寄託契約は民法改正でどう変わったか?完全解説【契約法その15】

寄託民法

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寄託ってあまり論点として出題されない割に条文が多くてよくわかりません。

法上向
法上向

たしかに寄託契約は突き詰めていくといろいろな考える要素があるな。ただし契約法を学ぶ上で最低限知っておくべき知識としては他の契約とあまり変わらないぞ。

なんとなく寄託契約をイメージしにくいんですよね。

法上向
法上向

よし!条文に沿って、今回は寄託について解説していこう。

寄託は試験にあまり出題されませんが、改正で大きく変わった箇所なので短答試験ではこれから出題されやすいということが予想されます。

改正で大きく変わったというのは「難しくなった」というわけではありません。逆に条文を見れば理解しやすくなった」ととらえることができると思います。

条文に沿って、新民法の寄託を一緒に勉強していきましょう!

寄託のポイント

寄託では成立と権利・義務を押さえることは当然として、寄託物受取前の解除という論文を押さえる必要があります

そのうえで、寄託の終了について条文に沿って確認していきたいと思います。

さらに特殊の寄託として混合寄託と消費寄託について簡単に解説していきます。

①寄託の成立・権利義務・寄託物受取前の解除を押さえる。
②寄託の終了事由を知る。
③混合寄託・消費寄託を知る。

それではみていきましょう。

寄託の成立・権利義務・寄託物受取前の解除

寄託の条文は民法657条

寄託の条文は民法657条になります。

(寄託)
第六百五十七条 寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

これは諾成契約です。合意のみによって寄託契約は成立します

改正前は寄託契約は要物契約(寄託物を受け取って契約が成立するもの)とされていました。改正によって寄託契約も諾成契約(合意によって契約が成立するもの)になったので注意しましょう

さらに民法改正によって新しい条文が創設されました。これが「寄託物受取前の寄託解除」です。

次に詳しくみていきます。

寄託物受取前の寄託の解除(民法657条の2)

寄託物受取前の寄託の解除」は寄託契約特有の論点です。

改正前は要物契約としていたが改正後に諾成契約としたその調整として設けられたものなので寄託契約特有というわけですね。

条文は民法657条の2になります。

(寄託物受取り前の寄託者による寄託の解除等)
第六百五十七条の二 寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、受寄者は、その契約の解除によって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。
2 無報酬の受寄者は、寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による寄託については、この限りでない。
3 受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては、書面による寄託の受寄者に限る。)は、寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず、寄託者が寄託物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは、契約の解除をすることができる

まず寄託者は受寄者が寄託物を受け取るまでは解除できるという点を押さえましょう。

その次に無報酬」の「受寄者」は寄託物を受け取るまで解除できます。無報酬の寄託者は委託契約を簡単に締結してしまうことがあるので、受寄者を保護するための規定です。

さらに有償」と「書面による無償寄託」の場合の「受寄者」は寄託物の引渡しを催告して催告後相当期間内に引渡しがなければ解除することができます

このように寄託を「無償寄託」「書面による無償寄託」「有償寄託」に分け、「無償寄託」なら民法657条の2第2項「書面による無償寄託」「有償寄託」なら民法657条の2第3項によって、契約を解除できるというわけです。

寄託契約は諾成契約となったといえども、寄託物の引渡しについて民法657条の2を新設して解除できるようにしているというわけですね。

もちろん、寄託者はいつでも解除できます。役務提供型(契約によってサービスを提供するもの)である契約は債権者がいつでも解除できるのが基本でした。請負委任が役務提供型の契約ですがいずれも債権者(サービスの提供を受ける側)はいつでも解除することができます請負民法641条委任民法651条1項です。復習として確認してみましょう。

受寄者の義務:保管義務

まず受寄者(寄託物を預かる側)の義務について考えていきます。民法659条を見てみましょう。

(無報酬の受寄者の注意義務)
第六百五十九条 無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

無償寄託の場合には、受寄者は自己の財産と同一の注意をもって保管していればいいというわけです。これはかなり程度の低い義務です。

私たちも日常で普通に物を壊しちゃったりしますよね。それくらいあまり物事には注意していないんです。無償の寄託はその程度の注意で足るので、受寄者の不注意で寄託物が損失しても責任を負うことはあまりないでしょう。

もちろんのことですが、受寄者が故意やあまりにもひどい不注意で寄託物を損傷させてしまった場合には、注意義務の程度が低いとはいえ、保管義務違反として責任を負います。解除なり損害賠償なりです。

ここでいつも気になるんですけど、有償寄託の場合は保管義務はないということですか?条文が見当たりません……

法上向
法上向

常識的に考えて、無償寄託には保管義務があるのに有償寄託には保管義務がないというのはおかしいよね。

契約各論の条文にないということは契約総論や債権総論に書かれているということだよ。契約法一般について規定している条文から探してみよう。

もしかして民法400条ですか?

