
所有権のほか、占有権による請求もできますよね?

そうだね!民法では所有権以外にも占有権が保障されているから、占有権だけで相手方に請求することも可能だよ。

けど、「占有」ってどういったものかよくわからないかも……

じゃあ、今回は占有についてみていこう!最初に占有とはどのようなものかをしっかり理解することが大事だな。
これまでは所有権に基づく物権的請求権が主体でしたが、民法は所有権以外に、占有権についても保障しています。
つまり、占有権によって相手方に請求することができるわけです。
この占有権を押さえる最初のステップとして、「占有」とは何か?をしっかり理解することが大事です。
今後の不当利得等でも「占有」の概念は頻繁に登場しますので、ここでしっかり押さえておきましょう!
占有権のポイント
まずは、占有の要件について理解しましょう。とはいっても、これは簡単です。
その次に、占有権の効果の一つとして、回復者と占有者との間の関係性について押さえていきます。
①占有権の要件について押さえる。
②占有権の効果を理解する。
それでは見ていきましょう!
占有権の要件
条文は民法180条
まずは占有権を規定している条文を見てみましょう。
民法180条をご覧ください。
(占有権の取得)
第百八十条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
民法180条からもわかるように
占有権の要件は
①自己のためにする意思②物の所持
であることがわかります。
詳しく、これら2つの要件を見てみましょう。
要件①:自己のためにする意思
自己のためにする意思というのは、物を所持しようという意思のことです。
ただし、この、自己のためにする意思というのは、潜在的に存在すれば足りるため、通常は認められます。
あなたが物を占有=持っている場合、何らかの経緯が必ずあるはずです。
たとえば、誰かから買ったり、誰かから預かってほしいと頼まれたり……
物の所持には基本的に何かしらの経緯があることから、「自己のためにする意思」というのは判断されるため、基本的に「自己のためにする意思」という要件は満たされることになります。
要件②:物の所持
占有権を基礎づけるためには、まず「物の所持」が必要です。
占有=物の所持なので、当たり前といえば当たり前ですね。

占有権はそもそも、人の物的支配を保護するものなので、当然の前提として
「物を持っていること」
が必要というわけです。
まとめ
以上をみますと、
自己のためにする意思は通常認められますので、
占有権は「物を持っている」かどうかが重要ということになります。
占有権の効果は条文を確認せよ!
フィーリングで理解するな!
占有権を学習した際に、なぜか条文を見ることなく理解しようとする人が多いです。
私も実際そうでした。
これは所有権が条文に書かれていないがゆえ、同じような占有権も条文なしで理解しようとしてしまうことに原因があると思われます。
しかし!それはダメです!!
占有権はちゃんとした条文があります!なので条文から理解しないといけないのです。
フィーリングで理解してはダメ!!
ということをしっかり押さえましょう。
条文があるとなれば、条文に沿って理解していくほかありません。詳しく条文を一つずつみていきます。
場面は回復者から返還を求められたとき
そして、占有権についての効果が問題となる場面を押さえます。
Aが物を占有していました。一方、本来の所有者であるBがAに対して、物を返すように請求してきました。
さすがに、物は所有者Bに返還する必要があるのですが、Bに対して何か主張することができないでしょうか。
という場面です。
果実の処理(民法189条・民法190条)
まずは占有物について果実が生じていた場合を考えてみます。
AはBに対して「果実は私のもの!」と言えるでしょうか?
それとも、AはBに対して物の返還に加えて果実も返還しないといけないのでしょうか?
この点、最初に条文をみてみましょう。民法189条、民法190条です。
(善意の占有者による果実の取得等)
第百八十九条 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
2 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
(悪意の占有者による果実の返還等)
第百九十条 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
2 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
果実の処理が問題になっています。
果実というのは、わかりやすく言えばその物から得られるもののことです。
たとえば、物が、苗の場合、そこから生じる果物は「果実」ですし、物が、建物の場合、そこから生じる賃料(使用利益)は「果実」になります。
物から生じる利益はすべて「果実」になるわけです。
条文に従えば「善意の占有者」と「悪意の占有者」に分けて考えるということになりますね。
善意の占有者の場合には、占有者が果実ゲットです。
一方、悪意の占有者の場合には、占有者は果実をゲットしません。所有者に果実を返還する必要があります。
占有者が果実をゲットするかどうかは、善意か悪意かで分かれる!
という点をしっかり理解しておきましょう。
費用償還請求(民法196条)
続いて、費用償還請求についてみていきます。
Aは物について費用を支出していました。Bから返還を求められたAは、Bに対して
「私は、この物に対して以前費用を支出したんです!返せというのなら、その費用を払ってください!」
と主張することはできないのでしょうか?
条文は、民法196条1項2項になります。
(占有者による費用の償還請求)
第百九十六条 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
占有者がその占有物に対して費用を支出している場合、所有者に対してその費用を償還できるかどうか、
という問題です。
民法196条1項2項は難しそうに書かれていますが、
簡単にいえば、
必要費の場合は償還オッケー(民法196条1項)
有益費の場合は所有者(回復者)の選択に従って償還オッケー(民法196条2項)
ということになります。
必要費と有益費で民法196条1項、民法196条2項が分かれている点には注意しましょう。
占有者は、所有者(回復者)に対して、支出した必要費・有益費を償還できるというわけですね。
まとめ
以上、占有の要件と効果についてざっと確認してみました。
いかがだったでしょうか。以下でまとめてみたので、復習がてら確認してみましょう。
①占有の要件は民法180条「自己のためにする意思」と「物の所持」である。「自己のためにする意思」はあまり問題にならない。
②占有の効果として、最初に押さえるべきは「果実の処理」と「費用の処理」である。
③「果実の処理」は占有者が善意か悪意かで分け、民法189条・民法190条を見る。
③「費用の処理」は民法196条を見る。
実は、今回は試験に出やすい部分しか解説していません。実際は、瑕疵の承継や相続の新権原など細かい論点もたくさんあります。
まずは今回の基本を押さえつつ、問題集等を通して細かい知識をつけていくとよいでしょう!
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
物権法のわかりやすい基本書としては佐久間先生のものをお勧めします。
事例付で詳しく解説されているので、初学者の方には特におすすめです。