差止訴訟とは何かを「君が代訴訟」で徹底解説してみた【行政法その7】

差止訴訟行政法

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行政法を勉強していても,差止訴訟と当事者訴訟のイメージがわかないんですよねー。

法上向
法上向

たしかに,差止訴訟や当事者訴訟のイメージは他の訴訟と比べてつきにくいな。今回はイメージしやすいように理論で押し切るのではなく判例から考えてみようか。

行政訴訟の類型は取消訴訟無効等確認訴訟直接型義務付け訴訟非申請型義務付け訴訟のほか,主要なものとして差止訴訟当事者訴訟があります。

しかし,この2つはイメージがわきにくいです。はじめての行政法シリーズでは理論を中心に解説してきましたが,この2つは判例から入った方がわかりやすいと思うので判例を中心にみていこうと思います!今回は最初の差止訴訟からです!

差止訴訟のポイント

差止訴訟は具体的にイメージをもつこと,要件を押さえることが大事です。今回は判例から検討していきます。

①差止訴訟の代表的な判例を知る。
②差止め訴訟の要件を押さえる。
ではさっそく見ていきましょう!

差止訴訟の代表的な訴訟は君が代訴訟

君が代訴訟は重要判例

君が代訴訟をマスターすれば差止訴訟をマスターできるといっても過言ではありません。さらにこの訴訟は当事者訴訟をマスターする際にも使えるので事案を理解しておきましょう。

以下の事案になります。最判平成24年2月9日の判例です。

東京都教育委員会の教育長は都立学校の校長宛てに「入学式や卒業式等では国家掲揚及び国歌斉唱を行うよう教職員に命じないさい」という旨の通達がなされた。これに違反すると段階を追って懲戒処分が行われることになる。
これに対し,教職員らは懲戒処分差止めを求める訴訟を起こした。
(参照:最判平成24年2月9日)
職員は懲戒処分を差し止めたいので差止訴訟を提起することになります。さて判例はこの事件で差止訴訟は認められるとしました。なぜ認められるのか?実際に見ていきましょう!
ここで意外と迷うのが義務付け訴訟差止訴訟の違いです。義務付け訴訟は処分をしてもらようにする訴訟であり,差止訴訟は処分をしないようにする訴訟です。処分させることを目的か,処分しないことを目的かという決定的な違いがあるので迷わないようにしましょう。

差止訴訟判例のキーワード① 蓋然性

まず判例はこう述べています。

本件差止めの訴えに係る請求は,本件職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めを求めるものであり,具体的には,免職,停職,減給又は戒告の各処分の差止めを求める請求を内容とするものである。そして,本件では,……,本件通達の発出後,都立学校の教職員が本件職務命令に違反した場合の都教委の懲戒処分の内容は,おおむね,1回目は戒告,2回目及び3回目は減給,4回目以降は停職となっており,過去に他の懲戒処分歴のある教職員に対してはより重い処分量定がされているが,免職処分はされていないというのであり,従来の処分の程度を超えて更に重い処分量定がされる可能性をうかがわせる事情は存しない以上,都立学校の教職員について本件通達を踏まえた本件職務命令の違反に対しては,免職処分以外の懲戒処分(停職,減給又は戒告の各処分)がされる蓋然性があると認められる一方で,免職処分がされる蓋然性があるとは認められない。そうすると,本件差止めの訴えのうち免職処分の差止めを求める訴えは,当該処分がされる蓋然性を欠き,不適法というべきである

長いですが,まず懲戒処分に蓋然性があるかを検討していますね。そして,免職処分以外の懲戒処分には蓋然性があるが,免職処分には蓋然性がないと判示しています。

差止訴訟のキーワード② 重要な損害を生ずるおそれ

次にこう述べています。

免職処分以外の懲戒処分(停職,減給又は戒告の各処分)の差止めを求める訴えの適法性について検討するに,差止めの訴えの訴訟要件については,当該処分がされることにより「重大な損害を生ずるおそれ」があることが必要であり(行訴法37条の4第1項),その有無の判断に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(同条2項)。
……したがって,差止めの訴えの訴訟要件としての上記「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには,処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当である

本件においては,…本件通達を踏まえ,毎年度2回以上,都立学校の卒業式や入学式等の式典に際し,多数の教職員に対し本件職務命令が繰り返し発せられ,その違反に対する懲戒処分が累積し加重され,おおむね4回で(他の懲戒処分歴があれば3回以内に)停職処分に至るものとされている。このように本件通達を踏まえて懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされる危険が現に存在する状況の下では,事案の性質等のために取消訴訟等の判決確定に至るまでに相応の期間を要している間に,毎年度2回以上の各式典を契機として上記のように懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされていくと事後的な損害の回復が著しく困難になることを考慮すると,……,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものであるとはいえず,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであるということができ,その回復の困難の程度等に鑑み,本件差止めの訴えについては上記「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるというべきである。

