正当防衛は因果関係に続く,刑法総論での山場だね。
確かに正当防衛ってどこに着目して書けばいいかよくわからないんですよね。
正当防衛のコツは要件を考えることだ。
これまで,結果→行為→因果関係→故意(故意が認められなければ過失)と順を追ってやってきました。これらが構成要件該当性の判断です。
次の段階として,違法性阻却事由の判断をしていきます。第2フェイズです。この中で最も有名なのが正当防衛です。
正当防衛はいろいろな論点があり難しい分野だと思います。正当防衛のコツは要件を考えることです。以下,一緒に見ていきましょう。
正当防衛のポイント
②要件について理解する。
正当防衛は自力救済禁止の例外
刑法は,自力救済,つまり警察の力を用いず自分で違法状態を解消しようとすることを禁じています。もしこれが認められると,各人が勝手に違法状態を解消しようとして日本が荒れてしまいますよね。そうならないように,違法状態を解消したければ犯人を罰したければ警察にお願いしてくださいね,となっているのです。
しかし、警察にすぐに頼れない場合もあります。たとえばいきなり殴られてきたときです。このときも自力救済の禁止を貫くと,被害者は相手からの暴力を受けざる得ないことになります。これはちょっと考えられませんよね。
よって,刑法は,正当防衛を自力救済の要件として例外的に認めています。ただし,あくまでも例外なので要件が結構多く,その要件すべてを充たさないと正当防衛は成立しません。
というわけで,正当防衛は要件が大事というわけです。
正当防衛はこれだけでオッケー
正当防衛の要件
正当防衛は要件を押さえていけば大丈夫です。まず,条文を見てみましょう。
(正当防衛)第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
これを見ながら,要件をあげていきます。
①急迫不正の侵害←「急迫不正の侵害に対して」
②防衛意思←「自己又は他人の権利を防衛するため」
③相当性←「やむを得ずにした行為」
これ以外にも防衛行為等を要件とする場合もありますが,論点となるのはほとんどこの①②③ですので,私としてはこれで十分かと思います。重要なのは,要件がすべて充たされてはじめて正当防衛が成立するということです。
それぞれの要件に対して1つの論点があると思ってもらえれば大丈夫です。ではそれぞれの要件について解説していきます。
急迫不正の侵害は侵害の予期+積極的加害意思
急迫不正の侵害は文字通り,意味を感じ取ってください(笑)。時間的切迫性と不正な侵害があればよいのですね。
ここでの論点は,どういう場合に急迫不正が認められないか,です。なぜ急迫不正が認められない場合が論点になるかというと,急迫不正は判断しやすく,逆に急迫不正に一見見えるけど急迫不正とは見ないんですよ,という場合に注意が必要だからですね。
いろいろ議論されていますが,ここでは簡潔さ,明快さを優先して,一言でいいます。急迫不正に当たらない場合というのは侵害の予期+積極的加害意思がある場合です。侵害の予期は積極的加害意思の考慮要素の一つと考えるとわかりやすいでしょう。
ここで判例を見てみましょう。最新の判例を取り上げます。
ここでのポイントは,侵害の予期に加えて,侵害回避可能性も検討している点といわれます。
防衛の意思はもっぱら攻撃の意思以外はオッケー
防衛の意思の要件は,必要説と不要説がありますが,ここでは判例通説をとり防衛の意思必要説,つまり防衛の意思も正当防衛の要件の一つと考えます。
防衛の意思がなければ,偶然防衛(状況的には正当防衛だが,正当防衛のつもりで行為に及んでいないとき)を排除することができないからといわれています。
判例では,防衛の意思と攻撃の意思が併存する際も防衛の意思の要件が認められてます。つまり,防衛の意思が少しでもあれば正当防衛は認められ,もっぱら攻撃の意思しかない場合は防衛の意思は否定されるということです。
防衛の意思の論点はあまり深くないのでこんなところにとどめますね。
相当性はその場でできた必要最小限の行為
相当性も盛んに議論されている要件です。相当性が欠ける場合は,刑法36条2項の過剰防衛に当たるとされます。(過剰防衛については次回の記事で書く予定です)
相当性も一言で言います。相当性とはその場でできた必要最小限の行為です。
つまり,急に殴ってきたのに際して,石を投げつける行為を考えてみます。客観的に見れば殴るのに対して石を投げる行為は危険性が高く,相当性を欠くといえそうです。しかし,例えば現場が夜で他に助けを求めることのできる状況になく,殴ってきている人がガタイの大きい男性であり,襲われているのが女性だったとしましょう。そして,その男性が近づいているときに足元に石ころしか見つからなかったとします。この場合,その女性がその場でとれた行動として石を投げつける行為以外になかなか考えづらいですよね。
このように相当性の判断は現場に応じて様々な事情を考慮して考えていきます。ポイントはその場でできたという点です。あとから,客観的にみて「こうすることもできただろー」といって,正当防衛を否定するのではなく,「たしかにあの状況だったらこういう行動をとるしかないよね」という風に侵害状況に応じて判断するのです。
まとめ
本当に簡潔にまとめることだけを意識して記事を書いてみました。正当防衛は学説が錯綜しています。それぞれの学説を理解することも本質の理解につながるので,ぜひ基本書等を読んでみてください!
それではまとめです。
②要件は①急迫不正②防衛の意思③相当性である。①急迫不正は侵害の予期+積極的加害意思を検討し,②防衛の意思はもっぱら攻撃の意思ではないかを検討し,③相当性はその場でできた必要最小限の行為かを検討する。
③については,正当防衛か過剰防衛かを分ける大事な部分なのでどの事案でも慎重に判断することになります。
正当防衛は学説,判例でいっぱいいっぱいになりそうですが,要件だけをしっかり押さえていけば,恐れるに足りません。がんばっていきましょー。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。