背任罪がわかりません!
背任罪は刑法各論の主要罪名のなかでもっともわかりにくいものだね。背任罪はよく基本書では分量を割かれているが、実際に問題に出るのはほとんどないぞ!
背任罪はもっともイメージがしづらい分野であり、見分け方も難しいです。
しかし、実際問題背任罪が出題されることはほとんどありません。基本書では分量が割かれている背任罪ですが、間違ってもよく出題される罪名とは思わないでください。
さらに出題されるとしたら、会社関係の問題です。会社以外で背任罪が出てくることはほぼないでしょう。
あまり出題されない背任罪ですが、横領罪をより理解するという意味でも論点や要件を知っておくことは大事なので解説していこうと思います。
背任罪のポイント
繰り返しになりますが、背任罪はほとんど出題されません。しかし、刑法各論を学んだ者としては、背任罪の保護法益と要件と論点は軽くでいいので理解できておいた方がよいでしょう。
さらに、背任罪を理解することは横領罪を理解することにもつながります。
②背任罪の要件を理解する。
③背任罪と横領罪が見分けられるようになる。
④背任罪と共犯の考え方を理解する。
背任罪の保護法益
背任罪はいわゆる2項横領罪です。よって背任罪の保護法益は所有権と委託信任関係としちゃいそうですが、利益の所有権を観念化するのは若干違和感があること、刑法の規定上所有権を指す言葉がないことから、所有権というように限定するのではなく、財産としちゃいましょう。
背任罪の保護法益は財産と委託信任関係というわけです。
保護法益よりも、背任罪が2項横領罪であること、いわば会社での裏切り行為を罰するものであるということを押さえればイメージが付きやすいと思います。
背任罪(刑法247条)の要件
刑法247条から要件を導き出す
(背任)第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
文言上は「他人のためにその事務を処理する者」となっていますが、この「その」は「他人のために」を指しているので結局わかりやすくいうと、「他人のために他人の事務を処理する者」と負いうことになります。
背任罪では不法領得の意思は必要ありません。その代わりに③図利加害目的が必要になります。この「図利加害目的」は「とりかがいもくてき」と呼びますので気を付けてください。私はずっと「ずりかがいもくてき」と呼んでいました(笑)。
それではそれぞれの要件について詳しく見ていきましょう。
①他人のために他人の事務を処理する者
考え方としては自己の事務を処理する者ではないということです。
よくあげられる例としては借金の返済でしょう。借金は他人のため、ではあるかもしれませんが、他人の事務ではなく、自分が行うべき事務です。よって借金返済は①の要件を満たさず、債務者が背信行為(裏切り行為)をしたとしても背任罪に該当することはありません。
一方で、抵当権設定者は①他人のために他人の事務を処理する者に該当するとされています。抵当権設定登記は一見、自己の事務のように考えられるかもしれませんが、抵当権には担保価値維持義務(担保を十分に確保するように抵当権者から抵当権設定者に課せられる義務)があるため、登記は「他人の事務」とされているのです。
とはいえ、この論点は、民法上の問題もかかわるうえに、会社上の問題ではないので出題されることはないと考えておいてよいでしょう。
文言さえ覚えておけば対処できると思います。
②背任行為
任務に背くことを言います。背任罪は会社上のことが多いので、いわゆる会社に対しての裏切りを指しています。
ここで微妙な論点として、任務(委託信任関係)について、背信説(法律行為だけでなく事実行為の信任関係も含む説)と権限濫用説(法律行為の信任関係のみを対象とする説)があります。
ここでは通説として背信説をとっておけばよいでしょう。とりあえずある者からある者への信任関係があればよいのです。さらに言うと、会社から、ある者への信任関係があればよいというわけです。
③図利加害目的
これは主観面の構成要件なので、①②よりも後に検討した方がよいでしょう。刑法では客観→主観が基本的な検討の手順です。
図利加害目的と言われることが多い要件ですが、定義は条文上の文言をそのまま使えばわかると思います。
自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的のことです。
さて、判例・通説では、この図利加害目的は消極的動機説と言われています。消極的動機といっても何のことかさっぱりわかりませんよね?
