います。
取引じゃなくてもいい?
最後に一つ。競業取引といっていますが,実は取引ではなく,就任の場合も競業取引の手続をとるのが通例になっています。これは当該取締役が敵会社の代表取締役に就任すれば,競業取引を行うことはほぼ確実といえるので,あらかじめ包括的に承認を得ておこうという考えによります。つまり以下の場合でも競業取引の手続,承認を得ておくと考えるわけです。
そして,それを行うためには当該取締役は,敵会社の代表取締役あるいは大株主でなければならない。
さらに,敵会社の代表取締役就任の場合も競業取引の承認をとる。
まとめ
いかがだったでしょうか。競業取引は意外と狙われる分野です。さらに条文の罠やどのような場合に競業取引の規定が適用されるかわかりにくく勘違いしやすいです。
競業取引の承認が必要な場合というのは敵会社で当該取締役が競業取引を行わせることが必要なので,当該取締役は敵会社の代表取締役か大株主でなければならない。
敵会社の代表取締役就任の際は将来の競業取引に備えて競業取引の承認を得ておく。
参考文献
会社法の基本書はどれもかなり難解だと思います。問題で論点をつかみながら理解するとよいです。そのため解説の詳しい問題集を載せておきます。参考にしてみてください!