取引妨害について教えてください!
お、不公正な取引方法のラストの「取引妨害」だね。
試験であまり取引妨害ってみない気がするんですけど……。
それは取引妨害の運用方法にも問題があるからだね。取引妨害の考え方、要件を今回は解説していくよ!
不公正な取引方法のラストで取り扱うのは「取引妨害」です。しかしながら取引妨害は試験ではあまり出題されません。
これは「取引妨害」の独特な運用方法があるからです。しかしながら要件自体は知っておく必要があるのでしっかり確認していくことにしましょう。
取引妨害のポイント
取引妨害の運用方法をまず押さえます。これを理解することで、なぜ取引妨害があまり使われないのか理解できるはずです。
その次に、要件を押さえていきます。取引妨害で問題になるのは「不当に」という要件くらいです。すなわち公正競争阻害性ですね。
これまでの議論とさほど変わらないので、今回はさっと確認する程度の記事になるでしょう。
①取引妨害の運用方法を押さえる。
②要件①:事業者を理解する。
③要件②:「競争関係にある他の事業者」を理解する。
④要件③:「取引を…妨害すること」を理解する。
⑤要件④:「不当に」を理解する。
それでは見ていきましょう!
取引妨害の運用方法
他の規定が優先的に適用される
取引妨害と聞いて
「これまでの不公正な取引方法の類型も全部妨害行為じゃん!」
と思った方は察しがいいですね!「勘のいいガキは嫌いだよ」パターンです。
その通り、
取引妨害(一般指定14項)は補完的な不公正な取引方法の類型です。
すなわち、取引拒絶、抱き合わせ販売、排他条件付取引などがより直接的に適用できる場合にはそちらの方を優先させます。
というわけでほとんど取引妨害が表舞台に登場することはないわけです。
条文は一般指定14項
とはいえ、経済法の学習としては一応理解しておかなければなりません。
取引妨害の条文は一般指定14項になります。
(競争者に対する取引妨害)
14 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。
事業者という要件は不公正な取引方法が禁止であることを規定している独占禁止法19条から導かれる要件でした。
第十九条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
そのほか、②「競争関係にある他の事業者」③「取引を…妨害すること」④「不当に」という要件が一般指定14項から導かれます。
各要件について詳しく見ていきましょう。
要件①:事業者
事業者は毎回登場しますね。さすがに覚えたいところです。
事業者とは、なんらかの経済的利益の供給に対応して反対給付を反復継続して受ける経済活動を行う者をさす(主体の法的性格及び営利性の有無は問わない)。
㋐経済的利益の供給
㋑反対給付を反復継続
試験問題としてはほとんど問題にならない観点ですが、㋐㋑の2点は理解しておきたいですね。
要件②:「競争関係にある他の事業者」
取引妨害は、競争関係にある他の事業者に対して行われなければなりません。この点は要件としては一応登場しますが、ほぼ問題なくいけるでしょう。というかこの要件についての議論がありませんので、簡単にすますしかありません。
要件③:「取引を…妨害すること」
取引妨害での先ほどの運用方法が生きています。
間違っても
「この事業者、競争者の取引を妨害してるじゃん!一般指定14項を適用しよう!」
というような安易は発想はしてはいけないのです。
取引妨害(一般指定14項)は不公正な取引方法の補完的役割をもつものでした。より直接規制できるのであれば、不公正な取引方法の他の類型を用います。
つまり
「この事業者、競争者の取引を妨害しているな!けど取引拒絶ではないよな。排他条件付取引や拘束条件付取引でもないし…。抱き合わせ販売のような形式でもないよな。」
「しょうがない!取引拒絶(一般指定14項)を適用するかー。」
というような思考方法でいくべきでしょう。
要件④:「不当に」(公正競争阻害性)
「不当に」は公正競争阻害性を意味することは大丈夫ですね?不公正な取引方法一般に言えることです。
>>>不公正な取引方法における「不当に」の意味についてわかりやすく解説【はじめての経済法その5】
取引妨害(一般指定14項)の「不当に」は自由競争減殺・競争手段の不公正さの観点からの公正競争阻害性を意味します。
競争手段の不公正さは、価格・品質・サービスを中心とする能率競争の観点からみて、競争手段それ自体が反社会的・範倫理的であるなど非難に値するものであることを意味します。一般指定14項の取引謀妨害でいえば、誹謗中傷等による妨害がこれに該当するでしょう。
自由競争減殺は、市場を画定し、自由競争減殺効果を様々な総合衡量により判断していきます。とはいえ「実質的な競争制限」までは必要ありません。
どちらを持ってくるかが問題ですが、原則としては自由競争減殺を考えておくとよいでしょう。競争手段の不公正さはよっぽど(上記で書いたように誹謗中傷など)でなければ機能しないように思います。
さらに自由競争減殺の方が慣れているはずなので、試験問題対策としては自由競争減殺の方が妥当であると思います。
まとめ
取引妨害の論証はありません!要件自体は他の不公正な取引類型でも登場したものが多いですし、取引妨害自体ほぼ試験に出ないからです(というか他の類型の方が優先される)。
では取引妨害が使われた類型というのが気になりますよね?
最後に取引妨害で一番有名な、東芝エレベーター事件を確認していおくことにします。
【東芝エレベーター事件】
エレベーターには定期的に点検・修理が必要である。保守業者(点検業者)は東芝以外にも存在する。
独立系保守業者(東芝以外の点検・修理業者)と保守契約(点検・修理契約)を結ぶ東芝エレベーターの所有者に限って、修理部品の発注に対して納期を3カ月遅らせることとした。
→一般指定14項違反
サービスなので抱き合わせ販売ともいえず、顧客に対してなので拘束条件付取引ともいえず…
結局一般指定14項が適用されることになったというわけです!
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
経済法を本格的に学習する人の中で入門的に使ってほしい参考書を上げてみます。というか論証の暗記として使えるものを用意してみました。
とりあえず経済法のスタートは「要件の暗記」です。そのため、要件自体のガイドラインや判例通説をもとに逐条的に解説してある『条文から学ぶ独占禁止法(第2版)』をお勧めします。