不公正な取引方法の「取引拒絶」について教えてください!
不公正な取引方法の取引拒絶の解説だね。取引拒絶は条文の使い方がわかりにくいものだから、要件の検討と合わせてしっかり学習していこう!
不公正な取引方法の1つの取引拒絶について解説していきます。
取引拒絶は、要件とともに、条文の使い方(どの条文を使えばいいか)がよくわからないものです。そのため、しっかり「理解」する必要があります。
取引拒絶のポイント
取引拒絶は、まず①供給拒絶と②購入拒絶があります。さらに、①共同・直接のもの②共同・間接のもの③単独・直接のもの④単独・間接のものの4種類の形態が考えられるのです。したがって単純計算で2×4の8種類のパターンが考えられるわけです(実際にはそれほど多くないですが…)。
そこで条文関係に混乱してしまう人が多いという結果になっています。そこでまずはしっかり適用条文を確認することにします。
その後はいつも通り、要件を確認していきます。要件自体は取引拒絶に共通するものが多いので「暗記」を頑張っていけば大丈夫でしょう。
①条文の適用関係を押さえる。
②要件「事業者」について理解する。
③要件「共同して」について理解する。
④要件「拒絶」について理解する。
⑤要件「させる」について理解する。
⑤公正競争阻害性について理解する。
④単独・直接取引拒絶について理解する。
それでは見ていきましょう。
取引拒絶の条文関係
取引拒絶とは?
取引拒絶とは何かをまずは押さえましょう。
取引拒絶は文字どおりなんとなくはわかると思います。
市場における有力な事業者が、その地位を利用して、取引先の取引を拒絶させたり、取引を拒絶させたりすることです。
何のためにこれを行うのか?
いろいろな場合が考えられると思いますが、多いのは、言うことを聞かない取引先に対する嫌がらせです。
なぜ俺の言うことを聞かないんだ!そんな態度をとるなら取引を拒絶する!
であったり、
なぜ俺の言うことを聞かないんだ!そんな態度をとるなら、取引先に言ってお前との取引を停止する!
というような場合です。
このようなことを聞くと、取引拒絶は悪いことのような印象を受けると思いますが、実はそうでもありません。
取引拒絶自体は基本的に市場競争上許されます。誰と取引するかは自由だからです。
では何がダメかというと「共同」でやったり、取引拒絶を「させ」たり、「悪質な行為」で取引拒絶を行っている点です。このような場合を規制しているのが「取引拒絶」というわけです。
注意してほしいのは、条文の文言からも明らかですが、取引拒絶の「拒絶」には取引を完全にやめること以外にも数量や内容を制限することも含まれています。
まずは単独の取引拒絶ではないことを確認
まずは単独の取引拒絶ではないかを確認します。
単独の取引拒絶は先ほども言った通り、違法にはなりにくいです。そのため、一般指定で特別にカバーしている形になります。
そこで単独の取引拒絶であれば一般指定2項を見ますが、そうでなければしっかりと適用条文を判断していくことになるのです。
「単独の取引拒絶」ではないことを確認していくというのが最初のステップです!
次に供給か購入か
「共同」の取引拒絶であるということが確認できました。
続いて、取引拒絶を考えるにあたっては、供給を「する」側か供給を「受け入れる」側か=購入を検討した方がわかりやすいです。
供給のどっち側で拒絶を行おうとしているのか、ということです。
供給を「する」側での取引拒絶の場合には独占禁止法2条9項1号を見ます。
供給を「受け入れる」=購入する側での取引拒絶の場合には独占禁止法ではなく一般指定1項を確認します。
この分かれ目が一番重要です。しっかり見極めましょう。
最後に間接か直接か
供給か購入かで独占禁止法と一般指定で分かれた次は間接か直接かです。
ここまでくれば、条文自体は見えているので、あとは何号を適用するかの問題です。条文を読めばわかるのでそこまで悩む必要はないでしょう。
供給側の場合、
直接の取引拒絶は独占禁止法2条9項1号イ
間接の取引拒絶は独占禁止法2条9項1号ロ
購入側の場合、
直接の取引拒絶は一般指定1項1号
間接の取引拒絶は一般指定1項2号
です。
まとめ
①単独の取引拒絶→一般指定2項
②共同の取引拒絶→「供給」か「購入」かを検討
③「供給」なら独占禁止法2条9項1号。「購入」なら一般指定1項
④「供給・直接」なら独占禁止法2条9項1号イ・「供給・間接」なら2条9項1号ロ。「購入・直接」なら一般指定1項1号・「購入・間接」なら一般指定1項2号
という風に分かれていきます。
図にするとこんな感じでしょうか。
特に大きな分かれ目である「供給」か「購入」かは絶対に外さないようにしましょう!
