即時取得についてなんとなく理解できました。即時取得は一発逆転のすごい裏技ですね。
そうなんだ。けれど、即時取得による不都合が出てくるとも考えられるんだけど、どんな不都合かわかるかい?
即時取得の不都合??
あんまり思いつきませんが……。
まぁそれもそうだよね!
今回は即時取得の例外についてみていくよ!
即時取得は前回取り扱ったとおり、無権利者からの動産取得を可能とする、一発逆転の裏技です。
スマブラでいうところの最後の切り札ですね。
さて、即時取得は強力であるがゆえに、いくつかの例外が定められています。今回はその例外について解説していきます!
即時取得の例外のポイント
即時取得の例外は民法193条、民法194条に規定されています。
それぞれ民法193条、民法194条がどのような場面を想定しているのかを押さえるようにしましょう。
後は条文理解なので、しっかりと条文の意味を理解すれば、どの問題にも対応できるようになります。
①民法193条を理解する。
②民法194条を理解する。
それでは見ていきましょう。
盗品又は遺失物の回復(民法193条)
条文は民法193条
まずは条文の確認です。民法193条をご覧ください。
(盗品又は遺失物の回復)
第百九十三条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
ここでいう「前条の場合」とは、民法192条のこと、すなわち即時取得のことを指します。
そして占有物が「盗品又は遺失物」であることが必要となります。
また、「二年」以内に請求する必要があるという点も忘れないようにしましょう。
以上の要件がそろうと、即時取得にかかわらず原所有者(もともとの所有者のこと)が回復請求できるというわけです。
すなわち、返還請求の反論として出された即時取得に対して、さらに再反論として、民法193条が使えるわけですね。
場面のイメージ
意外と民法193条の場面は理解しづらいので順を追って確認していきましょう。
Aさんが動産を持っていました(原所有者)。その動産が何者かによって盗まれたとします。そして、その後、何らかの経緯でBが動産を所有するに至りました(Bさん自身が盗んだわけではありません)。
さて、動産は窃盗によって移転しているので、その後の占有者も皆、無権利者となります。
この場合に、BC間で売買が行われたとしましょう。
Cが善意無過失・平穏公然で、取引行為及び占有を始めているのであれば、Cには即時取得(民法192条)が成立します。
Cは無権利者Bから動産を取得していますが、裏技として即時取得を使うことで動産の所有権を獲得できるというわけです。
しかし、この即時取得を打ち破るのが民法193条です。
動産は「盗品」なので、AはCに対して、盗難から2年以内であれば、回復請求ができるというわけです。
ここの「原所有者」から「現所有者」への回復請求という流れをしっかり理解しておきましょう。
論点:2年間の間の所有権は原所有者にある
ここで一つ論点があります。
それは、2年以内に原所有者から現所有者へ回復請求できるということは、
その2年間の間、動産の所有者は「原所有者」なのか「現所有者」なのか?という問題です。
学説ではいろいろ議論のあるところですが、
判例・通説は、2年間の所有者は「原所有者」(上図でいうところのA)ということになります。
すなわち、2年経過してはじめて、Cさんは即時取得による所有権取得が可能になるというわけです。
代価の弁償(民法194条)
条文は民法194条
さらに話が続きます。
Cさんの立場になって考えてみましょう。
CさんはBさんが本物の所有者と思って、商店街で動産を購入したとしましょう。。
なのに、ある日、急にAから
「それ本当は私のもので盗まれてたんだよね。2年以内だから返して」
と請求されて、何も保障がないのであればたまったものではありません。
Cさんがあまりにもかわいそうだ!
そうして生まれたのが民法194条です。
第百九十四条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
占有者が、盗品を、商人から公の市場で買い受けている場合などには、原占有者(被害者)は、代価を弁償しなければ返還することができない、と規定されています。
上図でいうと、
Bが「商人」で、BC間の売買が「公の市場において」のものであった場合には、AはCに対して代価を弁償しなければ民法193条の回復請求はできないというわけです。
これにて、Cさんには一定の保護が与えられているというわけですね。
論点:現所有者は使用収益権をもつ
さて、ここで一つの疑問が生じます。
AさんはCさんに対して代価を弁償する必要がありました。一方でAさんはCさんに対して、動産の使用収益相当額を請求できるのか(不当利得)という問題です。
一般に勝手に動産を使用していた場合には不当利得返還請求として使用利益相当額を払う必要があります。
Cさんは本来の所有者Aさんがいるにもかかわらず、勝手に動産を使用していました。
そのため、一般原則に従えばCさんはAさんに使用収益相当額を払うことになるはずです。
しかしながら、
民法194条の適用場面では使用収益権は現所有者にあるもの=Aさんに対して使用収益相当額を支払う必要はない
とされています。
え?どうしてですか?
これもCの立場になってみるとわかりやすいぞ!
Cの立場になって考えてみましょう。
Aは、代価弁償をして動産の所有権を回復するか、代価弁償をせず動産の所有権回復をあきらめるか選べる立場にあります。
すると、Cは
「え?Aさんは回復請求するの?しないの?どっちなんだい!!(怒)」
となるわけです。
そして、Aが回復請求をしなければ使用収益権は当然Cに帰属するわけですから深く考える必要はありません。しかし回復請求をした時には使用収益相当額を払わなければならないとなると、Cさんの負担が増すわけです。
このように、
Aの都合によって、Cの負担が左右されるのはおかしい!Cがかわいそうだ!
ということで、
Cさんが常に使用収益権を持つという方針をとっているわけです。
たしかに、Aは回復請求をして、加えて、使用収益相当額の支払請求もできるとなると、Aの都合がよすぎですよね!
そうだね!
Aさんは自由に回復請求をするかしないか選べる立場にあるのだから、使用収益とかそういう細かいことを言うなよ!っていう訳だな(笑)。
まとめ
以上、民法193条、民法194条についてみてきました。
最後の論述の手順について確認していきましょう。
- 手順1原所有者からの物権的請求権
最初は物権的請求権から始まります。もと所有、現占有(妨害)を主張することになります。
- 手順2原所有者の即時取得(反論)
無権利者からの取引で所有権を取得できる裏技が即時取得です。
- 手順3民法193条
即時取得の反論として使えるのが民法193条です。2年以内で盗品等であれば現所有者は回復請求できることになります。
- 手順4民法194条
民法193条の反論として使えるのが民法194条です。現所有者が、商人から公の市場等で動産を取得している場合には、弁償しないと返還しない!という主張をすることができます。
このような流れをしっかり押さえていきましょうね!
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
物権法のわかりやすい基本書としては佐久間先生のものをお勧めします。
事例付で詳しく解説されているので、初学者の方には特におすすめです。