特定物の効果として善管注意義務が発生するっていうやつです。

法上向
法上向

そうだね。民法400条は物の引渡しを目的とする債権の場面の話だった。今回も寄託物は引渡しが必要なわけだから有償の場合は一般原則の民法400条が適用されるわけさ。

わかりにくいですが、有償寄託であれば保管義務がないというわけではありません。有償寄託の場合には債権総論の「物の引渡しを目的とする債権」の規定が適用されます民法400条です。

(特定物の引渡しの場合の注意義務)
第四百条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

有償寄託の場合には善管注意義務が課せられるというわけです。

つまり無償寄託の場合には「自己と同一の注意」の保管義務が、有償寄託の場合には「善管注意義務」としての保管義務が課せられるというわけですね。

受寄者の義務:通知義務(民法660条)

保管義務以外の受寄者の義務については民法660条を見てみましょう。

(受寄者の通知義務等)
第六百六十条 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
2 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。ただし、受寄者が前項の通知をした場合又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合において、その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったときであって、その第三者にその寄託物を引き渡したときは、この限りでない。
3 受寄者は、前項の規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には、寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。

ポイントは受寄者には通知義務があるという点です。寄託契約から発生する受寄者の義務としてしっかり押さえましょう。

また、民法660条2項3項は受寄者のための規定です。

たとえば受寄者が寄託物を保管している最中に見知らぬ人が「俺が寄託物を買い取ったから寄託物を渡せ!」と言ってきたとします。

このとき、受寄者がおいおいと寄託物を渡したが、寄託物を買い取ったと言い張っていた人は実は嘘をついていた場合に問題が生じます。寄託者からは「おい!なんで渡したんだ!」となるはずです。

そこで民法は受寄者について、「誰かわからないうちは寄託者だけに寄託物を返還すればいいよ!そうしないといけないよ!」と規定してあげたのです。優しいですね。

その他の受寄者の義務としては受取物引渡義務(民法665条準用民法646条)などがありますが詳しい解説は委任に譲ります。

寄託者の義務:報酬支払義務(民法665条→民法648条2項・3項)

寄託契約は原則として無償です。委任契約と同じですね。民法665条より委任の規定民法648条1項が準用されています。また履行割合に応じて報酬請求ができるのも委任と同様です(民法665条準用民法648条2項3項)。

民法665条より準用されている委任の規定民法648条を復習しておきましょう!

(受任者の報酬)
第六百四十八条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。
3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき。

>>>委任契約における報酬の規定について【契約法その14】

寄託者の義務:費用償還義務(民法665条→民法650条1項・2項)

委任契約の規定は費用償還についても準用されています。民法665条が準用する民法650条1項・2項です。

(受任者による費用等の償還請求等)
第六百五十条 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。寄託契約において3項の準用はない!

>>>委任契約における費用償還について【契約法その14】

寄託者の義務:損害賠償義務(民法661条)

寄託者は、寄託物の性質または瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければなりません民法661条になります。

(寄託者による損害賠償)
第六百六十一条 寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない。

寄託契約の終了(寄託物の返還)

寄託契約は物を預かってもらう契約です。そのためいつか必ず終わりが来ます。ずっと預かっててということは想定していません。ではどういった場合に寄託物を返還することになり寄託契約が終了するのかを見ていきましょう。

寄託者からの返還(民法662条)

寄託物の引渡し前の解除でも確認したように、役務提供型の契約では基本的に債権者側(サービスを受ける側)からはいつでも契約を終了することができます。もちろんその際に損害賠償として相手方を保障する必要がありますが……。

寄託物を引き渡した後でも同じです。寄託者は返還の時期が定められていようと、いつでも寄託物の返還を請求することができます民法662条です。

(寄託者による返還請求等)
第六百六十二条 当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる
2 前項に規定する場合において、受寄者は、寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。

受寄者からの返還(民法663条)

では逆に受寄者からの返還はできないのでしょうか?

