物権的請求権の中に登記請求がありますよね。登記請求の考え方がよくわからないんですけど……。
なんだ、そんなことか。登記請求は、登記自体にあまりなじみがない人にとってはイメージしにくいだろうな。
よし、わかりやすい考え方を教えてあげよう!
登記請求は、登記自体にあまりなじみがない方はなかなかイメージしにくい分野だと思います。
特に所有権移転登記・抵当権設定登記・抹消登記……と同じような「用語」が出てくるのでこんがらがる方も多いのではないでしょうか。
今回は、登記請求のわかりやすい考え方を提示していきます!!
登記請求のポイント
登記請求を考える際の最初のステップは、登記の種類を押さえることです。登記の種類を最初に理解していないとよくわからなくなっていきます。
その次に、どのような場合に、どういう請求をするのかを理解しましょう。この点を理解すれば、どの訴訟物を選ぶか悩む必要がありません。
最後に、「所有権移転登記請求」「所有権移転登記抹消登記請求」「抵当権設定登記抹消登記請求」の3種類に分けて、それぞれ訴訟物・請求の趣旨・請求原因→抗弁→再抗弁を解説していきます。今の段階で上記3種類を理解していなくてもかまいません。この記事を読んだ後は使い分けができていることでしょう!
分量が多いと思われるかもしれませんが、請求原因→抗弁→再抗弁……は物権的請求権の一般論とほぼ同様です。実際、登記請求権はどの場面でどのような登記請求を使うか考えれば、あとは物権的請求の一般論に載っていけばいいのです。
>>>物権的請求権の一般論についてはこちら【はじめての民事実務基礎その6】
①登記の種類を理解する。
②登記請求の種類を理解し、どのような場面でどの請求を使うか理解する。
③所有権移転登記請求の訴訟物・請求の趣旨・請求原因→抗弁→再抗弁等を理解する。
④所有権移転登記抹消登記請求の訴訟物・請求の趣旨・請求原因→抗弁→再抗弁等を理解する。
⑤抵当権設定登記抹消登記請求の訴訟物・請求の趣旨・請求原因→抗弁→再抗弁等を理解する。
それではみていきましょう!
登記の種類は、所有権移転登記・抵当権設定登記
登記とは何か?
まずは登記とは何かを押さえておきます。登記とは、不動産の所有権などを示すものです。
特に民法177条では、登記が不動産の第三者対抗要件(不動産の所有などを示すもの)として使われると規定されています。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
しかし、登記とはあまりイメージが付きにくいものです。
実際の登記の画像を見てみましょう。
上のようなものが登記です。
最初に登記を設定する建物などの場所や地番・地積等が記載されています。
その次に権利関係が記載されるのです。この権利関係を争う際に登記請求が登場するわけですね。
所有権設定登記・所有権移転登記・抵当権設定登記を押さえよ
特に権利部(甲区)の箇所をみてください。
1 所有権保存
2 所有権移転
と書いてありますね。このそれぞれが請求対象になるのです。
すなわち「2 所有権移転」の欄を削除したかったら、「所有権移転登記抹消登記請求=「所有権移転登記の欄を抹消する登記を新たにしてください」という請求をすることになります。
登記請求の実務で出てくる登記の種類は
「所有権保存登記」「所有権移転登記」「抵当権設定登記」
の3種類です。
そしてこれらの登記は上図の「権利部」のところに欄として登場することになります。この点をしっかり理解しておきましょう。
権利部(甲区)をみれば、「現時点で誰が所有者か」を知ることができます。所有権移転登記の最後の主が所有者であるからです。
権利部(乙区)をみれば、「現時点で不動産にどのような権利がついているか」を知ることできます。この欄に「抵当権設定登記」があれば、当該不動産には抵当権が設定されている、ということがわかるわけです。
請求としては所有権移転登記請求か抹消登記請求か
では次に登記請求の種類についてみていきます。
民事実務基礎で出題される登記請求の種類は「所有権移転登記請求」か「抹消登記請求」の2択です。
所有権移転登記請求
所有権移転登記請求は「新しく所有権移転登記を記載してください」という請求です。
わかりやすい例としては売買した場合でしょう。
登記手続は通常、共同申請(登記権利者と登記義務者が一緒になって申請する必要)です。そのため、売買されたのに相手方(売主=登記義務者=登記を失う側)が登記申請に応じない場合は、登記請求を行うことになります。
売主→買主へと所有権が移転したことを登記にしたい、こうすることで自身(買主)は買った不動産に登記を備えることができます。
よって所有権移転登記請求をすることになるのです。
また、所有権移転登記は柔軟に解されています。というのも真の権利関係を示すために、すなわち是正のために所有権移転登記をすることも判例上認められているのです。
たとえば
1所有権移転登記「A→B」
2所有権移転登記「B→C」
が記載されており、AB間の売買契約が無効であったことが判明したとします。この際には1の所有権移転登記と2の所有権移転登記を抹消登記することが考えられますが、いかにも煩雑です。
そのため、
3所有権移転登記「C→A」
を記載することでAに所有権登記を戻してあげるという運用がなされているのです。このような方法を「真正な登記名義の回復のための」所有権移転登記といいます。
