会社法の設立って結局どの説にたってどう考えればいいかわかりにくいですよね。
たしかにな。わかりにくい概念ではあるし,新しい学説もあって混乱してしまうかもしれない。ここでは通説と言われている考え方に従って,会社の設立を検討してみようか。
会社法の設立は条文がわかりにくいのに加えて,学説がさまざまであり,結局どの説をとればいいか迷ってしまいがちです。ここでは通説を基本としてわかりやすい学説の立場で書いていきます。他の考え方については基本書等を参考にしてください!
会社の設立のポイント
会社の設立のポイントは以下の通りです。
②財産引受けの処理の仕方がわかる。
③発起人の責任を理解する。
発起人の権限かどうかは2つの視点を持て
設立中の会社の行為は発起人による
会社を設立しよう!と思った場合,まずそれなりの準備が必要になります。ではその行為は誰が行うのでしょうか?
他でもない設立したいと思う人ですよね。この人を発起人と考えてみましょう。
発起人は会社設立のためにいろいろな行為,取引をします。では,設立中の会社はどのような存在として扱われるでしょうか?
それは,権利能力なき社団として扱われるとされています。詳しくは民事訴訟法に解説を回しますが,一応会社としての形はあるけど正当な能力はないという形です。
ここで発起人の権限の話になります。会社設立のためにいろいろな行為をしますが,もし発起人の権限内の行為といえればその効果は設立後の会社に帰属され,発起人の権限外の行為とされればその効果は設立後の会社に帰属されないという関係があることをまず理解していください。
発起人の権限内か権限外かが非常に重要というわけです。
発起人の権限の行為は4つ
では発起人が行う行為はどのようなものがあるでしょうか。学説ではよく4つに分けて説明することが多いです。この4つの区分を覚えましょう!
②経済上必要な行為(設立事務所の賃貸,設立事務員の雇用など)
③開業準備行為(仕入れ,従業員の雇用など)
④事業行為(通常の営業)
相手方からの請求
さて,発起人の権限が問題になるのは相手方から請求がある場合です。たとえば発起人AがP社の設立のために事務所を借りたとします。その賃料について,賃貸人は発起人Aへ請求する場合やP社に請求する場合が考えられますね。この場合について一緒に見てみましょう。
なお,確認になりますが,設立のための事務所の賃貸は経済上必要な行為なので発起人の権限内の行為に当たります。また,あくまで賃貸借契約を結んだのは発起人Aです。会社自体はまだ成立していないときに契約して,P社が成立したという場面です。
設立後の会社に請求した場合
賃貸人はP社に当然に請求できます。なぜなら設立事務所のための賃貸は経済上必要な行為であり,発起人の権限内=成立後の会社に効果は帰属されるからです。何も問題なさそうです。
しかし,判例はここで設立費用記載分しか請求できないとしました。設立費用とは登記に記載することとされています。それにも関わらず記載していなければ相手方は発起人の権限内の行為であっても設立費用分までしか請求できないとしたのです。
↓は念のために載せた設立費用を記載すべきとする条文です。
第二十八条 株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第二十六条第一項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない。一 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。第三十二条第一項第一号において同じ。)二 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称三 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称四 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)
発起人に請求した場合
賃貸人が発起人Aに賃料支払を求めた場合はどうなるでしょうか?この場合Aは賃料支払を拒むことができると考えるべきです。なぜなら経済上必要な行為の効果は会社成立後は会社に帰属されるからですね。非常にシンプルです。学説ではこの場合発起人に請求できるとするものがありますが,ややこしいので深入りしません。
会社と発起人との間の関係は別
以上設立費用関係なく,発起人の権限内か権限外かで考えることができると話してきましたが,そうであるなら設立費用を定款で定める規定は何のためにあるのか気になりませんか?