結論からいうと、

期間の定めのない場合にはできるが、期間の定めがある場合には基本的にできない

ということになります。寄託契約は寄託物を一定期間保管してもらうことを目的とするものであったことを考えると当たり前の結論といえるでしょう。

条文は民法663条になります。

(寄託物の返還の時期)
第六百六十三条 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。
2 返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない。

返還場所(民法664条)

細かいですが、寄託契約の寄託物の返還場所は原則として保管場所です。

(寄託物の返還の場所)
第六百六十四条 寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならない。ただし、受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還をすることができる。

特殊の寄託

混合寄託(民法665条の2)

複数の者の寄託物の種類や品質が同一である場合、受寄者は、各寄託者の承諾を得て混合して保管することができます。一緒にごちゃ混ぜで保管できるというわけです。この場合には寄託者は寄託した物と同数量の物を返還することになります(ごちゃ混ぜになっているので、寄託時そのものを返還することは不可能です)。

そして寄託物の一部滅失の場合には受寄者は受託物の割合に応じて返還することになります。もちろん合わせて損害賠償請求を負うことになるでしょう。

例えば、Aさんから米200トン、Bさんから米100トンで混合寄託の承諾をもらっていたとしましょう。合わせて米300トンをごちゃ混ぜにして受寄者は保管することになります。

その際、台風で保管していた米150トンを失ったとします。残っているのは米150トンです。Aさん、Bさんから返還請求があった場合には受寄者はAに100トン(150トンの3分の2)、Bに50トン(150トンの3分の1)を返還することになるというわけです。寄託割合がA:B=2:1だったからですね。

また、受寄者はAから米100トン分、Bから米50トン分の損害賠償を受けることになるでしょう。

混合寄託の条文は民法665条の2になります。

(混合寄託)
第六百六十五条の二 複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には、受寄者は、各寄託者の承諾を得たときに限り、これらを混合して保管することができる。
2 前項の規定に基づき受寄者が複数の寄託者からの寄託物を混合して保管したときは、寄託者は、その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができる。
3 前項に規定する場合において、寄託物の一部が滅失したときは、寄託者は、混合して保管されている総寄託物に対するその寄託した物の割合に応じた数量の物の返還を請求することができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

重要なのは混合寄託には「各当事者の承諾」が必要ということです。同種の目的物だから受寄者は当然にごちゃまぜに保管していうわけではありません!

消費寄託(民法666条)

消費寄託とは、契約により受寄者が寄託物を消費することができる寄託のことです。通常の寄託契約では受寄者は寄託物を消費することはできませんでした(民法658条1項)。消費寄託はその例外ということになります。

消費寄託の返還の際には、寄託物と同種・同等・同量の物を返還すれば足ります

条文は民法666条です。

(消費寄託)
第六百六十六条 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない
2 第五百九十条及び第五百九十二条の規定は、前項に規定する場合について準用する。
3 第五百九十一条第二項及び第三項の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。

消費貸借契約の規定が準用されており非常にわかりにくいですが、

貸主の引渡し義務と借主の価額償還義務を負うという点(民法666条2項)、預金または貯金に係る契約の場合には受寄者(金融機関)はいつでも返還をすることができる(民法666条3項)という点を押さえておくとよいでしょう。

>>>消費貸借契約について【契約法その8】

まとめ

寄託契約は非常に条文が多く、さらに準用も多いのでわかりにくいと思います。

しかし逆にいえば、これまでの契約法の総復習になるということです。改正法で変化した面も含めて今一度復習の機会になればいいと思います。

これにて「はじめての契約法シリーズ」は終了となります。シリーズを通して読んでくださった方はありがとうございました。

契約法以外の分野についても解説していますので、ぜひ読んでみてください。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

契約法について、初学者が学習しやすい本としては潮見佳男先生の『債権各論Ⅰ』をおすすめします。薄いため、最低限の知識がコンパクトにまとめられており、語り口調も丁寧語であるため、しっかり読めば理解できる流れになっています。青・黒・白と三色刷りなのでポイントも青の部分を読めばわかります。

もちろん、改正民法対応です。ぜひ読んでみてください!

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