要件の分解
取引拒絶はパターンによって適用条文は異なりますが、要件自体はそこまで大きく変わりません。そこで今回は一番オーソドックスな、共同供給取引拒絶(独占禁止法2条9項1号)をもとに要件検討をしていきます。
要件を検討する前に分解を行っておきましょう。
⑨ この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
一 正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ ある事業者に対し、供給を拒絶し、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。
ロ 他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限させること。
また不公正な取引方法は独占禁止法19条で違反となるので、独占禁止法19条も合わせて参照しましょう。
第十九条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
以上より
①「事業者」⑤「正当な理由がないのに」(公正競争阻害性)②「競争者と」③「共同して」④「拒絶」or「拒絶させ」る(実際の条文と順番は入れ替えています)
という要件が出てきます。
取引拒絶の要件
要件①:「事業者」
毎度おなじみ「事業者」です。さすがに定義を覚えた方も多いではないでしょうか。
忘れてしまった方もそうでない方ももう一度定義をおさらいしておきましょう。
事業者とは、なんらかの経済的利益の供給に対応して反対給付を反復継続して受ける経済活動を行う者をさす(主体の法的性格及び営利性の有無は問わない)。
要件②:「競争者と」
あまり大きな問題にならない要件ですが、実は以外と重要です。
仮に、競争者でない者と取引拒絶を行った場合、たとえばメーカーと流通事業者による共同行為などの場合にはこの要件を満たしません。
すると、共同でやっていたとしても、一般指定2項の適用になってしまうわけです。
あれ?さっきの使い分けだと、単独パターンだったら一般指定2項でしたよね。なんで競争者以外と共同でやる場合も一般指定2項なんですか?
ここが取引拒絶のやっかいなところなんだよ。使い分けの「共同」とはあくまで「競争者と共同」することを指すんだ。競争者と共同して取引拒絶をすることは明らかに悪いからね。「競争者以外」と共同して行う場合は、そこまで悪質ではないから一般指定2項でカバーするよ。いわば一般指定2項は、典型的ではない取引拒絶についての条文なんだ。
けど、「競争者以外」と共同して行う取引拒絶なんてほとんど行われないから、あまり気にしなくてよいってわけね。
一般指定2項は、典型的ではない取引拒絶をカバーしている条文です。「競争者以外」と共同して行う取引拒絶は単独ではありませんが一般指定2項が適用されます。
しかし、競争者以外と共同して行う取引拒絶なんてほとんど出題されませんので、使い分けとしては先ほどの図を参照すれば大丈夫でしょう。
「競争者と」という要件は要注意です(ほとんど問題になりませんが)。
要件③:「共同して」
「共同して」についてもおなじみですね。不当な取引制限や企業結合規制でも見てきたものです。
表現としては2パターンありますがどちらを用いてもよいでしょう。
「はじめての経済法」シリーズでは
意思連絡= 相互に認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思(黙示も含む)
としています。
もう一つのパターンとして
意思の連絡を意味し、「相互に他の事業者の取引拒絶を認識して、暗黙のうちにこれを認容する」場合も含まれる(着うた事件参照)
でもよいです。
要件④:「拒絶」or「拒絶させ」
「拒絶」
まず「拒絶」(独占禁止法2条9項1号イなど)についてです。
拒絶については、拒絶をすることの合意さえ行われていればよく、実際に行われたことまでは必要ありません。カルテルで合意さえあれば違法になるのと同様ですね。
つまり、明確な拒絶行為は必要なく、客観的に拒絶しているといえれば「拒絶」に該当することになります。拒絶合意さえあればよいのです。
「拒絶させ」る
拒絶させる場合の「拒絶」は上記と同様に拒絶合意さえあればよいということになります。
