お金返してほしいときの請求の要件事実について教えてほしいです!
消費貸借契約に基づく貸金返還請求のことだね。以外と要件事実で混乱する分野かもしれないから、しっかりみていこうか。
貸金返還請求は要件事実ではよく出題される分野です。民法では影が薄い消費貸借契約が、民事実務基礎ではなぜよく出題されるのでしょうか。
1つの理由として、実務でよくあるから、というのが挙げられるでしょう。
2つ目の理由としては、要件事実がややこしいからというのが挙げられます。特に保証とコラボするとなかなか厄介な分野になります。
このように、実務でよく出るし、要件事実がわかっているか確かめやすいので、貸金返還請求は非常に要件事実として出題したい、分野なのです。
それではみていきましょう。
貸金返還請求のポイント
要件事実のポイントは毎回決まっています。訴訟物、請求の趣旨、請求原因→抗弁→再抗弁……を押さえることです。
貸金返還請求については抗弁再抗弁は特段述べる必要はないと思うので、今回は請求原因までにとどめたいと思います。
この3点を押さえれば要件事実論のすべてが解決するというわけです。
①貸金返還請求の訴訟物を押さえる。
②貸金返還請求の趣旨を押さえる。
③貸金返還請求の請求原因等を押さえていく。
以上、見ていきましょう!
貸金返還請求の訴訟物
訴訟物は覚えるしかありません。
消費貸借契約から「貸金を返してほしい!」という主張が出てくると思うので、
消費貸借契約に基づく貸金返還請求権
が訴訟物ということになります。覚えましょう!
特に訴訟物の際には「〇〇契約に基づく」という部分を抜かさないようにしましょう。ただし訴訟物本体は「〇〇契約に基づく」の部分ではなく「貸金返還請求権」の部分です。
貸金返還請求の請求の趣旨
請求の趣旨でのポイントは、いかに簡潔に主張を伝えるかどうか、です。
貸金返還請求の場合には、「被告は、原告に対し、〇〇円支払え。」とだけ書けば大丈夫でしょう。
絶対に「被告は、原告に対し、消費貸借契約に基づき、〇〇円支払え。」であったり「被告は、原告に対し、〇年〇月〇日までに、〇〇円支払え。」と書いてはいけません。
余計な情報はご法度なのです。そうでなければ執行官が混乱してしまいます。
請求の趣旨を考える際には、常に、「結局何を求めているのか。」を確認するようにしてください!
貸金返還請求の請求原因
貸金返還請求には2パターンある
貸金返還請求を発生させるのは消費貸借契約です。
消費貸借契約には「要物契約」のものと「諾成契約」のものとの2種類があります。
まず要物契約による場合を考えてみましょう。
要物契約としての消費貸借契約(民法587条)
要物契約の消費貸借契約は民法587条に規定されています。
(消費貸借)
第五百八十七条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
この条文から消費貸借契約を主張するには2つの要件が必要ということがわかります。
〈消費貸借契約の要件事実〉
①金銭の返還約束
②金銭の交付
ここからさらにアレンジが必要です。というのもこれだけでは消費貸借契約の成立は主張できても、消費貸借契約に基づく「貸金返還請求」は主張できないからです。
貸した金を返せ!という場合には、契約の履行期がすでに到来している必要があります。
そのため、上記の要件に加えて③履行期の合意④履行期の到来が必要となるわけです。
〈貸金返還請求の要件事実〉
①金銭の返還約束
②金銭の交付
③履行期の合意
④履行期の到来
→①・②・③「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、弁済期を〇年〇月〇日として、〇〇円貸し付けた。」
→④「〇年〇月〇日は到来した。」
※ポイント:㋐「貸し付けた」という表現の中に「金銭の返還の約束」と「金銭の交付」の2つの側面が含まれる。㋑履行期の合意も最初の部分に加えているが、別に分けてもよい。㋒履行期の「到来」である。履行期当日に返せ!という主張ができるのであるから、履行期の「経過」である必要はない。
消費貸借契約の場合には「貸し付けた」という独特の用語を用いるのが一般的です。注意しましょう。
また履行期の合意&到来はあくまで契約終了を基礎づけるだけなので、履行期がない場合には催告&催告後相当期間の末日の到来を主張することもできます。しかし、大事な消費貸借で履行期(弁済期)を定めないということは考えにくく、あまり覚える必要がありません。
そのため、貸金返還請求の場合には
消費貸借契約を基礎づけるものとして、「貸し付けた」という文言
返還を基礎づけるものとして「履行期の合意&到来」という要件
の2つを理解しておけば大丈夫でしょう。
売買契約の代金支払請求や目的物引渡請求のときは、売買契約だけを主張すればよかったけど、貸金返還請求のときは「消費貸借契約+契約の終了(返還の基礎付け)」が必要ということね。
そうなんだ、売買契約の場合より少しレベルアップしていることを意識していこう!
諾成契約としての消費貸借契約(民法587条の2)
消費貸借契約にはさらに上があります。
消費貸借契約では、わざわざ「金銭の給付」まで主張する必要がありました。しかし、あることをすれば「金銭の給付」の主張は必要なくなります。
それが「書面」です。
民法587条の2を見てみましょう!
