それではいよいよ経済法の内容に入っていくぞ!
まずは「不当な取引制限」を見てみよう。
不当な取引制限って「カルテル」とかの話ですよね。
その通り!カルテルが違法となる場合の要件を一つずつ確認していくぞ!
経済法で最初に学習すべきなのは、「カルテル」です。というのも一番イメージがしやすい分野だからですね。カルテルは経済法の用語では「不当な取引制限」といいます。条文上そうなっているからです。
今回は不当な取引制限の要件の解釈を一つずつ確認していきましょう!
不当な取引制限のポイント
経済法のポイントとしては要件自体の意味を一つひとつ確認していくことです。そして「暗記」する必要があります。
要件の暗記ができたらあとは問題演習を通してあてはめの能力を鍛えていくしかないです。この「はじめての経済法」シリーズでは、とりあえず「理解」と「わかりやすさ」を中心に置いているので、要件の暗記自体を中心に解説できたらいいなー、と思います。
要件は
①事業者が②他の事業者と③共同して④相互に拘束し⑤一定の取引分野における競争を実質的に制限すること⑥公共の利益に反すること
です。
これを一つずつ確認していくことにします。
①不当な取引制限のイメージを作る。
②「事業者」について理解する。
③「他の事業者」について理解する。
④「共同して」について理解する。
⑤「相互拘束」について理解する。
⑦「公共の利益に反して」について理解する。
以上、詳しく見ていきましょう。
不当な取引制限のイメージ
まず要件の確認に入る前に不当な取引制限のイメージを作っていきましょう。
ハードコアカルテルと非ハードコアカルテル
まず典型的カルテルと非典型的カルテルの2種類に分けられるとされています。
この典型的カルテルの方を「ハードコアカルテル」と言い、非典型的カルテルの方を「非ハードコアカルテル」と呼びます。
ハードコアカルテルとは、競争制限以外の目的・効果を持ちえない共同行為のことです。我々が一般的に想像するカルテルのことを言います。
価格カルテルや数量制限カルテル、入札談合
などが主な例です。
一方で非ハードコアカルテルはハードコアカルテル以外のカルテルを指し、
共同研究
などが主な例です。
この非ハードコアカルテルは一通り経済法を学習してから、発展ケースとして学習した方がわかりやすいのでここでは飛ばします。
「はじめての経済法」としては、ハードコアカルテルをしっかり理解することに絞って解説していきます!
カルテルや入札談合
ハードコアカルテルの典型例、よく出てくる例はカルテルと入札談合です。
カルテルは皆さんも想像つきやすいと思います。
企業同士で「価格」といった情報をすり合わせて同じような値段にしてしまうことですね。
入札談合は、官公庁などでよく行われる形式です。
官公庁は、公的機関です。公的機関で何か必要になる場合(建設業などが多い)には入札という形式をとります。いわゆるオークションですね。
各企業で「私ならこの価格でその仕事を請け負えます」ということを提示し、公的機関は一番安い価格を提示した企業にお願いするという形式です。
この際に企業が「通謀してみんなが受注できるようにしよう。毎回価格を知らせて、一番低い価格を付ける企業を前もって決めておこう」というように談合することがあります。
これを入札談合というわけです。
入札談合はイメージがしづらいですが、官公庁で頻繁に採用されており、経済法で出題されやすい分野・問題となりやすい分野なので注意しておきましょう!
