いよいよ債権総論も終盤だね。弁済についてみていこう。
弁済で一番難しいのは弁済による代位だけれど、今回は弁済についての基礎を押さえていくよ。
弁済ってよく出てくるものですけど、第三者弁済とか、表見受領権者とかいろいろ論点がありますよね。いまいち関係性がよくわかんないです…。
そうだよね。しかし、弁済が債務者から債権者への履行、だということをしっかりつかめれば、論点も理解しやすくなるよ。詳しく見ていこう。
弁済の分野に入っていきます。弁済の分野の山場は弁済による代位ですが、今回はその前の弁済とは何か?といった基本的なことから、第三者弁済や表見受領権者について解説していこうと思います。
ざっくりいうと、民法473条~民法479条までの範囲です。
弁済のポイント
弁済を理解するうえで重要なのは、弁済者と受領権者、多くは債務者と債権者がいるということです。
弁済者について「誰が弁済者になれるか」という論点で登場するのが第三者弁済(民法474条)です。
一方、受領権者について「誰が受領権者になれるか」という論点で登場するのが表見受領権者(民法478条)です。
このように、弁済する側と弁済を受ける側で論点が登場するということを意識しましょう。
そのうえで、弁済の基本から押さえていくことにします。
①弁済とは何かを理解する。
②第三者弁済(民法474条)について理解する。
③表見受領権者(民法478条)について理解する。
それでは見ていきましょう。
弁済とは?(民法473条)
弁済とはなじみのある言葉ですが、正確に理解している人は少ないと思います。
弁済の意味や弁済の効果は何か?
と聞かれてぱっと答えられるでしょうか。
答えに詰まったらまず民法の条文を見るべきです。民法473条になります。
(弁済)
第四百七十三条 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。
債務者が債権者に対して弁済をしたら債権は消滅する……
当たり前の文言のようですが、実はこれが弁済の効果を表しています。これまでいろいろな債権の扱い方を見てきましたが、弁済が一番シンプルです。
弁済をすると、債権が消える
というわけですね。
弁済とは、おなじみのとおり、債務者が債権者に債務を履行すること(債務の内容を実現すること)を言います。
もっといえば、別に債務者や債権者でなくともかまいません。あとで解説する第三者弁済などがよい例です。
弁済を一言でいうと、債務の内容を実現することなのです。
すると、弁済者と受領権者が必要になっていきます。通常は弁済者は債務者、受領権者は債権者であることが多いですが、そうでないこともあります。
そこで、誰が弁済者になって、誰が受領権者になるのか?という問題が出てくるわけです。
誰が弁済者か?(第三者弁済 民法474条)
誰が弁済者かを考えてみます。もっとわかりやすく言うと、弁済者として弁済できる人は誰か?という点です。
債務者が弁済者であることは当たり前に認められています。では債務者以外の第三者が債務者の弁済を代わりに弁済することはできるでしょうか?
第三者弁済の条文は民法474条
実は、この場合も民法に規定されています。民法474条です。
(第三者の弁済)
第四百七十四条 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。
しっかり条文を理解しましょう。読み間違いしないように!
まず大原則として、第三者も弁済することができます。つまり第三者も弁済者になれるというわけです(民法474条1項)。
ところが例外が規定されているわけです。
例外:正当な利益がない第三者は債務者の意思に反して弁済できない
民法474条2項では、正当な利益がない第三者は債務者の意思に反して弁済できない、とされています。
さて、ここでいう「正当な利益」をどう判断すればいいか気になりますよね。
「正当な利益」とは「正当な法律上の利益」を指しています。つまり、何らかの法的な利益関係がなければいけないというわけです。
たとえば、債務者の友人です、だとか債務者の親です、という者には正当な利益は認められません。法律上、その友人や親によって、債務者の弁済を代わりにすることで何も利益がないからです。
それに対して、
借地上の建物の借家人(債務者の借地権がなくなると家も収去される可能性がある)
物上保証人(債務者が払わないと担保物が競売される)
抵当不動産の第三取得者(払わないと抵当権が実行される)
などは正当な法律上の利益があるといえるでしょう。
このように、純粋に、弁済者は何か債務者の代わりに弁済することによって法的利益(法律の規定の効果による利益)が得られるか考えるようにしましょう。
ただし、民法474条2項ただし書によれば、債権者が当該弁済が債務者の意思に反することを知らなかった場合には弁済は有効であるとしています。この点もしっかり押さえましょう。
例外:正当な利益がない第三者は債権者の意思に反して弁済できない
次は「債務者」ではなく「債権者」の意思に反して弁済できないという規定です。
この場合も正当な利益がない第三者を前提としますが、「正当な利益がない」とは「正当な法律上の利益がない」ことを意味します。
さらに民法474条3項ただし書にも注意です。債務者の委託を受けて弁済する場合はオッケーとされています。ただし、この債務者の委託を受けていることは、弁済者(第三者)側で立証する必要があります。
債務者の意思に反して弁済をすることはできないこと(民法474条2項)はわかるんですけど、債権者の意思に反するっていう場面であるんですか?