また、加えて覚えておいてほしいのは
所有権移転登記の際は必ず「原因」を意識しなければならない
ということです。これは登記申請の際に原因を記載するからです。
〇年〇月〇日のXY間の売買契約
や
真正な登記名義の回復
といった用語が必ず必要になります。これは請求の趣旨の箇所でも扱うので覚えておいてください。
抹消登記請求
抹消登記請求は、登記事項を抹消するというものです。
私ははじめこの言葉を聞いたときに「登記全体を抹消する、破壊する」と思っていましたが違いました。しかし実際はそうではありません。
上記の登記の「所有権保存」の欄や「所有権移転」の欄、「抵当権設定」の欄といった各欄を抹消する請求です。
すなわち「所有権移転登記抹消登記」というのであれば
2「所有権移転」の部分を抹消する登記というわけになります。すると1「所有権保存」の部分のみ権利としは残るので、当該不動産の所有者は「甲野太郎」ということになるのです。
甲野太郎→法務五郎の所有権移転登記が抹消されるので、甲野太郎が所有者になるというわけですね。
このように抹消登記請求は、ある登記の権利の欄をなくす請求ということになります。
抹消登記は基本的に不実の登記がある際に用います。
上の図はAB間の売買があったのはよいが、なぜかCが勝手にBC間売買契約を原因とする所有権移転登記を設定した場合です。
BC間の所有権移転登記が不実(真実に基づかないもの)である場合には「2 B→C所有権移転登記」を抹消したいですよね。そのため、抹消登記請求をします。
なお、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記の考え方を基にすれば「3 C→B所有権移転登記」を新たに所有権移転登記として設定して、Bに所有権を戻すことも可能です。
しかし実際は抹消登記の方が税制等でメリットが大きいので、この場合は抹消登記請求を使うことが多いでしょう。
抵当権の場合も同様です。
Bが所有者であることには変わりありません。しかし、Cが勝手に自身のために抵当権を設定しました。
この場合、Bは不実の抵当権設定登記を抹消するため、抵当権設定登記抹消登記請求をすることができます。
登記の種類・登記請求の種類のまとめ
以上、登記の種類と登記請求の種類についてみてきました。
ここまでくれば
「所有権移転登記請求」
「所有権移転登記抹消登記請求」
「抵当権設定登記抹消登記請求」
の意味が分かってきたのではないでしょうか。
はじめのうちは「登記がなんで重なってるんだ!意味がわからん!」となりそうですが、実は
「所有権移転登記」「抵当権設定登記」
と分かれたうえで
その登記を「抹消登記請求」するか、新たに「所有権移転登記請求」をするか
の2択を示していただけだったのです。
これで登記請求の全貌が見えてきたと思います!
所有権移転登記請求
訴訟物
所有権移転登記請求の訴訟物は
所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権
です。
登記の場合は必ず「妨害排除請求権」になることを押さえておきましょう。占有による侵害ではなく文字の記載による侵害だからです!
請求の趣旨
登記請求の請求の趣旨は独特です。注意点は3つあります。
1、所有権移転登記にはかならず「原因」を示す必要がありました。そこで請求の趣旨にも登記官にわかりやすいように「原因」を含めて記載します。
2、加えてどこの土地についてか示すようにしましょう。請求の趣旨はシンプルイズベストでしたが、土地が示されていなければ登記官は登記手続のしようがありません。
3、「登記手続をせよ。」という文末になります。登記官にしてもらうからです。
以上を踏まえると、
「被告は、原告に対し、甲土地につき、〇年〇月〇日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」
「被告は、原告に対し、甲土地につき、〇年〇月〇日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」
「被告は、原告に対し、甲土地につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」
といった具合に原因に応じて記載することになります。
請求の趣旨はいかにシンプルに書くかどうかでした。これは執行官が混乱しないためです。
しかし登記請求の相手方はベテランの登記官です。法律の知識もままあると思います。そのため、シンプルイズベストの記載方法ではなく登記官イズベストの記載方法をするのです。
登記官が手続しやすいように「原因」「土地の名前」を書き「手続をお願いします」という内容の文言になるわけですね。
請求原因→抗弁→再抗弁
請求原因以降は物権的請求権の議論とほぼ同じです。請求原因だけ少し異なるので記載します。
〈所有権移転登記請求の請求原因〉
①もと所有(権利自白を忘れないこと)
②現在の登記(≠現所有ではない)
→「原告は、〇年〇月〇日当時、〇土地を所有していた。」
→「〇土地について、被告名義の所有権移転登記がある。」
→「よって、原告は、被告に対し、所有権に基づき、所有権移転登記手続をすることを求める。」
抗弁としては
所有権喪失の抗弁
登記権原の抗弁
対抗要件の抗弁
対抗要件具備による所有権喪失の抗弁
などが考えられますね。この抗弁四銃士は必ず覚えましょう!
