弁論主義の原則を本当に理解しているか?答案の書き方【民事訴訟法その8】

弁論主義民事訴訟法

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審理が始まったらまずは口頭弁論ですよね。口頭弁論には3つのテーゼがあります。

法上向
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そうだね。ただし,この弁論主義の原則を答案に書くときに「なんとなく」で書いていないかい?

たしかに……。毎回当事者が主張していないから「弁論主義第1のテーゼより認められない」という風にしか書いていなくて深みがないんですよね。

法上向
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論点を意識すればその悩みが解消されるぞ!

口頭弁論は審理の最初の段階,当事者同士で争点を絞るために主張をし合う手続のことをいいます。いわば前回の争点整理手続を訴訟の中でするような感じです。

その口頭弁論の前提となるのが,弁論主義です。

弁論主義のポイント

弁論主義には3つのテーゼがあります。このテーゼを覚えれば一応の弁論主義の説明ができたことになりますが,ここではもう少し吹き込んで,答案でどう書けばよいのか,についても解説していこうと思います。

また混乱のもとになる処分権主義との違いについても解説します。

①弁論主義とは何か,処分権主義との違いを基に押さえる。
②弁論主義の3つのテーゼについて理解する。
③第1のテーゼの論点を知る。

それではみていきましょう。

弁論主義とは審理の対象内での話

まず押さえてほしいのは弁論主義は訴訟物の範囲内で出てくるものという点です。訴訟物について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

簡単にいえば,訴訟物とは訴訟対象であり,裁判所は処分権主義により訴訟物しか審理できません。もう少し詳しくいうと,裁判所は「訴訟物より審理がスタート,終了し,訴訟物の範囲内でしか審理できないこと」になります。

では訴訟物の枠内であれば,裁判所は自由に審理できるかというと,そういうわけではないのです。訴訟物内であっても,当事者主義が働くので,裁判所は当事者の主張内容しか裁判の考慮に使えないことになります。これを弁論主義といいます。

わかりやすく言うと,訴訟の枠を決めるのが処分権主義であり,その枠内で審理対象について決めるのが弁論主義というわけです。

ここで表的な説明と図的な説明を載せておきます。

処分権主義と弁論主義

弁論主義の3つの原則

弁論主義には3つの原則(テーゼ)があります。テーゼと聞くと,一般の人は「残酷な天使のテーゼ」しか思い浮かべないと思いますが,民事訴訟法を学習した者にとってはこの弁論主義の3つのテーゼも思い浮かべる必要がありますね(笑)。

第1テーゼ「裁判所は,当事者のいずれもが主張しない事実を,裁判の基礎にしてはならない。」
第2テーゼ「裁判所は,当事者間で争いのない事実に反する事実を裁判で採用してはならない。」
第3テーゼ「当事者間に争いのある事実ついて証拠調べをするときは,当事者の申し出た証拠によらなければならない」

この3つは覚えましょう!若干基本書,参考書等での文言が異なると思いますが,根本は同じです。順番(どれが第1で第2で第3か)も同じです。

弁論主義(第1テーゼ,第2テーゼ,第3テーゼすべて)の適用は主要事実に限られるというのが通説です。

第1テーゼ

第1テーゼは「裁判所は,当事者のいずれもが主張しない事実を,裁判の基礎にしてはならない。」というものでした。これは別名,主張原則とも呼ばれます。

意味は文字通りです。裁判所が「あれ,この証拠からこの事実がわかるな。この事実があればこういう結論になるぞ」というように当事者の主張がないにもかかわらず,裁判所が勝手に証拠から事実を解釈して,裁判の判断のもとにしてはダメということです。

第2テーゼ

第2テーゼは「裁判所は,当事者間で争いのない事実に反する事実を裁判で採用してはならない。」というものでした。別名,自白法則と呼ばれます。

ここで重要なのは争いのない事実という点です。争いのない事実について裁判所は勝手に「両当事者が認めているが,私はそうは思わない!別の真実があるはずだー」というような形で勝手な審理をしてはダメというわけです。

これは証拠調べにもつながる話で,争いのない事実=証拠調べをしてはいけないということは民事訴訟法179条にも書かれています。

(証明することを要しない事実)
第百七十九条 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

第3テーゼ

第3テーゼは「当事者間に争いのある事実ついて証拠調べをするときは,当事者の申し出た証拠によらなければならない」というものです。別名,職権証拠調べ禁止の原則ともいわれます。

口頭弁論で争点が定まると,証拠調べをすることになりますが,この際の証拠調べは当事者の提出した証拠でしか行えないということです。裁判所が独自にスパイ等を利用して証拠を集めることはできないというわけですね。

まとめ

こう見てくると,裁判所って当事者がいろいろしなければ何もできないんだなー,縛られてるなー,と思いませんでしたか?

