伝聞については前回の記事でなんとなくは理解できました。けどたしか伝聞には例外がありましたよね?
その通り!
伝聞法則と合わせて伝聞例外を理解してこそ、伝聞マスターだよ!
伝聞例外は条文を意識しつつ、論述でどう書けばいいかも合わせて検討していこう!
伝聞法則は前回の記事で解説しました。
>>>伝聞法則についてわかりやすい解説【刑事訴訟法その15】
今回から伝聞例外です。伝聞には例外があります。この伝聞例外を条文に沿って、理解していきましょう。
伝聞例外321条のポイント
伝聞法則により、伝聞証拠は原則として供述者の証言が必要でした。
しかしながら、例外的に証言が必要のない場合もあります。それが伝聞例外です。
伝聞例外は条文がしっかりありますので、条文からそのまま理解していけば大丈夫です。論証としてどう書けばいいか、一緒に復習していきましょう。
まずは伝聞例外が登場する場面を押さえます。
続いて、刑事訴訟法321条1項の条文の作りにしたがって、刑事訴訟法321条1項各号→刑事訴訟法321条3項→刑事訴訟法321条4項の順で解説していきます。
①伝聞例外が問題となる場面を押さえる。
②321条1項各号を理解する。
③321条3項を理解する。
③321条4項を理解する。
それではみていきましょう。
刑事訴訟法321条が問題となる場面
伝聞証拠であることが前提
まず最初に検討すべきなのは、問題となる証拠が伝聞証拠であるかどうかです。
知覚→記憶→表現→叙述の過程を経ている証拠であり、存在自体及び心理状態の供述でない場合には伝聞証拠となります。
>>>伝聞証拠の判別方法についてくわしく解説【刑事訴訟法その15】
必ず最初に、当該証拠が伝聞証拠であることを確認しましょう。
誰の供述か
続いて、伝聞証拠となることがわかったら、誰の供述過程が問題となるか、誰の供述過程がないから伝聞証拠となっているかを検討します。
たとえば、Aのメモに
「昨日人を殺した」
と残っていたとします。
この場合、Aが殺人犯であることを立証するためには、
人を殺したという知覚→昨日人を殺したという記憶→メモに残すという表現→メモに書くという叙述
といった知覚→記憶→表現→叙述の過程を経ます。
そのため、AのメモはAの供述過程が問題となる伝聞証拠というわけです。
この場合、原則としてAの証人尋問が必要となります。Aのメモは証拠能力をもちません。しかしながら、伝聞例外の条文の要件を満たせば、Aのメモを使うことができるというわけです。
このように、伝聞例外の適用の前には、誰の供述過程が問題となるのかを最初に理解しておきましょう!
このうち、Aが被告人以外の者でかつ書面である場合には、刑事訴方法321条の問題となります。
被告人以外の者の、供述書や供述録取書の場合には、伝聞例外として刑事訴訟法321条の問題となるというわけです。
被告人以外の供述書・供述録取書(刑事訴訟法321条1項)
刑事訴訟法321条1項柱書
まず刑事訴訟法321条からみていきましょう。
第三百二十一条 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
最初に柱書(赤太字部分)を押さえておくことが大事です。
被告人以外の者の作成した供述書
被告人以外の者の供述を録取した書面で供述者の署名押印があるもの
が刑事訴訟法321条の対象となります。
間違っても、被告人以外の者の作成した供述書にも被告人の署名押印が必要であると考えないでください。
被告人以外の者が作成した「供述書」であれば被告人以外の者自身の署名押印は必要ありません。被告人以外の者の「供述録取書」に限って、被告人自身の署名押印が必要というわけです。
ここで、なぜ「供述録取書」には被告人の署名押印が必要か?を考えてみます。
被告人以外の者の供述書であれば、被告人以外の者自身が書いているため、被告人以外の者の供述として扱っても問題ありません。自分で書いているので。
しかしながら、被告人以外の者の供述録取書の場合には、被告人以外の者とは別の第三者(多くは警察官)が書いているため、本当にそれを被告人以外の者の供述として扱ってよいか、という別の問題が生じます。
そのため、被告人以外の者自身の署名・押印を要件としているわけです。
供述書の場合には署名押印はいらない、供述録取書の場合には署名押印が必要
というのは刑事訴訟法321条1項で共通するのでしっかり押さえておきましょう。
刑事訴訟法321条1項1号(裁面調書)
まずは裁判官の面前で書かれた供述書・供述録取書(裁面調書)についてみていきましょう。もちろん、刑事訴訟法321条ですので、供述者は被告人以外の者です。
一 裁判官の面前(第百五十七条の六第一項及び第二項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異なつた供述をしたとき。
裁面調書の場合、供述者が、死亡等で供述することができないとき=供述不能、または、前と異なった供述をした場合=不一致供述である場合に伝聞例外として証拠能力をもつとされています。
すなわち、裁面調書については、①供述不能②不一致供述のときに伝聞例外として証拠能力が認められるというわけです。
刑事訴訟法321条1項2号(検面調書)
続いて検察官の面前で作成された書面(=検面調書)についてみていきましょう。
刑事訴訟法321条1項2号になります。
二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
切り方が難しいので、しっかり覚えてしまいましょう。
①供述不能
②自己矛盾供述+相対的特信情況(「状況」という字ではない点に注意です!)