所有権移転登記抹消登記請求
続いて所有権移転登記を抹消したい場合の請求です。
訴訟物
訴訟物は
所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権
です。登記請求の場合には必ず「妨害排除請求権」になります。
所有権移転登記を抹消登記請求すると理解しておきましょう。用語としてこんがらがならないようにしてください!
請求の趣旨
抹消登記請求の場合には、原因は必要ありせん。その登記を抹消したいだけですから。
そのため、「土地名」と「登記手続をせよ。」を意識すれば大丈夫です。また抹消するだけですから、相手方はいません!!
ただし、どの所有権移転登記を抹消するか、対象を明確に示す必要があります。実務では「ここを抹消しまーす」という部分を別紙でつけるのです。
「被告は、甲土地について、別紙登記目録記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。」
請求原因→抗弁→再抗弁
こちらも物権的請求権の一般論と同様です。
請求原因のみ記載します。
〈所有権移転登記請求の請求原因〉
①もと所有(権利自白を忘れないこと)
②現在の登記(≠現所有ではない)
→「原告は、〇年〇月〇日当時、〇土地を所有していた。」
→「〇土地について、(別紙登記目録記載の)〇名義の所有権移転登記がある。」
→「よって、原告は、所有権に基づき、上記所有権移転登記の抹消登記手続をすることを求める。」
抗弁は
所有権喪失の抗弁
登記権原の抗弁
対抗要件の抗弁
対抗要件具備による所有権喪失の抗弁
ということになるでしょう。
抵当権設定登記抹消登記請求
抵当権設定登記抹消登記請求は、所有権移転登記抹消登記請求とほぼ一緒です!!
訴訟物
訴訟物は
所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記請求権
です。登記請求の場合には必ず「妨害排除請求権」になります。
抵当権設定登記を抹消登記請求すると理解しておきましょう。用語としてこんがらがならないようにしてください!
請求の趣旨
抹消登記請求の場合には、原因は必要ありせん。その登記を抹消したいだけですから。
そのため、「土地名」と「登記手続をせよ。」を意識すれば大丈夫です。また抹消するだけですから、相手方はいません!!
ただし、どの所有権移転登記を抹消するか、対象を明確に示す必要があります。実務では「ここを抹消しまーす」という部分を別紙でつけるのです。
「被告は、甲土地について、別紙登記目録記載の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。」
請求原因→抗弁→再抗弁
こちらも物権的請求権の一般論と同様です。
請求原因のみ記載します。
〈所有権移転登記請求の請求原因〉
①もと所有(権利自白を忘れないこと)
②現在の登記(≠現所有ではない)
→「原告は、〇年〇月〇日当時、〇土地を所有していた。」
→「〇土地について、(別紙登記目録記載の)〇名義の抵当権設定登記がある。」
→「よって、原告は、所有権に基づき、上記抵当権設定登記の抹消登記手続をすることを求める。」
抗弁は
所有権喪失の抗弁
登記権原の抗弁
対抗要件の抗弁
対抗要件具備による所有権喪失の抗弁
ということになるでしょう。
まとめ
以上、登記請求についてみてきました。
登記請求の種類さえわかればあとは物権的請求権の要件事実論の一般論に沿って行けば大丈夫です。
ただし請求の趣旨では、登記官に伝えるという点で、これまでのシンプルイズベスト形式ではないことには注意しましょう!
最後に物権的請求権一般論の請求原因・抗弁・再抗弁について改めて確認したいものですね。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
民事実務の基礎の教科書、参考書として有用なのは1つしかありません。
これを買わずして勉強できないといわれるほどの良書、大島先生の「民事裁判実務の基礎」です。
予備試験、ロースクール授業対策であれば「入門編」で十分でしょう。司法修習生になると「上級編」や「続編」が必要になるらしいです。
まだ何も参考書がないという方はぜひ読んでみてください!