独禁法2条6項の要件の確認
さて、不当な取引制限は独占禁止法2条6項に書かれています。
第二条
⑥ この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
太字部分が要件となります。
すなわち
①事業者②他の事業者③共同して④相互拘束(共同遂行)⑥公共の利益に反して⑤一定の取引分野における競争の実質的制限(便宜上、⑤⑥は条文の順番とは異なります)
の6つです。
これらの要件一つひとつを順にしっかり確認していくことが経済法の学習になります。
なお、独占禁止法2条6項に該当すると独占禁止法3条により違法となるため、独占禁止法3条も合わせて確認しておきましょう。
第三条 事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
独占禁止法2条6項だけでは「違法」とはならない点は注意してください。独占禁止法3条と合わせてはじめて「違法」となります。
なお、①事業者の要件は独占禁止法3条との関係でも必要になる要件です。
要件①:事業者
独占禁止法2項1項の定義規定
さて最初の要件は「事業者」です。事業者については独占禁止法2項1項に定義規定があるので確認しましょう。
第二条 この法律において「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。事業者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項又は第三章の規定の適用については、これを事業者とみなす。
事業者が「商業」「工業」「金融業」であれば独占禁止法2条1項から簡単にあてはめることができます。
判例がいう「事業」
しかしそれ以外でも「事業者」要件を満たすとの判例が形成されています。判例自体の文言は「暗記」する必要があります。
なんらかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動を指し、(その主体の法的性格は問うところではない)。
つまり①経済的利益供給②反対給付の反復継続があれば「事業」として認められ、それを行う者は「事業者」に該当するというわけです。
要件②:他の事業者
事業者が「他の事業者」と不当な取引制限を行う必要があります。この「他の事業者」の意味も問題になってくるというわけです。なかなか細かいですよね。
なぜ「他の事業者」でなければならないか
まずなぜ「他の事業者」でなければならないかを押さえてみましょう。「他の」事業者は、不当な取引制限をやろうとしている事業者(①経済的利益供給②反対給付の反復継続)とは別の事業者ということです。
もし同一のつながりのある事業者(子会社など)であれば共同して事業を行うのはしょうがないため、別に違反とはなりません。
あくまで「他の」独立した事業者と一緒に悪いことをやるから(市場の競争関係をなくすから)違法になるというわけです。
「他の事業者」=実質的な競争関係にある事業者
さて判例ではこのことをどう表現するのでしょうか。
結論から言いますと、他の事業者とは形式的(株式保有とかの形式面)ではなく
実質的な競争関係にあるかどうか
から認定します。
要件③:「共同して」
「共同して」=意思の連絡
さていよいよ本題に入っていきます。
「共同して」とは何を指すのか?
結論から言いましょう。
「共同して」とは、意思の連絡です。
判例では黙示のものでも足りるとされています。もう少し論証っぽく言うと、
「共同して」とは意思の連絡を意味する。判例では、遺書の連絡とは、複数事業者間において、相互に、価格を設定することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があれば足りる。(元詰種子カルテル事件参照)
すなわち
「共同して」=意思の連絡=相互に認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思(黙示も含むという意味)
というわけです。
必ず「意思の連絡」というワードは出すようにしましょう!
判例を追及して学説では意思の連絡の認定には①事前の連絡交渉②交渉の内容③事後の行動の一致があれば意思の連絡は推認できるとされています(東芝ケミカル事件参照)。
これに沿って事案から当てはめていけば「共同して」という要件は完璧です。
談合の場合
例外として談合の場合を考えてみます。
「共同して」=意思の連絡=相互に価格設定を認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思
というのは共通ですが、どのように意思の連絡を認定するのかはまた別の話です。
①事前交渉②交渉内容③行動の一致は主にカルテル事件での意思の連絡の認定方法です。談合の場合はなかなか使いづらい方法なのです。
では、談合ではどのようにして、意思の連絡を認定すればいのか?
談合は基本合意(こんな感じで入札をやっていきましょうか)というものと個別調整(各入札の機会にどのように行うのか)から成り立っています。この基本合意が意思の連絡に当たるのですが、なかなか直接これを発見するのは難しいのです。
そのため、個別調整事項から積み重ねて間接事実より基本合意の存在を立証します。
つまり、個別調整の存在から「本来の競争入札のルールとは相いれない別のルール」の存在を立証すればよいのです(大石組事件参照)。
とりあえず、カルテルとは違うパターンで意思の連絡を認定していくんだなー、という風に考えておくとよいでしょう。
発展:共同からの離脱
さて、不当な取引制限は意思の連絡段階=合意の成立時に成立します。
いったん成立すると、カルテルや談合に参加している事業者は離脱の方法をとらなければ、規制から逃れることはできません。
離脱は単に内心の決意だけでは不十分であり、離脱の意思が明確に認識されるような意思の表明または行動という外部的徴表が必要であるとされています。
離脱するなら外部に示せ!
をキーフレーズに覚えていきたいところですね!
要件④:相互拘束・共同遂行
相互拘束は拘束の共通性と拘束の相互性
相互拘束という要件を聞いたなら拘束を2つに分けます。
①拘束の共通性
②拘束の相互性
です。
さらに①拘束の共通性とは目的の共通性②相互の拘束性とは合意を遵守し合う関係のことを言います。
すなわち、
目的が共通していれば、細かいところは抜きにして拘束は共通しているといえ、
合意を遵守し合う関係(当事者間で何か協力する関係性)があれば、相互に拘束されているといえるわけです。
共同遂行は独自の要件ではない
共同遂行が条文上には表れていますが、共同遂行自体に独自の意味はないとされています。
意思の連絡・相互拘束の実態があれば、不当な取引制限は認定されるためです。
要件⑤:一定の取引分野における競争の実質的制限
一定の取引分野の競争の実質的制限とは、㋐一定の取引分野㋑競争の実質的制限の2つに分けられます。
一定の取引分野
一定の取引分野は市場のことです。より詳細にいうと競争が問題となる市場のことです。
ハードコアカルテルの場合は「一定の取引分野」の認定は超楽といえます。
共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲が一定の取引分野となると判例上されています(シール談合事件)。よって、合意が実効性を有する限り、実効性を有する範囲が一定の取引分野となるわけです。
なぜか?
