刑法で一番出てくる罪は何かな?
えっと、暴行とか?窃盗とか?
いや、住居侵入罪だな。屋内で犯罪が行われるときはほぼ確実に出てくる点だ。ただし最近は出てきすぎて、問題文に「住居侵入罪については論じなくてよい」といった文言がつけ足されることもあるくらいさ。
住居侵入罪って意外と論点がありますよね。
今回はその論点についてみていこう!
住居侵入罪は、刑法で一番頻出の罪名と言っても過言ではないと思います。論述の試験では住居侵入罪が主体となって問われることはほぼないので、軽い論述で済ませることが多いですが、意外と論点のある分野です。ここではその論点について正確に押さえていきたいと思います。
住居侵入罪のポイント
保護法益は住居権と考えておけばよいでしょう。要件は住居と侵入がポイントです。論点はすべて保護法益と要件の議論なので、今回は保護法益と要件を確実に理解することを主眼に置きます。
②住居侵入罪の要件を押さえる。
住居侵入罪の保護法益
住居侵入罪の保護法益は大きく分けて2つの議論がありました。平穏説と住居権説です。初心者のうちは住居権説で理解しておくとよいでしょう。
住居権(住む権利→より広く考えて誰を住居に入れるか決める権利)が保護法益です。よって一般的には承諾をもらうことなく住居に侵入する場合に住居侵入罪となります。
住居侵入罪(刑法130条)の要件
(住居侵入等)第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
住居侵入罪にはバリエーションとして邸宅侵入罪や建造物侵入罪、艦船侵入罪、不退去罪がありますが、これらは住居侵入罪がちょっと変化しただけなのでここでは深く取り上げません。
とりあえず基本形である住居侵入罪の要件を押さえることを目的に話を進めます。
要件は上記のようになりそうです。一つ一つ詳しく見てみましょう。
住居
住居は起臥寝食に利用される建造物をいいます。まぁ一般的に私たちが考える住居のイメージと同じです。
なお、邸宅は居住用以外の建造物を指します。邸宅と住居って一緒やん!と思った方はこの違いに注意してくださいね。
なお、住居に付随する囲繞地も住居に含まれるとされています。意外と見落とす点なので注意してください。囲繞地の例としては、駐車場やガレージ、庭などです(住居の囲繞地を邸宅と考える判例もあります)。
また、塀に上っただけで建造物侵入罪が成立した有名な判例もあるので、塀は建造物の一部と考えておくとよいと思います。
侵入
侵入とは、住居権を侵害する立ち入りのことです。保護法益から導き出されますね。となると、住居権者の承諾があれば住居権に反しないことになるので、侵入にはならないわけです。
一方の承諾
ここで住居権者の承諾があったかどうか、という論点が生じます。
分かりやすい考え方は住居権者の1人でも承諾(同意)をしていればオッケーというものです。たとえば夫と妻が住んでいて、夫は住居に入れることに反対したが妻は承諾したというような場合でも、妻が賛成している時点で住居侵入罪は成立しないと考えられます。
重大な錯誤
同意があるといっても、刑法の通説は同意について重大な錯誤説をとっているので、本当の目的を知っていたら立入りを許可しなかったような場合には同意は無効となり、侵入の要件を満たすことになるので注意が必要です。
黙示の同意
また、明示的に承諾する場合はあまりないと思うので、この承諾(同意)は黙示的なものであってもよいです。一般的に考えて承諾するよね、という場合には住居権者の承諾(同意)がある、といえるでしょう。
包括的同意
さて、デパートなど大人数の出入りがある店などではいちいち、住居権者の同意があるかな?と考えながら入るでしょうか?そうはいえませんね。
出入りのチェックをしていないような、逆に言えば侵入を不特定多数に認めている場合には包括的同意があるとして住居侵入罪を認めないという見解もあります。つまり、住居権者側が侵入のリスクを負っているわけです。
しかし、この包括的同意が認められるような場合であっても、違法目的での立入りは管理権者による包括的同意の範囲外であるとする見解が多数です。
結局は、管理権者(住居権者)の合理的意思に反する侵入はダメというわけですね。特に違法目的はアウトというわけです。
正当な理由がないこと
これは、逮捕・監禁罪でみた「不法に」の要件と同じで違法性阻却事由が構成要件段階に落ちてきているわけです。
ただし承諾(同意)については侵入の要件で検討できるため、ここでの違法性阻却事由とは同意以外の要素ということになります。令状捜査などの正当行為(法令行為)であれば住居侵入罪にならないというわけですね。
もっと広く考えて、苦情目的で立ち入った場合も社会通念上相当な行為として住居侵入罪の成立を否定した裁判例もあります。
さらに憲法の表現の自由との関係から正当な理由があるといえないか、という論点がありますが、この点は憲法の分野にも関わるので、出題される可能性は低いと考えてここでは省略します。
まとめ
以上、住居侵入罪についてまとめてみました。対象が住居ではなく邸宅となれば「人の看守する」という要件も検討する必要があります。また建造物侵入罪も以外と出題例が多いので注意しましょう。
要件をみてそれぞれのポイントを言えるようになっているか確認してみます。
①住居②侵入③正当な理由がないことについてポイントを言えましたか?詰まってしまう場合には以下で確認して確実に押さえてくださいね。
②侵入…住居権に反する立ち入りを意味する。一方の住居権者の同意で足る。黙示的同意や包括的同意の議論があるが、重大な錯誤や違法目的の場合は同意は無効である。
③正当な理由がないこと…違法性阻却事由を構成要件の段階で考えるということ。法令行為などは正当な理由がある、といえる。
参考文献
刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。