行政訴訟の検討において,処分性→原告適格の次に来る判断要素は何かわかるかい?
えぇっと,訴えの利益ですか?
そうだね,今回は訴えの利益について考えていこう。
行政訴訟,特に抗告訴訟においての検討において処分性,原告適格の次の検討要素は訴えの利益です。今回はその訴えの利益について考えていこうと思います!
訴えの利益のポイント
訴えの利益は判例中心で説明したいところですが,ここではわかりやすさ重視で理論的に解説していこうと思います!
②訴えの利益の例外パターンについて理解する。
訴えの利益は回復すべき法的地位があるかどうか
訴えの利益がない場合は例外である
訴えの利益のイメージをまずつかみましょう。行政処分によって不利益を受けたときに提起するのが行政訴訟でしたね。処分性,原告適格が認められれば基本的には行政訴訟を提起することができます。しかし訴えをして回復する利益がなくなると訴訟は無意味なものになりますよね。よって訴えの利益があるかどうかを検討する必要があるのです。
とはいえ,処分性,原告適格がある時点で基本的に訴えの利益はあることになるので訴えの利益がない場合というのは例外であり,例外を今から検討していくことになります!
どのような場合か
訴えの利益がなくなる場合として代表的なのは,工事完了です。
例えば建築確認を考えてみます。
建築確認は処分性があるとされているため,これに対して取消訴訟を提起したとします。しかし,そのまま訴訟が続いて工事が完了してしまいました。すると,建築確認取消訴訟は訴えの利益が消滅したことになります。
なぜなら,被告が争っている建築確認の法的効果は適法に建築確認を行えるというものであり,その効果は建物建築完了によって消滅するからです。これにより被告の利益も消滅したことになります。
このように訴えの利益の際は当該処分の法的効果がまだあるのか,ないのかを考えてみるとわかりやすいと思います。そして回復すべき法的地位があれば訴えの利益あり,なければ訴えの利益なしとなります。
ここで後述する安西先生ルートによって建築確認後の是正命令を法的効果として考えるということもできそうですが,建築確認と是正命令は独立しているので安西先生ルートも使えません。混乱を避けるという意味で深入りはしないことにします。
回復すべき法的地位とは法律に基づく
さて,回復すべき法的地位があるかどうかといいましたが,この回復すべき法的の地位は法律により決まります。法律から法的地位を考えるのです。免許制度について考えてみましょう。
停止処分事件
免許停止処分の場合,停止期間が経過すると不利益,回復すべき利益はなくなります。よって回復すべき法的地位もないことになり,訴えの利益はなくなってしまうのです。これは免許制度の法律から法的地位を考えてのことですね。
優良運転者事件
一般に,交通違反等をした場合,期間が経過して刑罰の不利益がなくなれば訴えの利益はなくなったといえそうです。しかし「優良運転者の記載がなくなったんじゃー」と主張した場合はどうなるでしょうか?
ゴールド免許制度=優良運転者との記載は法律が特別に設けたものです。そのため,法的地位は優良運転者の地位として認められます。すると,その記載がないこと=回復すべき法的地位があることを理由として訴えの利益は継続していると考えることができるのです。
まとめ
このように訴えの利益は例外的な場面です。もし訴えの利益が問題になりそうな場合は処分の根拠となる法律から法的効果,法的地位を考えてみましょう。そしてその処分による不利益=回復すべき利益を考えてみます。
その回復すべき利益が現在どのようであるかを見てみるのです。現在も変わらない場合は訴えの利益あり,現在はなくなり回復すべき法的地位がないのであれば訴えの利益はなしとなり,訴訟は却下となります。
訴えの利益は法律に基づく法的効果,回復すべき法的地位が現在もあるかどうかを考える。
例外ルートを検討せよ
諦めるのはまだ早い
もし上記方法で訴えの利益なしとなった場合でも諦めるのはまだ早いです。
諦めたらそこで終了ですよ
実は,本来とは別の回復すべき利益がある場合は訴えの利益が認められるとした判例があります。これをここではわかりやすさを込めて安西先生ルートと呼ぶことにしますね(もちろん一般的に言われているわけではなくこの記事だけです。他で使わないように!笑)。
通常想定される不利益はもう回復してるじゃん!終わったー。となったら,別の不利益がないか,別の回復すべき利益がないかを考えるように意識していきましょう!きっと安西先生……となるはずです(笑)。
安西先生ルートは実は法律にも明記されています。原告適格の神の条文だった行政事件訴訟法9条を見てみましょう!
(原告適格)第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
行政事件訴訟のすばらしさについては下の記事で紹介しているので興味があれば見てみてください!
営業停止処分基準利用事件
安西先生ルートを用いた判例を一つだけ見てみましょう。
ここは行政立法の論点でもありますが,ここでは訴えの利益についての点だけを考えてみます。
パチンコの営業停止処分に対して取消訴訟がされました。しかし停止期間が経過してしまいました。これを普通に考えたら,営業が停止するという法的効果は終了し,根拠法律から考えれば法的地位としてはすでに回復していますよね。
もうダメだ……
諦めたらそこで訴訟終了だよ
ほ,法上先生……
茶番が過ぎましたが,ここで安西先生ルートを使ってみましょう。
実は停止処分があると行政基準規定によれば,次にまた同様の違反をすると処分が加重されるようになっていました。つまり営業停止によって回復すべき利益は,行政基準により不利益が生じる可能性があるのであればまだ続いているのでは……?となるのです。
行政基準の考え方は難しいですが,ここでは法律のようなもので基本的には従わないといけないと思っておけば大丈夫でしょう。そのため,やはり営業停止処分によって停止期間が経過したとしても,次またやらかした場合は加重される=当該営業停止処分により回復すべき利益が残っているといえそうですね。
なかなか安西先生ルートを見つけるのは難しいとは思いますが,当該処分の回復すべき地位がないという理由だけであきらめるのは避けるようにしていきましょう!
またそのことは行政事件訴訟法9条1項かっこ書に書かれている。
まとめ
行政訴訟,特に抗告訴訟(取消訴訟)についての訴えの利益問題についてみてきました。
比較的わかりやすい領域ですが,問題によっては難しくなります。問題演習をよろしくお願いします!(私も頑張ります!)
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。