さて,今回は新株発行の第2の論点,無効の訴えについてやっていこうと思う!
新株発行無効の訴えって,新株をもう発行しちゃった!けど無効にしたいってやつですよね。
そう,第1の論点の差止めは,まだ発行していない場合の問題だったが,第2の論点の無効の訴えは,すでに発行している場合の問題なんだ。
新株発行の論点は大きく分けて2つあります。新株を発行する前に新株発行を止めれないかを考える「差止め」の論点と,新株を発行してしまった後にその新株を無効にする「無効の訴え」の論点です。
第1の論点の「差止め」については,以下の記事をご覧ください。
無効の訴えは条文からはどのような事由が該当するかは書かれていないため,自分で無効事由を覚えておく必要があります。
しかし,覚えることは単純です。さくっとみていきましょう!
新株発行無効の訴えのポイント
無効の訴えのポイントは,いかに効率よく無効事由を覚えるかです。この覚え方にとって重要なのものに公開会社と非公開会社の違いがあります。
よって,まずこの違いを復習して,それぞれについての無効事由を見ていきましょう。
②公開会社の無効事由を押さえる。
③非公開会社の無効事由を押さえる。
非公開会社・公開会社の違い
さて,はじめての会社法シリーズでは何度か非公開会社と公開会社の違いを見てきました。再度復習してみます。
非公開会社とは,すべての株式に譲渡制限がある会社のことです。よって,株式を譲渡する場合には会社の承認が必要になります。
いわゆる,狭く深い交友関係を好むタイプです。知らない人に株式が渡るのを極端に嫌うのです。そのため,新株発行についても知らない人に対して株式を渡すことになるため,制限が強くなります。
一方で公開会社とは,譲渡制限のない株式をもつ会社です。そのため,通常株式の譲渡について会社の承認は必要なく自由に株式を譲渡できます。いわゆる,広く浅い交友関係を好むタイプということです。よって,新株発行についても寛容な傾向があります。
上記の違いを踏まえて,新株発行の手続の違いを復習してみましょう。
②公開会社は基本的に取締役会で足る。ただし通知・公告はしなければならない。
③有利発行は非公開会社も公開会社も株主総会決議かつ理由の説明が必要である。
ではまとめてみます。
②公開会社はすべての株式に譲渡制限のない会社である。基本的に株式譲渡には会社の承認が必要ではない。いわゆる広く浅い交友関係を好むタイプといえる。
公開会社の無効事由
差止めの機会があったかどうか
公開会社は上記のとおり,広く浅い交友関係を好むタイプです。そのため,株式発行がされてしまうとそう簡単には無効にはなりません。株主が多い方が楽しいからですね(笑)。
なので,たとえ単に新株発行差止事由があったとしても(有利発行で株主総会決議をとっていなかったり,不公正発行であったとしても),無効事由にはなりません。
ではどういう場合に無効となるのか……それは,差止めの機会がなかったといえる場合です。より具体的に言うと,差止事由があったのに,通知公告がなかったために差し止められなかった場合が公開会社の無効事由となります。なお,応用ですが,差止事由があったのに,役員等が偽装したためにおよそ差し止めようとは思わなかった場合も無効事由になります。つまり,差止めの機会があったかが重要なのです。
よくある間違いに,「差止事由があったのに」という部分を見落として通知公告がなかったことだけを検討する場合があると思います。しかし,差止事由すらなかった場合には通知公告があったとしても差し止められていたとはいえないため,瑕疵が大きいとはいえず,無効事由にはなりません。
したがって,必ず差止事由となる瑕疵の検討も必要になります。
会社法206条の2の瑕疵
会社法改正により,会社法206条の2が導入されました。まずは条文を見てみましょう。
(公開会社における募集株式の割当て等の特則)第二百六条の二 公開会社は、募集株式の引受人について、第一号に掲げる数の第二号に掲げる数に対する割合が二分の一を超える場合には、第百九十九条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の二週間前までに、株主に対し、当該引受人(以下この項及び第四項において「特定引受人」という。)の氏名又は名称及び住所、当該特定引受人についての第一号に掲げる数その他の法務省令で定める事項を通知しなければならない。ただし、当該特定引受人が当該公開会社の親会社等である場合又は第二百二条の規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合は、この限りでない。一 当該引受人(その子会社等を含む。)がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数二 当該募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権の数2 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。3 第一項の規定にかかわらず、株式会社が同項の事項について同項に規定する期日の二週間前までに金融商品取引法第四条第一項から第三項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、第一項の規定による通知は、することを要しない。4 総株主(この項の株主総会において議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が第一項の規定による通知又は第二項の公告の日(前項の場合にあっては、法務省令で定める日)から二週間以内に特定引受人(その子会社等を含む。以下この項において同じ。)による募集株式の引受けに反対する旨を公開会社に対し通知したときは、当該公開会社は、第一項に規定する期日の前日までに、株主総会の決議によって、当該特定引受人に対する募集株式の割当て又は当該特定引受人との間の第二百五条第一項の契約の承認を受けなければならない。ただし、当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の事業の継続のため緊急の必要があるときは、この限りでない。
この条文に違反した場合は,無効事由であるとされています。50%以上の持株比率の株主が出ることは株主によって大きな影響があります。よってちゃんとした手続をとらなければならないという理由で206条の2は創出されました。
よって,この条文に違反する場合はさすがに公開会社であっても許されないということですね。
まとめ
以上をまとめるとこういうことになります。
非公開会社の場合
非公開会社は狭く深い交友関係を好むタイプなので,基本的に知らないやつに株を発行するのは許しません。ましてや手続がちゃんと行われていないのであればなおさら許さないことは明らかです。
よって,非公開会社の場合は,基本的に法令違反はすべて無効事由となります。簡単ですね。
まとめ
以上,新株発行無効の訴えについて,無効事由を見てきました。公開会社と非公開会社で大きく分かれており,公開会社は①差止めの機会がなかった場合②会社法206条の2に反した場合の2パターンのみが無効事由となる点を意識すればよいでしょう。
最後に新株発行無効の訴えの条文についてみてきます。
(会社の組織に関する行為の無効の訴え)第八百二十八条 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)2 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。二 前項第二号に掲げる行為 当該株式会社の株主等
覚えることは少ないのでそれほど恐れる必要はないと思います。新株発行は会社法最難関の論点と言われていますが,体系的に見れば単純というわけです。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
会社法の基本書はどれも難解だと思います。問題で論点をつかみながら理解するとよいです。そのため解説の詳しい問題集を載せておきます。参考にしてみてください!