所有権留保とは?わかりやすく解説してみた【物権法その17】

民法

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法上向
法上向

さて、物権法のラスボス「譲渡担保」も確認し終わったということで、ひと段落だな。

ちょっと待ってください!所有権留保っていうやつもありますよね?

あれについて教えてもらえませんか?

法上向
法上向

なるほど!

所有権留保はゲームクリア後のダンジョンみたいなものだな。いわば、暇つぶしの領域だ。

ただし、実務でもよく使われ、試験に出ることもあるからしっかり理解する必要があるぞ。

物権法の3大ボスは、「物権変動」「抵当権」「譲渡担保」でした。これらを倒せば物権法はマスターしたといえるでしょう。

今回扱う「所有権留保」はクリア後のおまけみたいな立ち位置です。3大ボスを倒した方なら、所有権留保は暇つぶし的な存在になると思います。

そのため、所有権留保に入る前に「物権変動」「抵当権」「譲渡担保」に不安のある方はまずこれら3つからしっかり理解するようにしましょう。

>>>不動産の物権変動についてわかりやすく解説してみた【物権法その3】
>>>動産の物権変動についてわかりやすく解説してみた【物権法その6】

>>>抵当権についてわかりやすく解説してみた【物権法その10】

>>>譲渡担保についてわかりやすく解説してみた【物権法その16】

これらを攻略したのであれば、所有権留保は最後のおまけにすぎません。軽い暇つぶしの気持ちで学習していけたらと思います。

所有権留保のポイント

所有権留保のポイントとして、まずどのような構成をとるかをしっかり頭にいれるようにしましょう。所有権留保も民法の明文の規定が今のところありません。

その次に、所有権留保の論点として、物権的請求権の相手方を考えてみようと思います。

①所有権留保について理解する。

②所有権留保の論点、物権的請求権の相手方を考える。

それでは見ていきましょう!

所有権留保とは何か?文字通り考える

売買代金担保のために用いられる手段

所有権留保とは、売買代金債権を被担保債権とする担保手段であることが多いです。

まず、売主が買主に物を売る場面を考えてみましょう。

さて、この場合、売主は買主に対して、売買代金債権をもつことになります。

>>>契約法の売買について詳しい解説【契約法その6】

さて、この買主が逃亡して、この売買代金債権の回収ができない場合が想定されます。このような売買代金債権が回収できなくなるという状況を避けるために、売主はどのような手段を採れるでしょうか?

ここで出てきたのが、

所有権留保

というわけです。

売主は物の売買をするものの、物の所有権は留保することにします。

すると、仮に買主が売買代金債権を支払わない場合(売買代金債権の弁済期が経過した場合)、売主は物の回収・処分を自由にすることができるというわけです(所有権は売主側にずっと残っているので)。

売買はしたけど、売買代金の弁済があるまで、売主に所有権を留保させておく

これが所有権留保というわけです。

解除との違い

けど、買主が売買代金債権を支払わないのであれば、売主は解除しちゃえばいいですよね?

なんでわざわざ所有権留保をするんですか?

法上向
法上向

いい質問だね。それはただの解除だと第三者に対抗できなくなるからだよ。

売主が売買代金債権を払わなくなるのを防ぐだけであれば、売主は、買主が売買代金債権の支払い義務を怠ったことを理由として、債務不履行解除をすればよいだけです。

そうすれば、目的物の所有権も売主に移転し、目的物を回収することができます。

しかし、解除では不都合なことがあるのです。

解除の条文の中で、民法545条1項をみてみましょう。

(解除の効果)
第五百四十五条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない

民法545条1項によれば、解除をしたとしても、第三者(解除前の第三者)の権利を害することができません

すなわち、買主が第三者に売買など目的物を処分していた場合、その第三者は解除前の第三者になりますので、民法545条1項より売主は第三者に対して返還請求ができなくなってしまうのです。

解除の対抗問題で学習したところですね!

