弁済による代位がよくわかりません。条文も長くて複雑ですし。
たしかに弁済による代位は難しいな。債権総論の最後の山場といってもよいだろう。ゆっくり確認していこうか。
弁済による代位は債権総論の最後の山場といってもよいでしょう。
弁済による代位とはざっくりいうと、求償権を回収にするための代位のことです。改正によって大きく変わった部分でもあります。しっかり確認していきましょう。
弁済による代位のポイント
まずは弁済による代位の趣旨を押さえます。そのうえで、弁済による代位の要件を確認しましょう。特に原債権と求償権の関係性が重要です。
特に民法501条はかなりややこしい条文です。そのため、今回はよく出る部分のみを対象にして述べていこうと思います。
この点にを意識して、まとめていこうと思います。
①弁済による代位の趣旨を理解する。
②弁済による代位の要件を押さえる。
③原債権と求償権の関係を理解する。
それでは見ていきましょう!
弁済による代位の趣旨
弁済による代位とは?
弁済による代位は、他人のために弁済した者が取得した求償権を回収するための制度です。
前回の記事で第三者弁済を学習しました。
このような第三者弁済の場合には、第三者から債務者に対して求償権が発生するのでした。
この求償権を回収するために、債権者が持っている債務者への「原債権」を代位する。つまり、第三者が代わりに用いる、ということができるのです。
「代位」ってよくわからない、という方は、原債権が「移転する」と考えるとわかりやすいと思います。
ここで改めて趣旨を確認しておきましょう。
弁済者による代位は、求償権を回収するに原債権を代位する制度であるという点です。あくまでも求償権を回収するための制度であるという点を意識しておいてください。
これが後々大事になっていきます。
条文は民法499条
さて、条文をみてみましょう。民法499条です。
(弁済による代位の要件)
第四百九十九条 債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。
ざっくりとしか書かれていません。これは要件についてのみ書かれた規定だからです。
なお、求償権をもつ者は第三者弁済の際の第三者に限られません。保証人や物上保証人などはそもそも第三者弁済を論じるまでもなく、保証債務や抵当権との関係で自身が債務者であるため、第三者弁済のことをあまり深く考えなくても求償権が生じます(民法474条1項)。「債務者のために弁済をした者」は何も第三者弁済の条文で議論があるものというわけではないのです。
弁済による代位が許される者の代表例としては
保証人
物上保証人
正当な法律上の利益を有する者(民法474条1項)
正当な法律上の利益はないが債務者債権者の意思に反しない者(民法474条2項3項)
などがあげられます。
とりあえず第三者弁済で有効な弁済として認められる者は、求償権をもつので、弁済による代位も可能ということを理解しておけばよいでしょう。
効果については民法501条を見ればわかります。
(弁済による代位の効果)
第五百一条 前二条の規定により債権者に代位した者は、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。
2 前項の規定による権利の行使は、債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の一人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には、自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り、することができる。
民法501条1項では、債権者に代位した者は、原債権(もともとの債権者が債務者に対して持っていた債権)の一切の権利を行使できる、とされています。
つまり、求償権をもつ者は、原債権を自分のものとして扱ってよいというわけです。原債権についていた担保も行使できるということですね。
また、2項を確認すると、求償権の範囲内でしか行使できません。これは弁済による代位の趣旨を確認すればわかります。
弁済による代位の趣旨は求償権を回収することでした。
そのため、求償権が上限となるわけです。求償権を回収したいから原債権を代位している、原債権の担保を行使しているということです。
弁済による代位の要件
さて、弁済による代位の要件を考えていきます。先ほどの条文、民法499条から要件を導き出すのですが、なんせ書き方が単純すぎて難しいです。
今回は、弁済による代位の図から導き出しましょう。
まず原債権が必要なことはわかります。これを代位するからですね。
そして、有効な弁済も必要です。弁済をしなければ弁済による代位はできないという当然なことです。
さらに、求償権も必要になります。これは民法499条からは直接わかりませんが、趣旨を考えれば、求償権を回収することなので、当然に必要なことがわかります(とはいっても求償権は弁済により発生することが多いです)。
よって要件は以下の通りになります。
〈弁済による代位の要件〉