考え方としては以下のように考えておけば楽です。
㋑本人加害目的がある場合には主たる目的かどうかを検討する。
図利加害目的を疑わせる要素=本人図利目的を推認させる事情がある場合に、すぐに③図利加害目的の要件を否定してはいけません。多くの場合は本人加害目的と図利加害目的の葛藤があるためです。純粋に本人図利目的で行っている善良な人物を刑法が登場人物とするわけありませんもんね(笑)。
この場合には、どちらが主たる目的化を検討します。図利加害目的が主たる目的の場合には③図利加害目的が満たされ、本人図利目的が主たる目的の場合には③図利加害目的はみたされません。結局、どっちが主たる目的なの?!はっきりさせなさいよ!というわけです。
論点:横領罪と背任罪の見分け方
この見分け方については様々な学説がありますがわかりやすい見解(判例・通説)から説明していきます。
横領罪については以下の記事をご参照ください。
まず背任罪は2項横領罪(利益について横領行為)を規定したものであると考えると楽でしょう。財物の場合には背任罪が成立することはないので自動的に横領罪であるとわかります。
次に、利益違背行為について、横領罪の要件と背任罪の要件、どちらも満たされる場合には横領罪が優先的に適用されます。法条競合の関係に立ち、横領罪の方が法定刑が重いためです。
つまり、論述の手順としては、以下のような流れをとります。
上記の流れをとることもあって、背任罪はほとんど使われません。悲しいですね。
論点:背任罪と共犯
背任罪は会社上の問題についてがほとんどだということは繰り返し述べてきました。
さらに典型論点は、会社上の不正融資です。会社間で融資する場合を考えてみましょう。相手の会社が融資してほしいとお願いしてきました。そして、融資しても返済されない可能性が非常に高いのにもかかわらず融資した場合を考えてみます。すると当該会社は背任罪となりることがわかります。会社の裏切りで図利加害目的があるためです。
しかし、この際に相手の会社は背任罪の共犯になるでしょうか。たしかに、相手の会社からのお願いによって当該会社は融資(背任)行為に踏み切っているわけです。しかし、社会的にみてこのようなお願いは普通のことだと思いませんか。融資するかどうかの判断は当該会社自身に委ねられているので、融資のお願いをした会社は基本的に共犯とはなりません。
ところが、例外的に共犯となる場合があります。それは利害関係が共通していたり、積極的に関与していた場合です。通常融資は利害関係が対立します。それなのに利害関係が共通していたといった事情がある場合には背任罪の共犯になるというわけです。
たとえば、相手方の会社と当該会社が融資し合っていて相手方の会社が倒産すれば当該会社も倒産してしまう場合を考えてみましょう。この場合、相手方からのお願いによって融資することは利害関係が共通しており、当該会社と相手方の会社で利害関係が対立するという状況にありません。
この場合は相手方の会社が一緒に不正融資をしたとして、背任罪の共犯となるわけです。
相手方の会社には共謀と重要な役割が認められるというわけですね。共犯については以下の記事が参考になります!
まとめ
以上、背任罪を見てきました。このように論点の多い背任罪ですが、ほとんど出題されません。さらに出題されるとしたら会社においてです。
この点を押さえたうえで復習してみましょう。
要件は以下の通りです。
①他人のために他人の事務を処理する者
②背任行為
③図利加害目的…基本的に満たされるが本人図利目的がある場合はどっちが主たる目的化を考える。
④故意
次に論点を考えます。
背任罪はいわゆる2項横領罪なので、利益に対する横領(背任)行為のときにはどちらを適用するかが問題になる。その場合はまず横領罪を検討。そして不成立の場合に背任罪を検討する。
〈論点②〉
背任罪の共犯が問題になるのは不正融資の場合。基本的に共犯は成立しないが、通常は利害対立のある不正融資が、利害が共通するものであったり、相手方が積極的に関与している場合には、共犯が成立する。
参考文献
刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。