>>>解除の対抗問題についてわかりやすい解説【物権法その4】

一方で、所有権留保の場合には、売買代金の支払が終わるまで、目的物の所有権は売主側にありますので、第三者に対しても、平気に物権的請求権(返還請求権)をすることができます。

譲渡担保との違い

混乱する方もいるので、ここで譲渡担保と所有権留保の違いについて説明してみます。

所有権留保は、文字通り、売主(=債権者)に所有権が留保されています(学説対立がありますが、ここでは通説的考えで検討しています)。

一方で、譲渡担保は、債権者に所有権が残るわけではなく、債務者に移転すると考えます(所有権的構成)。

すなわち、

所有権留保、譲渡担保どちらも、被担保債権を担保するためのものですが、

所有権が移転していないのが、所有権留保
所有権が移転するのが、譲渡担保

というわけです!

論点:物権的請求権の相手方

物権的請求権の相手方は留保権者かどうか

まずは論点が出てくる場面を押さえましょう。

売主が、売買代金債権を担保するために、目的物の所有権を留保しました。

その後、何らかの経緯で目的物がAさんの土地に置かれたとします。

Aさんは土地に目的物があっても邪魔なので、目的物について、物権的請求権(妨害排除請求権)をすることにしました。

Aさんは、土地のもと所有と現在の妨害

を主張することになります。

さて、

Aさんは、売主に対して物権的請求権をすべきか、買主に対して物権的請求権をすべきか?

物権的請求権の相手方が問題となります。

結論からいいますと、

売買代金債権の弁済期が到来していなければ、買主に対してだけ(売主に対しては請求できない)
売買代金債権の弁済期が到来していれば、買主だけではなく売主に対しても請求できる

ということになります。

弁済期の前後で異なる

ということです。

なぜ、そのようなことが起こるのでしょうか?

まずは物権的請求権の相手方の一般論を確認しましょう。

物権的請求権の相手方は現在妨害している人

でした。

そこで、所有権留保のケースで、Aさんの土地に目的物が置くことで土地を妨害している人を探します。

売主(留保所有権者)は弁済期が経過するまでは目的物を処分することができません。あくまで所有権留保というのは、売買代金債権の弁済期が経過してはじめて、目的物の回収・処分をすることができるものであったからです。

そのため、売買代金債権の弁済期が経過するまでは、物権的請求権の相手方は買主だけ(買主は目的物の使用収益が可能なので、妨害している人にあたる)となります。

一方、売買代金債権の弁済期が経過したのであれば、売主(留保所有権者)は処分が可能となります。そのため、売買代金債権の弁済期が経過した後は、売主(留保所有権者)も目的物を用いて妨害している者として、物権的請求権の相手方になるというわけです。

判例を確認してみましょう。

最高裁平成21年3月10日の判例の言い方は難しいですが、

結局は、

留保所有権者(売主のこと)は、弁済期が経過すれば、目的物を処分することができるから、弁済期経過後は留保所有権者にも目的物の撤去義務が発生する

ということを述べています。

逆に、売主は、弁済期の到来前であれば、基本的に物権的請求権の相手方にはなり得ないというわけです。

弁済期の到来前後で売主(留保権者)が物権的請求権の相手方になるかどうか分かれるということね。

法上向
法上向

そういうこと!

くれぐれも、所有権は売主にあるから、という短絡的な理由で、売主が必ず物権的請求権の相手方になるとは考えないようにしようね。

まとめ

所有権留保についてみてきました。

いかがだったでしょうか。

所有権留保とは何か?

そして、

所有権留保の際の、物権的請求権の相手方は誰か?

をマスターすれば、基本的には所有権留保は大丈夫でしょう。

物権法の3大ボス「物権変動」「抵当権」「譲渡担保」をマスターできたのであれば、楽勝です!

エンディング後の余暇として逆に楽しみましょう!

解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

担保物権についてわかりやすい解説は、はじめての法でおなじみストゥディアシリーズです。

これを超える担保物権の基本書はないと思います。三色刷り+事例問題が豊富なので、楽しく担保物権を学習できるはずです。

初学者の方はまずはこの本から読んでみてください!

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