犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪は授業で範囲が終わんなくて習ってないんですよね。
たしかに、犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪はあとに回されがちで手薄になることが多いな。しかし、犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪は保護法益や要件で考えるより独自の論点で考えた方が論述対策になる。
手薄になりやすいからこそ、しっかりここで学んでいこう!
論述として出題される刑法各論最後の分野として、犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪があります。しかし、犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪は最後に位置していることが多いので授業などで、しっかり学習する機会は少ないのではないかと思います。
ここでは論述対策として、論点をしっかり判例・通説で押さえることをメインに、犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪について解説していこうと思います。
犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪のポイント
犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪の保護法益と要件はあまり問題になりません。よって論点がメインになっていきます。
最初の論点は犯人自身による犯人蔵匿・証拠隠滅です。これはよく出題されます。
最後に共犯の場合の犯人蔵匿・証拠隠滅について解説していきます。
①犯人蔵匿罪の保護法益・要件を押さえる。
②証拠隠滅罪の保護法益・要件を押さえる。
③犯人による犯人蔵匿・証拠隠滅を考える。
④共犯関係の場合の処理方法を理解する。
それでは見ていきましょう。
犯人蔵匿罪(刑法103条)の保護法益・要件
犯人蔵匿罪の保護法益
犯人蔵匿罪の保護法益は国の刑事司法作用です。
個人事件を保護しているわけではなく一般的な司法の役割を保護しているので、抽象的危険犯であるといわれています。具体的刑事司法作用が侵害されていなくても、刑事司法作用を妨げるような行為が行われていればその時点でアウトー!というわけです。
犯人蔵匿罪(刑法103条)の要件
刑法103条を見てみましょう。
(犯人蔵匿等)
第百三条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
要件は以下のようになることがわかります。
①罰金以上の刑にあたる者or拘禁中に逃走した者②蔵匿・隠避③故意
それぞれ解説していきます。
①罰金以上の刑にあたる者or拘禁中に逃走した者
あまりこの要件を真剣に考える必要はありません。とりあえず論述としては罰金以上の犯罪であったり拘禁されていることがほとんどです。
また蔵匿や隠避される犯人は別に真犯人である必要はありません。犯罪の嫌疑を受けている者であればよいのです。①の要件を単純に満たすからです。
保護法益は刑事司法作用でした。そのため、真犯人でなくとも被疑者を隠匿してしまえば司法、刑事の運営に支障が出てしまうので、犯人蔵匿罪が成立するというわけです。
②蔵匿・隠避
蔵匿とは隠避場所を提供することであり、隠避とは蔵匿以外の方法で発見・逮捕を免れさせる行為です。
虚偽の供述や拘束されている犯人の身代わりとしての出頭も隠避に当たります。身代わり出頭は犯人隠避罪として以外と出題されるので注意しましょう。
証拠隠滅罪(刑法104条)の保護法益・要件
証拠隠滅罪の保護法益
証拠隠滅罪の保護法益は、犯人蔵匿罪と同様に、国の刑事司法作用です。刑事司法の円滑な運営を妨げたらアウトになります。
復習ですが、抽象的危険犯ですので、実際に刑事司法の運営を妨げたことまでは必要ありません。一般的に隠滅行為を行っていればその時点でアウト!というわけです。
証拠隠滅罪(刑法104条)の要件
刑法104条を見てみましょう。
(証拠隠滅等)
第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
要件は以下の通りになります。
①他人の刑事事件に関する証拠②隠滅or偽造・変造or偽造変造証拠の使用③故意
それぞれ見ていきます。
①他人の刑事事件に関する証拠
犯人蔵匿罪(刑法103条)とは異なり、罰金以上といった制限はありません。とりあえず他人の刑事事件であればオッケーです。
②隠滅or偽造・変造or偽造変造証拠の使用
ここでの偽造や変造は文書偽造罪の場合とは異なります。偽造は存在しない証拠を作りだすことで、変造は真実の証拠に加工してその証拠としての効果に変更を加えることを言います。
簡単にいえば、偽造はNEWタイプで、変造は変化タイプというわけです。
上申書や被害届のような書面に供述書に虚偽の事実を記載した場合には「偽造」とされます。これらは証拠として利用されるものであるからです。
一方、参考人として虚偽の供述をしたり虚偽の供述調書を作成した場合は一般的に「偽造」には当たらないとされます。証人の虚偽の場合は宣誓がなされている=偽証罪として処罰されるので、逆に言えば証人ではない参考人としての虚偽の供述は罪に問われないというわけです。
上申書・被害届と供述調書の違いに注意しましょう!