実は会社の設立は,相手方との関係だけでなく,会社と発起人の間の関係を別で考える必要があるのです。
たとえば上記場合にP社は設立費用以上の賃料を払ったとします。すると,P社は発起人だったAに対して「お前,設立費用として定款に書いてあった金額以上に払わされたんやけど!余計にかかった分弁償して!」といえるわけです。これを求償と言います。
よって会社は設立費用以上の支払については後から発起人に対して求償できるというわけですね。
設立費用の場合は相手方からの請求への対応と,会社と発起人の間の関係の処理の2つの視点がある点を意識するとよいと思います。
①相手方からの請求の場合はその行為が発起人の権限内か権限外かどうか(会社に帰属されるかされないか)を考える。
②発起人の権限内の場合,会社と発起人の関係は定款記載の設立費用により求償関係になる。
財産引受けは例外である
財産引受けは定款に記載があれば発起人の権限内の行為
まず財産引受けとは何かを考えてみましょう。財産引受けとは会社成立を条件として譲り受ける契約のことです。簡単にいうと,「会社が成立したら〇〇を買いますねー」と言って契約を結ぶことです。これは開業準備行為に当たりますが,定款に記載があれば発起人の権限内になります!
会社法上の条文や判例からそうなっているのです。ここは覚えるしかありません。財産引受けはよく使われる手段なので発起人の権限内として成立後会社に帰属させよ,との配慮ですね。
第二十八条 株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第二十六条第一項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない。一 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。第三十二条第一項第一号において同じ。)二 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称三 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称四 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)
ここで問題なのは定款に記載のない財産引受けは無効という点です。なぜなら,定款に記載があることで財産引受けは許されていました。その裏返しであるからです。この点,法律上必要な行為や経済上必要な行為は,その性質上発起人の権限内とされていました。なので設立費用として記載されていなくても無効ではないという違いに注意しましょう。
無効になっても相手方には切り札がある!
この場合に,相手方からの請求が問題となります。一緒に見ていきましょう。
ここでのポイントは,相手方からも無効の主張ができる点です。会社法では無効の主張ができるのは,事業譲渡,設立等のごく限られた場合しか認められていません。今回はその一つの設立の場面になります。
もし相手方は無効にしたくない場合,会社には当然に責任追及できません。よって発起人に対して責任追及できないかが問題になります。よくあるのが財産引受けで土地等を売ってお金を得る場合ですね。この代金を発起人に請求できるかが問題になるということです。
上図はどこかでみたことがありませんか?民法の無権代理に似ているとは思いませんか?発起人は定款していないのに財産引受けをしているため,会社=本人,発起人=代理人,相手方と考えれば向け代理と同じような関係にあるのがわかります。
無権代理については以下をご覧ください!
よって相手方は無権代理の規定,民法117条類推適用することが考えられるのです。
詳しくは上記の記事の「はじめての民法総則シリーズ第7回」を見てほしいのですが,無権代理の場合は相手方が過失によって知らなかった場合は適用されません(民法117条1項2号)。しかし,発起人は定款の記載をしていないことを知っていると通常は考えられるので民法117条1項2号ただし書より,結局は責任追及できるという結論になると思います。
相手方は民法117条類推適用を利用して,発起人に対して責任追及することができる。
発起人の責任は条文を見よ
最後に発起人の責任について軽く確認しましょう!発起人も取締役と同様に会社に対して責任を負います。個々の部分は条文ゲームなので条文の位置と内容を確認していきます。
出資不足の場合は52条
(出資された財産等の価額が不足する場合の責任)第五十二条 株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う。
任務懈怠は53条
取締役の会社に対する責任は423条1項,取締役の第三者に対する責任は429条1項でした。以下の記事をご確認ください。
同様の規定が53条に規定されています。
(発起人等の損害賠償責任)第五十三条 発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。2 発起人、設立時取締役又は設立時監査役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
まとめ
いかがだったでしょうか。設立は学説の対立が激しい部分であり,新しい学説も出てきています。これからどのような考えが主流になるかわかりませんが,考え方としてはシンプルなので惑わされず,頑張っていきましょう!まとめは省略させていただきます。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
会社法の基本書はどれも難解だと思います。問題で論点をつかみながら理解するとよいです。そのため解説の詳しい問題集を載せておきます。参考にしてみてください!