長い文章ですが,非常にわかりやすくまとまっています。

重大な損害を生ずるおそれ=取消訴訟等+執行停止では容易に救済を受けることが困難なもの=処分が反復継続的かつ累積加重的な場合

ということですね。

差止訴訟のキーワード③ 補充性

さらに続きます。

また,差止めの訴えの訴訟要件については,「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」ではないこと,すなわち補充性の要件を満たすことが必要であるとされている(行訴法37条の4第1項ただし書)。……,本件通達及び本件職務命令は……行政処分に当たらないから,取消訴訟等及び執行停止の対象とはならないものであり,また,……,本件では懲戒処分の取消訴訟等及び執行停止との関係でも補充性の要件を欠くものではないと解される。以上のほか,懲戒処分の予防を目的とする事前救済の争訟方法として他に適当な方法があるとは解されないから,本件差止めの訴えのうち免職処分以外の懲戒処分の差止めを求める訴えは,補充性の要件を満たすものということができる。

他に適当な手段がないことを考慮しています。要は現段階で取消訴訟執行停止ができないかということです。

現段階で取消訴訟の対象になりそうなものは通達職務命令がありますが,どちらも行政処分ではありません。行政処分の処分性の考え方については以下のリンクを参照してください!

よって補充性ありとしています。

要は他に差止訴訟に匹敵するような適当は手段が他にないかを考えているのです。

君が代事件差止訴訟のまとめ

以上見てきた通り,判例は,蓋然性重要な損害補充性を重視しているような書き方でしたね。これらを押さえれば差止訴訟はほぼ終わりです。この知識(装備)を身に着けて条文を見てみましょう!

差止訴訟の重要判例,君が代訴訟は,差止訴訟の検討において蓋然性,重要な損害(取消訴訟等+執行停止で容易に救済を受けることが困難なもの=処分が反復継続的かつ累積加重的な場合),補充性(他に差止訴訟に匹敵するような適当は手段が他にないか)を考えている。

行政事件訴訟法37条の4をチェック

差止訴訟の規定は行政事件訴訟法37条の4に定められています。

(差止めの訴えの要件)
第三十七条の四 差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない
2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする。
3 差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる
4 前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する
5 差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。
判例をみて装備を身についた私たちにとって,条文はドラクエでいうところのスライムです

条文から容易に要件が取り出せると思います。

差止訴訟の要件

一定の処分

これは直接型義務付け訴訟でも非申請型義務付け訴訟でもでてきたため大丈夫だと思います。ただし,今回は差止訴訟なので蓋然性の検討も忘れないでください!

重大な損害

さて君が代訴訟を覚えていますか?あの判決ではどういわれていましたか?たしかに2項があるので重大な損害の内容はわかりますが,ここでは判例も重要になっています。判例の理解で覚えましょう。

取消訴訟等+執行停止で容易に救済を受けることが困難なもの=処分が反復継続的かつ累積加重的な場合

でしたね。直接型義務付け訴訟の違いも大事になってきます。

直接型義務付け訴訟の重大な利益って何だったっけ?差止訴訟の場合と意味が違うんですよね~。

 

 

補充性

これも君が代訴訟で確認しましたね。覚えていますか?

他に差止訴訟に匹敵するような適当は手段が他にないか

です。現時点で取消訴訟等で解決できないかを検討します。君が代訴訟では通達と職務命令であり,どちらも処分性がなく,補充性の要件を満たしました。

原告適格

これも義務付け訴訟の場合と同様です。取消訴訟と同じような議論になります。

本案勝訴要件

行政事件訴訟法37条の4第5項義務付け訴訟と同様本案勝訴要件ですね。理由があることという要件はないので直接型義務付け訴訟とほぼ一緒になります。

行政処分を羈束処分と裁量処分に分けて,羈束処分は法令から明らかか,裁量処分は裁量権の逸脱濫用かをみていくのでしたね。

毎度のごとくイメージ図を貼っておきます(笑)。

羈束処分

裁量処分

どちらのタイプかをよくみて判断してくださいね!

まとめ

さて,今回は理論からではなく判例から差止訴訟を見てきました。判例の文言を使うと判例も知っているということが伝わってかっこいいですよ!

とはいえ,差止訴訟も条文さえわかれば道筋はたつので,君が代訴訟をふまえて要件が出せるようになればとりあえずは大丈夫だと思います!

差止訴訟(行政事件訴訟法37条の4)の要件
①処分性(蓋然性まで検討する)
②重大な損害(取消訴訟等+執行停止では無理な場合=反復継続的かつ累進加重的な処分
③補充性(差止訴訟に匹敵する他の手段がない)
④原告適格
⑤本案勝訴要件
以上が君が代訴訟を踏まえたうえでの要件のまとめになります。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。

 

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