債権者ってとりあえず弁済してもらえればありがたいと思うんですけど。
いい質問だね。
たとえば弁済者が暴力団といった場合を想定してみよう。通常反社会的勢力に対しては排除するようになっているよね。それなのに、暴力団が弁済するのを認めてしまうと、債権者としても困ってしまうわけさ。このような場合に、債権者は「あなたは正当な利益はありませんね。私の意思に反するので弁済を拒絶します」という主張ができるわけだね。
とはいえ、債務者の意思に反することや債権者の意思に反することは稀です。基本的には債務者も債権者も「弁済してくれてありがとう~!」となるはずです。よって第三者弁済が問題になることは少ないといえるでしょう。
また、正当な利益もないのに弁済するようなよくわからない善良者もそうそう考えられないので、この点からしても第三者弁済が問題となることは少ないと言えます。
ちなみに第三者弁済をした弁済者は、債務者に対して求償権を持ちます。何も弁済者がすべての負担を債務者の代わりに負ったわけではありません。この点も注意しましょう。
誰が受領権者か?(表見受領権者 民法478条)
弁済を受領する権限がある者(民法478条かっこ書)
まずは弁済を受領する権限がある者=受領権者の基本例を確認しておきます。
実は受領権者の定義が条文上書かれていますので見てみましょう。民法478条かっこ書です。
(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)
第四百七十八条 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
債権者は当たり前として受領権者に含まれることは大丈夫だと思います。
また、法令の規定や当事者の意思で弁済受領権者が決まるというわけです。
受領権利者でない者への弁済は基本的に無効です。よって債権は消滅しません。弁済の効果が債権・債務の消滅であったことはすでに確認済みですね(民法473条)。
ただし債権者が利益を受けた場合には例外的に利益を受けた分消滅します(民法479条)。これは例外的なのでよくわからなければ飛ばしてもらって構いません。
最低でも、受領権者でない者へ弁済をしても、基本的には債権・債務は消滅しない!ということを押さえておきましょう。
ここで終われば話は早いのですが、実は受領権者を「装った者」について弁済してしまった場合の規定があります。
受領権者を「装った者」であったとしても、その者は受領権者ではないんでしょ?なら弁済が有効とならないだけじゃないんですか?
たしかに厳格に考えればその通りなんだ。けれど債務者の立場になってごらん。
債務者は履行期に履行しなければ履行遅滞の責任を負うだろ?だからいち早く受領権者に債務を弁済することが必要なんだ。その際に、いちいち「こいつは本当に受領権者か?」と確認していたら大変だろ?
だから、民法は受領権者を「装った者」に対する弁済について特別な規定を設けたわけさ。
表見受領権者への弁済(民法478条)
さて、まずは条文を確認してみます。
先ほどの民法478条をかっこ書だけではなく全体を通して眺めてみましょう。
(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)
第四百七十八条 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
受領権者を「装った者」=社会通念に照らして受領権者の外観を有するものに対しての弁済は、弁済者が善意無過失なら有効というわけです。
一定の保護を弁済者にしているというわけですね。
例を挙げてみましょう。
銀行の場面を想定してください。銀行にお金を預ける場合に預金者は債権者となり銀行が債務者となります。このような債権関係があるために預金者はいつでもATMから預けた分払い戻せるわけです。
しかし預金者の通帳や印鑑を盗んできた「外観を有する者」が銀行の窓口で払戻しを受けたとします。
この場合、銀行側はきちんと通帳や印鑑を確認して、外観を有する者が本来の預金者(受領権者)でないことについて善意無過失でした。この場合、この銀行側の弁済は有効として扱われるわけです。
弁済が有効になると、預金者の口座からその分の額が減ることになります。弁済の効果は債務の消滅でしたからね。あとは預金者側が不当利得などで頑張っていくしかないわけです。
まとめ
以上、弁済について基本的な知識から、弁済者側の論点、受領権者側の論点についてみてきました。
特に弁済分野は整理がつかずに適当に流してしまうことが多いと思います。
その際に意識してほしいのは、まず基本を押さえることです。弁済は基本的に債務者から債権者に対して行う債務の消滅行為でした。
そのうえで、ちょっと基本的な弁済とは違うな?と思ったら
弁済者がおかしいのかな?受領権者がおかしいのかな?
という視点をもちます。
そして、弁済者がおかしい場合には第三者弁済を、受領権者がおかしい場合には表見受領権者を考えるとよいでしょう。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
債権総論では初学者にもおすすめのとてもわかりやすい基本書があります。有斐閣ストゥディアの債権総論です。
改正民法に完全対応ですし、事例や図解、章ごとのまとめもあるのでとてもわかりやすい基本書になっています。ぜひ読んでみてください。