ハードコアカルテルは、客観的に反競争効果が明白です。これの正当性を基礎づけることはほぼ不可能です。そのため、ハードコアカルテルが行える範囲=競争が制限される範囲=影響を受ける市場という逆算的認定ができるというわけなのです。
競争の実質的制限
競争の実質的制限とは、市場支配力の形成維持強化のことをいいます(NTT東日本事件)。
しかし判例を知っていますよ、と示すためには以下の文言を用いましょう。暗記ゲーです。
競争を実質的に制限するとは、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することができることを意味する。
これを市場支配力の形成維持強化というわけですね。
これは覚えるしかありません。
あとは認定方法ですが、
①シェア
②アウトサイダー(カルテル・談合をしていない事業者)からの供給余力・対抗可能性
③結果(カルテルの場合は価格が上がったこと・談合の場合は落札率の高さ)
を中心にいろいろな事情を用いて検討していくことになります。
ここはあてはめなので問題演習を通して身に着ければよいでしょう。
要件⑥:公共の利益に反して
石油価格協定事件の判示
カルテルや談合とったハードコアカルテルは基本的に「公共の福祉に反」するので、この要件はあまり機能していません。
とはいえ、判例知っていますよアピールのために判示をしっかり貼り付けて検討する必要があるでしょう。
競争を実質的に制限する共同行為は、原則として公共の利益に反する。しかしそのような共同行為であっても「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発展を促進する」という独占禁止法1条の究極目的に反しない例外的な場合は、公共の利益に反しないといえる。
という判例・通説が形成されています。
ポイントは、
公共の利益に反しない場合=独占禁止法1条の究極目的に反しない場合
ということです。
ここで独占禁止法1条を見てみましょう。
第一条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
太字の部分が究極目的とされています。
独占禁止法は1条によれば、
「公正かつ自由な競争云々」→「消費者の利益確保・国民経済の民主的で健全な発達」
という目的の流れをとります。逆に言えば、究極的には「消費者利益・国民経済の民主的健全な発達」を目的にしているので、ハードコアカルテルであっても、この目的のためであれば許されるというわけです。
そのため、公共の利益に反しない=独占禁止法1条の究極目的に反しないということを意味しているわけですね。
とはいえ「公共の利益に反しない」とはほぼ認定されません。たとえば「健康被害から守るため」にカルテルをやったと主張したとしましょう。
一見、「国民経済の健全な発達」のためにやったといえそうです。しかし手段がおかしいです。より競争制限的ではない手段があるはずです。わざわざカルテルをやる理由にはなりません。
このようにして、目的が一見、独占禁止法1条に沿うような場合でも、目的に対する手段がおかしいとして「公共の利益に反」するとされることが99%といってよいでしょう。
「公共の利益に反しない」とされた例は今のところ存在しません。
まとめ(論証)
以上、不当な取引制限の要件を確認していきました。
論証集として各要件をもう一度まとめ直してみます。
①「事業者」…㋐経済的利益供給㋑反対給付の反復継続
②「他の事業者」…実質的競争関係にある事業者
③「共同して」…意思連絡= 相互に認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思(黙示も含む)
④相互拘束・共同遂行…㋐拘束の共通性(目的の共通)㋑拘束の相互性(合意を遵守し合う関係)
⑤一定の取引分野の競争を実質的制限
… ㋐一定の取引分野とは、ハードコアカルテルの場合、反競争効果が明らかであるから、 範囲が一定の取引分野となる 。
…㋑競争を実質的に制限するとは、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することができること =市場支配力の形成維持強化
⑥「公共の利益に反して」… 原則として公共の利益に反する。しかし「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発展を促進する」(独占禁止法1条)例外的な場合は、公共の利益に反しない。
要件はひたすら暗記していくしかありません。一緒に頑張っていきましょう!
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
経済法を本格的に学習する人の中で入門的に使ってほしい参考書を上げてみます。というか論証の暗記として使えるものを用意してみました。
とりあえず経済法のスタートは「要件の暗記」です。そのため、要件自体のガイドラインや判例通説をもとに逐条的に解説してある『条文から学ぶ独占禁止法(第2版)』をお勧めします。
ただし課徴金等の箇所は改正に対応していませんので、別途サイトの方から補遺をダウンロードすることをお勧めします。とはいえ、要件の部分は変更がありませんので試験対策としてはほぼ問題はないでしょう。