故意が認められなければ,過失を検討するんですよね。
そうだね,過失犯が規定されているときに限るけどね。
過失が認められてる場合ってわかるかい?
え!?過失に考慮要素ってあるんですか?
故意が認められない場合,過失を検討することになります。ただし,刑法において,基本は故意がなければ処罰されません。つまり,故意が認められない場合は,基本的には刑罰を問えないが,例外的に過失犯が規定されている場合には過失犯として責任を問うことができる,ということになります。
過失の検討要素として,大きく2つあります。さっそく見ていきましょう。
過失犯のポイント
過失犯では,予見可能性と結果回避可能性をえます。この2つだけ検討すればオッケーです。なので,今までの錯誤の議論と比べてかなりわかりやすいと思います。
②予見可能性とは何かわかる。
③結果回避可能性とは何かわかる。
過失とは結果回避義務違反である
過失犯について,学説の流れがあります。旧過失論と新過失論です。しかし,このシリーズではわかりやすさを求めたいので通説とされる新過失論的説明で行こうと思います。ご了承ください。
刑法において,過失とは,結果回避義務違反です。
予想される結果を回避しなかったことが過失であると考えているのです。
では,どのような場合であれば結果回避義務に反した,といえるのでしょうか?それは,予見可能性があり,結果回避可能性があるにも関わらず行為をした場合に結果回避義務違反があるといえるとされています。順にこれらの要素を見ていきましょう。
予見可能性とは具体的+因果関係の場合は基本的要素
予見可能性の程度は原則,具体的
予見可能性を考える際に学説ではどの程度の予見可能性が必要か争いがあります。具体的な予見可能性が必要であるとする見解や抽象的な予見可能性でよいとする見解,さまざまな見解がありますが,ここでは具体的な予見可能性が必要だと考えます。
けど,一口に具体的といっても,よくわかりませんよね。そこである裁判例があります。
これを踏まえて次の裁判例を見てください。
しかし,ここでもう一度,どれほど具体的でなければならないかを考えてください。結果回避義務を意識して,特定の構成要件的結果の予見があればよいのでしたよね?
運転中の結果回避義務には当然「人」を傷つけるような結果をもたらしてはいけない,という結果回避義務があるといえます。よって被告人の予見すべき結果=特定構成要件的結果というのは人一般の死だということになるのです。
といっても交通事故のような特殊な場合以外であれば,「具体的」というのは普通に考えてもらえばいいと思います。人に危害を加えることと隣り合わせの行為は一般的に自動車運転くらいしか思いつかないからです。
判断基準は同種の一般人
次に判断基準が問題となります。具体的予見が必要だとしても赤ちゃんからの予見と大人の予見は程度が異なるからです。
これは通常,同様の地位にいる人の予見可能性といわれています。
つまり医者の過失行為なら,同種の医者からすると具体的に予見可能であった事情に反したことが過失であり,自動車運転者なら,同種の自動車運転者(自動車免許をもって標識等の理解がある者)からすると具体的に予見可能であった事情に反したことが過失となるのです。
予見可能性の判断基準は同種の一般人である。
結果回避可能性の検討を忘れるな
結果回避可能性について
よくある例として予見可能性だけを検討して,過失を認定してしまうことがあります。しかしこれは厳密にはよくありません。もちろん論述で時間的制約の中で省略することはありますが。
予見可能性の他に結果回避可能性の検討が必要なのです。これは結果回避義務があったといえるには,その行為をしていれば結果が回避できた,といえなければ論理としておかしいと考えているからですね。
これも判例をみてみましょう。
ちょっと納得がいかないかもしれませんが,結果回避可能性がないと,刑法で過失犯は問わないとしているのです。
信頼の原則とは?
ここでちょっと信頼の原則を考えてみましょう。ただし,信頼の原則は限定的に捉えられているため,今回は軽く触れる程度にとどめます。
信頼の原則とは,その状況下では当然そのような行為はとらないと信頼できるから,信頼していた私に過失はない!相手が悪いんだー。というような場合です。
信頼の原則をどこに位置づけるかも難しいですが,ここでは過失を否定する要素と捉えることにします。信頼の原則は基本的に認められません。自分が過失行為=結果回避義務違反をしておきながら相手が悪い,といった主張はおかしいからです。
では信頼の原則が認められるのはどのような場合か?それは交通事故と医療事故の場合くらいだと考えます。医療現場では分担がされることが多く,役割分担がされている場合,その役割さえやっていれば他の役割については信頼してもよいと思われますし,交通の場合でも歩行者等,相手がちゃんと交通ルールを守るものと思って行動してよいとされるからです。
上記裁判例と同じような事例では信頼の原則をもとに過失を否定したものがあります。
まとめ
以上過失犯について考えてきました。もう一度まとめてきますね。
②まず,具体的予見可能性があるかを考える。ただし因果関係は基本的部分のみでよく,行為によっては予見の程度が緩められる場合がある。
③次に,結果回避可能性があるかを考える。
読んでくださってありがとございました。ではまた~。