これは当時者主義によるものです。あくまで裁判所は当事者の問題を公平中立な立場から審判してあげる,というものなので,すべての審理内容,素材については当事者あなたたちが用意してよね。私はそれ以外を何も考えないし,自分から調べたりはしないよ,というわけですね。

弁論主義当事者主義に基づく私的自治を根拠・趣旨にしたものといえるでしょう。

第1テーゼの論点を踏まえて答案の書き方

弁論主義を理解しても,いざ答案にしようとすると

「当事者は〇〇の主張をしていないが,裁判所は〇〇の事実の判断の基礎としている。よって弁論主義第1テーゼに反するので,裁判所の判断は問題がある」

というように,ただの弁論主義第1テーゼ覚えていますよアピールになってしまう,という問題があります。

この問題を解消し,深い答案にするためには,第1テーゼの論点を知る必要があります。論点は3つあるとされています。

第1テーゼ適用は主要事実に限る

第1テーゼの適用は主要事実に限るという学説が一般的です。この点を指摘してあげましょう。主要事実とは「主張の基礎になる部分」のことです。たとえば,売買代金支払請求権では「売買契約」というような形です。

一方,間接事実はある程度の事実から推測を介在させて主要事実を導くものです。売買代金支払請求権ですと,「AさんはB店に行った」というようなものですね。

詳しくは要件事実を知らなければなりませんが,最初のうちは,「ズバッと訴訟物を示す主張事実」は主要事実であり「もやっとなんとなくから推測させるのが間接事実」というような理解で十分でしょう。

なお,第1テーゼに限られず,弁論主義(第1テーゼ,第2テーゼ,第3テーゼすべて)の適用は主要事実に限られるというのが通説です。

当事者のどちらからの主張でも構わない

当事者の主張した内容に裁判所は拘束されると言いましたが,その主張は原告,被告のどちらからの主張でも構いません

通常,売買代金支払請求のときに売買契約を主張するのは原告側(支払ってほしい側)ですが,被告が間違って「そういえば,売買契約は締結してたな~。」と言ってしまった場合でも(つまり被告側に主張立証責任がなくても),主張さえあれば裁判所はその事実を裁判の基礎に据えることができます。

裁判所は当事者が主張さえしてくれれば万々歳ということです。

証拠調べで判明した事実でも主張がなければ使えない

これは第1のテーゼからすれば当たり前ですが,以外と意識できずに間違ってしまうことが多いと思います。

たとえば,証拠調べの最中に領収書を裁判所が発見した場合(第3のテーゼよりこの証拠は当事者から提出される必要がある)でも,裁判所は売買契約を認定したい事実はぐっと押さえて,当事者の主張を待たなければいけないわけです。

答案の書き方

以上を意識すると,

〇〇という事実は,本問では主要事実であること
双方当事者からの主張がないこと
証拠調べより分かっている事実だけでは弁論主義における主張があったとはいえないこと

の3ポイントは押さえて答案に含めた方がよいでしょう。

このように書けば先ほどの

〇〇という事実は当事者からの主張がないため,判断の基礎にした裁判所は問題がある

と書くより,はるかにいい答案といえます。

なお,このことは勅使河原先生著の読解民事訴訟法に詳しく解説されているので,興味のある方は買ってみてください!

まとめ

いろいろ解説してきましたが,弁論主義について最低限覚えてほしいことは,3つのテーゼなので,最後にこのテーゼを書いて締めとさせていただきます。

第1テーゼ「裁判所は,当事者のいずれもが主張しない事実を,裁判の基礎にしてはならない。」
第2テーゼ「裁判所は,当事者間で争いのない事実に反する事実を裁判で採用してはならない。」
第3テーゼ「当事者間に争いのある事実ついて証拠調べをするときは,当事者の申し出た証拠によらなければならない」

参考文献

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