論点:犯人自身による犯人蔵匿・証拠隠滅
まず結論から言いますと、
犯人自身による犯人蔵匿や証拠隠滅は期待可能性がないので犯罪が成立しない
となります。
期待可能性とは正しい行為をする可能性のことです。期待可能性がない状況では犯罪責任がないとして不成立となると考えられています。
犯人が自分の犯罪から逃れるために隠れたり、証拠を隠したり偽造したりするのは一般的に想定されること=当たり前なことなので、別段、犯人蔵匿罪や証拠隠滅罪が成立することはないというわけです。
論述の理由づけとしては
期待可能性がないから
としておけば大丈夫でしょう。
ただし、教唆などになってくると話は別です。犯人が知人に隠匿を頼んだり、証拠を隠滅するよう頼んだりした場合ですね。
犯人自身が蔵匿や証拠隠滅を頼む行為も期待可能性がないといえそうではありますが、判例・通説はこここまで不成立になるとはしていません。犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪は成立します!
自分だけの場合は期待可能性がないとして不成立としてもいいけれど、別の人を巻き込む場合にまで期待可能性がないとするのはおかしいよね。という判断が根底にあるのですね。
論点:共犯者の犯人蔵匿・証拠隠滅
では共犯者を蔵匿したり、共犯者の証拠を隠滅する行為はどうなるでしょうか。共犯者ということは自身の犯罪ともかかわっているわけです。
この場合、学説上対立がありますが、
犯人蔵匿罪は成立するが、証拠隠滅罪は自己の刑事事件として犯罪は成立しない
と考えると楽でしょう。
なぜ犯人蔵匿罪(刑法103条)と証拠隠滅罪(刑法104条)とで違いが生じるのでしょうか。
犯人蔵匿罪は直接的に刑事司法を妨害するものです。犯人自身がいなくなるのですから司法作用への影響は多大なものなのです。よって保護法益から、不成立となる範囲は狭いことになります。
また、条文をみても「罰金以上or拘禁されている者」を「蔵匿・隠避」すれば犯罪が成立するとされており、別にそれが「他人の犯罪であるか自分の犯罪であるか」という明確な区別なされていません。よって共犯者を蔵匿・隠避する場合は犯人蔵匿罪(刑法103条)は成立するわけです。
一方、証拠隠滅罪は犯人蔵匿罪に比べて刑事司法への影響は小さいです。その証拠がなくても別の証拠で犯罪を立証できれば問題ないわけなので。
さらに共犯者の場合には要件の「他人の刑事事件」という文言が引っかかるわけです。共犯ということは自分自身の犯罪でもあります。つまり「他人の刑事事件」という要件を満たさず期待可能性がないとして証拠隠滅罪(刑法104条)は成立しないと考えられます。
※もちろんこの点については明確な最高裁判例はないため、他の見解については各自基本書等で確認してください。
まとめ
以上、犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪についてみてきました。
保護法益や要件は単純に理解できたと思います。問題は論点をしっかり押さえられたかどうかですね。
論点の結論をもう一度整理してみましょう。
①犯人自身による犯人蔵匿・隠避や証拠隠滅は期待可能性がないので犯罪は成立しない。一方、犯人が他人に対して蔵匿・隠避、証拠隠滅を教唆する場合にはさすがに成立する。
②共犯者の蔵匿・隠避は犯人蔵匿罪(刑法103条)が成立する。
③共犯者の証拠隠滅罪(刑法104条)は成立しない。他人の刑事事件という要件を満たさないからである。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。