問題は「させる」の部分です。
「させる」は行為を強要する等の立証までは必要ありません。取引を拒絶するように要求して、相手方がこれに従って実行している事実があれば「させる」に該当します。また実際にやっていなくても実効性があれば「拒絶させている」と認定できます。
要は、実際に行われていなくても、拒絶させているような状況が認められれば(経済上そうなるといえる場合であれば)間接的に取引拒絶をしていると認定できるわけです。
要件⑤:公正競争阻害性
取引拒絶では、不公正な取引方法概説で確認した通り、公正競争阻害性を判断する必要があります。
「正当な理由がないのに」や「不当に」という文言で規定されているものが公正競争阻害性です。
取引拒絶の公正競争阻害性は「自由競争減殺」です
自由競争減殺は「一定の取引分野の競争の実質的制限」の劣化版なので、「一定の取引分野の競争の実質的制限」のようなパターンで簡単に当てはめをしていけば大丈夫でしょう。
すなわち、需要の代替性・必要に応じて供給の代替性によって商品市場と地理的市場を画定し、その中での競争の実質的制限効果を認定していくというわけです。
ただし劣化バージョンなので、そこまで厳密に判断する必要はありません。フィーリングで十分です。
また、公正競争阻害性の場合には「正当化事由」がある場合があります。つまりそれなりの目的でやっているというケースです。
その場合には①目的の正当性と②手段の正当性によって正当化事由があるといえるのかを検証します。
正当化事由があれば=正当な目的があり手段も合意的である場合には、公正競争阻害性は認められないことになるので注意しましょう。
特別な配慮が必要な単独・直接取引拒絶
以上のような要件検討の方法で大体はオッケーなのですが、特別な配慮が必要な類型があります。
それが「単独・直接」の取引拒絶です。
「単独」なので一般指定2項を用いるものです。さらに、直接的(すなわち拒絶をさせているわけではなく自分がしている)ケースを想定しています。
一般指定2項
不当に、ある事業者に対し取引を拒絶し若しくは取引に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限し、又は他の事業者にこれらに該当する行為をさせること。
単独・直接の取引拒絶の場合の「拒絶」には注意が必要です。
というのも最初に紹介した通り、取引拒絶自体は市場経済上悪いものではありません。事業者は自由に取引先を選べるという自由があるからです。
しかし例外的に単独で直接でやる取引拒絶もアウトになる場合があります。
①独禁法上違法な行為の実行を確保するための手段として取引を拒絶する場合
②市場における有力な事業者が、競争者を市場から排除するなどの独禁法上不当な目的を達成するための手段として取引拒絶を行い、これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合
この2つの場合は覚えましょう!
簡単にいえば
①独占禁止法上の違法行為の実効性確保手段の場合
②有力な事業者による、独占禁止法上の不当な目的達成手段で通常の事業活動を困難にするおそれがある場合
というわけです。
①②の違いは分かりにくいですが、「有力な事業者」であるかどうか、が大きいでしょう。
また①の場合の独占禁止法上の違法行為というのは再販売価格の拘束や排他条件付取引が典型的です。
①②の文言はしっかり暗記しておきましょう!
まとめ(論証)
取引拒絶についてみてきました。
覚えるべき論証としては「単独・直接取引拒絶」が違法となる場合くらいですかね。
①独占禁止法上の違法行為の実効性確保手段の場合
②有力な事業者による、独占禁止法上の不当な目的達成手段で通常の事業活動を困難にするおそれがある場合
すでに出てきた論証も多いので、復習としてしっかりマスターしていきましょう!
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
経済法を本格的に学習する人の中で入門的に使ってほしい参考書を上げてみます。というか論証の暗記として使えるものを用意してみました。
とりあえず経済法のスタートは「要件の暗記」です。そのため、要件自体のガイドラインや判例通説をもとに逐条的に解説してある『条文から学ぶ独占禁止法(第2版)』をお勧めします。