(書面でする消費貸借等)
第五百八十七条の二 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
2 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。
3 書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。
4 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
民法587条の2第1項をみてください!
「書面でする消費貸借契約」であれば「金銭の交付」までは必要ないのです!!
つまり、書面でする場合には消費貸借の要件事実は以下の通りになります。
〈貸金返還請求の要件事実〉
①金銭の返還約束
②書面
③基づく交付
④履行期の合意
⑤履行期の到来
→①「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、〇円を貸し付けるとの合意をした。」
→②「①合意は書面による。」
→③「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、①の合意に基づき、〇円を貸し付けた。」
→④「Aは、Bとの間で、本件消費貸借契約の際、履行期を〇月〇年〇日にする旨の合意をした。」
→⑤「〇年〇月〇日は到来した。」
※ポイント:㋐「基づき」を忘れない!!㋑履行期の合意は①の貸付の合意に含めてもよい。ex)「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、弁済期を〇年〇月〇日として、〇円を貸し付けるとの合意をした。」など。
要件事実の表現はあくまでも一例であり、要素さえあれば、どのような書き方でもオッケーという点は覚えておきましょう。
そこまで表現自体を気にする必要はありません。ただししっかり対象、当事者、日付は入れる必要があります。
そして書面による場合には必ず「基づき」という文言を入れなければなりません。
でもなんで「基づく交付」なの?書面による場合は交付は必要なかったんじゃないんですか?
一般的に考えてみればわかるぞ。金を渡していないのに、金を返せ!といえるかい?
いえないだろ?
だから要件事実としては条文にない「貸した」という事実まで必要になってくるんだ。
でも、わざわざ「基づく」っていう単語も必要なのはなんで?
いいかい、
「基づく」という言葉は、契約自体には必要ないけど事実上必要な要件のときに使われる文言なんだ。
今回は「消費貸借契約の要件」ではないけど、貸金返還請求の際には事実上必要だろ?となると「何について交付したか」まで主張しないといけないことになる(契約の一要素ではないので)。
そこでわざわざ、上の契約に基づいてちゃんと交付したんですよーっていうのを示すために「基づき」という言葉が必要なんだ。
同じようなことは賃貸借契約でも出てくるから注意しよう。
「基づく」という文言が必要か必要でないか、の区別は、それが契約の一要素かそうではないかです。
書面による消費貸借の場合には金銭の交付は「消費貸借契約」を基礎づけるものではありませんから、わざわざ「基づく」という言葉で「金銭の交付」を言わないといけないのです。
なお、上記を見てもわかりますが、
書面であるからといって要件の主張分量が少なくなるわけではありません(むしろ若干多くなります)。貸金返還請求を基礎づける場合に書面の消費貸借契約を主張するメリットはあまりないのかもしれませんね。
まとめ
以上、貸金返還請求の要件事実についてまとめてみました。
抗弁については特筆すべきものはないと思います。とりあえず消費貸借契約に慣れてもらうという目的でこの記事を作成しました。
再度要件事実を確認してみましょう!
〈要物契約の消費貸借契約に基づく貸金返還請求の要件事実〉
①金銭の返還約束
②金銭の交付
③履行期の合意
④履行期の到来
→①・②・③「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、弁済期を〇年〇月〇日として、〇〇円貸し付けた。」
→④「〇年〇月〇日は到来した。」
※ポイント:㋐「貸し付けた」という表現の中に「金銭の返還の約束」と「金銭の交付」の2つの側面が含まれる。㋑履行期の合意も最初の部分に加えているが、別に分けてもよい。㋒履行期の「到来」である。履行期当日に返せ!という主張ができるのであるから、履行期の「経過」である必要はない。
〈諾成契約の消費貸借契約に基づく貸金返還請求の要件事実〉
①金銭の返還約束
②書面
③基づく交付
④履行期の合意
⑤履行期の到来
→①「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、〇円を貸し付けるとの合意をした。」
→②「①合意は書面による。」
→③「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、①の合意に基づき、〇円を貸し付けた。」
→④「Aは、Bとの間で、本件消費貸借契約の際、履行期を〇月〇年〇日にする旨の合意をした。」
→⑤「〇年〇月〇日は到来した。」
※ポイント:㋐「基づき」を忘れない!!㋑履行期の合意は①の貸付の合意に含めてもよい。ex)「Aは、Bに対し、〇年〇月〇日、弁済期を〇年〇月〇日として、〇円を貸し付けるとの合意をした。」など。
読んでくださってありがとうございました。
ではまた~。
参考文献
民事実務の基礎の教科書、参考書として有用なのは1つしかありません。
これを買わずして勉強できないといわれるほどの良書、大島先生の「民事裁判実務の基礎」です。
予備試験、ロースクール授業対策であれば「入門編」で十分でしょう。司法修習生になると「上級編」や「続編」が必要になるらしいです。
まだ何も参考書がないという方はぜひ読んでみてください!