のいずれかであれば、伝聞証拠として認められます。
ポイントは
裁判官の面前であれば、不一致供述(実質的に異なっている必要はない)で証拠能力は認められましたが、検察官の面前では、自己矛盾供述(実質的に異なっている場合も含む)で証拠能力が認められるという点です。
ただし、自己矛盾供述の場合には、相対的特信情況が必要となります。
相対的特信情況とは、前の供述と比べたときにどちらが信用できるかということです
たとえば、前の供述は、事件の日に近く記憶が鮮明であるという事情や後の供述の前に口裏合わせ・買収が行われたといった事情がある場合には前の供述の方が「相対的に特信性がある」ということになるため、相対的特信情況の要件を満たします。
相対的特信情況はあくまで文字通り情況ですので、外部的付随的事情より判断すべきだとされています。ただし、判例では、供述内容を斟酌して外部的付随的事情を考えてよいとされているため、そこまで深く考える必要もありません。
刑事訴訟法321条1項3号
続いて、最も試験に登場する刑事訴訟法321条1項3号についてです。
こちらは裁判官の面前や検察官の面前といった条件はなく、一般的な規定になります。
三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
刑事訴訟法321条1項3号は区切ってはいけません。
供述不能+不可欠性+絶対的特信情況
これら3つすべてそろってはじめて証拠能力が認めらえるというわけです。
ポイントは絶対的特信情況です。
こちらは刑事訴訟法321条1項2号とは異なり、前の供述と後の供述を比較して特信情況を考えるのではなく、絶対的(客観的)は特信情況が必要となります。
こちらの場合も、あくまで特信「情況」ですので、外部的付随的事情により判断されますが、供述内容も外部的付随的事情を推認するものとして、斟酌することができる点は同じです。
検証調書(刑事訴訟法321条3項)
刑事訴訟法321条3項適用場面
刑事訴訟法321条3項の適用場面をまず条文から押さえていきましょう。
第三百二十一条
③ 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
検察官や司法警察職員(=捜査官)などの捜査機関が検証結果を示した書面(=検証調書)は、その作成者(検察官や警察官など)に「真正に作成したものであること(=ちゃんと観察・記録したこと)」を証人尋問すれば、証拠能力が認められるというわけです。
なぜ伝聞証拠として、供述者(警察官など)に供述内容についての証人尋問が必要ないか、その理由も押さえておきましょう。
検証調書の供述者は警察官などの捜査官です。捜査官の五官作用での認識をそのまま作成しているだけなので、予断偏見が入りづらいものになります(本当にそうかはは置いておいて……笑)。すなわち、客観性・正確性が担保されているというわけです。
そのため、伝聞証拠の例外として、供述者に対して「ちゃんと観察して書きましたね?」と簡単に確認するだけで、その検証調書には証拠能力が認められるというわけです。
実況見分調書
刑事訴訟法321条3項の適用場面として最も登場するのは、実況見分調書の場合です。
実況見分調書は、警察官が作成しますが、実況見分調書において刑事訴訟法321条3項を適用していかについては争いがあります。
判例・通説は適用を認めているので、論証を覚えてしまいましょう。
①実況見分調書と検証調書との違いは任意処分か強制処分かの違いであり、作業の正確性には大きな違いがないこと(正確性)
②内容に一定の複雑さを伴うので、口頭より書面の方がよいこと(必要性)
この正確性・必要性の2つを指摘して、実況見分調書にも刑事訴訟法321条3項を適用することを示します。
鑑定書(刑事訴訟321条4項)
まずは条文をみてみます。
第三百二十一条
④ 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。
鑑定書についても、作成者に対して真正に作成されたことを証人尋問で確認すれば、証拠能力が認められます。
鑑定書にも証拠能力が認められるのは、先ほどと同様、専門家による書面なので、正確性・客観性が高く、複雑な内容を伴うので書面でやる必要性が高いからです。
専門家の供述をすべて証人尋問でやるとなると、長時間かかり、また裁判官は全然理解できないと思います。
そのため、書面に証拠能力を認めることで、裁判官もじっくり考えられるようにしているわけです。
重要なのは、刑事訴訟法321条4項が適用されるのは「私人」が作成したものというわけです。
刑事訴訟法321条3項と刑事訴訟法321条4項との違いは「捜査官」が作成したか「私人」が作成したかどうかと考えておけば大丈夫でしょう。
たとえば、学識のある専門家が行った燃焼実験報告書などは、「私人」が作成したものなので321条4項を適用します。
まとめ
以上、刑事訴訟法321条をみてきました。
特に試験に出やすい、刑事訴訟法321条1項は必ず覚えておきましょう。以下がまとめの表になります。
意外と忘れやすいのが、刑事訴訟法321条1項柱書の要件ですので、供述録取書のときには署名・押印の検討を忘れないようにしましょうね。
また、刑事訴訟法321条3項・刑事訴訟法321条4項も頭の片隅にはおいておきましょう。
なお、刑事訴訟法321条2項は出題されないと思います。そのため、今回は飛ばしました。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑事訴訟法の参考文献としておすすめするのが、基本刑事訴訟法Ⅱです(基本刑事訴訟法Ⅰは手続法ですので刑事訴訟実務基礎に使うものです。一般的な刑事訴訟法を勉強する際にはⅡの方を選ぶよう注意が必要です)。
最近登場したものですので、有名ではないかもしれませんが、今後はこれが刑事訴訟法のバイブルに必ずなっていきます。
具体的な事例に沿って刑事訴訟法を理解できる作りになっているので、初学者にとっても理解しやすくなっています。
本当におすすめです!ぜひ読んでみてください!