未遂犯と不能犯は実はまとめて考えるとわかりやすいぞ。
え,2つって別々の論点じゃないんですか?
いや,両者は同じように考えることができるんだ。というか,問題を解くときも不能犯→未遂犯の順で検討することが多い。
実行行為についての論点である,不能犯,未遂犯について考えてみます。よく基本書では未遂犯,不能犯の順で並べられていますが,私はこの理由がよくわかりません!たしかに重要度では未遂犯の方が高いと思いますが,問題を解くときの検討順としては不能犯→未遂犯の順だからです!
今回は世の中にある基本書に歯向かって(?)わかりやすい順序で書いていきます!
不能犯・未遂犯のポイント
不能犯とは,そもそも犯罪が成立しようがない場合のことで不能犯にあたる場合には罰せられません。未遂犯は結果が発生しない犯罪のことです。未遂犯の規定がある犯罪にのみ適用されます。
大事なのは両者は行為の段階で問題になるということです。結果→行為の行為の段階ですね。構成要件段階の因果関係より前の段階での検討だという点に注意しましょう。そのため,基本的には問題を解くときの最初に検討するポイントの一つになります。
また不能犯と未遂犯はどちらも結果が発生していない場合の検討です。この点を忘れないようにしましょう。
②未遂犯の考え方について理解する。
③未遂犯の実行の着手時期について理解する。
不能犯と未遂犯の区別
大事なので再度言っておきます。不能犯と未遂犯はどちらも結果が発生していないときに問題になるものです!
検討順序の「結果→行為」の中で結果が発生していない場合に不能犯,未遂犯と検討していくということです。
不能犯はどこまでいっても不能です。行為の危険が高まることはありません。一方で未遂犯は時間が経つにつれて危険が高まっていきます。これが大きな違いです。とはいえ,次の項目でそれぞれ検討していくのでその基準に従えば大丈夫でしょう。それではそれぞれの検討ポイントを見ていきましょう。
不能犯は具体的危険を考えよ。
不能犯とは何か?
まず不能犯からです。不能犯は前述のとおり,犯罪が発生しえない状況なので不可罰とする犯罪のことを言います。
たとえば銃と間違えても輪ゴム鉄砲を持ってきてしまい,それを発砲したが輪ゴムだったため何もなかったという事例を考えてみましょう(我ながらどういう事例(笑))。
この場合でも殺人未遂罪で罰するかといわれるとさすがに不可罰でいいんじゃないといえそうですね。はたからみたらただの輪ゴム鉄砲を撃ったやつですからね。
しかしこれが実弾を入れてなかった銃だった場合はどうでしょうか?同じくそもそも人を殺せない場合ですがこのような人も不可罰として見逃しますか?それとも殺人未遂ですか?
このように不能犯はどこに基準を持ってくるかが非常に重要なのです。
不能犯は具体的危険を考える
学説ではいろいろ議論されていますが,ここではわかりやすさ重視でいきます!
一般人が危険を感じる具体的危険があれば不能犯にはなりません!
こう考えましょう‼これで終わりです。
たとえば上記例だと,輪ゴム鉄砲は一般人が危険を感じません。たとえ撃たれた人が危険を感じていたとしても(ないと思いますけど),一般人が基準なので不能犯です!一方で実弾なしの銃を考えてみます。銃を向けられること自体,一般人が具体的に「撃たれて死ぬかもしれない」と感じるものではないでしょうか?そのため,実弾なしの銃の場合は具体的危険があるとされ,不能犯は成立せず,殺人未遂となります。
このように不能犯は一般人の具体的危険を考えることになります。
未遂犯も具体的危険を考えよ。
未遂犯は刑法43条
さて,続いて未遂犯です。不能犯が否定された場合の検討になります(とはいっても明らかに不能犯が成立しないような場合や結果が発生しているけど因果関係が否定されたような場合は未遂犯からの検討になります)。
条文をさっと確認してみましょう。
(未遂減免)第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。(未遂罪)第四十四条 未遂を罰する場合は、各本条で定める。
未遂犯は実行の着手が最大の論点
未遂犯は実行の着手が最大の論点です。つまりいつから未遂犯を罰するかという問題です。これについてもさまざまな議論がなされていますが,ここでも省略します(笑)。
基本的には,法益侵害の具体的危険がある行為=構成要件該当行為に至る客観的危険がある場合に実行の着手を認めています。
よくわかりませんね?
簡単にいえば客観的に具体的危険がある行為にでたら実行の着手をしていると考えてよいと思います。
ん,具体的危険ってさっきの不能犯のやつと一緒ですか?
たしかに,抽象的な危険ではなく具体的危険という点では同じだが,不能犯は一般人がその時どう思うかを基準としているのに対して,未遂犯は主に客観的な危険性を考えているんだ。
不能犯と未遂犯はどちらも具体的危険が基準ですが,若干判断の違いがあるので注意しましょう。
クロロホルム事件で見えた未遂犯の実行の着手の基準
未遂犯は結果発生の具体的危険のある行為に出た場合に実行の着手を認めていますが,判例の中には,やや拡張して犯罪の準備行為で実行の着手を考えているようにみえるものがあります。
主要なのはクロロホルム事件ですが,今回は説明を省き,結論だけを言います!
①不可欠性②遂行容易性③時間的場所的近接性について
犯罪計画も踏まえて考える
不可欠性とは,準備行為と実行行為が不可欠であるということです。
遂行容易性とは,準備行為から実行行為まで障害が考えにくい,つまり因果関係が当然に認められるような場合です。
時間的場所的近接性とは,準備行為と実行行為とが時間的にも場所的にも近いということです。
これらの3つの要件と犯罪計画を加味して認められる場合には準備行為でも実行の着手が認められています。
実際クロロホルム事件では,クロロホルムで眠らせて車に乗せたまま崖から車を落とすという犯罪計画の下,行われた犯罪であり,クロロホルムで眠らせた段階で被害者が死んでいた場合はどうなるかが問題になりました。
このような場合,犯罪計画で故意が認められ,準備行為であるクロロホルムで眠らせる行為と実行行為である車のまま崖から落とす行為の間には①不可欠性②遂行容易性(支障がないこと)③時間的場所的近接性があることをもとに実行の着手が認められ,殺人未遂罪に当たるとされています。
ともかく未遂犯の実行の着手時期は早く認められることもあるという点,基準は以上の3つである点を覚えておくとよいでしょう。
また判例では準備行為から実行の着手が認められることもあり,基準は犯罪計画も考慮して①不可欠性②遂行容易性③時間的場所的近接性を考えればよい。
まとめ
以上,不能犯と未遂犯はまとめて考えた方がよい点はわかっていただけたでしょうか?どちらも結果が発生していない場合に発生する検討事項であり,不能犯→未遂犯の順で検討します。基準は根本としては具体的危険で同じですが不能犯は一般人を,未遂犯は客観的な基準で考えるのが普通です。
未遂犯は準備段階でも認められる可能性がある点には注意しましょう。
再掲になりますが,検討の順序の図を貼っておきます(土下座)。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。