①原債権
②弁済
③求償権
この要件がそろえば、弁済をした者は、原債権を代位して担保などを行使できるわけです。
原債権と求償権の関係
原債権と求償権の関係性は、弁済による代位を勉強した際に勘違いしやすい部分です。
しかし、この点も、弁済による代位の趣旨をわかっていれば、すんなり理解できると思います。
原債権と求償権は独立している
弁済による代位は、求償権を回収するために、原債権を行使するものでした。しかし原債権は求償権とは独立した債権です。
そのため、原債権と求償権は、元本や弁済期、利息や遅延損害金の有無や割合が別々になります。連動しているわけではない点に注意してください。
また、弁済による代位で担保権を行使しているのは、求償権に担保がついていたからではありません。あくまで「原債権(被担保債権)」を代位行使した結果として「原債権」についていた「担保権(抵当権など)」を行使しているだけなのです。
弁済による代位は原債権を代位行使するものだという原則を忘れないようにしましょう。
原債権より求償権の額の方が大きい場合:原債権の額が上限
さて、弁済による代位の趣旨を理解していれば、原債権より求償権の額が大きい場合の処理方法はわかると思います。
弁済による代位はあくまで求償権回収のために原債権を行使しているだけにすぎません。
そのため、原債権の範囲内でしか代位することができません。原債権についていてる抵当権を行使した際も原債権の範囲でしか配当金を受けることができません。
原債権より求償権の額が小さい場合:求償権が上限
一方、原債権より求償権の額の方が小さい場合についても、弁済による代位の趣旨を理解すれば大丈夫でしょう。
求償権が回収しきったのであれば、それ以上の原債権の行使を認める必要がありません。
そのため、求償権の額が上限となって原債権を行使することになります。このことは条文にも規定されています(民法501条2項)。
まとめ
このように、原債権と求償権の関係は、連動しているわけではありません。
しかし、弁済による代位の趣旨は求償権を回収するために原債権を代位行使することであったので、求償権と原債権の小さい方が上限になることになります。
まとめ
弁済による代位を見てきました。
シンプルな場面では弁済による代位は理解しやすいと思います。
難しいのは物上保証人や保証人が複数いる場合の代位関係です。この場合の条文の処理方法も民法501条に規定されています。
(弁済による代位の効果)
第五百一条 前二条の規定により債権者に代位した者は、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。
2 前項の規定による権利の行使は、債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の一人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には、自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り、することができる。
3 第一項の場合には、前項の規定によるほか、次に掲げるところによる。
一 第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう。以下この項において同じ。)は、保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない。
二 第三取得者の一人は、各財産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。
三 前号の規定は、物上保証人の一人が他の物上保証人に対して債権者に代位する場合について準用する。
四 保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。
五 第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、第三取得者とみなして第一号及び第二号の規定を適用し、物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、物上保証人とみなして第一号、第三号及び前号の規定を適用する。
民法501条3項は非常にややこしい問題です。初学者の方はとりあえず飛ばして大丈夫でしょう。
また、条文自体はややこしいですが、しっかり書かれているので、慣れてくれば条文通りに理解するだけで済むので楽だと思います。
とりあえず初学者の段階で押さえておいてほしい点は、以下の図と弁済による代位の趣旨です。
弁済による代位の趣旨は、求償権の回収のために、原債権を行使するものである。
読んでくださりありがとうございました。ではまた~。
参考文献
債権総論では初学者にもおすすめのとてもわかりやすい基本書があります。有斐閣ストゥディアの債権総論です。
改正民法に完全対応ですし、事例や図解、章ごとのまとめもあるのでとてもわかりやすい基本書になっています。ぜひ読んでみてください。